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その後は滞りなく会議が進行し、最後の議題と決定が終了した。さらに司会進行役より、明日の人事についての予定が話された。
「……明日、9時半に辞令交付式を行います。B会議室です。課長職以上はあいさつを行っていただきますので……、さらに……。……これにて会議を終了します……」
ガタガタ……。
お疲れ様と声をかけ合い、メンバーが会議室を出て行った。今日は大勢いるから、出入り口が立て込む。至急の用件がないから、時間差で出て行くことにした。黒崎と壁際に立ち、山田の話題を出した。そして、橋本がそばに居たから、声を掛けた。本来は別の者がポストに就く予定だったが、急遽、変更された。冷静で物事に動じない男だ。それでも、山田には驚いた様子だ。
「僕のせいです」
「君は何も言っていないだろう?」
「推進室としての数字の指摘をしました。山田室長の事業部についてです」
「それだけか。報告だろう……」
「早瀬。淡々とできるのはお前ぐらいだ。そう思うだろう?橋本」
「ええ。早瀬さんの資料を読ませていただいた上での、報告と指摘でしたが。僕の言い方が悪かったのか……」
「いや、早瀬に向けられたものだろう」
「そうでしょうね」
黒崎が橋本に話を振ると、苦笑している。俺としては業務上のことで資料を作成している。それが仕事だからだ。推進室の室長として指摘される側になったとしても、それはそれだ。それを踏まえて回答し、対策を取る。それだけの話だ。
「……ムカツクという例だ。明日からは役目が変わる。部下を指導、育成するのも役目だ。プロジェクト管理も、部長と課長の間を取り持つことも、得意分野だろう。お前は言い方にキツイ部分がある。もっと優しい言い方をしろ」
「常務、人のことは……。いえ、気をつけます」
あんたの方がキツいだろうという言葉を飲み込んだ。ここは会議室で、聞き耳を立てている者がいるから、くだけた受け答えをしないことだ。黒崎とは友人関係であることは知られているが、ここで出すことではない。
一方で、橋本は理解しているし、気にも留めていない。こういう奴が付き合いやすい。淡々としており、感情を入れずにいられる相手だ。
黒崎も同じタイプだった。面倒見がいいのは昔から同じだが、相手の気持ちをくみ取るようになり、その上で言葉を口にする。しだいに味方が増えていった。
橋本と黒崎が話している間、昔のことを思い出した。仕事でもプライベートでも、感情をあらわにすることが少なかった。変化をしている。それは悠人の存在が大きい。
(……悠人がうちでバイトした時、枝川がビビっていたな。室長が別人だ、なにかと入れ替わったと……。大げさじゃないな……)
悠人がそばにいることで、気持ちが和らいだ。たまに軽口を叩いて、きいいいっと怒り出す反応を心待ちにして、楽しんでいたからだ。
これから昼食へ行こうという話になった。会議室を出る前に、悠人へ電話をかける。ちゃんとポトフを温められたのか心配だ。寂しがってもいるだろう。
「家に電話をかけるよ」
「……ああ、待っている」
黒崎たちが話している間に、離れた場所で電話をかけた。しかし出なかった。トイレに行っているなら、折り返しがあるだろう。ラインを入れることにした。
「『今から昼食だ。圭一さんと一緒だから、遠慮せずに電話をかけてこい。一時間でオフィスに戻る』……送信」
会議室を出たところで、営業企画部の平田が走ってきた。その表情は強張っているから、何か起きたのだと分かった。先に黒崎が声をかけた。
「平田、どうした?」
「常務!枝川チーフが、山田室長に絡まれています。止めても聞こうとしません」
「分かった」
「先に俺が行く。場所はオフィスだろう?」
「はい!」
「お前は後から来い。今は避けろ。辞令前だ」
「部下が危ない目に遭っているんだぞ」
「一緒に行こう。先に話すのは俺だ。いいな」
「分かった。橋本も来てくれるか?」
「もちろんです」
「俺、先に行っています!」
平田が走って行った。俺達も追いかけるようにして、オフィスに向かった。
「……明日、9時半に辞令交付式を行います。B会議室です。課長職以上はあいさつを行っていただきますので……、さらに……。……これにて会議を終了します……」
ガタガタ……。
お疲れ様と声をかけ合い、メンバーが会議室を出て行った。今日は大勢いるから、出入り口が立て込む。至急の用件がないから、時間差で出て行くことにした。黒崎と壁際に立ち、山田の話題を出した。そして、橋本がそばに居たから、声を掛けた。本来は別の者がポストに就く予定だったが、急遽、変更された。冷静で物事に動じない男だ。それでも、山田には驚いた様子だ。
「僕のせいです」
「君は何も言っていないだろう?」
「推進室としての数字の指摘をしました。山田室長の事業部についてです」
「それだけか。報告だろう……」
「早瀬。淡々とできるのはお前ぐらいだ。そう思うだろう?橋本」
「ええ。早瀬さんの資料を読ませていただいた上での、報告と指摘でしたが。僕の言い方が悪かったのか……」
「いや、早瀬に向けられたものだろう」
「そうでしょうね」
黒崎が橋本に話を振ると、苦笑している。俺としては業務上のことで資料を作成している。それが仕事だからだ。推進室の室長として指摘される側になったとしても、それはそれだ。それを踏まえて回答し、対策を取る。それだけの話だ。
「……ムカツクという例だ。明日からは役目が変わる。部下を指導、育成するのも役目だ。プロジェクト管理も、部長と課長の間を取り持つことも、得意分野だろう。お前は言い方にキツイ部分がある。もっと優しい言い方をしろ」
「常務、人のことは……。いえ、気をつけます」
あんたの方がキツいだろうという言葉を飲み込んだ。ここは会議室で、聞き耳を立てている者がいるから、くだけた受け答えをしないことだ。黒崎とは友人関係であることは知られているが、ここで出すことではない。
一方で、橋本は理解しているし、気にも留めていない。こういう奴が付き合いやすい。淡々としており、感情を入れずにいられる相手だ。
黒崎も同じタイプだった。面倒見がいいのは昔から同じだが、相手の気持ちをくみ取るようになり、その上で言葉を口にする。しだいに味方が増えていった。
橋本と黒崎が話している間、昔のことを思い出した。仕事でもプライベートでも、感情をあらわにすることが少なかった。変化をしている。それは悠人の存在が大きい。
(……悠人がうちでバイトした時、枝川がビビっていたな。室長が別人だ、なにかと入れ替わったと……。大げさじゃないな……)
悠人がそばにいることで、気持ちが和らいだ。たまに軽口を叩いて、きいいいっと怒り出す反応を心待ちにして、楽しんでいたからだ。
これから昼食へ行こうという話になった。会議室を出る前に、悠人へ電話をかける。ちゃんとポトフを温められたのか心配だ。寂しがってもいるだろう。
「家に電話をかけるよ」
「……ああ、待っている」
黒崎たちが話している間に、離れた場所で電話をかけた。しかし出なかった。トイレに行っているなら、折り返しがあるだろう。ラインを入れることにした。
「『今から昼食だ。圭一さんと一緒だから、遠慮せずに電話をかけてこい。一時間でオフィスに戻る』……送信」
会議室を出たところで、営業企画部の平田が走ってきた。その表情は強張っているから、何か起きたのだと分かった。先に黒崎が声をかけた。
「平田、どうした?」
「常務!枝川チーフが、山田室長に絡まれています。止めても聞こうとしません」
「分かった」
「先に俺が行く。場所はオフィスだろう?」
「はい!」
「お前は後から来い。今は避けろ。辞令前だ」
「部下が危ない目に遭っているんだぞ」
「一緒に行こう。先に話すのは俺だ。いいな」
「分かった。橋本も来てくれるか?」
「もちろんです」
「俺、先に行っています!」
平田が走って行った。俺達も追いかけるようにして、オフィスに向かった。
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