海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 レストランに入ると、奥の方の個室へ案内された。広くて座席がゆったりした場所だ。父と宮田さんが向かいに座っている。早瀬は普段と変わりなく振舞い、飲み物をオーダーをしてくれた。予約時に頼んだ料理は記念日コースで、メニューを見ると、盛りだくさんの内容だった。さっそく飲み物が運ばれて来た。

「……美味しそうですね。いただきます」
「うん。美味しいね!この紅茶みたいなやつ、スッキリしているよ。宮田さんも同じやつだよね?」
「これはルイボスティー。悠人君、紅茶が好きだそうですね?」
「珈琲も好きなんだ。ルーシェへ買いに行ったことがある?」
「ええ、あります。毎年、福袋を買っています。飲んだことがないお茶があるから楽しみで……」
「俺も同じだよー。……美味しそう」

 前菜として運ばれてきたのは、ウニの冷製ジュレ、ヒラメと野菜のオードブルだ。野菜が苦手でも、今日の席では食べる必要がある。けっこう量が多い。

「悠人君。ちゃんと食べているね。えらいよ」
「ここじゃそうだよ。お父さんも苦手だよね?」
「ああ。美味いから食べられる」
「そっか……」
「ああ……」

 どうしよう?黒崎製菓のバイトで会った時には、ごく自然に話すことができたのに。今日はお互いに緊張している。宮田さんには普通に話せるのに。

 ガチガチに緊張した父から、宮田さんの趣味が語られた。語るという表現が合うほどの、神妙なものだ。

「お父さん。変な話じゃないだろ?さささ……、さっさと言えば?」
「彼女はロックが好きだ。8月のコンテストが配信されていただろう?彼女が見つけてくれた。そうだったろう?」
「ええ。お父さんはスマホに保存しているの。実際に観たけど、何回も観ているんですよ」
「うひぇー?」
「ああ、息子の晴れの舞台だからな」

 父がもじもじしているから、鳥肌が立った。ここで打ち解けようとも思わず、声をあげた。

「げえええっ、らしくない反応をするなよ!」
「……悠人君。言い過ぎだ」
「裕理さん、でもさーー。この間から……」

 すると、宮田さんが助け船を出してくれた。早瀬がホッとした顔になっている。父も同じだ。

「ハロウィンのイベントで、ステージに出ていましたよね?私、ディアドロップとベテルギウスのファンなんです。限定のバンドがあるから観に行きたかったけど、今は人混みを避けているので……」
「そうだったんだ?お父さん、前から知っていたの?」
「ロックが好きだとは知っていたが、何を聴いているかまでは……。入院中に教えてもらった。お前のバンドのことも知っていたぞ」
「うひぇー?」
「お父さんに見せたんです。カッコいいって言って、スマホに保存してあるんです。もちろん、お父さんの……」
「ひいいいいっ」
「そんなにおかしいのか?」
「だって……」

 この流れなら、父とは打ち解けられるだろう。しかし、自分にとっては納得がいかない。父が調子を合わせているように感じるからだ。しかし、一気に空気が軽くなった。運ばれて来た料理の話題や、美味しいねという、ごく普通の会話が出来るようになった。
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