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スープ (2/2)
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……
「さて、レブ。改めてよろしくお願いしますね」
「っと、こちらこそ、よろしくお願いします」
二人が座席に向かい合って座ると御者が扉を閉める。
馬車は間もなくガタン、と揺れて動き出した。
「我が家には四日後の夜に到着する予定です」
「よ、四日?!」
「すみません、田舎に暮らしているので」
「街中じゃないんだ……?」
馬車の隅っこに固まったレブをみて、申し訳なさそうにフューネは笑った。
「時間はありますし、休憩しつつ行きましょう。お腹は空いていませんか?」
「……?」
そう言ってフューネは空の座席に置いてあったピクニックバスケットを持ち上げる。
開いたバスケットには、瓶ジュースとサンドイッチが詰められていた。それを見るなり目を見開いたレブが、信じられない様子で瞬きする。
「召し上がってください」
「っ!!?」
躊躇しているレブにフューネがバスケットを近づける。レブは固まった手で恐る恐るサンドイッチを掴むと口に運んだ。
「いただき、ます」
小さな口でパンをかじると、中にマスタードソースと、柔らかいハムやレタスがみえる。
「っ……な、なにこれ?!」
「ふふ、気に入っていただけましたか?」
前のめりになって二口、三口と食べ進めるレブの正面で、フューネは静かにそれを見守る。
窓の外では雨雲の下に広がる街がどんどん遠ざかっていった。
***
周囲が一面のジャガイモ畑になった頃、馬車の中でレブは沢山あったサンドイッチの半分を平らげ、ソーダ水を飲んでいた。
「ぜんぶとっても美味しいです!!」
「それはよかった」
「味のあるものって本当に美味しくて、って……その、ごめんなさい。落ち着きます」
レブが頭を下げれば、フューネは首を横に振る。
「沢山食べてくださいね。ついでにこれからの事も説明しますので」
「っと、はい! α様のお家で頑張ります!!」
姿勢を正したレブにフューネは続ける。
「フューネと呼んでください。喋り方も気にしないで」
「えっ、だけど……うーん」
そう言ってレブは口をつぐんだが、少し考えた後に大きく頷く。
「……フューネが言うなら、それで!」
「ふふ、ありがとうございます」
フューネはニッコリ笑い、窓ガラスの外へ視線を移した。
「だいぶ進みましたね。レブの故郷はどこですか?」
「えーっと。もう忘れたけど自然が多い所でした」
「……そうですか」
同じように窓ガラスに顔を映し、レブは過ぎていく景色を見つめる。
「故郷を忘れてしまったのは、私も同じです」
「え?」
瓶を持って停止するレブに、フューネがふっと視線を合わせた。
「実は私、吸血鬼でして」
「……??」
「100年ほどの若者です。まあ、そうですよね。急ですね」
ぽかんとしたレブに、フューネは眉を寄せる。そして、かけていた丸眼鏡を外した。
「え、赤い瞳?? そのレンズどうなって……」
「長く生きていると色々な道具を持つものです」
丸眼鏡を外したフューネの瞳は人間とは思えない鮮やかな深紅に輝いている。
「どうです? 信じてもらえましたか」
「ちょ……え」
レブは持っていた瓶を座席に置いて馬車の壁に背中をつけた。
しかし狭い馬車の中で動ける空間は少ない。フューネが大きな身体を前に屈めると、あっという間にレブとの距離が近くなる。
「私は生前αでした。その名残か、Ωの血液が好物なんです」
「っ」
うっとりと呟いたフューネが瞳を細めてレブの手を握りこむ。
「まだ信じていただけないなら……」
レブを覆うようにフューネの影が迫った。
フューネは徐々に近づいたが、レブは咄嗟に身体を反らす。
「えっと?! 俺、汚いですから!」
「そんなことどうでもいいんです。少しちくっとしますよ……」
「っ、冷た?!」
レブの正面に接近したフューネは彼の着ている洋服を少しずらし、鎖骨を露にする。
「ああ、久しぶりの香りだ」
「ひっ」
レブに近づいたフューネが深く息を吸い込んでいる。
震える鎖骨を舐め上げ、大きな手はレブの身体を固定した。
「いただきます」
開かれた口から忍び寄る刃物のような──鋭利な牙がレブの肩に食い込んだ。
「……!!」
びくりと跳ねながら、肩を噛まれるレブから声にならない息が漏れる。
果実をすするような音が二、三回続いた後、フューネがゆっくり頭を離すと、その唇は赤く濡れていた。
「ごちそうさま。これで、信じてくれましたね?」
「あ、あ……今、何を」
レブは不規則な呼吸のままフューネを見つめる。鎖骨の上には二つの赤い跡ができていた。
「吸血鬼が、いるなんて」
「童話の生物だと思いますよね。しかし、実際にこうして存在しているのですよ」
フューネは濡れた唇を舐め、レブの隣に座り直す。
「単刀直入に申しますと、レブには餌として私と一緒に暮らしていただきます」
「……餌」
「私も腹を満たす必要があるのです。ですが安心してください、首筋には嚙みつきませんから」
レブは横から聞こえた声にハッとして首元を片手で押える。
「……もし番ったら、俺は」
「さて? 試したことがないのでわかりません。万が一死人と番なんて嫌でしょう」
その言葉にレブは無言だった。
馬車は田舎の細道を進み、やがて光も入らない森へ消えて行く。
「さて、レブ。改めてよろしくお願いしますね」
「っと、こちらこそ、よろしくお願いします」
二人が座席に向かい合って座ると御者が扉を閉める。
馬車は間もなくガタン、と揺れて動き出した。
「我が家には四日後の夜に到着する予定です」
「よ、四日?!」
「すみません、田舎に暮らしているので」
「街中じゃないんだ……?」
馬車の隅っこに固まったレブをみて、申し訳なさそうにフューネは笑った。
「時間はありますし、休憩しつつ行きましょう。お腹は空いていませんか?」
「……?」
そう言ってフューネは空の座席に置いてあったピクニックバスケットを持ち上げる。
開いたバスケットには、瓶ジュースとサンドイッチが詰められていた。それを見るなり目を見開いたレブが、信じられない様子で瞬きする。
「召し上がってください」
「っ!!?」
躊躇しているレブにフューネがバスケットを近づける。レブは固まった手で恐る恐るサンドイッチを掴むと口に運んだ。
「いただき、ます」
小さな口でパンをかじると、中にマスタードソースと、柔らかいハムやレタスがみえる。
「っ……な、なにこれ?!」
「ふふ、気に入っていただけましたか?」
前のめりになって二口、三口と食べ進めるレブの正面で、フューネは静かにそれを見守る。
窓の外では雨雲の下に広がる街がどんどん遠ざかっていった。
***
周囲が一面のジャガイモ畑になった頃、馬車の中でレブは沢山あったサンドイッチの半分を平らげ、ソーダ水を飲んでいた。
「ぜんぶとっても美味しいです!!」
「それはよかった」
「味のあるものって本当に美味しくて、って……その、ごめんなさい。落ち着きます」
レブが頭を下げれば、フューネは首を横に振る。
「沢山食べてくださいね。ついでにこれからの事も説明しますので」
「っと、はい! α様のお家で頑張ります!!」
姿勢を正したレブにフューネは続ける。
「フューネと呼んでください。喋り方も気にしないで」
「えっ、だけど……うーん」
そう言ってレブは口をつぐんだが、少し考えた後に大きく頷く。
「……フューネが言うなら、それで!」
「ふふ、ありがとうございます」
フューネはニッコリ笑い、窓ガラスの外へ視線を移した。
「だいぶ進みましたね。レブの故郷はどこですか?」
「えーっと。もう忘れたけど自然が多い所でした」
「……そうですか」
同じように窓ガラスに顔を映し、レブは過ぎていく景色を見つめる。
「故郷を忘れてしまったのは、私も同じです」
「え?」
瓶を持って停止するレブに、フューネがふっと視線を合わせた。
「実は私、吸血鬼でして」
「……??」
「100年ほどの若者です。まあ、そうですよね。急ですね」
ぽかんとしたレブに、フューネは眉を寄せる。そして、かけていた丸眼鏡を外した。
「え、赤い瞳?? そのレンズどうなって……」
「長く生きていると色々な道具を持つものです」
丸眼鏡を外したフューネの瞳は人間とは思えない鮮やかな深紅に輝いている。
「どうです? 信じてもらえましたか」
「ちょ……え」
レブは持っていた瓶を座席に置いて馬車の壁に背中をつけた。
しかし狭い馬車の中で動ける空間は少ない。フューネが大きな身体を前に屈めると、あっという間にレブとの距離が近くなる。
「私は生前αでした。その名残か、Ωの血液が好物なんです」
「っ」
うっとりと呟いたフューネが瞳を細めてレブの手を握りこむ。
「まだ信じていただけないなら……」
レブを覆うようにフューネの影が迫った。
フューネは徐々に近づいたが、レブは咄嗟に身体を反らす。
「えっと?! 俺、汚いですから!」
「そんなことどうでもいいんです。少しちくっとしますよ……」
「っ、冷た?!」
レブの正面に接近したフューネは彼の着ている洋服を少しずらし、鎖骨を露にする。
「ああ、久しぶりの香りだ」
「ひっ」
レブに近づいたフューネが深く息を吸い込んでいる。
震える鎖骨を舐め上げ、大きな手はレブの身体を固定した。
「いただきます」
開かれた口から忍び寄る刃物のような──鋭利な牙がレブの肩に食い込んだ。
「……!!」
びくりと跳ねながら、肩を噛まれるレブから声にならない息が漏れる。
果実をすするような音が二、三回続いた後、フューネがゆっくり頭を離すと、その唇は赤く濡れていた。
「ごちそうさま。これで、信じてくれましたね?」
「あ、あ……今、何を」
レブは不規則な呼吸のままフューネを見つめる。鎖骨の上には二つの赤い跡ができていた。
「吸血鬼が、いるなんて」
「童話の生物だと思いますよね。しかし、実際にこうして存在しているのですよ」
フューネは濡れた唇を舐め、レブの隣に座り直す。
「単刀直入に申しますと、レブには餌として私と一緒に暮らしていただきます」
「……餌」
「私も腹を満たす必要があるのです。ですが安心してください、首筋には嚙みつきませんから」
レブは横から聞こえた声にハッとして首元を片手で押える。
「……もし番ったら、俺は」
「さて? 試したことがないのでわかりません。万が一死人と番なんて嫌でしょう」
その言葉にレブは無言だった。
馬車は田舎の細道を進み、やがて光も入らない森へ消えて行く。
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