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しおりを挟む竜の血と秘伝の薬のお陰で、ルネは斬られる以前よりも元気になっており、
さっさとベッドを出て、朝食を持って来させた。
「一緒に食べましょう」と言われ、わたしもテーブルに着いた。
ルネは食欲もあり、沢山食べていた。
「エミールはどうしているかな?」
ルネに訊かれるまで、わたしは彼の存在を忘れていた。
わたしが知っているのは、警備員に連れて行かれる処までで、その後の事は知らなかった。
ルネは「ああ」と頷いた。
「実は、密かにエミールを見張らせていたのです。
彼はあなたが《滅びの星》で、我が国を亡ぼそうとしていると、本気で思っていましたので、
暴走しないと良いと思っていましたが…」
ルネは頭を振る。
「ルネ様は信じていないのですか?」
「聖女の言う事をいちいち信じていたら、それこそ国は亡びますよ」
ルネは肩を竦めた。
わたしも全く同意見だ。だが、喜んでいる訳にもいかない。
「ですが、悪い事に、信じてしまう者もいる…
一度芽生えた疑いの芽を摘むのは至難の業ですからね…」
ルネは警備員を呼び、エミールの様子を聞いた。
「ルネ様に傷を負わせた罪で、牢屋へ入れております。
ですが、一貫して罪を認めず、騒ぎ立てております」
「そう、僕が一度会ってみよう…
ヴァレリーは塔へ戻って一度寝て下さい、昨夜は眠れなかったでしょう」
ルネはニコリと笑うが…
ルネがエミールと会うと知って、わたしが寝ていられると思うのだろうか?
わたしは目を吊り上げ、頭を振った。
「エミールに会うのでしたら、わたしもお供致します!」
ルネは暫し逡巡していたが、「その方がいいかもしれないね」と頷いた。
牢は地下にあり、暗く冷たい場所だった。
牢といっても、城に押し入った曲者を預かり置く場所で、滅多に使われる事が無く、
今も、囚人はエミールしか居なかった。
エミールは格子の中、蹲っていたが、わたしたちを見て立ち上がった。
「ルネ様!!ご無事でしたか!」
エミールは本当に心配していた様だ。驚愕から安堵の表情に変わった。
「ああ、心配を掛けたね、尤も、死に掛けていたんだけどね、
ヴァレリーと彼女の家族のお陰で助かったよ」
ルネがわたしの肩を抱く。
だが、その途端、エミールは顔を顰めた。目には憎しみが浮かぶ…
「まだその様な世迷言を言っておられるのですか!
ルネ様は騙されておられるのです!
その女の所為で、ルネ様は死に掛けたのですよ!?」
「違うよ、僕が死に掛けたのは、君の所為であり、ヴァレリーの所為では無いよね?」
ルネがここまではっきりと言うとは思っておらず、わたしもエミールも息を飲んだ。
エミールは焦り、わたしを指差した。
「私は、ルネ様を殺そうとしたのではありません!その、《滅びの星》を…!」
「ヴァレリーが《滅びの星》であると、君は証明出来るの?」
「オピュロン王国の聖女が、そう申しております!」
「そのオピュロン王国だけどね、ソラネル王国に攻め入った事は知っている?」
オピュロン王国が、ソラネル王国に攻め入った?
その話は、わたしは初めて知ったが、エミールは知っていた様だ。
驚く事無く、「はい、それが?」と訝し気な顔をした。
「オピュロン王国の聖女は、ソラネル王国に勝てると言った様だね?
だけど戦況は、こんな小国にまで援軍を要請してくる程に、散々だ。
《滅びの星》を追い出したというのに、我が国よりも先に亡びそうじゃないかい?
そもそも、《滅びの星》の居る国に援軍を頼むだろうか?
縁起が悪いと考えるのが普通ではないかな?
これでもまだ君は、オピュロン王国の聖女を信じるのかい?そこまで信じる根拠は何?」
エミールの表情が曇る。
戸惑い、困惑の様なものが浮かんだ。
「それは…分かりません…
ですが、《滅びの星》と言われた者は、国から追い出すべきです!
それが、王となる者の取るべき行動ではありませんか!?」
「王というのはね、虚言に惑わされてはいけないんだよ。
無暗に人を処していれば、民は不安に思う、次は自分の番かもしれないと…
民が怯えて暮らさなければいけない国にはしたくないんだよ、僕はね」
だが、エミールの表情は変わらない。
恨みを持った表情でわたしを見ている。
わたしが言わせているとでも思っているのだろうか?
ルネにもそれが分かったのだろう、彼は嘆息した。
「少し、ここで考えてみるといい。
塔を放火し、ヴァレリーの暗殺を企んだ者とし、暫く拘留させて貰う。
君が考えを変えない内は出す事は出来ない。
僕たちだけじゃなく、君の為にもね、エミール」
ルネは、エミールが考えを改めれば、罪に問わないのだろう。
だが、もし、考えを改めなければ、何らかの処罰を下さなくてはいけないのだ…
「エミール!どうやら、わたしの事を調べられなかった様ね?
《滅びの星》など、愚かしい!とんだ見込み違いだったわ!
その程度で側近を名乗るなど、恥を知りなさい!
あなたが望むなら、もう一度機会をあげても良くてよ?
オピュロン王国の聖女、アンドレ王太子、王太子妃、彼の者たちの裏を探ってご覧なさい」
わたしを調べ、「《滅びの星》ではない」と証明出来なければ、『エミールの落ち度』という訳だ。
確証がある訳では無い。
つまりは、ハッタリなのだけど…
まぁ、あの三人の事だ、探れば何らかの後ろ暗い事が出て来るだろう。
「それから、わたしは竜の血を引く一族の末裔よ!
《滅びの星》など、いつでも灼熱の炎で焼いてあげてよ!」
わたしは鉄格子を握り、力任せに押し開く。
「!??」
これで自由に出られるだろう。
驚愕し尻もちを着いたエミールを横目に、
わたしはルネに向かい、カーテシーをして見せ、地上へと促した。
「ルネ様!勝手な事をし、申し訳ありません!」
地下を出て、わたしはルネに誤った。
「そんな事はありません、エミールにとってはこの方が良かったかもしれない。
あなたは賢い方ですね、ヴァレリー」
ルネが微笑み、わたしは「ほっ」と安堵に息を吐いた。
「そして、とても力が強くて驚きました」
!!!
「申し訳ありません…」
「何故、謝るのですか?」
「それは…女らしくありませんし…」
『女じゃない!』
『人間じゃないんだよ!』
『卑しい獣が!!』
アンドレの罵倒が頭に蘇り、わたしは首を竦めた。
「前にも言いましたが、僕の理想の女性はあなたです。
あなたらしくて、大変良いと思います。
あなたの元気な姿を見るのが、僕は好きです、ヴァレリー」
ルネが「ふふふ」と笑う。
「ルネ様は…変わっていらっしゃいます!
普通は怯えるものです、エミールの様に腰を抜かすものです…」
「変わっていますか?それは、良い事ですか?それとも、悪い事ですか?」
ルネは頭を傾げ、本気で考えている様だ。
わたしは思わず、吹き出してしまった。
「大変、良い事だと思いますわ!」
◇◇
エミールはその日の内に姿を消した。
どうやら、本気で調べに行ったらしい。
「今、オピュロン王国はソラネル王国と戦争をしているのですよね?
そんな処に行かせてしまい…エミールは大丈夫でしょうか?」
わたしは心配になったが、ルネは笑っていた。
「大丈夫です、エミールは僕の側近ですから、上手くやるでしょう」
わたしがエミールに言った、『その程度で側近を名乗るなど、恥を知りなさい!』を、
ルネは気に入っている様で、「僕の側近」と言いたがる。
エミールはルネにとって、大事な者なのだろう。
竜の血が入った事で、ルネの血自体が強化され、ルネは見違える程に健康体になった。
まず、青白かった肌の色は血色が良くなった。
そして、体力が増した事で、大掛りな魔法を使っても、力切れをする事が無くなった。
そうした事もあり、織物は無事に二月と二十五日で仕上がった。
「いいじゃないか、立派なもんだ、ルネ王子の花嫁に認めてやるよ」
ソフィ流の誉め言葉に、わたしは姿勢を正し、感謝の言葉を述べた。
「ありがとうございます、これも全て、ソフィ先生のお陰ですわ。
先生の若き日の記録に並ぶ事が出来、これ程名誉な事はございません」
「さて?あたしの記録は二月二十四日だよ?一日遅かったね!カッカッカ!」
「嘘吐いたのね!!酷いじゃない!!」
「甘いんだよ、良い教訓になっただろう?
あんたは王太子妃になるんだ、簡単に騙される様じゃいけないからね!」
ヴァンボエム王国式の妃教育なのかしら??
でも、悔しいいいいい!!!!
「あんたの頑張りに免じて、約束通り、《ソフィ婆さん》と呼ばせてやるよ」
「王太子妃になるのですから、先生を婆さんなど呼べませんわ!」
「なら、好きに呼びな、あんたは久しぶりに骨のある生徒だったよ!カッカッカ!」
織り上げた敷物は、結婚式の前日まで城の広間に飾られ、二人の寝室へと移されるらしい。
つまり、新郎新婦で寝室の敷物を織る風習という事だったらしい。
結婚式の前日までは、見物に広間に入れる事もあり、連日大勢が押しかけて来ていた。
わたしたちが二月二十五日で織り上げたという事で…
「いやー、立派なもんだ!」
「ソフィ婆さんに並ぶ腕じゃないか!」
「ヴァレリー様は徹夜をして織られていたそうだよ!」
「頑張り者の花嫁だね!」
「ルネ王子は愛されてるね~」
大いに盛り上がっていて、わたしはうれしいやら、恥ずかしいやらで、
どんな顔をしたら良いのか、分からなかった。
母が作ってくれていたウエディングドレスを試着し、直して貰い…
リーズはウエディングケーキの図案を考え、見せて来る…
他にも、色々と打ち合わせがあり、織物が終わったというのに、
わたしたちは大忙しだった。
結婚式の準備が着々と進んでいた頃…
オピュロン王国から、嵐がやって来た___
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