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今から会議に参加する。8階会議室には、半数以上のメンバーが集まっていた。課長以上の役職者が集められての会議だ。室長としては最後の出席だ。後任者も出席している。もちろん、俺の前任の部長代理もだ。
その彼は黒崎と相性が悪く、グループ会社の部長として移った。昇進とはいえ不本意だと、周りに触れ回っている。出世というレースに敗れたのだと受け取っているようだ。黒崎としてはその気はない。
それは自分も同じだと思っていたのは、以前の話だ。どうも欲が出てきてしまった。悠人に良いところを見せたいという原動力からきたものだ。その結果、寂しい思いをさせたのは本末転倒だ。
(やっと普段どおりに戻る。遊園地へ連れて行こう。プラネタリウム、動物園にも。ビーフシチューはいつ作ろうか?喜ぶかな。楽しみだ……)
どこに連れて行こうかと、あれこれ考えている。明日は指輪を選びに行き、もう一度、プロポーズのようなことをしたい。
(指輪を恥ずかしがるだろう。チェーンに通させておこう。圭一さん戦法だ。聞いて良かった……)
総勢80名を超える今回の会議は、役職者が全員、出席しているわけではない。代理を立てている者がいる。この数年で、こういう傾向が出てきたと聞いた。自分は意思決定に関係ない、他の者が決めるだろうという空気が丸わかりだ。失敗すれば、場合によってはレースから奪略するとか、また、無事に勤めていれば安泰だと思っている者も多い。
上司は自分の地位を脅かす存在として、部下を排除しようする。距離を適度に保ちつつ、付かず離れずの立ち位置を維持する必要がある。それがいいやり方だと社内では考える者が多く、結果、悪い方に作用したようだ。しかし、競争意識が強い者がいるのも事実だ。足を引っ張られている。
そろそろ席につこうかと、課長席へ向かおうとして、黒崎から止められた。
「早瀬、お前の席はここだぞ」
「そっちは部長席だろう?今日まではこっちだよ」
「今日から新任の体制にしておく。副社長からの指示だ」
「それはもめ事になるのに……」
「今回でテコ入れするということだ。……そのあたりに、トラップを準備中の奴がいるぞ?気をつけろ」
「教えてくれてありがとう。しかも笑い声つきで」
「……裏を見るのか好きなくせに」
「好きで見ていないよ」
軽口を叩きながら席につき、隣り合った者と挨拶をかわした。経営企画部の、新任部長代理だ。味方同士だと分かっているため、笑顔を向け合った。
会議が始まると、予定通りの進行で議題が進んでいった。そして、残り一つの議題に差し掛かろうとした時、言い争う声が聞こえてきた。
デザート事業部室長の山田が、俺の後任であるマーケティング推進室の橋本室長へ何かを囁いている。橋本は冷静になろうとしているが、山田の方がヒートアップしている。途中からしか聞こえておらず、内容が分からない。周りの者は本気で止めていない。黒崎社長と深川副社長が止めに入るわけにはいかない。後がややこしくなる。眉を寄せて見ている状況だ。さすがに黒崎も反応した。
「誰も止めないのか……」
「俺が止めるよ」
「やめておけ。千川部長が止めるだろう」
「そうか?」
山田と親しいのが、経営企画部の部長である千川だ。派閥というものだ。しかしそのトップにいる千川は知らぬふりだ。さらに会議室の中から聞こえてきたのが、デザート事業部の業績下降についてだ。さっき終わった議題のことでもある。
この中で上の立場にいるのは、常務と専務クラスの者だ。みんなが呆れた風に山田のことを見守る中、黒崎が立ち上がった。そして、山田のそばへ行き、席に着くように声をかけた。
「山田さん。席にお戻りください」
「いや……」
「プライベートでお願いします」
「いや、こいつが。はい……」
山田が食って掛かるように、黒崎のことを睨みつけた。こっちには背中を向けているから、どんな表情なのは分からない。周りの者の反応からすると、大体の想像がつく。
黒崎が止めたことで山田が大人しく席に着いた。後で所属の部長から注意されるはずだが、その生産部の部長が不在だ。代わりに部長代理が来ている。支障はないが、山田を注意できる立場ではないだろう。山田の方の発言力の強さのためだ。
その彼は黒崎と相性が悪く、グループ会社の部長として移った。昇進とはいえ不本意だと、周りに触れ回っている。出世というレースに敗れたのだと受け取っているようだ。黒崎としてはその気はない。
それは自分も同じだと思っていたのは、以前の話だ。どうも欲が出てきてしまった。悠人に良いところを見せたいという原動力からきたものだ。その結果、寂しい思いをさせたのは本末転倒だ。
(やっと普段どおりに戻る。遊園地へ連れて行こう。プラネタリウム、動物園にも。ビーフシチューはいつ作ろうか?喜ぶかな。楽しみだ……)
どこに連れて行こうかと、あれこれ考えている。明日は指輪を選びに行き、もう一度、プロポーズのようなことをしたい。
(指輪を恥ずかしがるだろう。チェーンに通させておこう。圭一さん戦法だ。聞いて良かった……)
総勢80名を超える今回の会議は、役職者が全員、出席しているわけではない。代理を立てている者がいる。この数年で、こういう傾向が出てきたと聞いた。自分は意思決定に関係ない、他の者が決めるだろうという空気が丸わかりだ。失敗すれば、場合によってはレースから奪略するとか、また、無事に勤めていれば安泰だと思っている者も多い。
上司は自分の地位を脅かす存在として、部下を排除しようする。距離を適度に保ちつつ、付かず離れずの立ち位置を維持する必要がある。それがいいやり方だと社内では考える者が多く、結果、悪い方に作用したようだ。しかし、競争意識が強い者がいるのも事実だ。足を引っ張られている。
そろそろ席につこうかと、課長席へ向かおうとして、黒崎から止められた。
「早瀬、お前の席はここだぞ」
「そっちは部長席だろう?今日まではこっちだよ」
「今日から新任の体制にしておく。副社長からの指示だ」
「それはもめ事になるのに……」
「今回でテコ入れするということだ。……そのあたりに、トラップを準備中の奴がいるぞ?気をつけろ」
「教えてくれてありがとう。しかも笑い声つきで」
「……裏を見るのか好きなくせに」
「好きで見ていないよ」
軽口を叩きながら席につき、隣り合った者と挨拶をかわした。経営企画部の、新任部長代理だ。味方同士だと分かっているため、笑顔を向け合った。
会議が始まると、予定通りの進行で議題が進んでいった。そして、残り一つの議題に差し掛かろうとした時、言い争う声が聞こえてきた。
デザート事業部室長の山田が、俺の後任であるマーケティング推進室の橋本室長へ何かを囁いている。橋本は冷静になろうとしているが、山田の方がヒートアップしている。途中からしか聞こえておらず、内容が分からない。周りの者は本気で止めていない。黒崎社長と深川副社長が止めに入るわけにはいかない。後がややこしくなる。眉を寄せて見ている状況だ。さすがに黒崎も反応した。
「誰も止めないのか……」
「俺が止めるよ」
「やめておけ。千川部長が止めるだろう」
「そうか?」
山田と親しいのが、経営企画部の部長である千川だ。派閥というものだ。しかしそのトップにいる千川は知らぬふりだ。さらに会議室の中から聞こえてきたのが、デザート事業部の業績下降についてだ。さっき終わった議題のことでもある。
この中で上の立場にいるのは、常務と専務クラスの者だ。みんなが呆れた風に山田のことを見守る中、黒崎が立ち上がった。そして、山田のそばへ行き、席に着くように声をかけた。
「山田さん。席にお戻りください」
「いや……」
「プライベートでお願いします」
「いや、こいつが。はい……」
山田が食って掛かるように、黒崎のことを睨みつけた。こっちには背中を向けているから、どんな表情なのは分からない。周りの者の反応からすると、大体の想像がつく。
黒崎が止めたことで山田が大人しく席に着いた。後で所属の部長から注意されるはずだが、その生産部の部長が不在だ。代わりに部長代理が来ている。支障はないが、山田を注意できる立場ではないだろう。山田の方の発言力の強さのためだ。
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