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しおりを挟む昼休憩は、ほとんどの生徒が食堂に集まる。
わたしもいつも食堂で食べていたので、そのつもりでいたが、
薬草学の帰りに、突然テオに手を掴まれた。
「フルール、こっちだよ!」
ええ!?
わたしが驚いている間に、テオはわたしを連れ、渡り廊下から短い芝生が敷き詰められた庭へ降りた。
そして、走って行く。
「は、は…ま、待って下さい…!」
日頃あまり運動をしない身には辛く、わたしの息は直ぐに上がった。
それに気付き、テオは直ぐに足を止めてくれた。
「ごめんね、はしゃいでしまった」
テオは印象よりも随分可愛らしい所があり、わたしはつい吹き出してしまった。
「す、すみません、だって、はしゃぐだなんて…!」
テオは咎める事はせず、少し照れたような顔をし、一緒に笑った。
「フルール、こっちだよ」
テオが手を繋ぎ、わたしを導く。
大樹の並木道から、脇に入り…
辿り着いたのは、水の出ていない噴水のある、憩いの場だった。
ヒューゴとヴィクは先に来ていて、噴水の側、芝生の上に敷物を広げ、寛いでいた。
噴水の縁で寝そべっていたヒューゴが体を起こし、「よお、来たな、お二人さん」と手を上げた。
「晴れた日はいつもここで食事をしているんだよ」
「素敵な場所ですね!」
静かで自然に囲まれた憩いの場は、とても魔法学園の敷地内とは思え無かった。
こんな場所がある事を、わたしは知らなかった。
「フルールなら気に入ると思ってたよ」
テオがうれしそうに笑った。
「最初は酷い有様だったんだよなー、それを三人で蘇らせたんだぜ!」
「そうなのですか!?」
「ああ、放課後に少しずつ作業し、一月掛かった」
「実は噴水も使えるけど、それは食事の後でね」
「フルール、ここに座れ」
ヴィクに促され、わたしは敷物の上に座った。
テオもわたしの傍に腰を下ろした。
「よっしゃ、全員揃ったし、食べるか!」
ヒューゴが大きなバスケットを開くと、テオがサンドイッチをわたしに渡してくれた。
紅茶や果物まで持って来ていた。
ヴィクは食べる量が違うらしく、自分用のバスケットを持って来ていて、早速豪快にサンドイッチに齧り付いていた。
サンドイッチ一つを食べ終え、紅茶を飲み寛いでいると、テオがわたしを覗き込んだ。
「食欲がないの?」
「いえ、普段と同じです」
わたしが答えると、テオは「え…」と固まった。
それを見て、ヒューゴがやれやれと肩を竦めた。
「テオ、男と女じゃ違うんだぞ、ああ、ヴィクは別だ」
「そうか、ごめんね」
テオが申し訳なさそうに苦笑したので、わたしは慌てて言った。
「いえ!心配して下さって、ありがとうございます。
心配された事なんてあまりないので、うれしいです」
感謝を伝えたつもりだったが、場が一気に暗くなってしまった。
特にテオはショックを受けた顔をしていた。
「あの!違うんです、そんな悲惨な事ではなく…わたしは姉ですから!
両親は妹を心配するのが、家では当たり前の事なので…」
「当たり前なんて事は無いよ、姉も妹も関係無い、君は君なんだから」
多分、テオの言う事は正しいのだろう。
だが、それは『メルシェ家』では通じない。
それが分かっているので、わたしは曖昧に頷くしかなかった。
ヒューゴには分かった様で、わたしをフォローしてくれた。
「まー、家の事情もあるし、フルールに言っても無理な話だよなー、
だから、その分、俺らがフルールを心配するってので、どう?」
皆がわたしを注目する。
「ええ!?あの、それは…」と焦るわたしを、テオの声が遮った。
「うん、賛成だよ、ヒューゴ」
「そうだな、私もヒューゴに賛成だ、たまにはイイ事を言うな」
「たまにってさー、ヴィクは厳しいなー」
二人のやり取りに、テオと目を合わせて、笑った。
楽しい空気が戻ってきて、わたしは安堵した。
「それでは、わたしも、皆さんの事を心配しますね!」
「まじ、イイ子だねー、テオ?」
ヒューゴがニヤリと笑う。
テオはわたしに向かって微笑み、頷いた。
◇
放課後、わたしはテオに誘われ、温室を訪れた。
テオは薬草学の教師とも仲が良く、放課後はよく温室を訪れ、作業を手伝っているという。
最初はテオ目当ての女子生徒たちも来ていたが、テオが避けて作業をするので、いつの間にか来なくなったと教師が話していた。
今集まって来ているのは、本当に薬草が好きな者たち、数名だった。
薬草の世話や作業をしていると、心は和んだ。
「テオ様、誘って下さってありがとうございます、とても楽しかったです!」
「そう、よかった、先生も喜んでいたよ、薬草を好きな生徒は大歓迎だからね」
テオがウインクし、わたしはドキリとした。
もしかして、また、はしゃいでいらっしゃるのでしょうか?
そんな事を考えてしまい、わたしは笑ってしまいそうになるのを必死で堪えた。
温室から教室に戻ると、部活を終えたヴィクが廊下から走って来た。
「フルール、終わったか、一緒に帰ろう!」
「はい、ヴィクも剣術部、お疲れさまです」
「僕も途中まで一緒に帰るよ」
三人で話しながら帰るのは驚く事に、楽しかった。
テオが話題を振ってくれるので、話しは尽きなかった。特に、ここに居ないヒューゴの話題は、聞いているだけで面白かった。
テオはわたしたちを寮の前まで送り届け、自分の寮へ帰って行った。
ヴィクはわたしを部屋まで送ってくれ、自分の部屋に戻り、着替えてから、再びわたしの部屋を訪れた。
「あの…わたしでしたら、独りで大丈夫です」
「私が一緒に過ごしたいのだ、フルール、今日は私の部屋へ来てくれ」
ヴィクの部屋に招待されて行くと、流石は公爵令嬢で、わたしの部屋よりも広く、何もかもが豪華だった。
ベッドも大きく、ここでなら十分二人で寝られそうだ。
ヴィクはベッドに飛び乗り、座ると、わたしを呼んだ。
わたしがベッドに上がりヴィクの傍に座ると、彼女は一枚の肖像画を見せてくれた。
中央には、わたしたち位の年頃の令嬢が一人椅子に座り、その周りを十歳位の子供が三人、囲んでいた。
子供たちは自然な表情で令嬢に寄り添い、彼女に懐いているのが良く分かった。
「これが私、ヒューゴ、テオ、そして、サーラだ」
ヴィクは一人一人、指で指し教えてくれたが、丁寧に描写されたその絵は、良く特徴を掴んでいて、面影が見え、直ぐに分かった。
小さなテオは、サーラに甘えるように寄り添い、可愛らしい笑顔を見せている。
ヒューゴは得意気な顔で気取ったポーズを取っている。
ヴィクはピンクのドレス姿で、花束を持ち、サーラの足元に寄り掛かっていた。とても愛らしい。
そして、サーラは…白金色の流れるような髪は天使の様に美しく、緑灰色の目は優しさを持ち、透き通るような白い肌、華奢な手足…全身から気品が伺える、高貴で美しい令嬢だった。
「サーラ様は、とても美しい方だったのですね…」
テオやヴィクが、自分とサーラを重ねるので、少し似ているのかと思っていたが、全く似ていなかった。
その様な事を考えるのもおこがましい程に、繊細で美しい…
「それに、とても、高貴なご令嬢に見えます…」
「ああ、サーラは王女だからな」
王女!?
そういえば…と、わたしは、テオの母の兄が現国王という事実を思い出した。
『従姉』と言っていたので、『王女』だとは全く考えもしなかった。
現国王には、王子二人、王女三人がいる。
上の王女二人は既に嫁いでいるが、三番目の王女は二年近く前に病で亡くなっている。
それが、サーラ様…?
「表向きは病で亡くなった事になっているから、内密にな」
わたしの考えを読むように、ヴィクが言い、わたしは「はい」と重く頷いた。
「サーラは少し体も弱くてな、熱を出す事も多く、私達は良く見舞いに行ったものだ。
サーラは薬が嫌いだったんだ、とても苦いらしくてな。
苦しんでいるサーラが、更に泣きながら薬を飲んでいるのを見て、テオは『美味しい薬を僕が作るよ』と約束したんだ…
結婚が決まってからは、『健康にならなくては』と言い、頑張って食事を増やし、体に良いという薬も進んで飲んでいた」
その先を知るわたしは、胸が痛みギュッと胸元を掴んだ。
「サーラと最後に会ったのは、あの知らせが届く、二日前だった。
異国に嫁ぐ不安もあっただろうが、サーラはそれも見せずに、幸せそうに『いつでも遊びに来てね』と笑っていた。
優しい人だったんだ…だから、私たちには心配を掛けたく無かったのだろうな…何も言わずに逝ってしまった…!」
ヴィクが歯を食いしばり、拳で膝を叩く、何度も…
わたしはヴィクを抱きしめていた。
「サーラ様は、きっと、後悔していますわ…だから、許してあげて下さい…」
これ程に傷付いていたのね…
普段のヴィクからは、分からなかった。
ヴィクもテオもヒューゴも、傷を隠し元気に振る舞っていたのだ。
ああ…わたしも、そう出来たら…
もっと、強くならなければ…!
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