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16-15(早瀬視点)
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12時。
黒崎製菓のオフィスにいる。明日で役職が変わるため、それに伴った準備をしている。課長以上を集めた全体会議でのスピーチと営業企画部内でのスピーチが必要なため、原稿を作成し終えたところだ。
さらに昇進祝いという名の飲み会が数件ある。忘年会への出席、取引先との会食、今回に関しての挨拶メール等、やることが多い。ある程度は秘書室に依頼しているが、今までに培ったものが活用できる。黒崎の秘書として鍛えられてきた分、段取りよく運べている。
「ふう……。終わった。悠人に連絡しよう。さすがに起きているだろう」
やっとひと段落できた。スマホを手に取ると、予想どおりに悠人からのメッセージが入っていた。トラのユーリのスタンプがあり、気持ちが和らいだ。
「『久田悠人 10:20 気にしないで。ご飯、ありがとう。今から食べるよ。熱は平熱になった。トラのユーリのスタンプ』か。可愛いなあ……。早く帰りたい」
この時間に起きたなら、昼食はもっと後だろう。今日は定時で退社するが、夕食はテイクアウトで済ませるつもりだ。さすがに疲れてきている。
「……鋭くなってきたからなあ。見破られる」
やっと、悠人が叱ってくれるようになった。あの子の心の中にはドアが存在している。それをノックしても、ほんの少しだけ開いて顔を出すだけしかしていない。遠慮というものだろう。
俺にかけられた呪いを解いたというのに、肝心の本人が外に出てこない。そのドアを乱暴にノックして外に出させたとして、何になるのか?あの子の方から出てきてほしい。ドアの外に立っているのは、大した人間ではない。ヒーロー、クランという衣装を着て身を守っていた、臆病な男だ。
「どうしたら、ドアを開けてくれるかな……」
「誰のことだ?」
いつの間にか、黒崎がそばに立っていた。これからミーティングがあるため、声を掛けてくれたのだろう。
「常務。独り言です」
「はっきりした独り言だ。例のものはどうした?店は決めてあるんだろう」
「決めたよ。明日、連れて行く。でも、風邪を引いているからなあ」
「夏樹から聞いた。遊びに出かけるのをやめさせようか?」
「いや、夏樹君に悪い。悠人は意地っ張りで強情だよ。弱気なのか強気なのか……」
「学生時代のお前と似ている。悠人君を見ていると重なる。あの子のほうがずっと元気で、天真爛漫だ」
「そうだろう?本来はそういう子だ。なかなかドアを開けて出てきてもらえない。圭一さんは覚えがあるだろう?夏樹君と……」
「ああ。土足で踏み込んできたと言われた」
黒崎と夏樹にも、心にドアが存在した。出会った初日に黒崎が夏樹の優等生の仮面を見破り、叩き割り、夏樹のドアをこじ開け、手を差し出した。そして、その手を取った夏樹が外に出てきた。しかし、黒崎自身にもドアが存在し、夏樹が根気強く呼びかけて、開かれた。
「悠人の部屋のドアを開ける方法を探している。少しだけ顔だけ出すんだよ。可愛いだろう?……ちょっかいをかけたら、足だけ出して蹴って来る。その後はパタンって、閉められるんだ」
「ドアから出てきたのが、ヒーローよりいいだろう。そのままの本人だ」
「そうだね。クランが出てきて茶化して、また戻っていくよりもね。……もういないけど」
「……俺の前では本人しか出てきたことがない。どういう違いだ?」
黒崎が言ったことは本当だ。この人の前では衣装は着ていない。それはどういう理由なのか、はっきりと口にしよう。
「圭一さんが、せっかちだからだ。それを脱げって言われたからだよ」
「……脱げと言った覚えはないぞ」
「たとえ話だよ。部屋に逃げようともさせなかっただろう」
「……追いかけたことは認める」
「夏樹君ほどは乱暴にされていない。ふーっ、よかった」
「……お前にとっては、不本意な状況になる」
「どうしたんだ?」
「よかったな」
「おい……」
黒崎の視線の先には、俺たちを見て顔を赤くしている社員たちがいた。男女問わず、凝視されている。やっとデキているという噂がおさまったのに、これでは元の木阿弥だ。さっきの会話からすると、誤解を招くのは自然なことだと気づいた。しかし、遅かったようだ。ミーティングに向かっている間も、視線が向けられていた。
黒崎製菓のオフィスにいる。明日で役職が変わるため、それに伴った準備をしている。課長以上を集めた全体会議でのスピーチと営業企画部内でのスピーチが必要なため、原稿を作成し終えたところだ。
さらに昇進祝いという名の飲み会が数件ある。忘年会への出席、取引先との会食、今回に関しての挨拶メール等、やることが多い。ある程度は秘書室に依頼しているが、今までに培ったものが活用できる。黒崎の秘書として鍛えられてきた分、段取りよく運べている。
「ふう……。終わった。悠人に連絡しよう。さすがに起きているだろう」
やっとひと段落できた。スマホを手に取ると、予想どおりに悠人からのメッセージが入っていた。トラのユーリのスタンプがあり、気持ちが和らいだ。
「『久田悠人 10:20 気にしないで。ご飯、ありがとう。今から食べるよ。熱は平熱になった。トラのユーリのスタンプ』か。可愛いなあ……。早く帰りたい」
この時間に起きたなら、昼食はもっと後だろう。今日は定時で退社するが、夕食はテイクアウトで済ませるつもりだ。さすがに疲れてきている。
「……鋭くなってきたからなあ。見破られる」
やっと、悠人が叱ってくれるようになった。あの子の心の中にはドアが存在している。それをノックしても、ほんの少しだけ開いて顔を出すだけしかしていない。遠慮というものだろう。
俺にかけられた呪いを解いたというのに、肝心の本人が外に出てこない。そのドアを乱暴にノックして外に出させたとして、何になるのか?あの子の方から出てきてほしい。ドアの外に立っているのは、大した人間ではない。ヒーロー、クランという衣装を着て身を守っていた、臆病な男だ。
「どうしたら、ドアを開けてくれるかな……」
「誰のことだ?」
いつの間にか、黒崎がそばに立っていた。これからミーティングがあるため、声を掛けてくれたのだろう。
「常務。独り言です」
「はっきりした独り言だ。例のものはどうした?店は決めてあるんだろう」
「決めたよ。明日、連れて行く。でも、風邪を引いているからなあ」
「夏樹から聞いた。遊びに出かけるのをやめさせようか?」
「いや、夏樹君に悪い。悠人は意地っ張りで強情だよ。弱気なのか強気なのか……」
「学生時代のお前と似ている。悠人君を見ていると重なる。あの子のほうがずっと元気で、天真爛漫だ」
「そうだろう?本来はそういう子だ。なかなかドアを開けて出てきてもらえない。圭一さんは覚えがあるだろう?夏樹君と……」
「ああ。土足で踏み込んできたと言われた」
黒崎と夏樹にも、心にドアが存在した。出会った初日に黒崎が夏樹の優等生の仮面を見破り、叩き割り、夏樹のドアをこじ開け、手を差し出した。そして、その手を取った夏樹が外に出てきた。しかし、黒崎自身にもドアが存在し、夏樹が根気強く呼びかけて、開かれた。
「悠人の部屋のドアを開ける方法を探している。少しだけ顔だけ出すんだよ。可愛いだろう?……ちょっかいをかけたら、足だけ出して蹴って来る。その後はパタンって、閉められるんだ」
「ドアから出てきたのが、ヒーローよりいいだろう。そのままの本人だ」
「そうだね。クランが出てきて茶化して、また戻っていくよりもね。……もういないけど」
「……俺の前では本人しか出てきたことがない。どういう違いだ?」
黒崎が言ったことは本当だ。この人の前では衣装は着ていない。それはどういう理由なのか、はっきりと口にしよう。
「圭一さんが、せっかちだからだ。それを脱げって言われたからだよ」
「……脱げと言った覚えはないぞ」
「たとえ話だよ。部屋に逃げようともさせなかっただろう」
「……追いかけたことは認める」
「夏樹君ほどは乱暴にされていない。ふーっ、よかった」
「……お前にとっては、不本意な状況になる」
「どうしたんだ?」
「よかったな」
「おい……」
黒崎の視線の先には、俺たちを見て顔を赤くしている社員たちがいた。男女問わず、凝視されている。やっとデキているという噂がおさまったのに、これでは元の木阿弥だ。さっきの会話からすると、誤解を招くのは自然なことだと気づいた。しかし、遅かったようだ。ミーティングに向かっている間も、視線が向けられていた。
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