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テオ、ヒューゴ、ヴィク、彼らはわたしの選択教科も把握していて、どの授業も三人の内の誰かと被っており、当然の事の様に付き添ってくれた。
ヴィクとは動物学Ⅱで一緒だった。
移動中に擦れ違った生徒がわたしを見て何か囁いていたが、それに気付くとヴィクはその眼力で周囲を蹴散らした。誰一人、彼女の迫力には勝てず、その見事さに、わたしはしきりに感心したのだった。
ヴィクは授業中に発言をする事は無いが、勤勉で、姿勢をピシリと正し、至極真剣な表情で授業を受けている。
彼女が何故、この授業を取っているのか…
「か、かわいい…」
小動物を前にすると、彼女の恐ろしいまでの眼力は消え去り、陶酔した表情が現れた。
そして、うっとりと小動物を抱きしめる…その姿を見て、悟ったのだった。
「ヴィクは小さな動物がお好きなのですね?」
「そ、そうなのだ、私は生まれつきデカイからな、尤もこれはこれで強いから満足しているが、やはり、小さな物には憧れがある…フルールも大変可愛い」
ヴィクが笑みを見せる。
ああ、それで、寝る時に抱き付かれるのですね…
わたしはそれを思い出したのだった。
もしかしたら、ヴィクは人形を抱いて寝ているのかも…
想像すると微笑ましく、「ヴィクも可愛いですわ」と思わず言ってしまった。
ヴィクは「そうか?」と不思議そうな顔をしていた。
ヒューゴとは意外だが、芸術史Ⅱで一緒になった。
芸術中心の歴史を学ぶ授業で、美術系や音楽系に興味のある生徒が多い。
わたしは刺繍が好きなので、この授業を取っていたが、ヒューゴが一緒だとは知らなかった。
「この授業はテオもヴィクも取ってないからなー、
俺一人だったから連れが出来てうれしいよ、よろしくな」
ヒューゴはそんな事を言っていたが、
教室に入ると直ぐに数人の女子生徒が彼の元に集まって来た。
「ヒューゴ様!お待ちしておりましたわ!」
「私の隣の席へお座り下さい!」
「いえ、私の席の方へ!」
『俺一人』で、十分、楽しくやっている気がする。彼は人気者だ。
「それでは、わたしは失礼致します」
ヒューゴにだけ聞こえる様に言い、その場を離れたが、彼は直ぐに追って来て、わたしの隣に座った。
「よろしいのですか?」
女子生徒たちは大騒ぎしている。わたしを睨みつけている女子生徒も多い。
「ああ、構わないよ」ヒューゴは言いながら、女子生徒たちに笑顔で手を振っている。
ヒューゴが誰かを特別扱いする事は無い、つまり、ヒューゴは誰にも恋をしていない。それで女子生徒たちも寄ってくるのだろう。ヒューゴに選ばれる事を夢見て…
そんな女子生徒たちは、勿論、黙って指を銜えてはいなかった。わたしたちの席を囲み、怖い顔で詰め寄った。
「ヒューゴ様、その…彼女とは、どういったご関係ですの?」
「ああ、友達」
ヒューゴがあっさりと言い、女子生徒たちは予想していなかったのか、二の句が継げなくなっていた。
「その、ただのお友達、なのですか?」
「そうだよ、ただのお友達」
「しかし、何故、突然、その方と友達になられたのですか!?」
「俺がいつ誰と友達になろうと、君たちには関係無いでしょ?」
ヒューゴは毒舌な所があるが、本気では辛辣な事を言わない人だ。
だが、この時は背中がヒヤリとした。
きっと、女子生徒たちも一緒だったのだろう、
顔を見合わせ「失礼致しました」と小声で呟き、すごすごと引き上げて行った。
「よろしいのですか?あの様な態度をとられて…」
「構わないって、けど、フルールが恨まれたら厄介だなー、あいつらに怒られちまう」
ヒューゴがヒョイと肩を竦める。
『あいつら』とは、テオとヴィクの事だろう。
きっとヒューゴは、テオとヴィクにわたしの事を頼まれ、付き合ってくれているのだ…
「すみません、ヒューゴ様にご迷惑をお掛けしてしまって…
お二人には、わたしの方から申しますので…」
「いや、迷惑とかじゃないよ。まー、正直、俺は二人程、サーラの事は引き摺ってないんだ。でもさー、それであいつらの気が済むのなら…と思ってね。
俺から君にお願いするよ、暫く付き合ってやって欲しい。
特に、テオは君がいなきゃ駄目だ」
ヒューゴの青灰色の目が、真剣な光を見せた。
彼の二人への想いは深い___
「それ程、テオ様は傷付いておられるのですね…」
「ああ、ずっと自分を責めていたからな…あんなあいつはもう見たく無いよ」
わたしには想像出来ない、だが、わたしもその様なテオの姿は見たく無いと思った。
テオにそんな思いをさせてはいけない、解き放ってあげたい…
「わたしは、どうしたら良いのでしょうか…」
「まー、そう気負う事は無いさ、楽しくやろうぜ☆」
具体的に教えて貰いたかったが、ヒューゴはもう、いつものヒューゴに戻っていて、ニヤリと不敵な笑みを見せただけだった。
テオとは薬草学Ⅱ、薬学Ⅱ、古代魔法Ⅱで一緒だった。
今までのテオの印象は、礼儀正しく、だが周囲とは一線引いて接している、近付いてはいけない、近寄れない、『高貴な人』だった。
それは今も変ってはいないのだと思う。
ただ、友達に対しての彼は、印象が違う。
「フルール!」
名前を呼ぶ声が、駆け寄って来る表情が、優しく甘い。
思わず見惚れ、ぽぅっとしてしまう。
「次の薬草学は一緒だね、忘れ物は無い?それじゃ、行こうか」
傍で甘く微笑まれると、赤面せずにはおれないだろう。
とても直視出来ず、わたしは足元に視線を落とした。
「は、は、はい…!」
「フルールは、薬草学のどういう所が好きなの?」
「ええ、と、わたし、小さい頃から花を育てる事が好きだったので、薬草にも興味があり…」
「それでなんだね、前から手際が良いと思っていたんだ」
「ええ!?見ていらしたのですか!?」
しかも、前から…?
「うん、一緒に作業をするからね、そういうのは自然と見えるし、分かるよ」
テオは当然の事の様に言っているが、わたしは今まで同じ教室に誰がいるかもあまり知らなかった。
テオの事も見えていなかった。
不安や焦りから目を背けたくて、他の事に目を向けず、ただ授業に集中していた。
「あの…て、テオ様は、薬草学のどういった所が、お好きなのですか?」
わたしは思い切って聞いてみた。
妹のエリアーヌは人と話すのが得意だが、わたしは昔から苦手で、自分の発言で場が気まずくならないかと、いつも不安だった。
それで、自分から話す事はせず、いつも聞き役に徹していた。
ただ、ジョルジュとの婚約期間だけは、積極的にならなければ…と頑張った。だが、会話は弾む事は無く、話の主導権はいつもジョルジュにあった。彼は直ぐに話題を変え、自分の話をした。わたしはそれに安堵して、「はい」「そうですか」「ええ」と只管に相槌を打っていた。
彼が「忙しいから」「これから用事がある」と言えば、それは別れの合図で、わたしは礼儀正しく挨拶をし、彼を見送った。
今にして思えば、わたしの話は退屈で、相槌も打つにも、もっと気の利いた事を言うべきだったのだろう。
ただ、それに気付いていたとしても、わたしにはどうにも出来無かっただろうが…
今から考えると、ジョルジュにはエリアーヌの方が合っている様に思えた。
会話の流れとしては自然ですよね…?
緊張し、そっと目で伺うと、テオは顎に指を当て、「んー、そうだねー」と真剣に考えていた。
「庭に生えていた、見慣れた小さな植物が、実は薬になると知った時、僕は凄く感動したんだ。
こんなに小さな植物が、凄い力を秘めているなんて…植物に対して、畏敬の念を持ったよ。
この世界に生えている植物が、それぞれ何かしらの力を秘め、生きているんだと思うと、胸が弾んでね、それを知りたい、自分でみつけたいと思う様になったんだ___」
テオの深いオリーブグレーの瞳は、キラキラと輝き、その表情は明るい。
夢を語る少年のようで、わたしの胸まで弾んだ。
「分かります!本当に不思議ですよね、
わたしも手入れをする時には、つい考えてしまいます、この子たちにはどんな力があるのだろうと…」
「うん、考えるよね、僕も家では温室や庭の手入れをしているんだけど、つい、独り言を言ってしまってね」
「わたしもです!」
今まで、『庭の手入れや植物を育てるのが好き』という人に会った事がなく、わたしの声はうれしさで弾んだ。
夢中で話している間に、薬草学の教室に着いていた。
あっという間で、驚いてしまった。
教室で授業を受け、続きに温室へ移動し、薬草の世話をした。
個々に育てている薬草もあり、それは順調に育ってきていた。
「良く育っているね、フルール」
テオがわたしのプランターを覗き込み、言った。
「はい!とっても順調です、色艶も良くて、テオ様の方はいかがですか?」
「僕のも見てくれる?」
テオがプランターを置いている棚に案内してくれた。
テオの薬草も順調に育っていた、茎は太く、葉も色濃く大きい…
「これは、素晴らしいですね!見事ですわ!」
「ありがとう、フルールが褒めてくれたから、よろこんでるよ」
薬草を見つめるその表情には、愛情が見えた。
テオは庭の手入れをしていると言うだけあって、作業の手際が良かった。
困っている生徒には、進んで手を貸してもいた。
そういった事を、わたしはこれまで全く見ないで来たのだ、何と勿体ない事をしたのだろう…
わたしは今までを取り戻そうと、周囲にも目を配る事にした。
見慣れた筈の温室が、新しい景色に見えた。
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