33 / 259
3-10
しおりを挟む
ステージ裏に到着すると、機材や楽器が並んだ広いスペースがあった。さっき使ったばかりなのだろうか。パイプ椅子にはタオルが掛けられていて、ジャケットも置かれている。植本さんが無造作に移動させて席をつくった。そして、遠藤さんと早瀬が椅子に腰かけた後、ギターを渡された。
「悠人君。ベテルギウスが使っていたから、散らかっているけど。気にせずに弾いて。準備は出来ているよ」
「わわ……、何を弾こうかな?」
「そうだなあ?教室でやったやつがいいかな……。そうだ!『サマーリーフ・カメリア』がいい。高校時代に出た、あのバンドコンテストで演奏しただろう?」
「はいっ」
「ブルースを、ハードロックに編曲したフレーズを弾いていただろう?あれも聴きたいから入れて。……さあ、やろう!」
「はい、OKです]
アンプのスイッチを入れられては、後戻りできない。しかも、2人が見ている前での演奏だ。ポジショニングをして、ピックを手に取った。さっきまで使われていたからなのか、温かい。なんだか自分が演奏していた気になってきた。
(弾いている時は落ち着くけど。下手クソだと思われるだろうな……)
リクエストされたフレーズを弾き終えると、ため息が聞こえてきた。下手くそ。期待はずれ。そう思われたのだろうと心配すると、植本さんが首を振って否定した。
「違うよ。うまいからだって!」
「へえー。腕を上げたな……」
「……」
遠藤さんに褒められた。早瀬は笑顔を浮かべているものの、何も言わない。いつもなら感想を聞かせてくれるのに。ガチガチに緊張しているのが、伝わっているのだろう。
(緊張するなあ……)
遠藤さん達から励まされながら、最後のフレーズを弾き終えた。大きな拍手がもらえたが、気持ちは弾まなかった。忙しいだろうから、これ以上、時間を割いてもらうわけにいかない。
「ありがとうございました!」
「あれ?もういいのか?もっと……」
「高宮さんが来ていないぞ?ここのプロデューサーだ。聴いてもらえよ。君は凄いんだぞ?……蓮司くーーん、高宮さんは来ないのか?……一緒に来させるなって!はいはい……。静かにしておく」
植本さんが誰かに声をかけていた。そして、一緒に来させるなという言葉も聞こえてきた。それは誰だろう?そう思いつつ、ギターを植本さんに返した。遠藤さんが困ったような顔になったから、居たたまれない気分になった。いつもそうだ。自信がない。そう思っていると、早瀬がギターを受け取った。
「植本。俺も弾いていい?」
「もちろんだ。向こうのを使っていいぞ?」
「ああ、そうする。……悠人君。まだ終わっていないぞ。一緒に弾かせてもらう」
「おおーー!」
「へえ?ユーリがーー。拍手しよう!」
2人が興味深そうに頷いた後、早瀬がポジショニングをした。先に指鳴らしだといって、ある曲のフレーズを弾いた。それは、月夜のレンジャーのオープニングテーマ曲だった。どうして知っているのだろうか。ショーに連れて行ってくれると言っていたことがあるが、見ていることは内緒にしていたのに。
「ゆうとくーん。これ、好きだよね?エンディングの曲だよね」
「何で知っているんだよ!?」
「弾いているじゃないか。すぐに分かったよ」
「アレンジしているのに!」
「けっこう耳が良いからだよ。トリャー!って叫んで、俺のことを蹴っているだろう?ブルーのキックじゃないか」
「ひいいいいっ」
「この曲はどう?……『マジカル少女ミカリン』のテーマ曲だ」
「それは弾いたことがないのにーー」
「録画が残っていたよ。毎週木曜日の16時から……」
「あああ……」
もっと恥ずかしい。女の子向けのアニメだからだ。これでは恥の上塗りだ。遠藤さんが肩を揺らして笑っている。
するとその時だ。植本さんが驚いたように俺の後ろの方を見ていた。誰か来たのだろうか?こんな場面を見せるのは恥ずかしい。
「悠人君。ベテルギウスが使っていたから、散らかっているけど。気にせずに弾いて。準備は出来ているよ」
「わわ……、何を弾こうかな?」
「そうだなあ?教室でやったやつがいいかな……。そうだ!『サマーリーフ・カメリア』がいい。高校時代に出た、あのバンドコンテストで演奏しただろう?」
「はいっ」
「ブルースを、ハードロックに編曲したフレーズを弾いていただろう?あれも聴きたいから入れて。……さあ、やろう!」
「はい、OKです]
アンプのスイッチを入れられては、後戻りできない。しかも、2人が見ている前での演奏だ。ポジショニングをして、ピックを手に取った。さっきまで使われていたからなのか、温かい。なんだか自分が演奏していた気になってきた。
(弾いている時は落ち着くけど。下手クソだと思われるだろうな……)
リクエストされたフレーズを弾き終えると、ため息が聞こえてきた。下手くそ。期待はずれ。そう思われたのだろうと心配すると、植本さんが首を振って否定した。
「違うよ。うまいからだって!」
「へえー。腕を上げたな……」
「……」
遠藤さんに褒められた。早瀬は笑顔を浮かべているものの、何も言わない。いつもなら感想を聞かせてくれるのに。ガチガチに緊張しているのが、伝わっているのだろう。
(緊張するなあ……)
遠藤さん達から励まされながら、最後のフレーズを弾き終えた。大きな拍手がもらえたが、気持ちは弾まなかった。忙しいだろうから、これ以上、時間を割いてもらうわけにいかない。
「ありがとうございました!」
「あれ?もういいのか?もっと……」
「高宮さんが来ていないぞ?ここのプロデューサーだ。聴いてもらえよ。君は凄いんだぞ?……蓮司くーーん、高宮さんは来ないのか?……一緒に来させるなって!はいはい……。静かにしておく」
植本さんが誰かに声をかけていた。そして、一緒に来させるなという言葉も聞こえてきた。それは誰だろう?そう思いつつ、ギターを植本さんに返した。遠藤さんが困ったような顔になったから、居たたまれない気分になった。いつもそうだ。自信がない。そう思っていると、早瀬がギターを受け取った。
「植本。俺も弾いていい?」
「もちろんだ。向こうのを使っていいぞ?」
「ああ、そうする。……悠人君。まだ終わっていないぞ。一緒に弾かせてもらう」
「おおーー!」
「へえ?ユーリがーー。拍手しよう!」
2人が興味深そうに頷いた後、早瀬がポジショニングをした。先に指鳴らしだといって、ある曲のフレーズを弾いた。それは、月夜のレンジャーのオープニングテーマ曲だった。どうして知っているのだろうか。ショーに連れて行ってくれると言っていたことがあるが、見ていることは内緒にしていたのに。
「ゆうとくーん。これ、好きだよね?エンディングの曲だよね」
「何で知っているんだよ!?」
「弾いているじゃないか。すぐに分かったよ」
「アレンジしているのに!」
「けっこう耳が良いからだよ。トリャー!って叫んで、俺のことを蹴っているだろう?ブルーのキックじゃないか」
「ひいいいいっ」
「この曲はどう?……『マジカル少女ミカリン』のテーマ曲だ」
「それは弾いたことがないのにーー」
「録画が残っていたよ。毎週木曜日の16時から……」
「あああ……」
もっと恥ずかしい。女の子向けのアニメだからだ。これでは恥の上塗りだ。遠藤さんが肩を揺らして笑っている。
するとその時だ。植本さんが驚いたように俺の後ろの方を見ていた。誰か来たのだろうか?こんな場面を見せるのは恥ずかしい。
0
あなたにおすすめの小説
恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編
夏目奈緖
BL
「恋人はメリーゴーランド少年だった」続編です。溺愛ドS社長×高校生。恋人同士になった二人の同棲物語。束縛と独占欲。。夏樹と黒崎は恋人同士。夏樹は友人からストーカー行為を受け、車へ押し込まれようとした際に怪我を負った。夏樹のことを守れずに悔やんだ黒崎は、二度と傷つけさせないと決心し、夏樹と同棲を始める。その結果、束縛と独占欲を向けるようになった。黒崎家という古い体質の家に生まれ、愛情を感じずに育った黒崎。結びつきの強い家庭環境で育った夏樹。お互いの価値観のすれ違いを経験し、お互いのトラウマを解消するストーリー。
新緑の少年
東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。
家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。
警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。
悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。
日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。
少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。
少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。
ハッピーエンドの物語。
握るのはおにぎりだけじゃない
箱月 透
BL
完結済みです。
芝崎康介は大学の入学試験のとき、落とした参考書を拾ってくれた男子生徒に一目惚れをした。想いを募らせつつ迎えた春休み、新居となるアパートに引っ越した康介が隣人を訪ねると、そこにいたのは一目惚れした彼だった。
彼こと高倉涼は「仲良くしてくれる?」と康介に言う。けれど涼はどこか訳アリな雰囲気で……。
少しずつ距離が縮まるたび、ふわりと膨れていく想い。こんなに知りたいと思うのは、近づきたいと思うのは、全部ぜんぶ────。
もどかしくてあたたかい、純粋な愛の物語。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
回転木馬の音楽少年~あの日のキミ
夏目奈緖
BL
包容力ドS×心優しい大学生。甘々な二人。包容力のある攻に優しく包み込まれる。海のそばの音楽少年~あの日のキミの続編です。
久田悠人は大学一年生。そそっかしくてネガティブな性格が前向きになれればと、アマチュアバンドでギタリストをしている。恋人の早瀬裕理(31)とは年の差カップル。指輪を交換して結婚生活を迎えた。悠人がコンテストでの入賞等で注目され、レコード会社からの所属契約オファーを受ける。そして、不安に思う悠人のことを、かつてバンド活動をしていた早瀬に優しく包み込まれる。友人の夏樹とプロとして活躍するギタリスト・佐久弥のサポートを受け、未来に向かって歩き始めた。ネガティブな悠人と、意地っ張りの早瀬の、甘々なカップルのストーリー。
<作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」→本作「回転木馬の音楽少年~あの日のキミ」
【完結】少年王が望むは…
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる