【完結】追放の花嫁は溺愛に不慣れです!

白雨 音

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最終話

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エミールは前に進み出ると、王に礼をした。

「ルネ王太子殿下とヴァレリー様の命により、
オピュロン王国の王太子アンドレと王太子妃、聖女の周辺を調べておりました」

「うむ、報告してくれ、エミール」

「この度、オピュロン王国がソラネル王国へ攻め入った切っ掛けは、
聖女シプレのお告げによるものでした___」


聖女は『聖地奪還せよ』と王に進言した。
一部の者たちは難色を示したが、王太子アンドレが先導し、強行した。

『我らの聖地を奪還するのだ!神はそれを望まれている!』
『皆!自国の為に立ち上がれ!!私に続け!!』
『我らには神がついている!』

最初こそ上手くいっていたが、オピュロン王国は直ぐに窮地に立たされた。
諸国に援軍の要請を送ったが、返事は芳しく無かった。

戦局は極めて悪くなり、国民の怒りは王室へと向けられた。
王室は『聖女のお告げは偽りで、魔族に操られていた』と、民に向け発表した。
そして、見せしめとして、聖女の火刑が決まったのだが、
聖女は牢の中で服毒自害をし、果てた。

オピュロン王国では、聖女は王室に操られていたのではないか、
聖女は口封じをされたのではないか…と噂されている。

『聖女のお告げは偽り』『あれは聖女に非ず』と正式に決まった事で、
アンドレ王太子とロザリーの結婚は無効とされた。

この結婚の一幕に対しても、噂が飛び交った。

結婚式当日、聖女がお告げをし、決まっていた結婚が破断となった。
それも、普通の結婚では無い、長く続いた《竜の谷》との契約結婚だ。
本来であれば、この窮地を救ってくれる筈の《竜の谷》からは、
何の援軍も来ない、それは、契約が破綻した証拠だ。

何故、こんな事になったのか___!

「アンドレ王太子は、ヴァレリー様を嫌っていたそうだ」
「アンドレ王太子は、ロザリーと結婚したかったのさ」
「ヴァレリー様という婚約者がありながら、ロザリーと深い仲だった…」
「ヴァレリー様は蔑ろにされていたらしい…」
「そりゃ、《竜の谷》の一族も怒るさ!」
「アンドレ王太子が聖女と結託し、ヴァレリー様を陥れたんだ!」
「《滅びの星》など、馬鹿馬鹿しい!」
「アンドレ王太子は、この戦いを先導していたぞ!」

ロザリーはマルシャン公爵家に帰されたが、民の怒りは彼女と一家にも向けられた。
その為、マルシャン公爵家は国を追われる事となったが、
途中、暴徒に襲われ、一家は命を落としている。
これも口封じではないかと言われている。


オピュロン王国はソラネル王国に停戦を申し出たが、
その際、ソラネル王国からは多大の賠償金を請求された。
そこで、ヴァレリーとアベラール一家を呼び戻し、
《竜の谷》から援軍を呼び、戦況を変えようという動きがあった___


「___寄って、ヴァレリー様は《滅びの星》などではありません!
私エミール=プチが、この名に賭けて断言致します」

「うむ、ご苦労だった、エミール」

王は満足そうに頷いたが、エミールはまだ頭を下げたままだった。

「私は、ヴァレリー様の暗殺を企み、ルネ殿下に傷を負わせました、その罪を贖います」

「それは、ルネとヴァレリーに任せよう、私は疲れたので休むよ」と、王は王座を立った。
母が王を追い掛け、その体を支えていた。

「まぁ!フィリップ、お疲れでしたら、お薬をお持ちしますわぁ」
「いやいや、今のは席を外す言い訳でね、君に貰った薬は良く効くよ」
「ふふふ、それではフィリップ、お茶になさいます~?」
「そうだね、オピュロン王国の者たちが帰ったんで、一安心だよ」

丸聞こえだけど、二人は気付いていない様で、
甘い空気を撒き散らし、謁見の間を出て行った。

この空気をどうしてくれるのかしら??
微妙な空気が漂う中、わたしは咳払いをした。

「エミール、良く調べたわね、期待以上よ、側近として認めてあげるわ」

「ありがとうございます…ですが、罪は罪…
私は噂を信じ、ヴァレリー様を亡き者にしようとし、ルネ様を傷つけました…」

「怪我の功名でね、僕には良い事ばかりだよ。
君に望むのは、これからも僕の手足になってくれる事だよ。
でも、どうしてもというなら、結婚式の準備を手伝って貰おうかな?」

ルネが笑う。
エミールは何か言おうと口を開いたが、「御意」と頷いた。
それから、エミールはわたしを見る。

「私の処分は、ヴァレリー様のお気の済むままに…」

「それでは、エミール、これからも仕事に励み、ルネ様を支えなさい!」

「ですが、それでは…」

「失敗は誰にでもあるわ、あなたも教訓になったでしょう。
でも、二度目は許さないわよ!」

「はい…」

エミールと和解出来た事は幸いだった。
ルネが言っていた通り、彼は優秀だったのだ!

「問題も片付きましたし、お茶でもしましょう」と、ルネが誘ってくれ、
わたしたちはパーラーへ向かったのだが…
テラスに母と王の姿があり、誰からともなく踵を返した。

「あの二人も、お姉様たちと一緒に、結婚しちゃえばいいのよ!」

リーズが子供らしくズバリと言い、わたしは大人らしくツンと澄まし答えた。

「大人はそんなに簡単じゃないのよ」
「そんなの変よ!好き合ってるならいいじゃない!ルネはどう思うの?」
「僕もリーズに賛成です、ですが、やはり、本人たちの意見を尊重し、
見守るべきだと思っています」

ルネは更に大人だった。

ああ、彼はなんて頼りになる方だろう!
今日だけで何度惚れ直したか分からないわ!!

わたしが胸をときめかせ、ルネに見惚れていた時だ…

「__________!!」

何処からか悲鳴が聞こえ、わたしのときめきは掻き消えた。
わたしたちは咄嗟に顔を見合わせた。
ルネが急ぎ警備の者を呼ぶ。

「何かあったの?」
「ルネ様!竜が…竜が飛んでいます!!」

竜??

わたしたちは言われるままに、玄関から外へ出た。
リーズが「見て!!」と小さな手で前方、上空を指した。

竜が三匹飛んでいる…!
そして、その内の一匹が、城の門前に降り立った。

ドスン!ドスン!!地鳴りがし、地面が揺れて、わたしはリーズを抱えた。
そんなわたしをルネが隣で支えてくれ、わたしたちはつい、見つめ合ったのだけど…

「お姉様!竜よ!おっきい!!あたし、初めて見た!!」

リーズの声で、それを思い出した。
そうね、今は竜だった…

「竜の谷の方々ですか?」

ルネに訊かれ、わたしは唸る。
竜の谷の者でなければ、ここに来る理由は無いが…
でも、何故、急に??

「分からないけど…母が呼んだのかしら?」

それ位しか思い当たらないが、
肝心の母はというと、今は《竜》よりも、愛おしい《王様とのお茶》だろう。

「きっと、結婚式を見に来たのよ!行ってみようよ!」

リーズが無邪気に走り出すのを、わたしたちは追い駆けた。



◆◆ アンドレ ◆◆

アンドレがわざわざヴァンボエム王国まで自ら足を運んだのには、
『自分ならばヴァレリーを連れ戻せる』という思惑があったからだ。

何といっても、ヴァレリーは自分には逆らえない!
何故なら、【百年周期の契約】があり、それは絶大な効力を持ち、
ヴァレリーが従わなければならない事を知っていたからだ。

だが、アンドレは考え違いをしていた。
アンドレは人間を《上》、竜族を《下》と見ていた。
その為、自分たちの意志で契約の変更は許されると考え、
ヴァレリーに罪を着せアベラール家共々追放した。
あくまで、竜の谷との契約を破棄したのではなく、
《滅びの星》であるヴァレリーを排除しただけ!という立ち位置に置いていた。
だが、結果として見れば、竜の谷と連絡を取る事すら出来なくなり、
国が存続の危機を迎えているというのに、援軍も頼めない有様だ。

そこで漸く、王家の者たちは《アベラール家の役割》に気付いたのだった。

今までオピュロン王国は、比較的平和な国で、大国という事もあり、
竜の谷の力を必要とした事はなかった。
そもそも、大昔の話で、実際に竜の谷に行った者は無く、伝説か夢物語か…
ほとんどの者はまともに信じていなかったのだ。

だが、今は強大な力が欲しい。
《竜》ではないかもしれないが、力を持つ一族の筈だ。
何としても援軍を呼び、ソラネル王国を力で圧倒し、追い払って欲しい___

その為には、ヴァレリーを連れ戻し、妻としなければならないが…

「ふん、形式だけ結婚してやればいいだろう、後は好きにするさ!」

アンドレはロザリーと結婚したが、既に結婚生活にはうんざりしていた。
アンドレは元々女好きだ。一人の女性に縛られるのが嫌だったのだ。
そんなアンドレがロザリーとの結婚に至ったのは、ヴァレリーが原因だった。

アンドレは自尊心が強く、王太子という事もあり、《血統》に強い拘りがあった。

王家こそ神!
血は濃いければ濃い程良い!
獣と交わるなど悍ましい!
百年周期で竜族の娘と結婚しなければならないなど、愚かでしかない!
何故自分が、こんな不幸を背負わなければならないのか!!

アンドレが唯一、女性…いや、人間としてすら見る事が出来ない
アベラール家の者と結婚する事は、想像するだけで地獄だった。
結婚を目前にし、アンドレはそれに耐えきれず、手を尽くし、排除したのだった。

だが、今の状況では、そんな事は言っていられない。
悪くすれば、国の半分がソラネル王国領にされるかもしれないのだ___
王太子として成すべき事だ、仕方が無いと、アンドレは自分に言い聞かせた。


「おまえを《滅びの星》と鑑定した聖女が、偽りを言った事が判明した!
よって、おまえを私の婚約者に戻してやる!有難く思え!」

ヴァレリーへの嫌悪感は高圧的な態度として現れたが、アンドレに罪悪感は微塵も無かった。
アンドレにとって、ヴァレリーやアベラール家の者は、虐げても良い奴隷と同等の者だったからだ。
だが、ヴァレリーの返事は、アンドレの想定の内には無いものだった。

「疑いが晴れました事は喜んで受け入れます。
ですが、今のわたしは、ヴァンボエム王国王太子ルネ殿下の婚約者にございます。
折角のお申し出ではありますが、お断りさせて頂きます___」

自分が下と見ていた者から、思いがけず拒絶をされた時…
そこに宿るのは、強烈な《怒り》と《狂気》だ。
アンドレの理性は簡単に吹き飛んだ。

「ははは!おまえは本当に愚かだな!断るなど!
そんな権利がおまえにあると思っているのか?
私との婚約破棄が無効なのだから、おまえは今も、私の婚約者だ!
別の者との結婚など、不義である!そんな事をしてみろ、大罪人として、
この国ごと亡ぼしてやるからな!
おまえは大人しくオピュロン王国に戻り、我が国の為に《竜の谷》から援軍を呼ぶのだ!」

アンドレはヴァレリーを引き摺ってでも連れ帰り、従わせてやる!と息巻いた。
だが、そこへ、ヴァレリーの母が現れ、それを告げた。

「アンドレ王太子がご存じ無い様ですので、お教え致しますわねぇ。
我が一族とオピュロン王国の契約は、正式に破棄されておりますのぉ。
オピュロン王国からの仕打ちを竜の谷へ報告しました処、百年周期の契約など、
糞くらえだとお怒りになっておりましたわ~」

「そ、そんな…一方的な契約破棄など、認められるか!!」

竜族如きが、我がオピュロン王国の王族に歯向かうなど、許されるものではない!!

「アンドレ王太子、ご不満ならば竜の谷へ申し出られるとよろしいわよぉ」

既に援軍の要請に向かったが、辿り着けなかったとは言えない。
いや、もしかしたら、それを承知で言っているのかもしれない…

「もしかしたら、奇跡が起こって、もう一度契約が叶うかもしれませんし?
でも、アベラール家は手を引かせて頂きますわ、だって、私たち、ヴァンボエム王国を
気に入りましたもの~」

アベラール家が手を引く!?
そんな勝手な事が許されるか!!と、内心怒り捲るアンドレに、ヴァレリーが追い打ちを掛けた。

「わたしはヴァンボエム王国の王太子、ルネ殿下に嫁ぎます。
彼を愛しているの!」

アンドレは唖然とした。
ヴァレリーが、ルネを愛しているだと??
獣の癖に!愛など、虫唾が走る!!

「は!愛だと!?おまえなど、人間の皮を被った獣じゃないか!
この様な者を妻にするなど!ルネ、本気か!?」

自分は契約だから妻にするのであって、好きで妻に迎えるのではない。
それを、好き好んで妻に迎えるなど!
ルネは諸外国から良い笑い者になるだろう!
勿論、自分が一番笑ってやるが!

アンドレはルネを一方的に敵視していた。
それは、ルネが留学して来た時に始まった。
ルネは小国の王太子だというのに、魔力を持ち、少しではあるが魔法を使える事が出来た。
そして、成績が群を抜き、良かった___
周囲は「流石王太子!」と持て囃していて、アンドレは酷い屈辱を味わったのだ。
いつか報復してやろうと考えていた処、今回の事を思いついたのだが…
当のルネはというと、アンドレに対し平伏す事も無く、言い放った。

「アンドレ、これ以上、僕の愛するヴァレリーを侮辱するなら、
ここから出て行って貰うよ?」

おまえに何が出来る!!と嘲笑った後、アンドレは壁まで吹き飛んでいた。
そして、次に気付いた時には、アンドレは一緒に来た使者たちに連れられ、
城を出る処だった。

「クソ!!こんな小国!俺が直ぐに亡ぼしてやる!覚えていろ!!」

アンドレが捨て台詞を吐いた時だった…
上空から巨体が降って来た。

ドスン!!ドス!ドスン!!

地が揺れ、馬が怯えて立ち上がる___

「うわああ!?なんだ!?」
「アンドレ様!竜です!」
「なんだと!??」

アンドレが振り向くと、そこには巨大な竜の姿があった。
アンドレは愕然としつつも、竜に向かい、言い放った。

「丁度良い!おまえたち、今からオピュロン王国を助けに来い!」

『オピュロン王国は我らを裏切った、亡ぼして欲しいなら、行ってやる』

「な、何を言うか!裏切りなど!おまえたちの思い違いだ!」

下等生物が!俺が説得してやる___と、アンドレは自信があったのだろうが、
使者たちは既に逃げ出していた。

『竜の谷はヴァンボエム王国に着く、大人しく立ち去れ、そうでなければ…』

竜がその首を振ると、馬は恐怖で一目散に駆け出した。
竜が放った炎を目にしたアンドレは、漸く自分が小さな存在である事を悟ったのだった。


その後…
オピュロン王国はソラネル王国に、領地を幾つかと多額の賠償金を支払う事で許された。

オピュロン王国では、アンドレがヴァレリーを嫌い、百年周期の契約を反故しようと暗躍し、
アベラール家を追放した事。その為に、竜の谷から契約を打ち切られた事。
聖女に偽のお告げをさせ、ソラネル王国に攻め入った事。
ヴァレリーを連れ戻しに行ったが、追い払われた事…等々、噂となり、広く伝わった。
当然だが、国民の怒りはアンドレに向かった。

アンドレは国を滅亡に導いた、
オピュロン王国で最も悪名高い愚鈍な王子として名を残したのだった___


◆◆◆ そして ◇◇◇


竜たちは、母から報告を受け、様子を見に来たという事だった。

小さな国だ、竜が動き周るには不便で、竜たちは直ぐに人に変化した。
人に変化といっても、容貌は美しく、威厳があり、何処か冷たくも見え、
印象としては《精霊》に近いものがある。
彼らは《花嫁の一族の者》という事で、当然の様に城に迎えられた。

「折角来られたのですから、結婚式には是非出席して下さい」

王はにこやかに、だが強引に滞在を勧めた。
竜たちも、『人里の結婚式は久しぶりだ、見て行こう』と乗り気で、
結局、結婚式の日まで滞在する事になった。

竜たちは国中を探索して歩き、時には空を飛び回り、
町の子供たちの遊び相手にもなっていた。
子供たちだけでなく、大人たちまでが《竜》に夢中になった。
ヴァンボエム王国では、竜は《力》と《知恵》と《吉兆》の象徴だったのだ。

「王太子妃様は、竜の血を引く一族の者だってさ!」
「ルネ王太子は良い花嫁を貰われたものだ!」

わたしやわたしの家族の評判は更に上がり、
今や国中が、ルネとわたしの結婚に沸き返っていた。


『良い国の様だな』
『人が明るい』
『邪気が無い』
『水も綺麗で美味い』
『なんとかという実を気に入った』
『オピュロン王国も最初は良い国だった…』
『仕方のない事だ、人間とはそういうものだ』


結婚式が終わり、竜はヴァンボエム王国に、『竜の谷との契約を望むか?』と尋ねた。

オピュロン王国の仕打ちに対し、一族を保護してくれた礼だという。
契約を結べば、竜の谷がヴァンボエム王国を守ってくれる。
今まで、オピュロン王国がそうであった様に…

純白のドレスに身を包むわたしを、ルネが抱き寄せた。
わたしたちは見つめ合い、笑い合う…

「契約は有難いのですが、百年周期の花嫁は必要ありません。
ただ、友情があれば十分です、いつでもお好きな時に遊びに来られて下さい。
我々はいつでも、あなた方を歓迎致します」

『良いだろう、友情が続く限り、この国に竜の守りがあるであろう』


これが、あらたな伝説の始まり☆


《完》
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