【完結】私のいとしい騎士さま(注:付き合ってません)

仙冬可律

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「ヒューゴ様、今なら言える気がするので、聞いていただけますか?」

少し落ち着いたらしいマリアが、背中越しに話し出した。

「ああ」

「私が付きまとって不快ではありませんでしたか」

「いや。訓練を見に来るだけだし、何も要求してこなかったから不快も何も、それより俺のせいで」

「ヒューゴ様が助けてくれましたから。
私の、貴族令嬢として最後のわがままだったのです。こんなに親切にしてもらえて、もう、一生の思い出です」

「……何かあったのか?嫁にいくのか?
もう、訓練を見に来ないのか?こんなことがあったら家から出してもらえないか」

医療班の詰所に着いた。先にカイが連絡してくれている。

そっとおろして、向かい合わせになると、改めて小さい。

「マリア嬢、髪が……!?」

長かった髪が肩につかないほどの長さになっている。
「あいつらに!?」

「違うのです。もともと、しばらく前から切っていました。自分の髪でウィッグを作って被っていました。」

「どうして」

「父との約束です。修道院にいくか、平民になるか。

私は、どうしても貴族令嬢の姿のままであなたの記憶に残りたかったのです。
来月には平民になります。」

「どうして、」

「家門の恥になりますので、詳しくは言えませんが私は父と母の血を引いていなかったそうです。今さら、市井で生きていけるかわかりませんが。
少しずついろんな所へ行って街に慣れるようにしていました。
そこで、巡回しているヒューゴ様を見ました。泥棒を捕まえていました。
私は、それで修道院よりも平民になったら騎士の方に、いえ、ヒューゴ様に市民として守って頂けると思ったんです。
生きていく希望が見えました。私の、いとしい騎士さま。本当にありがとうございました。」

医療班へマリアを届けて、上着を返そうとするのを留める。
「持っていてくれ。俺もあんたに話したいことがある。ちょっと報告だけしてくるから、ここで待っててくれ」

今日は休むことにして、マリアの話を聞いて、それから。

走って頭がぐらぐらする。

平民になる?

あいつが。

それはもしかしたら、俺が手に入れてもいいってことか。

いや、余程のことがあったのだろうから動揺につけこむような真似はまずいだろう。
まずは話を聞いて、それからじっくり距離を……

戻ってきたら、マリアは帰ったという。

上着は置いてあった。

「どうしても、帰ると仰ってね」

医療スタッフが申し訳なさそうに言ってくれた。


え?
帰った?

ちょっと待て、あの流れで帰るか?
貴族じゃなくなるから、なんてもう会わないみたいに

こっちは、やっと恋人らしいいろんなことや街に連れていったりできるし、平民なら、名前呼びとか、愛称呼びとか、妄想してたんですけど?

「そりゃないぜ、あの女……」

ーーーー

邸を訪ねても門前払い。

そんな娘は当家にはいない、と。

街を探してみた。
あんな貴族の女が街に溶け込める訳がない。可愛い子がいたらすぐに噂になるはずだ。

「見つからない、だと」

二週間探しても見つからない。
「あんな白くて細くて可愛い奴が目立たないわけないだろ~!」

酒場で怒鳴ると、カイが笑った。
「なかなかの準備をしてから平民になったみたいだね、マリア嬢。ヒューゴは単純だからなあ。思い込みを捨ててみろよ」
「あ?」

「もし俺なら、あれぐらいの背丈だったら少年に見える。髪を隠して帽子を被る。ヒューゴの背丈なら、子供の顔なんていちいち見ないだろ。あとは子供のできる仕事で、数人似たような年頃の者が集まっていたら益々目立たない。だいたい、あんな若い娘が夜の街以外で稼ぐのは難しいから、誰かに匿ってもらってるね。子供に優しく、困ってる人を放っておけない、ほら、いるだろそういう人」

ヒューゴは、ガバッと起きた。
「パン売り歩いてる子供、居るよなあ?」

「そう。荷車で、四、五人で公園で売ったり配達してるよね。あとは花屋と牛乳の配達も子供が手伝ってる率が高い」

「恩にきるぜ!ありがとな」

飛んで帰ったヒューゴを見て、カイは笑う。
「置いていった酒、いただくぞ。ごめんね、マリア嬢。もう見てらんないや、あいつ」

カイは、ヒューゴと酒場に入るときに視線を感じた。
マリアだと思った。

翌日、マリアは捕まった。

「やっと、見つけた。話を聞かせてもらおうか?おい」

寝不足で血走った目でマリアに食らいつきそうなほど顔を近づけている。

「お、鬼……」
「マリア姉ちゃんを離せっ!」
他の子供たちがポカポカ叩いたり足を蹴ったりしているが、ヒューゴはビクともしない。
「オレ、大人呼んでくる!」

「マリア?なんで逃げたんだ?待ってろって言ったよな、俺」

「ふぇぇ」
頬に手をおいて、マリアは目を潤ませている。

「こっちです!おーい、ちょうど巡回の騎士さまがいたから、つれてきた!」

「なにやってんだヒューゴ」

カイが頭をはたいた。

それでもマリアから視線を離さない
「マリア、なんで逃げたんだ?俺のこともう嫌いになったのか?あんな奴らに絡まれたから怖くなった?」

完全に台詞だけ聞くと、ダメな交際相手から逃げたようにしか思えない。

「マリア姉ちゃんには好きな人がいるんだ!離れろ」

「そうだ!姉ちゃんいつも夜泣いてるんだからな!騎士様がきっと迎えにくるんだ!お前なんかやっつけるからな」


「ほう?詳しく聞かせてくれるか?マリア」

「無理ぃ、こんなの無理」

カイが間に入る。

「ヒュー、落ち着け。いくら心配してたからって急に。マリアさんも心労があるだろうし」

マリアが鼻を押さえて座り込んだ。
「どうした?貧血ですか」

「鼻血が、……無理、かっこよすぎて辛い……」

横になったマリアの枕元に跪いて、髪や頬をつついている。
「なんで逃げたんだ。俺は傷ついたんだからな。責任とれよ。」

「すみません」

「俺のこともう、嫌いになったのか」

「うう、好きです」

「じゃあなんで」

「だって、綺麗な姿だけ覚えていて欲しかった」

「足りねーよバカ。今も、かわいいし、もっと全部見せろよ」

マリアは泣き出してしまった。
頭をポンポンと撫でながらなだめる。

「鼻血が止まらないのでやめてください」

「名前呼んでいいか?」

「はい。」
「お前も好きなように呼べ」

「ヒューゴ様のことを?」
「ん。」

「わたしの愛しい騎士さま」

「それだけはやめてくれ」


マリアは、笑った。
ヒューゴも、顔を覆ったけど笑っている。

まだ、始まってすらいなかった二人は、これからだ。
















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