2 / 3
中
しおりを挟む
ヒューゴも女性は嫌いではないし性欲もある。
ただ、恋愛はまともにしてこなかった。
なんとなくいいな、と思った相手と先に進んだことがない。だから自分の好みのタイプというものがわからない。
マリアのことは可愛いと思うし、さすが貴族令嬢は違うと見とれる瞬間もある。
でも女として見るということは出来そうにない。
細い腕も首も、少し間違えれば壊してしまいそうだ。
教会の女神像やガラスの置物、美しい鳴き声の小鳥、生花の花束、刻々と変わる夕暮れの桃色
綺麗で儚いものは全部自分から遠いものだ。
届かないなら手を伸ばさないことにしている。
若い女性が好む恋愛小説のなかに、盗賊や義賊、暗殺者や詐欺師や蛮族などから溺愛されるものがあるらしい。
未知への恐怖と好奇心を満たしてくれるのだろう。
子供の頃に自分も読んだ冒険小説のような感覚に近いのだろうと思う。知らないことに胸を踊らせるのは恋に似ているのかもしれない。
気が済んだら、きっと優しい男と幸せな家庭を築き、ちょっとした冒険のことなど忘れてしまう。
冷たくあしらっていればそう長くはないはずだ。
そんな風に思っていた。幸いマリア嬢も何かを求めることもなく、訓練のあと少し話して差し入れをもらって終わり。
ある日、訓練が終わってもマリアがいなかった。
始まる頃にちらっと姿を見た気がしたのだが、帰ったのかと思っていた。
マリアの付き添いの侍女が、青い顔をして走り回っていた。
「おい」
振り返った顔を見て、怖がらせてしまったと思った。
「何かあったのか?あいつは?」
「少し離れたあとに姿が見えなくなって、お嬢様にもしものことがあったら……!
お願いします!助けてください」
腕を捕まれて涙ながらに頼まれた。
単なる迷子ではないかもしれない。
騎士団の中の奴は大丈夫だ。
しかしここには、騎士団に巡回で捕まって恨みを抱いていたり、入団試験に落ちて逆恨みをする奴も時々近づいてくる。
あとは、団員を騙って若い女性を口説く奴も、わざとらしく訓練を終えたような顔で紛れ込んでいることもある。
片っ端から探していく。
(頼むから、無事でいてくれ)
訓練場には水飲み場がある。そこは騎士がよく通りかかるので、あとにする。
裏手の道具倉庫のあたりからドアを開けていく。
カイに会ったので伝えた。
反対側を探してくれる。
カイがしばらくして、見ない足跡を見つけてくれた。
追っていくと
小部屋へ続く廊下に出る。
話し声が聞こえる
誘拐犯だったら計画的かもしれない。戦力を分散している可能性もある。
会話の聞こえるところまで近づく
「こんないかにも貴族のお嬢さんが、あいつに惚れてるなんてな」
「相手にされてないんだろ?寂しいだろう。俺なら可愛がってやるのに」
「男に冷たくされたり酷いことや乱暴にされるのが好きなんじゃねえの?」
「本当は黒の騎士様、ははっ、騎士様だって、ウケる。あの乱暴者ととっくに深い仲で、人前ではわざと冷たく追い払われるっていうプレイを楽しんでるとか?」
「じゃあ、数人がかりで無理やりヤられちゃうなんて、お嬢さん本当は嬉しかったり?」
「やればわかるって。なあ、もう口の布はずそうぜ。イヤイヤ言いながら喘ぐ女が好きなんだよ俺」
「いい趣味してんなーお前」
踏み込もうとした腕をカイに押さえられる。
『止めんな!』
目で訴えると、
首を横に振られた。
まて、と。
男たちは四人。
武器を持っている。
隙を作るから待て。
そう言って、カイは腰の袋から何かを取り出した。
カイはゲリラ戦が得意なので勘もいい。
小さな小袋に粉を詰めた。
それから出た糸に火をつける。
そして、戸の下から投げ込んだ。
「ん?なんだこれ、煙……?」
「火事か?」
男たちが逃げようとしている
煙が充満しているのだろう、廊下にも漏れている。
ドアを開けて出てきた男を一撃ずつ倒していく。
部屋に入ると、窓を探す。
「マリア!どこだ」
そんなに広い部屋ではないはず。視界が白い。
もしかして、遅かった?
男たちを拒むために舌を噛んだりしてないよな?
貴族の中にはそういって教えられている者もいると聞く。
そんな勇気はないと思いたい。
部屋の角で、しゃがんでいる人影が、見えた。
「マリア?」
「ヒューゴさま?」
「良かった、無事か、マリア」
「来ないで、見ないでヒューゴ様、」
あんな目にあって、それも
「俺のせいだ。申し訳ない。俺の態度が悪かったせいで、アンタ、いや、あなたを危険にさらしてしまった。」
頭を下げて、見ないようにして上着を渡した。
「これを羽織ってくれ。あと、嫌かもしれないが運ぶから、触ってもいいか?見ないようにするから」
目をつむって手を差し出すと、髪に触れた。肩、腕、
「怪我は?」
「だい、じょうぶです」
「抱き上げるのと背負うのとどっちがいい?」
「ひいっ!」
「誰か別の奴を呼んでこようか。女性の医療班のところまで少しだけ我慢できそうか?」
「お気遣いなく、えっと、背負うほうでお願いします。」
おそるおそる、というように背中に乗った。肩に回される腕。白い手首が視界に入る。そこに赤い縄のあとが見えた。
「怪我してるじゃねえか!」
「すみません!」
「ああ、いや、怒鳴るつもりはなかった。すまない。本当に、きれいな肌にこんな痕が残ってしまって申し訳ない」
ぷるぷる震えているが、そのまま背負って歩き出す。マリアは高さが怖いのか、顔を肩あたりにくっつけてしがみついていた。
ただ、恋愛はまともにしてこなかった。
なんとなくいいな、と思った相手と先に進んだことがない。だから自分の好みのタイプというものがわからない。
マリアのことは可愛いと思うし、さすが貴族令嬢は違うと見とれる瞬間もある。
でも女として見るということは出来そうにない。
細い腕も首も、少し間違えれば壊してしまいそうだ。
教会の女神像やガラスの置物、美しい鳴き声の小鳥、生花の花束、刻々と変わる夕暮れの桃色
綺麗で儚いものは全部自分から遠いものだ。
届かないなら手を伸ばさないことにしている。
若い女性が好む恋愛小説のなかに、盗賊や義賊、暗殺者や詐欺師や蛮族などから溺愛されるものがあるらしい。
未知への恐怖と好奇心を満たしてくれるのだろう。
子供の頃に自分も読んだ冒険小説のような感覚に近いのだろうと思う。知らないことに胸を踊らせるのは恋に似ているのかもしれない。
気が済んだら、きっと優しい男と幸せな家庭を築き、ちょっとした冒険のことなど忘れてしまう。
冷たくあしらっていればそう長くはないはずだ。
そんな風に思っていた。幸いマリア嬢も何かを求めることもなく、訓練のあと少し話して差し入れをもらって終わり。
ある日、訓練が終わってもマリアがいなかった。
始まる頃にちらっと姿を見た気がしたのだが、帰ったのかと思っていた。
マリアの付き添いの侍女が、青い顔をして走り回っていた。
「おい」
振り返った顔を見て、怖がらせてしまったと思った。
「何かあったのか?あいつは?」
「少し離れたあとに姿が見えなくなって、お嬢様にもしものことがあったら……!
お願いします!助けてください」
腕を捕まれて涙ながらに頼まれた。
単なる迷子ではないかもしれない。
騎士団の中の奴は大丈夫だ。
しかしここには、騎士団に巡回で捕まって恨みを抱いていたり、入団試験に落ちて逆恨みをする奴も時々近づいてくる。
あとは、団員を騙って若い女性を口説く奴も、わざとらしく訓練を終えたような顔で紛れ込んでいることもある。
片っ端から探していく。
(頼むから、無事でいてくれ)
訓練場には水飲み場がある。そこは騎士がよく通りかかるので、あとにする。
裏手の道具倉庫のあたりからドアを開けていく。
カイに会ったので伝えた。
反対側を探してくれる。
カイがしばらくして、見ない足跡を見つけてくれた。
追っていくと
小部屋へ続く廊下に出る。
話し声が聞こえる
誘拐犯だったら計画的かもしれない。戦力を分散している可能性もある。
会話の聞こえるところまで近づく
「こんないかにも貴族のお嬢さんが、あいつに惚れてるなんてな」
「相手にされてないんだろ?寂しいだろう。俺なら可愛がってやるのに」
「男に冷たくされたり酷いことや乱暴にされるのが好きなんじゃねえの?」
「本当は黒の騎士様、ははっ、騎士様だって、ウケる。あの乱暴者ととっくに深い仲で、人前ではわざと冷たく追い払われるっていうプレイを楽しんでるとか?」
「じゃあ、数人がかりで無理やりヤられちゃうなんて、お嬢さん本当は嬉しかったり?」
「やればわかるって。なあ、もう口の布はずそうぜ。イヤイヤ言いながら喘ぐ女が好きなんだよ俺」
「いい趣味してんなーお前」
踏み込もうとした腕をカイに押さえられる。
『止めんな!』
目で訴えると、
首を横に振られた。
まて、と。
男たちは四人。
武器を持っている。
隙を作るから待て。
そう言って、カイは腰の袋から何かを取り出した。
カイはゲリラ戦が得意なので勘もいい。
小さな小袋に粉を詰めた。
それから出た糸に火をつける。
そして、戸の下から投げ込んだ。
「ん?なんだこれ、煙……?」
「火事か?」
男たちが逃げようとしている
煙が充満しているのだろう、廊下にも漏れている。
ドアを開けて出てきた男を一撃ずつ倒していく。
部屋に入ると、窓を探す。
「マリア!どこだ」
そんなに広い部屋ではないはず。視界が白い。
もしかして、遅かった?
男たちを拒むために舌を噛んだりしてないよな?
貴族の中にはそういって教えられている者もいると聞く。
そんな勇気はないと思いたい。
部屋の角で、しゃがんでいる人影が、見えた。
「マリア?」
「ヒューゴさま?」
「良かった、無事か、マリア」
「来ないで、見ないでヒューゴ様、」
あんな目にあって、それも
「俺のせいだ。申し訳ない。俺の態度が悪かったせいで、アンタ、いや、あなたを危険にさらしてしまった。」
頭を下げて、見ないようにして上着を渡した。
「これを羽織ってくれ。あと、嫌かもしれないが運ぶから、触ってもいいか?見ないようにするから」
目をつむって手を差し出すと、髪に触れた。肩、腕、
「怪我は?」
「だい、じょうぶです」
「抱き上げるのと背負うのとどっちがいい?」
「ひいっ!」
「誰か別の奴を呼んでこようか。女性の医療班のところまで少しだけ我慢できそうか?」
「お気遣いなく、えっと、背負うほうでお願いします。」
おそるおそる、というように背中に乗った。肩に回される腕。白い手首が視界に入る。そこに赤い縄のあとが見えた。
「怪我してるじゃねえか!」
「すみません!」
「ああ、いや、怒鳴るつもりはなかった。すまない。本当に、きれいな肌にこんな痕が残ってしまって申し訳ない」
ぷるぷる震えているが、そのまま背負って歩き出す。マリアは高さが怖いのか、顔を肩あたりにくっつけてしがみついていた。
9
あなたにおすすめの小説
【完結】俺のゆるせないお嬢様(注:付き合ってません)
仙桜可律
恋愛
令嬢に好意を寄せられて、向き合おうと決意したとたんに逃げられて落ち込んで執着してちょっと気持ち悪い拗らせ方をしてしまった騎士の話。
「私のいとしい騎士さま(注:付き合ってません)」のヒロイン視点。
どちらの話が先でも多分大丈夫です。
【完結】俺のかっこいい彼女(付き合ってます)
仙桜可律
恋愛
黒の騎士と呼ばれるヒューゴと、元貴族令嬢のマリアは両思いとなった。平民の暮らしに慣れようとするマリアと、奮闘する彼女を見守るヒューゴ。
その二人を焦れったいと思いながらも応援する周囲の人々。
「私のいとしい騎士様」「俺のゆるせないお嬢様」「私のかわいい騎士さま」の続編です。
毒と薬は使いよう〜辺境の毒りんご姫は側室候補となりました
和島逆
恋愛
辺境の令嬢シャノンには、毒りんごを生み出す異能があった。
「辺境の毒りんご姫」と呼ばれる彼女を警戒し、国王ランベルトは側室候補としてシャノンを王都に召喚する。初対面から彼女を威圧し、本音を探ろうとするランベルトだったが──
「この毒りんごに、他者を殺める力はございません」
「わたくしは決して毒好きなわけではなく、わたくしが愛でているのはあくまで毒りんごなのです」
ランベルトの予想はことごとく外れ、いつの間にかマイペースな彼女にすっかり振り回されていくのであった。
【完結】ちょっと読みたい本があるので後宮に行ってきます
仙桜可律
恋愛
梨杏は母譲りの美声と父譲りの学識を持った下級貴族の娘。母は王宮へ推薦する楽士の私塾の講師。父は年に数回は王宮へ招かれる学者。庶民と変わらない暮らしをしていた。
本が何よりも好きで、王宮の書庫が大好き。子供の頃は両親について行ってわざと迷っては書庫に潜り込んだ。
しかし大人になってからは難しく、下女か侍女の募集を狙っていた。
中華風設定です。
色気妖怪と呼ばれる帝弟と書痴娘
「俺が君を愛することはない」じゃあこの怖いくらい甘やかされてる状況はなんなんだ。そして一件落着すると、今度は家庭内ストーカーに発展した。
下菊みこと
恋愛
戦士の王の妻は、幼い頃から一緒にいた夫から深く溺愛されている。
リュシエンヌは政略結婚の末、夫となったジルベールにベッドの上で「俺が君を愛することはない」と宣言される。しかし、ベタベタに甘やかされているこの状況では彼の気持ちなど分かりきっていた。
小説家になろう様でも投稿しています。
天才魔導士様はまだ恋を知らない~私を恋の実験台にしないで下さい!
志熊みゅう
恋愛
「短期・特定任務 助手募集 ※女性限定」
ある日新聞で見つけたその魔塔研究員の求人広告が、田舎で親に言われるがまま生きてきた子爵令嬢セレナの人生を変える。
由緒正しい魔導士一族イグナシオ家に生まれながら、「女は魔法を学ぶ必要はない」と魔力を封じられてきたセレナ。両親は良家への縁談を勝手に進めていた。
家出同然で応募した魔塔の面接で出会ったのは、天才にして世間知らずな一級魔導士ラウル・アレハンドロ。彼の“特殊任務”とは、王家から依頼された『魅了魔法』を完成させること。魔法はイメージの世界。恋を理解するために、助手であるセレナと疑似恋愛デートを重ねるが……。
魔法バカで恋を知らない天才魔導士 × 魔法を学びたい令嬢
実験から始まるふたりの関係は、いつしか『任務』を越えて本物の恋になる!?じわじわ甘くてちょっとズレた恋愛ファンタジー。
お嫁に行けないワケあり令嬢は辺境伯に溺愛される
石丸める
恋愛
釜戸は業火に包まれ、食器は飛散し、洗濯物は引き千切れる。麗しく完璧な令嬢ルイザの生活魔法は規格外に強すぎて、連続で婚約破棄されていた。社交界で面白おかしく噂が盛り上がる中、宮廷の舞踏会でとんでない事件が起きてしまう。もう、お嫁に行けない……そんな絶望の淵に、予想外の人物が現れた。
※全6話完結 6,000文字程度の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる