【完結】私のいとしい騎士さま(注:付き合ってません)

仙冬可律

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騎士団といっても貴族の子息もいれば平民もいる。
男の子は一度は棒切れを持って騎士ごっこをするもんだ。そこから本当に騎士を目指す者は少ない。
ましてや騎士道精神なんてものは物語の中にしか存在しない。

黒い風のようだと例えられるヒューゴも、剣筋は端正だと誉められるものの性格も素行も曲がった人生を歩んできた。

実家の用心棒の真似をして武術や剣に夢中になった青春時代。気がつけば騎士団でそこそこの中堅どころになっていた。
魔物討伐にも駆り出された。頬に付けられた爪痕は女性に怖がられてしまう。

黒髪黒目、傷痕、無口、無愛想、乱暴。
黒い騎士服を好むこともあって、黒の騎士と呼ばれている。
悪い噂があるのも知っていたが放っておいた。

ある令嬢に執着されるまでは。

早朝の訓練を見学にくる令嬢は時々いる。
兄だとか知り合いの場合もあるし、人気の騎士に熱い視線を送る場合もある。

ヒューゴには縁がないし、怖がられるので端のほうで訓練することにしていた。
人気の騎士の近くにいて、令嬢たちを睨んだなどと誤解されては困る。

差し入れを渡されたのは初めてだった。
「黒の騎士さま、受け取ってください」

焼き菓子の入ったバスケットを差し出された。

「間違ってないか?」

「いいえ、ヒューゴさま」

俺に。
令嬢が。
差し入れ。
は?

受け取ると、令嬢は頬を染めた。
「ありがとうございます」

「こっちこそ、その、ありがとう」

なんだこれ。
毒でも入ってないだろうな
控室に戻ると、背中をバンバン叩かれた。
「お前までそんなものを貰うようになるとは!裏切り者め。ヒューゴだけは大丈夫だと思ってたのに!」

親しい仲のカイだ。

「いや、間違いだろ。
俺にくれるなんて。誰かに命令されたり罰ゲームか何かか?」

「お前なあ。
で、どんな子だった?」

「どんなって、そりゃ、いかにも貴族の令嬢って感じの白くて小さくて髪がふわっとした、顔はまともに見てない。」

「なんでだよ!顔大事だろ」

「傷を近くで見せて怖がられたら、可哀想だろーが」

レモネードを一気に流し込んで、着替えをした。

令嬢の気まぐれだろ。

そう思っていたが。

「アンタまた来たのかよ」

「はい。私の愛しい騎士さま」

マリア・タレッソ伯爵令嬢は、飽きずに訓練を見に来ている。
しかもヒューゴ以外には目もくれない。

「熱心だね、マリア嬢」

「まだデートしてないんだって?なんでさ。あんなかわいい子が好きになってくれてるのに」

「何かの間違いだろ」

「ヒューゴも頑固だね」

「どうせ、婚約者がいるだろうし結婚までの暇潰しか、何かだろ」

「そうやって、冷たいから余計に燃え上がってるのかもね」

周囲は好き勝手に言っている。
無責任にあれこれ言えるのは当事者ではないから。

嬉しくないわけがない。
でもそれ以上に期待して落ち込みたくない。

何度か聞いたことはある。

「アンタ、俺の何が気にいったんだ?」

「全部ですわ。愛しい騎士さま」

この可愛いお嬢さんの気が済むまで茶番に付き合ってやろうと思った。
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