【完結】私のいとしい騎士さま(注:付き合ってません)

仙冬可律

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ヒューゴも女性は嫌いではないし性欲もある。
ただ、恋愛はまともにしてこなかった。
なんとなくいいな、と思った相手と先に進んだことがない。だから自分の好みのタイプというものがわからない。

マリアのことは可愛いと思うし、さすが貴族令嬢は違うと見とれる瞬間もある。
でも女として見るということは出来そうにない。
細い腕も首も、少し間違えれば壊してしまいそうだ。
教会の女神像やガラスの置物、美しい鳴き声の小鳥、生花の花束、刻々と変わる夕暮れの桃色
綺麗で儚いものは全部自分から遠いものだ。

届かないなら手を伸ばさないことにしている。

若い女性が好む恋愛小説のなかに、盗賊や義賊、暗殺者や詐欺師や蛮族などから溺愛されるものがあるらしい。

未知への恐怖と好奇心を満たしてくれるのだろう。
子供の頃に自分も読んだ冒険小説のような感覚に近いのだろうと思う。知らないことに胸を踊らせるのは恋に似ているのかもしれない。

気が済んだら、きっと優しい男と幸せな家庭を築き、ちょっとした冒険のことなど忘れてしまう。

冷たくあしらっていればそう長くはないはずだ。

そんな風に思っていた。幸いマリア嬢も何かを求めることもなく、訓練のあと少し話して差し入れをもらって終わり。

ある日、訓練が終わってもマリアがいなかった。
始まる頃にちらっと姿を見た気がしたのだが、帰ったのかと思っていた。

マリアの付き添いの侍女が、青い顔をして走り回っていた。
「おい」

振り返った顔を見て、怖がらせてしまったと思った。
「何かあったのか?あいつは?」

「少し離れたあとに姿が見えなくなって、お嬢様にもしものことがあったら……!
お願いします!助けてください」

腕を捕まれて涙ながらに頼まれた。
単なる迷子ではないかもしれない。

騎士団の中の奴は大丈夫だ。

しかしここには、騎士団に巡回で捕まって恨みを抱いていたり、入団試験に落ちて逆恨みをする奴も時々近づいてくる。
あとは、団員を騙って若い女性を口説く奴も、わざとらしく訓練を終えたような顔で紛れ込んでいることもある。

片っ端から探していく。

(頼むから、無事でいてくれ)

訓練場には水飲み場がある。そこは騎士がよく通りかかるので、あとにする。

裏手の道具倉庫のあたりからドアを開けていく。
 カイに会ったので伝えた。
反対側を探してくれる。

カイがしばらくして、見ない足跡を見つけてくれた。

追っていくと
小部屋へ続く廊下に出る。

話し声が聞こえる

誘拐犯だったら計画的かもしれない。戦力を分散している可能性もある。


会話の聞こえるところまで近づく

「こんないかにも貴族のお嬢さんが、あいつに惚れてるなんてな」

「相手にされてないんだろ?寂しいだろう。俺なら可愛がってやるのに」

「男に冷たくされたり酷いことや乱暴にされるのが好きなんじゃねえの?」

「本当は黒の騎士様、ははっ、騎士様だって、ウケる。あの乱暴者ととっくに深い仲で、人前ではわざと冷たく追い払われるっていうプレイを楽しんでるとか?」

「じゃあ、数人がかりで無理やりヤられちゃうなんて、お嬢さん本当は嬉しかったり?」

「やればわかるって。なあ、もう口の布はずそうぜ。イヤイヤ言いながら喘ぐ女が好きなんだよ俺」

「いい趣味してんなーお前」


踏み込もうとした腕をカイに押さえられる。

『止めんな!』

目で訴えると、
首を横に振られた。

まて、と。

男たちは四人。
武器を持っている。

隙を作るから待て。

そう言って、カイは腰の袋から何かを取り出した。

カイはゲリラ戦が得意なので勘もいい。

小さな小袋に粉を詰めた。

それから出た糸に火をつける。
そして、戸の下から投げ込んだ。

「ん?なんだこれ、煙……?」
「火事か?」

男たちが逃げようとしている
煙が充満しているのだろう、廊下にも漏れている。

ドアを開けて出てきた男を一撃ずつ倒していく。

部屋に入ると、窓を探す。

「マリア!どこだ」

そんなに広い部屋ではないはず。視界が白い。

もしかして、遅かった?
男たちを拒むために舌を噛んだりしてないよな?
貴族の中にはそういって教えられている者もいると聞く。
そんな勇気はないと思いたい。

部屋の角で、しゃがんでいる人影が、見えた。

「マリア?」

「ヒューゴさま?」

「良かった、無事か、マリア」

「来ないで、見ないでヒューゴ様、」

あんな目にあって、それも

「俺のせいだ。申し訳ない。俺の態度が悪かったせいで、アンタ、いや、あなたを危険にさらしてしまった。」

頭を下げて、見ないようにして上着を渡した。
「これを羽織ってくれ。あと、嫌かもしれないが運ぶから、触ってもいいか?見ないようにするから」

目をつむって手を差し出すと、髪に触れた。肩、腕、

「怪我は?」

「だい、じょうぶです」

「抱き上げるのと背負うのとどっちがいい?」

「ひいっ!」

「誰か別の奴を呼んでこようか。女性の医療班のところまで少しだけ我慢できそうか?」

「お気遣いなく、えっと、背負うほうでお願いします。」

おそるおそる、というように背中に乗った。肩に回される腕。白い手首が視界に入る。そこに赤い縄のあとが見えた。
「怪我してるじゃねえか!」

「すみません!」

「ああ、いや、怒鳴るつもりはなかった。すまない。本当に、きれいな肌にこんな痕が残ってしまって申し訳ない」

ぷるぷる震えているが、そのまま背負って歩き出す。マリアは高さが怖いのか、顔を肩あたりにくっつけてしがみついていた。

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