海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 早瀬が新しい曲を弾き始めた。それは来月のコンテストで演奏予定の曲だ。俺が作曲したやつだ。早瀬の前では2回しか演奏していないのに、間違えることなく弾いている。

「ゆうとくーん?いくよー?一緒に弾こう」
「ええ!?」
「はい、スタート」
「あああ……。もう!」

 早瀬がコードを弾くサイドギター、俺が耳に残るフレーズを入れるリードギターを担当した。こうして演奏するのは初めてのことだ。弾き方を教えてもらうことはあっても、合わせて弾いたことがない。早瀬が超絶に上手いからだ。

「裕理さんと弾くと、下手が丸わかりだよー」
「はいはい。下手なら楽しもうねー?」
「もう!下手くそって言うな!」
「『下手くそ』」
「腹立つーーー!!」

 思わず声が出てしまった。父から何か言われた時は落ち込んでいたのに、早瀬から言われると反対の気持ちになる。見返してやろうというものだ。反発心なのだろう。早瀬の笑い声に負けないように決めた。簡単に弾いているのが分かるし、正確なリズムとピックの軽さに驚いた。

「もうーー!」
「はいはい。集中しようね?」
「うん!」
「『下手くそ』」
「きいいいいっ」

 悔しい気持ちでいっぱいになって弾いているのに、心が弾んで、ワクワクした気分になった。そこで、高校時代に組んでいたバンドで弾いていた時のことを思い出した。こうしてツインギターで弾くときは気を遣っていた。お互いに相手のリズムが乱れて来ると弾きづらい。ささいなズレも気になってしまう。

 それを俺も相手もストレートに口にすることが、バンド内でうまくいかない原因だった。早瀬の演奏は正確で乱れがない。リードギターのフレーズを際立させている。改めてすごい人だと思った。

 いつの間にか、遠藤さん達の存在を忘れて、マンションで弾いている気分になり、リラックスしていた。調和が取れているのが嬉しくて、夢中でフレーズを弾いた。

(うわあ……、楽しい!)

 頭の中は楽しさでいっぱいだ。向かい合っている早瀬が笑っていた。きっと自分も笑っているだろう。それぐらい夢中になって弾いた。

 パチパチパチ……!

 最後のフレーズを弾き終えると、大きな拍手が起こった。驚いて顔を上げると、観客は2人だったはずなのに、ざっと見るだけでも、10人以上が立っていた。笑顔や驚き顔で拍手をされていた。

 遠藤さんは感心顔だ。植本さんはのけぞって、歓声を上げてくれた。呆然としてギャラリーの前で突っ立っていると、早瀬から囁かれた。

「君への拍手だよ」
「うひぇーー?どうしてーー?」
「ゆうとくーん。さっきまでカッコよかったのに……」

 早瀬が肩を揺らして笑った。そして、背中をポンポンと叩かれて、ギャラリーへ促されて、みんなの方へ向いて、ペコリと頭を下げた。すると、さらに歓声が起きた。俺はあまりの驚きに、体が逃げてしまった。こんな事があるわけがないと思ったからだ。

「よかったよー!」
「もう一発!」
「ひいいいいい」
「どうして逃げるんだ?ほら、話したいそうだよ」
「さっきの良かったよ」
「高宮さん!聴いてくれましたか?あのバンドの……」

 植本さんがそばに居る人に話しかけた。俺の前に笑顔でやって来たのは、高宮さんという人だった。この人に褒めてもらえるのは凄いことだと植本さんが言った。そして、褒めてもらった。しかし、現実感がない。

 するとその時だ。ぼーっとしたままでいると、見たことがある人が立っていることに気づいた。それは、佐久弥だった。俺の方を見て微笑んでいた。そして、拍手を送ってくれていた。
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