166 / 259
13-4
しおりを挟む
レストランに入ると、奥の方の個室へ案内された。広くて座席がゆったりした場所だ。父と宮田さんが向かいに座っている。早瀬は普段と変わりなく振舞い、飲み物をオーダーをしてくれた。予約時に頼んだ料理は記念日コースで、メニューを見ると、盛りだくさんの内容だった。さっそく飲み物が運ばれて来た。
「……美味しそうですね。いただきます」
「うん。美味しいね!この紅茶みたいなやつ、スッキリしているよ。宮田さんも同じやつだよね?」
「これはルイボスティー。悠人君、紅茶が好きだそうですね?」
「珈琲も好きなんだ。ルーシェへ買いに行ったことがある?」
「ええ、あります。毎年、福袋を買っています。飲んだことがないお茶があるから楽しみで……」
「俺も同じだよー。……美味しそう」
前菜として運ばれてきたのは、ウニの冷製ジュレ、ヒラメと野菜のオードブルだ。野菜が苦手でも、今日の席では食べる必要がある。けっこう量が多い。
「悠人君。ちゃんと食べているね。えらいよ」
「ここじゃそうだよ。お父さんも苦手だよね?」
「ああ。美味いから食べられる」
「そっか……」
「ああ……」
どうしよう?黒崎製菓のバイトで会った時には、ごく自然に話すことができたのに。今日はお互いに緊張している。宮田さんには普通に話せるのに。
ガチガチに緊張した父から、宮田さんの趣味が語られた。語るという表現が合うほどの、神妙なものだ。
「お父さん。変な話じゃないだろ?さささ……、さっさと言えば?」
「彼女はロックが好きだ。8月のコンテストが配信されていただろう?彼女が見つけてくれた。そうだったろう?」
「ええ。お父さんはスマホに保存しているの。実際に観たけど、何回も観ているんですよ」
「うひぇー?」
「ああ、息子の晴れの舞台だからな」
父がもじもじしているから、鳥肌が立った。ここで打ち解けようとも思わず、声をあげた。
「げえええっ、らしくない反応をするなよ!」
「……悠人君。言い過ぎだ」
「裕理さん、でもさーー。この間から……」
すると、宮田さんが助け船を出してくれた。早瀬がホッとした顔になっている。父も同じだ。
「ハロウィンのイベントで、ステージに出ていましたよね?私、ディアドロップとベテルギウスのファンなんです。限定のバンドがあるから観に行きたかったけど、今は人混みを避けているので……」
「そうだったんだ?お父さん、前から知っていたの?」
「ロックが好きだとは知っていたが、何を聴いているかまでは……。入院中に教えてもらった。お前のバンドのことも知っていたぞ」
「うひぇー?」
「お父さんに見せたんです。カッコいいって言って、スマホに保存してあるんです。もちろん、お父さんの……」
「ひいいいいっ」
「そんなにおかしいのか?」
「だって……」
この流れなら、父とは打ち解けられるだろう。しかし、自分にとっては納得がいかない。父が調子を合わせているように感じるからだ。しかし、一気に空気が軽くなった。運ばれて来た料理の話題や、美味しいねという、ごく普通の会話が出来るようになった。
「……美味しそうですね。いただきます」
「うん。美味しいね!この紅茶みたいなやつ、スッキリしているよ。宮田さんも同じやつだよね?」
「これはルイボスティー。悠人君、紅茶が好きだそうですね?」
「珈琲も好きなんだ。ルーシェへ買いに行ったことがある?」
「ええ、あります。毎年、福袋を買っています。飲んだことがないお茶があるから楽しみで……」
「俺も同じだよー。……美味しそう」
前菜として運ばれてきたのは、ウニの冷製ジュレ、ヒラメと野菜のオードブルだ。野菜が苦手でも、今日の席では食べる必要がある。けっこう量が多い。
「悠人君。ちゃんと食べているね。えらいよ」
「ここじゃそうだよ。お父さんも苦手だよね?」
「ああ。美味いから食べられる」
「そっか……」
「ああ……」
どうしよう?黒崎製菓のバイトで会った時には、ごく自然に話すことができたのに。今日はお互いに緊張している。宮田さんには普通に話せるのに。
ガチガチに緊張した父から、宮田さんの趣味が語られた。語るという表現が合うほどの、神妙なものだ。
「お父さん。変な話じゃないだろ?さささ……、さっさと言えば?」
「彼女はロックが好きだ。8月のコンテストが配信されていただろう?彼女が見つけてくれた。そうだったろう?」
「ええ。お父さんはスマホに保存しているの。実際に観たけど、何回も観ているんですよ」
「うひぇー?」
「ああ、息子の晴れの舞台だからな」
父がもじもじしているから、鳥肌が立った。ここで打ち解けようとも思わず、声をあげた。
「げえええっ、らしくない反応をするなよ!」
「……悠人君。言い過ぎだ」
「裕理さん、でもさーー。この間から……」
すると、宮田さんが助け船を出してくれた。早瀬がホッとした顔になっている。父も同じだ。
「ハロウィンのイベントで、ステージに出ていましたよね?私、ディアドロップとベテルギウスのファンなんです。限定のバンドがあるから観に行きたかったけど、今は人混みを避けているので……」
「そうだったんだ?お父さん、前から知っていたの?」
「ロックが好きだとは知っていたが、何を聴いているかまでは……。入院中に教えてもらった。お前のバンドのことも知っていたぞ」
「うひぇー?」
「お父さんに見せたんです。カッコいいって言って、スマホに保存してあるんです。もちろん、お父さんの……」
「ひいいいいっ」
「そんなにおかしいのか?」
「だって……」
この流れなら、父とは打ち解けられるだろう。しかし、自分にとっては納得がいかない。父が調子を合わせているように感じるからだ。しかし、一気に空気が軽くなった。運ばれて来た料理の話題や、美味しいねという、ごく普通の会話が出来るようになった。
1
あなたにおすすめの小説
恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編
夏目奈緖
BL
「恋人はメリーゴーランド少年だった」続編です。溺愛ドS社長×高校生。恋人同士になった二人の同棲物語。束縛と独占欲。。夏樹と黒崎は恋人同士。夏樹は友人からストーカー行為を受け、車へ押し込まれようとした際に怪我を負った。夏樹のことを守れずに悔やんだ黒崎は、二度と傷つけさせないと決心し、夏樹と同棲を始める。その結果、束縛と独占欲を向けるようになった。黒崎家という古い体質の家に生まれ、愛情を感じずに育った黒崎。結びつきの強い家庭環境で育った夏樹。お互いの価値観のすれ違いを経験し、お互いのトラウマを解消するストーリー。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
握るのはおにぎりだけじゃない
箱月 透
BL
完結済みです。
芝崎康介は大学の入学試験のとき、落とした参考書を拾ってくれた男子生徒に一目惚れをした。想いを募らせつつ迎えた春休み、新居となるアパートに引っ越した康介が隣人を訪ねると、そこにいたのは一目惚れした彼だった。
彼こと高倉涼は「仲良くしてくれる?」と康介に言う。けれど涼はどこか訳アリな雰囲気で……。
少しずつ距離が縮まるたび、ふわりと膨れていく想い。こんなに知りたいと思うのは、近づきたいと思うのは、全部ぜんぶ────。
もどかしくてあたたかい、純粋な愛の物語。
回転木馬の音楽少年~あの日のキミ
夏目奈緖
BL
包容力ドS×心優しい大学生。甘々な二人。包容力のある攻に優しく包み込まれる。海のそばの音楽少年~あの日のキミの続編です。
久田悠人は大学一年生。そそっかしくてネガティブな性格が前向きになれればと、アマチュアバンドでギタリストをしている。恋人の早瀬裕理(31)とは年の差カップル。指輪を交換して結婚生活を迎えた。悠人がコンテストでの入賞等で注目され、レコード会社からの所属契約オファーを受ける。そして、不安に思う悠人のことを、かつてバンド活動をしていた早瀬に優しく包み込まれる。友人の夏樹とプロとして活躍するギタリスト・佐久弥のサポートを受け、未来に向かって歩き始めた。ネガティブな悠人と、意地っ張りの早瀬の、甘々なカップルのストーリー。
<作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」→本作「回転木馬の音楽少年~あの日のキミ」
ミルクと砂糖は?
もにもに子
BL
瀬川は大学三年生。学費と生活費を稼ぐために始めたカフェのアルバイトは、思いのほか心地よい日々だった。ある日、スーツ姿の男性が来店する。落ち着いた物腰と柔らかな笑顔を見せるその人は、どうやら常連らしい。「アイスコーヒーを」と注文を受け、「ミルクと砂糖は?」と尋ねると、軽く口元を緩め「いつもと同じで」と返ってきた――それが久我との最初の会話だった。これは、カフェで交わした小さなやりとりから始まる、静かで甘い恋の物語。
雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―
なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。
その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。
死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。
かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。
そして、孤独だったアシェル。
凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。
だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。
生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる