1 / 3
前
しおりを挟む
騎士団といっても貴族の子息もいれば平民もいる。
男の子は一度は棒切れを持って騎士ごっこをするもんだ。そこから本当に騎士を目指す者は少ない。
ましてや騎士道精神なんてものは物語の中にしか存在しない。
黒い風のようだと例えられるヒューゴも、剣筋は端正だと誉められるものの性格も素行も曲がった人生を歩んできた。
実家の用心棒の真似をして武術や剣に夢中になった青春時代。気がつけば騎士団でそこそこの中堅どころになっていた。
魔物討伐にも駆り出された。頬に付けられた爪痕は女性に怖がられてしまう。
黒髪黒目、傷痕、無口、無愛想、乱暴。
黒い騎士服を好むこともあって、黒の騎士と呼ばれている。
悪い噂があるのも知っていたが放っておいた。
ある令嬢に執着されるまでは。
早朝の訓練を見学にくる令嬢は時々いる。
兄だとか知り合いの場合もあるし、人気の騎士に熱い視線を送る場合もある。
ヒューゴには縁がないし、怖がられるので端のほうで訓練することにしていた。
人気の騎士の近くにいて、令嬢たちを睨んだなどと誤解されては困る。
差し入れを渡されたのは初めてだった。
「黒の騎士さま、受け取ってください」
焼き菓子の入ったバスケットを差し出された。
「間違ってないか?」
「いいえ、ヒューゴさま」
俺に。
令嬢が。
差し入れ。
は?
受け取ると、令嬢は頬を染めた。
「ありがとうございます」
「こっちこそ、その、ありがとう」
なんだこれ。
毒でも入ってないだろうな
控室に戻ると、背中をバンバン叩かれた。
「お前までそんなものを貰うようになるとは!裏切り者め。ヒューゴだけは大丈夫だと思ってたのに!」
親しい仲のカイだ。
「いや、間違いだろ。
俺にくれるなんて。誰かに命令されたり罰ゲームか何かか?」
「お前なあ。
で、どんな子だった?」
「どんなって、そりゃ、いかにも貴族の令嬢って感じの白くて小さくて髪がふわっとした、顔はまともに見てない。」
「なんでだよ!顔大事だろ」
「傷を近くで見せて怖がられたら、可哀想だろーが」
レモネードを一気に流し込んで、着替えをした。
令嬢の気まぐれだろ。
そう思っていたが。
「アンタまた来たのかよ」
「はい。私の愛しい騎士さま」
マリア・タレッソ伯爵令嬢は、飽きずに訓練を見に来ている。
しかもヒューゴ以外には目もくれない。
「熱心だね、マリア嬢」
「まだデートしてないんだって?なんでさ。あんなかわいい子が好きになってくれてるのに」
「何かの間違いだろ」
「ヒューゴも頑固だね」
「どうせ、婚約者がいるだろうし結婚までの暇潰しか、何かだろ」
「そうやって、冷たいから余計に燃え上がってるのかもね」
周囲は好き勝手に言っている。
無責任にあれこれ言えるのは当事者ではないから。
嬉しくないわけがない。
でもそれ以上に期待して落ち込みたくない。
何度か聞いたことはある。
「アンタ、俺の何が気にいったんだ?」
「全部ですわ。愛しい騎士さま」
この可愛いお嬢さんの気が済むまで茶番に付き合ってやろうと思った。
男の子は一度は棒切れを持って騎士ごっこをするもんだ。そこから本当に騎士を目指す者は少ない。
ましてや騎士道精神なんてものは物語の中にしか存在しない。
黒い風のようだと例えられるヒューゴも、剣筋は端正だと誉められるものの性格も素行も曲がった人生を歩んできた。
実家の用心棒の真似をして武術や剣に夢中になった青春時代。気がつけば騎士団でそこそこの中堅どころになっていた。
魔物討伐にも駆り出された。頬に付けられた爪痕は女性に怖がられてしまう。
黒髪黒目、傷痕、無口、無愛想、乱暴。
黒い騎士服を好むこともあって、黒の騎士と呼ばれている。
悪い噂があるのも知っていたが放っておいた。
ある令嬢に執着されるまでは。
早朝の訓練を見学にくる令嬢は時々いる。
兄だとか知り合いの場合もあるし、人気の騎士に熱い視線を送る場合もある。
ヒューゴには縁がないし、怖がられるので端のほうで訓練することにしていた。
人気の騎士の近くにいて、令嬢たちを睨んだなどと誤解されては困る。
差し入れを渡されたのは初めてだった。
「黒の騎士さま、受け取ってください」
焼き菓子の入ったバスケットを差し出された。
「間違ってないか?」
「いいえ、ヒューゴさま」
俺に。
令嬢が。
差し入れ。
は?
受け取ると、令嬢は頬を染めた。
「ありがとうございます」
「こっちこそ、その、ありがとう」
なんだこれ。
毒でも入ってないだろうな
控室に戻ると、背中をバンバン叩かれた。
「お前までそんなものを貰うようになるとは!裏切り者め。ヒューゴだけは大丈夫だと思ってたのに!」
親しい仲のカイだ。
「いや、間違いだろ。
俺にくれるなんて。誰かに命令されたり罰ゲームか何かか?」
「お前なあ。
で、どんな子だった?」
「どんなって、そりゃ、いかにも貴族の令嬢って感じの白くて小さくて髪がふわっとした、顔はまともに見てない。」
「なんでだよ!顔大事だろ」
「傷を近くで見せて怖がられたら、可哀想だろーが」
レモネードを一気に流し込んで、着替えをした。
令嬢の気まぐれだろ。
そう思っていたが。
「アンタまた来たのかよ」
「はい。私の愛しい騎士さま」
マリア・タレッソ伯爵令嬢は、飽きずに訓練を見に来ている。
しかもヒューゴ以外には目もくれない。
「熱心だね、マリア嬢」
「まだデートしてないんだって?なんでさ。あんなかわいい子が好きになってくれてるのに」
「何かの間違いだろ」
「ヒューゴも頑固だね」
「どうせ、婚約者がいるだろうし結婚までの暇潰しか、何かだろ」
「そうやって、冷たいから余計に燃え上がってるのかもね」
周囲は好き勝手に言っている。
無責任にあれこれ言えるのは当事者ではないから。
嬉しくないわけがない。
でもそれ以上に期待して落ち込みたくない。
何度か聞いたことはある。
「アンタ、俺の何が気にいったんだ?」
「全部ですわ。愛しい騎士さま」
この可愛いお嬢さんの気が済むまで茶番に付き合ってやろうと思った。
21
あなたにおすすめの小説
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
【完】貧乏令嬢ですが何故か公爵閣下に見初められました!
咲貴
恋愛
スカーレット・ジンデルは伯爵令嬢だが、伯爵令嬢とは名ばかりの貧乏令嬢。
他の令嬢達がお茶会や夜会に勤しんでいる中、スカーレットは領地で家庭菜園や針仕事などに精を出し、日々逞しく慎ましく暮らしている。
そんなある日、何故か公爵閣下から求婚されて――。
※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています
【完結】リゼットスティアの王妃様
通木遼平
恋愛
リゼットスティアという美しく豊かな国があった。その国を治める国王も美しいと評判で、隣国の王女フィロメナは一度でいいから彼に会ってみたいと思い、兄である王子についてリゼットスティアに赴く。
フィロメナはなんとか国王にアピールしようとするが国王にはすでに強引に婚姻に至ったと噂の王妃がいた。国王はフィロメナに王妃との出会いを話して聞かせる。
※他のサイトにも掲載しています
地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます
白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。
特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。
だがある日、突然の婚約破棄通告――。
「やはり君とは釣り合わない」
そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。
悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。
しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。
「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」
「よければ、俺が貰ってやろうか?」
冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!?
次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには
「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」
――溺愛モードが止まらない!
地味令嬢、婚約者(偽)をレンタルする
志熊みゅう
恋愛
伯爵令嬢ルチアには、最悪な婚約者がいる。親同士の都合で決められたその相手は、幼なじみのファウスト。子どもの頃は仲良しだったのに、今では顔を合わせれば喧嘩ばかり。しかも初顔合わせで「学園では話しかけるな」と言い放たれる始末。
貴族令嬢として意地とプライドを守るため、ルチアは“婚約者”をレンタルすることに。白羽の矢を立てたのは、真面目で優秀なはとこのバルド。すると喧嘩ばっかりだったファウストの様子がおかしい!?
すれ違いから始まる逆転ラブコメ。
「その他大勢」の一人で構いませんので
和島逆
恋愛
社交界で『壁の花』ならぬ『壁のマンドラゴラ』という異名を持つマグダレーナ。
今日も彼女は夜会の壁に張りつき、趣味の人間観察に精を出す。
最近のお気に入りは、伯爵家の貴公子であるエリアス。容姿・家柄ともに申し分なく、年頃の令嬢たちから熱い視線を送られている。
そんなエリアスが選んだのは、なんと『壁のマンドラゴラ』であるマグダレーナで──?
「いや、わたしはあくまでも『その他大勢』の一人で構わないので」
マグダレーナは速攻で断りを入れるのであった。
【完結】俺のゆるせないお嬢様(注:付き合ってません)
仙冬可律
恋愛
令嬢に好意を寄せられて、向き合おうと決意したとたんに逃げられて落ち込んで執着してちょっと気持ち悪い拗らせ方をしてしまった騎士の話。
「私のいとしい騎士さま(注:付き合ってません)」のヒロイン視点。
どちらの話が先でも多分大丈夫です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる