愛想笑いの吸血鬼

いち

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ポワソン (1/4)

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 四日後の夜、寝ていたレブはゆすり起こされる。

「レブ、そろそろつきますよ」
「ん……」

 フューネの声に目をこすりながら起きたレブは窓の外を見た。

「森小屋ですか?」
「いえ、もう停車はしません。もうじき屋敷に到着です」
「……深い森ですね」


 二人が沈黙しているうちに馬車が止まって御者が扉を開ける。

 吹き込んできた風にレブの髪が揺れた。

「綺麗……」

 広がる景色に思わず呟く。森の中に廃墟のような洋館が建ち、石造りの大きな門の前に馬車は停車していた。

 古くも伝統的な造りをした屋敷の外観は、中世ヨーロッパ風。いくつもの窓は全てツタで覆われ、中は見えない。


「私の屋敷にようこそ」

 フューネはエスコートするように手を差し出す。

「……」

 レブは静かに手を重ねると、二人は馬車を降りた。見計らうように門が開いて屋敷に繋がる道がひらける。

 恐る恐る歩くレブを横に、フューネは門の脇に掛かったランプを取ってロウソクに火をともした。

 揺れる小さな明かりをもとに二人は暗い道を玄関へと進む。

「フューネはここにひとりで住んでるの?」
「ええ、そうですよ」

 玄関扉を開けながらフューネは返事した。不安そうにレブが振り返ると、後方では門が閉まり馬車が過ぎていく。

「あの馬車は”同胞”の商売なので、お気になさらず」
「へ、へぇ……」

 扉を入るとロビーが広がる。ロウソクの明かりが点々と揺れているだけで、屋敷の中は薄暗い。ただ、奥に二階に続く大きな階段があるのが分かる。

「レブの部屋は二階にあります」
「うん……」

 フューネの案内によって階段を上り、絨毯の敷かれた長い廊下を進んでいくと、やがて装飾の施されたドアの前にたどり着いた。

「こちらです」

 ドアを開くと、ほんのりとした光が二人を照らす。

「えっと……ここに寝てもいいの?」

 先に入ったフューネがレブに振り向く。
 部屋は所々に赤々と燃えるロウソクがいくつも置かれ、十分に照らされている。
 中央に真っ赤なカーテンで覆われた天蓋つきの大きなベッドがあり、その周辺に暖炉やテーブルが置かれていた。

「もちろんです。何か気になりますか?」
「ううん、素敵な部屋だから」
「気に入って頂けましたか? ここは私の寝室も兼ねています。衛生面も安心してください」
「そう……」

 レブはきょろきょろしながら部屋に入る。

「どうぞ座ってください。お茶を持ってきます」
「あ、俺がやるよ」
「いえいえ」

 微笑んでそのまま部屋を出てしまったフューネを気にしつつ、レブはベッドに腰かけた。

「どうしよう……」

 柔らかなクッションに身体がゆっくりと沈んで、少しバランスを崩す。

 ベッドに垂れ下がる赤いカーテンを見つめながらレブは呟く。

「外に出れるならなんでもいいって思ってたけど……とんでもない所に来ちゃった」




 ……

 少しして、ティーセットを持ってきたフューネは寝室にあるテーブルで紅茶を入れ始めた。

「こちらへどうぞ。私には体温が無いので、寒かったら教えてください」
「うん、ありがと……」

 フューネは手際よく紅茶をいれ、次に暖炉へ視線を向ける。

「……」

 一瞬だけ赤い瞳が光った瞬間、暖炉の火がバチリと燃え上がる。それを見たレブは驚いてベッドから立ち上がった。

「えっ、今、フューネが火をつけたの?」
「レブから血を貰えば、もっと出来ることは増えますよ」
「……そうなんだ」

 二人は着席し、お茶を飲み始める。

「さて、こんなことを言うと怖がられるかもしれませんが、殺すつもりはありませんので安心してくださいね」
「ぶっ」

 早速お茶を吹きかけたレブが慌ててカップを置く。

「ま、まって。フューネが吸血鬼ってのは分かったんだけど」
「だけど?」
「どうして、あんなとこに居たの?」

 ティーカップに唇をつけていたフューネがスッと目をほそめる。

「Ω館には、たまに吸血させてくれるΩを探しに行ってるんです」
「吸血鬼って無差別に街で襲ったりするんじゃ?」

 首をかしげたレブが言うと、フューネは少し考えたそぶりをみせる。

「確かに同族は襲うことを主流にしていますが……まあ、私が変わり者ということですね」
「へ、へぇ」
「私はできるだけ長く、一人と一緒に居たいので」

 ふわりとほほ笑んだフューネの顔をレブは不思議そうに見つめていた。



 ……

 雑談をしながら二人のティーカップが空になる頃、レブの横にいたフューネが呟く。

「さて、少しおやつを頂きたいですが……レブ、いいですか」
「なに?」

 ふと横を向いたレブの洋服にフューネが手を伸ばし、そのまま首元のボタンを一つ外す。

「っ、また飲むの?」
「いいえ、吸血は一ヶ月に1度だけで大丈夫です。それ以外の日は別の……レブの体液をおやつに頂ければと」

 固まるレブにフューネは囁くと、そのまま軽く抱きかかえベッドへ運び、滑らかなシーツの上に優しくおろす。

 また深紅の瞳が輝くと、するりと天蓋のカーテンが下りた。



 ……

「ん……ごちそうさまです」

 ゴクリと音を立てて喉を動かすと、フューネはふうと息を吐いた。

「やはりこちらも味が薄いですねぇ」
「う、うるさい……」

 レブは涙目になりながら、自分の股から顔を出すフューネを睨んでいる。

「ふふ、今日はこれで終わりましょう」
「ううっ」

 フューネは額に落ちた黒髪をかきあげながら濡れた唇を舐めている。

「次の吸血は満月の夜に──」

 そう言いながら、フューネが急に止まった。

「……んぇ? フューネ?」
「ああ、眠気が……」
「え、ちょっと?! フューネ?!」
「……」

 慌てて足を閉じたレブの横で、口を拭いながらフューネは身体を伸ばして大きなあくびをした。

「夕方頃には……」
「えっ、まって?!」

 もそもそとシルクの掛け布団に潜り込んでしまったフューネは、その言葉を最後に小さな寝息を立てはじめた。
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