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ポワソン (2/4)
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……
「どうしろと……?」
ベッドの上、レブはスヤスヤ眠るフューネを見ながら膝を抱え座っている。
「急に寝ちゃったけど……おーい、フューネ。俺どっか行っちゃうよ」
言いながらフューネの頬をつついてみるが反応がない。
少しして飽きた様子のレブは静かに天蓋のカーテンに指を通し、その隙間から抜け出した。
脱ぎ捨てられた洋服を拾って着直すと寝室を見渡す。
「夢じゃない、んだよな」
奥にある暖炉がパチパチと燃えている。
ほっぺたをつねりながら天井や机の上など観察しつつ、入ってきたドアを見る。
「ごめんなさい。ちょっと見るだけ、だから」
レブは言い訳するように呟くと入口のドアを開け、廊下に出た。
「……ロウソクが消えてる」
来た時と違って真っ暗な廊下を、壁に手を当てながら少し移動してみるが、完全な暗闇であるため前へ進めない。
そんな中、微かな物音が聞こえた気がして素早く寝室に引き返そうとしたレブの背に、次は人の声が響いた。
「フューネかー? 邪魔してるぞー」
「……!」
それはフューネの名を呼ぶ聞いたことのない声だった。
寝室のドアを開けたまま、漏れた光で廊下を確認すると、向こうから男性が歩いてきていた。
薄汚れたこげ茶色のコートをなびかせながら、片手に引きずるように持った大きなトランクケースを絨毯の上に置いてこちらを見ている。
「た、助かった……!」
「んあ、フューネじゃねえのか」
レブが身を乗り出すと、相手と目が合った。謎の男性は50代くらいで、狩人のような装備をしている。
「あーっと? 悪いがフューネを起こしてくれないか?」
「っ……あの! えと」
「ん? あんた知らない顔だな。まさか迷子とかじゃ……」
「迷子じゃないですけど」
駆け寄ったレブを見下ろし、男性は首をかしげた。
「俺はロンド。吸血鬼ハンターだ」
「えっ?!」
「残念ながら依頼がなければ狩れない身だがな。フューネとは友人なんだ。あんたは?」
「俺は、レブです」
小さな声で名前を言うと、レブは一歩下がった。
寝室から漏れる光をみたロンドは、レブを通り越して部屋の中を覗き込む。
「あー、寝てるのか。面倒だな……起こせたりする?」
「え? さっき寝ちゃったから……」
「そこをなんとか。こんな森の奥、いつでも来られねーからさ」
「うーん」
迷っているレブの横でロンドは両手を合わせた。レブがしぶしぶ寝室に戻ってベッドのカーテンを覗くと、先ほどと変わらず寝息を立てるフューネがいる。
「えと、フューネ起きて。友達のロンドさんが来てるんだけど」
「……すぅ、すぅ」
「おーい。やっぱダメか」
肩を下ろし、振り返りながらレブは答える。
「やっぱり起きそうにないです──って、あれ?」
ドアの前にロンドの姿は無かった。がらんとした空間に首を傾げていると、近距離から突然、手が伸びてきた。
「っ?!」
「君が新しい餌の子ってわけだ。雑談でもするかい」
「わっ……!」
レブは手首をつかまれてベッド脇の壁に身体を押しつけられる。
「──っ止めて!」
「もうあいつとヤったか?」
「っ」
レブの背後でロンドが笑った。彼はレブの両足の間に膝を入れ、割るように片足を持ち上げようとしている。
「フューネのやつ、またΩを買いやがったな」
「なっ?! は、離してっ!」
「さらわれてきたわけじゃねーだろ?」
「違う、けどっ!」
レブは唇を噛んで後ろを振り向いた。その視線の端に灰色がかった髪が見える。
どうにか押さえつけられた腕から抜け出そうと身をよじっているうちに、バサリと大きくカーテンが動いた。
「ぐぇっ?!」
そこから伸びた大きな影にロンドが素早く顔を上げるが、それよりも早く彼の喉元を大きな手が掴み上げる。
「触るな」
赤い瞳で刺すようにロンドを睨んだフューネは、軽々と片手で彼を持ち上げたままベッドサイドに立ち上がった。
「……ぐ、起きたか。冗談、だよ」
ロンドは冷や汗を額に浮かべながら歯を見せて笑っている。
宙に浮いた足とみるみる赤くなる彼の顔に気が付いたレブは、急いでフューネのほうへ逃げて服の裾を引っ張った。
「あ、危ないよ!!」
「レブ、大丈夫ですか?」
「うん、俺は平気」
頷くレブを確認すると、フューネはロンドを投げ飛ばした。鈍い音で壁にぶつかった彼はそのまま床に崩れ落ちる。
「がはっ、たく……よぉ。お前が起きないのが、悪いんだろうが」
ロンドは両手を頭の上にあげたまま、牙をむきだしたフューネへ身体を向ける。
「……もう一度私の餌に触ったら、本当に容赦しませんよ」
「ああ、わかったって。いい子そうだったんで、お話ししたかっただけさ」
ロンドはよろよろと立ち上がると視線をそらした。その先に、ドアの脇に置きっぱなしのトランクケースがある。
「ここまで遠いんだよ。言われたものを持ってきたから許せ」
頭を掻きながらフューネの前までトランクケースを引きずってくると、おもむろに開ける。
無言のフューネの前に、ロンドがトランクケースの中から取り出したものを置いていく。そこには布に包まれたパンやチーズ、瓶入りの野菜などがあった。
次々と取り出されていく食材を、レブはフューネの後ろに隠れながら口をぽかんと開けて見ている。
「これで全部だ」
品物を出し尽くしたロンドはふうと息を吐いた。並んだ品物を見ていたフューネは、手を顎におきながら頷く。
「約束は守って頂けたようですね」
「当たり前だ。ちょっとは感謝してくれよ」
「全部いただきましょう……少々お待ちください」
荒っぽいロンドの声と反対に、落ち着いた声に戻ったフューネは棚の方に足を向けた。引き出しから何か探しているようで、その場に残ったレブのほうは、ふとロンドに視線を合わせる。
「大丈夫、ですか?」
「いきなり失礼した。レブ君、だったかな? 俺は慣れてるんで平気さ。改めてよろしくどうぞ」
姿勢を正したロンドは手のひらを向けてかしこまったお辞儀をした。つられるようにレブも会釈したところで、フューネが戻ってくる。
「吸血鬼の縄張り図の更新でしたね。これをどうぞ」
「おおっ! 待ってました!」
フューネが差し出した紙の束をロンドが大事そうに抱える。
「これがあると助かるんだよ」
「また同胞狩りを?」
「ふっ、あんたとは昔からの仲じゃないか。毎度、情報提供助かるぜ」
ロンドが空っぽになったトランクケースに紙束を入れている横で、レブがフューネを見上げた。
「まったく、しぶとい人です」
眉間にしわを寄せたフューネはまるで苦いものを食べた後のような顔をしている。
「ははっ、お互い様だ。しかし今日は一段と機嫌が悪いな」
「あなたのおかげで」
「わかったって。帰るから。資料有難く頂くよ」
はは、とロンドは苦笑を残して、いそいそと廊下へ出ていく。そのまま階段を下りる音がしたので二階からレブとフューネが見送りに部屋を出ると、彼は一度振り向いてお辞儀をした後、玄関扉を開けて外へ去っていった。
「どうしろと……?」
ベッドの上、レブはスヤスヤ眠るフューネを見ながら膝を抱え座っている。
「急に寝ちゃったけど……おーい、フューネ。俺どっか行っちゃうよ」
言いながらフューネの頬をつついてみるが反応がない。
少しして飽きた様子のレブは静かに天蓋のカーテンに指を通し、その隙間から抜け出した。
脱ぎ捨てられた洋服を拾って着直すと寝室を見渡す。
「夢じゃない、んだよな」
奥にある暖炉がパチパチと燃えている。
ほっぺたをつねりながら天井や机の上など観察しつつ、入ってきたドアを見る。
「ごめんなさい。ちょっと見るだけ、だから」
レブは言い訳するように呟くと入口のドアを開け、廊下に出た。
「……ロウソクが消えてる」
来た時と違って真っ暗な廊下を、壁に手を当てながら少し移動してみるが、完全な暗闇であるため前へ進めない。
そんな中、微かな物音が聞こえた気がして素早く寝室に引き返そうとしたレブの背に、次は人の声が響いた。
「フューネかー? 邪魔してるぞー」
「……!」
それはフューネの名を呼ぶ聞いたことのない声だった。
寝室のドアを開けたまま、漏れた光で廊下を確認すると、向こうから男性が歩いてきていた。
薄汚れたこげ茶色のコートをなびかせながら、片手に引きずるように持った大きなトランクケースを絨毯の上に置いてこちらを見ている。
「た、助かった……!」
「んあ、フューネじゃねえのか」
レブが身を乗り出すと、相手と目が合った。謎の男性は50代くらいで、狩人のような装備をしている。
「あーっと? 悪いがフューネを起こしてくれないか?」
「っ……あの! えと」
「ん? あんた知らない顔だな。まさか迷子とかじゃ……」
「迷子じゃないですけど」
駆け寄ったレブを見下ろし、男性は首をかしげた。
「俺はロンド。吸血鬼ハンターだ」
「えっ?!」
「残念ながら依頼がなければ狩れない身だがな。フューネとは友人なんだ。あんたは?」
「俺は、レブです」
小さな声で名前を言うと、レブは一歩下がった。
寝室から漏れる光をみたロンドは、レブを通り越して部屋の中を覗き込む。
「あー、寝てるのか。面倒だな……起こせたりする?」
「え? さっき寝ちゃったから……」
「そこをなんとか。こんな森の奥、いつでも来られねーからさ」
「うーん」
迷っているレブの横でロンドは両手を合わせた。レブがしぶしぶ寝室に戻ってベッドのカーテンを覗くと、先ほどと変わらず寝息を立てるフューネがいる。
「えと、フューネ起きて。友達のロンドさんが来てるんだけど」
「……すぅ、すぅ」
「おーい。やっぱダメか」
肩を下ろし、振り返りながらレブは答える。
「やっぱり起きそうにないです──って、あれ?」
ドアの前にロンドの姿は無かった。がらんとした空間に首を傾げていると、近距離から突然、手が伸びてきた。
「っ?!」
「君が新しい餌の子ってわけだ。雑談でもするかい」
「わっ……!」
レブは手首をつかまれてベッド脇の壁に身体を押しつけられる。
「──っ止めて!」
「もうあいつとヤったか?」
「っ」
レブの背後でロンドが笑った。彼はレブの両足の間に膝を入れ、割るように片足を持ち上げようとしている。
「フューネのやつ、またΩを買いやがったな」
「なっ?! は、離してっ!」
「さらわれてきたわけじゃねーだろ?」
「違う、けどっ!」
レブは唇を噛んで後ろを振り向いた。その視線の端に灰色がかった髪が見える。
どうにか押さえつけられた腕から抜け出そうと身をよじっているうちに、バサリと大きくカーテンが動いた。
「ぐぇっ?!」
そこから伸びた大きな影にロンドが素早く顔を上げるが、それよりも早く彼の喉元を大きな手が掴み上げる。
「触るな」
赤い瞳で刺すようにロンドを睨んだフューネは、軽々と片手で彼を持ち上げたままベッドサイドに立ち上がった。
「……ぐ、起きたか。冗談、だよ」
ロンドは冷や汗を額に浮かべながら歯を見せて笑っている。
宙に浮いた足とみるみる赤くなる彼の顔に気が付いたレブは、急いでフューネのほうへ逃げて服の裾を引っ張った。
「あ、危ないよ!!」
「レブ、大丈夫ですか?」
「うん、俺は平気」
頷くレブを確認すると、フューネはロンドを投げ飛ばした。鈍い音で壁にぶつかった彼はそのまま床に崩れ落ちる。
「がはっ、たく……よぉ。お前が起きないのが、悪いんだろうが」
ロンドは両手を頭の上にあげたまま、牙をむきだしたフューネへ身体を向ける。
「……もう一度私の餌に触ったら、本当に容赦しませんよ」
「ああ、わかったって。いい子そうだったんで、お話ししたかっただけさ」
ロンドはよろよろと立ち上がると視線をそらした。その先に、ドアの脇に置きっぱなしのトランクケースがある。
「ここまで遠いんだよ。言われたものを持ってきたから許せ」
頭を掻きながらフューネの前までトランクケースを引きずってくると、おもむろに開ける。
無言のフューネの前に、ロンドがトランクケースの中から取り出したものを置いていく。そこには布に包まれたパンやチーズ、瓶入りの野菜などがあった。
次々と取り出されていく食材を、レブはフューネの後ろに隠れながら口をぽかんと開けて見ている。
「これで全部だ」
品物を出し尽くしたロンドはふうと息を吐いた。並んだ品物を見ていたフューネは、手を顎におきながら頷く。
「約束は守って頂けたようですね」
「当たり前だ。ちょっとは感謝してくれよ」
「全部いただきましょう……少々お待ちください」
荒っぽいロンドの声と反対に、落ち着いた声に戻ったフューネは棚の方に足を向けた。引き出しから何か探しているようで、その場に残ったレブのほうは、ふとロンドに視線を合わせる。
「大丈夫、ですか?」
「いきなり失礼した。レブ君、だったかな? 俺は慣れてるんで平気さ。改めてよろしくどうぞ」
姿勢を正したロンドは手のひらを向けてかしこまったお辞儀をした。つられるようにレブも会釈したところで、フューネが戻ってくる。
「吸血鬼の縄張り図の更新でしたね。これをどうぞ」
「おおっ! 待ってました!」
フューネが差し出した紙の束をロンドが大事そうに抱える。
「これがあると助かるんだよ」
「また同胞狩りを?」
「ふっ、あんたとは昔からの仲じゃないか。毎度、情報提供助かるぜ」
ロンドが空っぽになったトランクケースに紙束を入れている横で、レブがフューネを見上げた。
「まったく、しぶとい人です」
眉間にしわを寄せたフューネはまるで苦いものを食べた後のような顔をしている。
「ははっ、お互い様だ。しかし今日は一段と機嫌が悪いな」
「あなたのおかげで」
「わかったって。帰るから。資料有難く頂くよ」
はは、とロンドは苦笑を残して、いそいそと廊下へ出ていく。そのまま階段を下りる音がしたので二階からレブとフューネが見送りに部屋を出ると、彼は一度振り向いてお辞儀をした後、玄関扉を開けて外へ去っていった。
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