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食事が進んでいった。メインの黒毛和牛が出てきた時には、父のことなど忘れていた。俺の分だけ肉の量が多いのは、父からの気づかいだと感じた。
「外はカリッと。柔らかい肉感だねー」
「食レポみたいだね」
「裕理さんも語ってよ」
「薬味も豊富、西洋わさびと胡椒、特製ポン酢。玉ねぎが美味しい。妥協をしない感じが、さすが……」
「へへへ。もっと食べたら?」
「……君の分をもらう」
「だめだよっ。これはとっておきの、あ……」
向かいからの視線を感じて、口ごもった。暖かい目で見つめられていたからだ。そのままの雰囲気で、宮田さんが話し始めた。これから真面目な内容になると予感して体が緊張すると、早瀬が背中をさすってくれた。
「……悠人君。早瀬さん。駅で倒れた時に助けてくださって、ありがとうございました。……聖加世病院に掛かっていることと、妊娠していることが分かったから、スムーズに搬送されて、治療が出来たと聞きました。もしかすると、お腹の子は助からなかったかも知れません……。こんな最悪な女のことを、ありがとうございました」
「宮田さん、そんなこと言わないでよ。倒れた人がいたら、放置できないよ!」
「私だと分かった後、手を握って励ましてくれたでしょう?謝ったら、そんなことないって言ってくれたでしょう?」
「それは……、悪いのはお父さんだよ。宮田さんも悪くないとは言わないけど……、根源は父であって。赤ちゃんは悪くないんだよ」
俺たちのやり取りを見ている父が、ホッとしたような顔をしている。宮田さんをフォローをすることもなく、ただ座っていることにイラついた。しかし、ここではあえて触れないことにした。これから宮田さんに話すことがあるからだ。どんなに父が最悪の男かと、息子の立場で言う。
「……父とは結婚するんですよね?」
「……はい。悠人君に会ってからにしたいと言いました」
「そうですか。まさか、無事に産まれてから結婚するとは、言われていないですよね?」
「……いいえ?」
宮田さんが目を見開いた。ごく普通の反応だ。父が母に言った事実を話していないことが分かった。そして、息子のステージ動画を保存することで、”実はいい父親”だというイメージを、彼女に植え付けたかも知れない。それも分かった。
「父のことで話したいことがあります。結婚をやめたくなるかもしれないので、聞きたくなかったら話しません。どうしますか?」
「……悠人?」
「お父さんは黙っていろよ。取り繕わせないよ」
「……聞かせてください」
「はい。お話します。……両親が別居後、俺は祖母に育てられました。高校入学の前に亡くなって、それから後は、実家で一人暮らしをしていました。生活費はちゃんとしてくれて、大学にも通わせてもらっています。……子供の頃から『どうして他の子のように出来ないんだ?』って言われ続けました。もしかすると、生まれて来る赤ちゃんにも同じことを言うかもしれません。……他に女性が出来るかもしれません。宮田さんのことが前例です。母のことを守れなくて、俺のことも同じです。……こんなに最悪な男ですよ」
このテーブルの空気が凍り付いたものになっているのは、気のせいではないだろう。早瀬が背中に添えてくれた手だけが温かい。
宮田さんは目を逸らすことなく、俺からの言葉を待ってくれている。嫌なことを聞かされているのに、現実から目を逸らしていないのだろう。それとも、すでに父から呪いを架けられているのだろうか?自分と子供を守る人だと。そんなことは信用ならない。
「外では俺の自慢話をして、家庭が上手くいっているふりをしていたんですよ。保身と世間体のためです。そうしないとやっていけない人です。……まだ聞きますか?」
「お願いします」
「これは高校の時に、友達と3人で話したことです。一人は、生まれた時から父親がいなくて、祖父母との4人暮らしです。もう一人は、小学校の時に両親が離婚して、母子家庭になりました。俺たち3人の意見は、離婚したり、暴力とか喧嘩とか、外に恋人を持つぐらいなら、初めから結婚しないでほしいっていうことです。子供が傷つくのは、どの子も同じです。親は大人だからよくても。……宮田さんも考えてください。結婚しなくても、養育費を払って貰ったらどうですか?法律事務所を経営している以上、不履行なんて、みっともない真似は出来ないですし。世間体を気にする人だから、あり得ない。……それでもいいのなら、結婚してあげてください」
「はい……」
宮田さんの表情が辛そうなものに変わった。本当はこんなことを言いたくない。新しい呪いをかけられないようにするためだ。これが自分の弟か妹になる子を守る術だ。嫌われてもいい。自分と同じ子は見たくない。
「外はカリッと。柔らかい肉感だねー」
「食レポみたいだね」
「裕理さんも語ってよ」
「薬味も豊富、西洋わさびと胡椒、特製ポン酢。玉ねぎが美味しい。妥協をしない感じが、さすが……」
「へへへ。もっと食べたら?」
「……君の分をもらう」
「だめだよっ。これはとっておきの、あ……」
向かいからの視線を感じて、口ごもった。暖かい目で見つめられていたからだ。そのままの雰囲気で、宮田さんが話し始めた。これから真面目な内容になると予感して体が緊張すると、早瀬が背中をさすってくれた。
「……悠人君。早瀬さん。駅で倒れた時に助けてくださって、ありがとうございました。……聖加世病院に掛かっていることと、妊娠していることが分かったから、スムーズに搬送されて、治療が出来たと聞きました。もしかすると、お腹の子は助からなかったかも知れません……。こんな最悪な女のことを、ありがとうございました」
「宮田さん、そんなこと言わないでよ。倒れた人がいたら、放置できないよ!」
「私だと分かった後、手を握って励ましてくれたでしょう?謝ったら、そんなことないって言ってくれたでしょう?」
「それは……、悪いのはお父さんだよ。宮田さんも悪くないとは言わないけど……、根源は父であって。赤ちゃんは悪くないんだよ」
俺たちのやり取りを見ている父が、ホッとしたような顔をしている。宮田さんをフォローをすることもなく、ただ座っていることにイラついた。しかし、ここではあえて触れないことにした。これから宮田さんに話すことがあるからだ。どんなに父が最悪の男かと、息子の立場で言う。
「……父とは結婚するんですよね?」
「……はい。悠人君に会ってからにしたいと言いました」
「そうですか。まさか、無事に産まれてから結婚するとは、言われていないですよね?」
「……いいえ?」
宮田さんが目を見開いた。ごく普通の反応だ。父が母に言った事実を話していないことが分かった。そして、息子のステージ動画を保存することで、”実はいい父親”だというイメージを、彼女に植え付けたかも知れない。それも分かった。
「父のことで話したいことがあります。結婚をやめたくなるかもしれないので、聞きたくなかったら話しません。どうしますか?」
「……悠人?」
「お父さんは黙っていろよ。取り繕わせないよ」
「……聞かせてください」
「はい。お話します。……両親が別居後、俺は祖母に育てられました。高校入学の前に亡くなって、それから後は、実家で一人暮らしをしていました。生活費はちゃんとしてくれて、大学にも通わせてもらっています。……子供の頃から『どうして他の子のように出来ないんだ?』って言われ続けました。もしかすると、生まれて来る赤ちゃんにも同じことを言うかもしれません。……他に女性が出来るかもしれません。宮田さんのことが前例です。母のことを守れなくて、俺のことも同じです。……こんなに最悪な男ですよ」
このテーブルの空気が凍り付いたものになっているのは、気のせいではないだろう。早瀬が背中に添えてくれた手だけが温かい。
宮田さんは目を逸らすことなく、俺からの言葉を待ってくれている。嫌なことを聞かされているのに、現実から目を逸らしていないのだろう。それとも、すでに父から呪いを架けられているのだろうか?自分と子供を守る人だと。そんなことは信用ならない。
「外では俺の自慢話をして、家庭が上手くいっているふりをしていたんですよ。保身と世間体のためです。そうしないとやっていけない人です。……まだ聞きますか?」
「お願いします」
「これは高校の時に、友達と3人で話したことです。一人は、生まれた時から父親がいなくて、祖父母との4人暮らしです。もう一人は、小学校の時に両親が離婚して、母子家庭になりました。俺たち3人の意見は、離婚したり、暴力とか喧嘩とか、外に恋人を持つぐらいなら、初めから結婚しないでほしいっていうことです。子供が傷つくのは、どの子も同じです。親は大人だからよくても。……宮田さんも考えてください。結婚しなくても、養育費を払って貰ったらどうですか?法律事務所を経営している以上、不履行なんて、みっともない真似は出来ないですし。世間体を気にする人だから、あり得ない。……それでもいいのなら、結婚してあげてください」
「はい……」
宮田さんの表情が辛そうなものに変わった。本当はこんなことを言いたくない。新しい呪いをかけられないようにするためだ。これが自分の弟か妹になる子を守る術だ。嫌われてもいい。自分と同じ子は見たくない。
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