【完結】追放の花嫁は溺愛に不慣れです!

白雨 音

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その日の昼前だった。
ヴァンボエム王国の王城に、オピュロン王国から五名の使者が訪れた。
驚く事に、使者の要となる者は、アンドレ王太子その人だった___

ここは小国だ、他所者は目立つ為、国をうろついていれば直ぐに噂となる。
この噂も直ぐに城中に広まり、わたしの耳にも届いた。

わたしの頭に、先日聞いた…
『オピュロン王国がソラネル王国に攻め入った』という話が浮かんだ。
援軍の要請をしてきているという事なので、その件だろうか?
だが、あのアンドレが出向いて来るのだから、碌な事では無いだろう___

わたしは嫌な予感に突き動かされ、謁見の間へと急いだ。

謁見の間の前には、衛兵が二人、大仰に槍を持ち立っていた。
実の処、小国である上、平和で呑気な風潮なので、この城に衛兵は数える程しかいない。
攻め入られた場合は、民が総出で兵となり戦うらしいが、その様な事も、
千年近く起こっていないらしい。

わたしはお飾りで立っている衛兵たちに、指で静かにする様合図をすると、
その扉を薄く開いた。

「我が国からの再三の援軍要請を無視しておられるが、何か考えがあっての事か?」

相手は王というのに、アンドレや側近の態度は横柄なものだった。
小国だと軽んじているのだろう。

「我が国は中立国である、オピュロン王国に援軍を送る気は無い」

王フィリップは堂々と答える。
いつも温和なフィリップが今日は《王》に見えた。

「ははは!ヴァンボエム国王はお立場をお忘れの様だ!
こんな小国など、我が国の武力を持ってすれば、三日で陥落するのだぞ!」

「ならば、我が国の援軍など必要ではなかろう?」

尤もだわ!王様、ナイス!!

「当然だ!だが、我が国に忠誠を誓う意味でも、援軍を送れと言っているんだ!」

アンドレは堂々と胸を張る。
それに答えたのは、脇に立つルネだった。

「ヴァンボエム王国とオピュロン王国の関係は、古来より友好国であって、
属国ではありません。そして、我が国は戦いを好みません」

「黙れ!私を誰だと思っている!大国オピュロン王国の王太子だぞ!」

アンドレが堂々と胸を張る。周囲を黙らせるには十分だ。
『だから、何?』としか、思えないものね。

「援軍を出すのが嫌だというなら、《友好の証》に送った者を返して頂こう!」

アンドレが言い、それがわたしである事を、一瞬後思い出した。
すっかり忘れていたわ!
それにしても、《滅びの星》と言ったり、《友好の証》と言ったり、都合の良い事だこと!

「お断り致します」と答えたのもルネだった。

「彼女は《物》ではございません、それに、あなたの所有物でもございません。
オピュロン王国では、彼女を《滅びの星》とし、追放なさったそうですね?
これは勝手が過ぎるのではありませんか?」

「あの者は私の婚約者だ!私の所有物で間違い無い!
あの者を《滅びの星》と言った聖女はお告げを間違えたのだ!その罪は償わせてやった!
お告げが間違いならば、私の婚約者に戻す!当然の事だ!」

「確か、あなたは他のご令嬢と結婚なさったのではありませんか?」

「聖女のお告げに従った事だ!それが嘘であるなら、そんなもの、無効だ!」

アンドレは堂々と言い放つ。

結婚を破棄…無効にした?
今まで、妻としてきた女性を、切り捨てたと?
わたしが結婚式を中断され、追い出された時の様に___

わたしは大きく扉を開けた。

「!?」

皆が振り返る中、わたしは前に進み出た。
アンドレと少し距離を取り、並び立と、王にカーテシーをした。

「オピュロン王国の王太子が、わたしをお呼びとお聞きしました」

王は「いや…」と言い淀んだ。
アンドレはニヤリと笑う。

「おまえを《滅びの星》と鑑定した聖女が、偽りを言った事が判明した!
よって、おまえを私の婚約者に戻してやる!有難く思え!」

「わたしが《滅びの星》では無いと、お分かり頂けたのですね?
聖女が誤りを申したと?」

「そう言っているだろう!」

「疑いが晴れました事は喜んで受け入れます。
ですが、今のわたしは、ヴァンボエム王国王太子ルネ殿下の婚約者にございます。
折角のお申し出ではありますが、お断りさせて頂きます___」

わたしはアンドレを刺激しない様、丁重に言った。
それに対し、アンドレの返事はというと…彼は仰け反って笑い出した。

「ははは!おまえは本当に愚かだな!断るなど!
そんな権利がおまえにあると思っているのか?
私との婚約破棄が無効なのだから、おまえは今も、私の婚約者だ!
別の者との結婚など、不義である!そんな事をしてみろ、大罪人として、
この国ごと亡ぼしてやるからな!
おまえは大人しくオピュロン王国に戻り、我が国の為に《竜の谷》から援軍を呼ぶのだ!」

最後の一言で、アンドレの目的が明らかになった。
オピュロン王国に必要なのは、《竜の谷》との繋がりであり、《竜の谷》からの援軍なのだ。

その為に、聖女を処罰し、結婚までした女性とも別れた…
いいえ、もしかしたら、処罰などしていないのかもしれない…
処罰も結婚の無効も見せ掛け…
わたしをオピュロン王国に連れ戻す為だけの茶番___

アンドレが来た目的は、碌でも無い事だろうと思ってはいたが、本当に、碌でも無かった。
わたしは気が抜けた。

もし、アンドレと聖女が結託しておらず、聖女の言葉に惑わされ、他の令嬢と結婚したのなら…
アンドレがそれに気付き、本当に後悔していたら…
ほんの少しだが、アンドレに対し、申し訳ない気持ちになった。
だが、そんなのは、夢物語でしかなかった___!

アンドレは結局、アンドレでしかなかったのだ!

彼は出会った時から、わたしを人間として見ておらず、下等な獣と蔑んできた。
事ある毎にわたしを罵り、罵倒し、下賤の者とし扱った。
我が一族を蔑み、大勢の者の前で恥を掻かせ、笑い者にしてきた___

それこそ、真実の姿!

あれだけ酷い目に遭っていて、信じようとするなんて…
わたしもまだまだね、ソフィ婆さんの見立ては正解よ、簡単に騙される処だった。
勿論、騙された処で、アンドレの婚約者には戻らないし、オピュロン王国になど、
二度と行く気は無いのだけど…

さて、アンドレをどう料理してやろう?
頭を巡らせた時だった、扉が開き、母とリーズが姿を現した。

周囲が驚く中、母とリーズは堂々と進み出ると、王に対し華麗なカーテシーを見せた。
そして、アンドレに向かうと、この場に不相応な笑みを見せた。

「アンドレ王太子がご存じ無い様ですので、お教え致しますわねぇ。
我が一族とオピュロン王国の契約は、正式に破棄されておりますのぉ。
オピュロン王国からの仕打ちを竜の谷へ報告しました処、百年周期の契約など、
糞くらえだとお怒りになっておりましたわ~」

アンドレは流石に顔色を変えた。

「そ、そんな…一方的な契約破棄など、認められるか!!」

「一方的に追放された身から言わせて貰うと、十分、合法!アリ中のアリ!
寧ろ当然!ざまあよ!」

十歳の子供の暴言は許されるだろう。
リーズも理不尽にサミーと別れる事になったのだし、これ位言わせてあげなくてはね!

「アンドレ王太子、ご不満ならば竜の谷へ申し出られるとよろしいわよぉ。
もしかしたら、奇跡が起こって、もう一度契約が叶うかもしれませんし?
でも、アベラール家は手を引かせて頂きますわ、だって、私たち、ヴァンボエム王国を
気に入りましたもの~」

母がわたしの腕を組むと、リーズが反対側の腕を組んだ。
それに勇気を貰い、わたしは背を正し、胸を張った___

「ええ、わたしはヴァンボエム王国の王太子、ルネ殿下に嫁ぎます。
彼を愛しているの!」

わたしの視線の先にルネが映る。
ルネはうれしそうな笑みを返してくれた。

「は!愛だと!?おまえなど、人間の皮を被った獣じゃないか!
この様な者を妻にするなど!ルネ、本気か!?」

「アンドレ、これ以上、僕の愛するヴァレリーを侮辱するなら、
ここから出て行って貰うよ?」

ルネの灰色の目が胡乱な光を見せる。
ルネを侮っていたアンドレは、鼻で笑った。

「ふん!面白い!出来るものならやってみろよ!俺の剣の腕は知ってるだろう?」

アンドレが長剣を抜く。
だが、ルネはその手を翳しただけで、アンドレを吹き飛ばした。

「僕の魔術の腕は知らなかったかな?
オピュロン王国の皆さん、大人しくお引き取りを___」

オピュロン王国の使者たちが慌ててアンドレを助けに行き、
抱える様にして謁見の間から連れ出して行った。

それと入れ替わりに、入って来た者がいた。
エミールだ。

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