2 / 7
スープ (1/2)
しおりを挟む
ここは『Ω館』と呼ばれる屋敷。
数を減らすΩたちが様々な理由で集められ、国によって管理されている。ほとんどはαと番うため高額取引されているわりに、館で暮らす彼ら自身の生活は貧相だった。
その建物は労働者が行きかう大通り沿いにあって、灰色をした屋敷の入口には”Ω販売中”の看板が年中出ている。
……
ある雨の日
小さな部屋で暮らす20代の青年──レブの話。
鉄の首輪をつけられ、短く切られた金髪はボサボサのまま
成人にしてはサイズの合っていない大きな上着を身につけている。
部屋の家具はベッドとトイレのみで、それを囲う壁は何年も使い古されているのか黒く、ベッドシーツは染みだらけだった。
「ほら、飯だぞ」
扉についたのぞき窓があいて、そこから液体の入った器が差し出される。
さび付いているせいか、のぞき窓が耳障りな音を出す。
「……」
レブはベッドを下りて、腕を伸ばし器を取った。そのまま少しだけ液体を唇につけると顔を歪ませる。
「水より不味い……」
液体を一気に飲み干すと、空になった器を元の位置へ戻す。
「雨の街ってどんな感じだろ。はあ、どんな店があるんだろうな」
ベッドに腰かけ、雨音を追うように部屋の上部にある喚起口に視線を移した。
「早く買ってもらわないと」
……
ぼーっと横になって時間を過ごしていると、夕方頃やけに外が騒がしくなった。
「ん……?」
そっと扉に近づいて耳を近づける。
扉の向こうでは慌ただしく階段を上る足音と、見張り役の話声がした。
「おいおい、とんでもねぇ上客が来たぞ! 今受付にいる旦那、大袋に金貨をどっさりだ」
「なんだと? 今は品薄だってのに……あっ、旦那!!」
話していた声がパッと明るくなったと思うと、後から革靴の音が響いた。
「っ!」
その足音が扉の前で止まったので、レブも慌ててベッドへ戻る。
「こちらの部屋にも?」
扉の向こうから優し気な男性の声がした。レブはベッドシーツを握りしめる。
「ええっと、一応いますけどここに居るのは成人してまして……しかも生意気な奴なんです。上の階に10代がいるんでそちらを先に見てみては……」
向こうから別の声が聞こえたとき、レブは咄嗟に「嫌だ」と呟いた。するとまるで返事をするように、扉越しの穏やかな声が答える。
「構いません。見せてください」
「えっと……?」
「どんな人かだけでも」
数秒後、ガチャリと扉の施錠が外れて向こうから差した光にレブは目を細めた。
「初めまして」
その先にいた男性の挨拶がはっきり聞こえた。後ろであたふたする商人と見比べると190㎝以上ある長身で、丸眼鏡と黒いスーツを着ている。
「……」
「声を聞かせてくれませんか? お名前は?」
「──レブ、です」
久しぶりに声を出したような気がしたレブは、相手の優し気であるが魂の抜けたような喋り方に混乱する。
黒スーツの男性は、透ける様な肌と血色の薄い唇のせいでまるで幽霊のようだ。
微かな恐怖がレブの顔を曇らせたが、唇を噛みしめた後に声を出す。
「……俺を、選んでくれませんか」
呟いたレブの言葉に、男性の眉が微かに動いた。会話の流れを変えるように、後ろに居た商人が明るい声を出す。
「さ、さあ、旦那。上へご案内しやす」
「どうか……」
「勝手に喋るんじゃない!」
商人はレブを睨みつける。
しかし旦那と呼ばれる男性は片手でそれを制止した。眼鏡の奥にある目を細め、じっとレブのほうへ顔を向けている。
「私はフューネと申します。あなたを幸せにするとは限りませんよ? それでも来たいですか?」
「α、なんでしょ……?」
「ええ、αではありますが」
「なら、俺を自由にしてくれる人だ。どんな場所でも構いませんから」
商人は「こいつ!」と歯をむき出して今にも怒鳴りだしそうだ。それでもレブはフューネの顔をじっと見た。
「レブ、良い名前ですね。本当に、来ますか?」
「旦那?!」
「っ、はい!」
一番驚いていたのはレブだが、瞳いっぱいに彼を映して返事をした。真剣な表情で沈黙していると、商人はフューネに聞き返す。
「行きましょう」
「いえ、この人にします」
「本気でこいつにするんですか?」
「何かの縁かと」
「……そうですかい」
はあと息を吐く商人は若干のあきらめからか無表示になっていた。それから腰にぶら下がった鍵束をはずし、一本の鍵を掴むとレブの首輪にさす。
「ほらよ。この旦那がお前の新しい家族だ」
音を立てあっけなく外れた首輪の跡をレブは指で確かめる。商人に動くようにうながされ、恐る恐るもフューネに近づいた。
「さあ、行きましょう。下に馬車を用意してます」
「ええっと……」
フューネが差し出した手をレブは迷いながら、そっと触れた。彼の青白い肌はひやりと冷たく、しっとりしている。
「まいどあり」
やる気のない商人の声がして、レブはフューネとそのまま手を繋いだ。案内されながら二人は階段を下って、玄関へ移動していく。
手を引かれながら、レブは建物の内部を見渡した。久しぶりに見る屋敷の中はそんなに広くはないが、内装は煌びやかで金の装飾が至る所にみえる。
「手続きをお願いします」
「……へい」
商人が居なくなり、一階奥のテーブルから顔を覗かせた受付らしい人物が睨んできた。目が合ったレブは小さく身体を縮めてフューネの影に隠れる。
「レブ、どうしました? ただの受付ですよ」
「い、威圧感が……」
「彼もαですからね。大丈夫、早く済ませます」
肩を撫でられたレブは少し落ち着いたのか、一度頷くとじっとしていた。その間に受付の人物がテーブルに用紙を持ってきて、フューネが手際よくサインしていく。
「さあ、終わりましたよ。あの馬車へ」
「う、うん……!!」
横に立っていたレブが入口を向くと、玄関の外はまだ雨が降っていた。灰色の雲に覆われた空の下で、一つ真っ黒な車体の馬車がとまっているのが見える。
「っ、凄い! 雨が降ってる!!」
「ふふ、そんなに上を見てたら濡れてしまいますよ」
「なんだか全部が光ってるみたい……あ、行かないとですね」
そうして手をつないだ二人は、ザアザア降りの道を速足で進んで黒い馬車へ乗り込んでいった。
数を減らすΩたちが様々な理由で集められ、国によって管理されている。ほとんどはαと番うため高額取引されているわりに、館で暮らす彼ら自身の生活は貧相だった。
その建物は労働者が行きかう大通り沿いにあって、灰色をした屋敷の入口には”Ω販売中”の看板が年中出ている。
……
ある雨の日
小さな部屋で暮らす20代の青年──レブの話。
鉄の首輪をつけられ、短く切られた金髪はボサボサのまま
成人にしてはサイズの合っていない大きな上着を身につけている。
部屋の家具はベッドとトイレのみで、それを囲う壁は何年も使い古されているのか黒く、ベッドシーツは染みだらけだった。
「ほら、飯だぞ」
扉についたのぞき窓があいて、そこから液体の入った器が差し出される。
さび付いているせいか、のぞき窓が耳障りな音を出す。
「……」
レブはベッドを下りて、腕を伸ばし器を取った。そのまま少しだけ液体を唇につけると顔を歪ませる。
「水より不味い……」
液体を一気に飲み干すと、空になった器を元の位置へ戻す。
「雨の街ってどんな感じだろ。はあ、どんな店があるんだろうな」
ベッドに腰かけ、雨音を追うように部屋の上部にある喚起口に視線を移した。
「早く買ってもらわないと」
……
ぼーっと横になって時間を過ごしていると、夕方頃やけに外が騒がしくなった。
「ん……?」
そっと扉に近づいて耳を近づける。
扉の向こうでは慌ただしく階段を上る足音と、見張り役の話声がした。
「おいおい、とんでもねぇ上客が来たぞ! 今受付にいる旦那、大袋に金貨をどっさりだ」
「なんだと? 今は品薄だってのに……あっ、旦那!!」
話していた声がパッと明るくなったと思うと、後から革靴の音が響いた。
「っ!」
その足音が扉の前で止まったので、レブも慌ててベッドへ戻る。
「こちらの部屋にも?」
扉の向こうから優し気な男性の声がした。レブはベッドシーツを握りしめる。
「ええっと、一応いますけどここに居るのは成人してまして……しかも生意気な奴なんです。上の階に10代がいるんでそちらを先に見てみては……」
向こうから別の声が聞こえたとき、レブは咄嗟に「嫌だ」と呟いた。するとまるで返事をするように、扉越しの穏やかな声が答える。
「構いません。見せてください」
「えっと……?」
「どんな人かだけでも」
数秒後、ガチャリと扉の施錠が外れて向こうから差した光にレブは目を細めた。
「初めまして」
その先にいた男性の挨拶がはっきり聞こえた。後ろであたふたする商人と見比べると190㎝以上ある長身で、丸眼鏡と黒いスーツを着ている。
「……」
「声を聞かせてくれませんか? お名前は?」
「──レブ、です」
久しぶりに声を出したような気がしたレブは、相手の優し気であるが魂の抜けたような喋り方に混乱する。
黒スーツの男性は、透ける様な肌と血色の薄い唇のせいでまるで幽霊のようだ。
微かな恐怖がレブの顔を曇らせたが、唇を噛みしめた後に声を出す。
「……俺を、選んでくれませんか」
呟いたレブの言葉に、男性の眉が微かに動いた。会話の流れを変えるように、後ろに居た商人が明るい声を出す。
「さ、さあ、旦那。上へご案内しやす」
「どうか……」
「勝手に喋るんじゃない!」
商人はレブを睨みつける。
しかし旦那と呼ばれる男性は片手でそれを制止した。眼鏡の奥にある目を細め、じっとレブのほうへ顔を向けている。
「私はフューネと申します。あなたを幸せにするとは限りませんよ? それでも来たいですか?」
「α、なんでしょ……?」
「ええ、αではありますが」
「なら、俺を自由にしてくれる人だ。どんな場所でも構いませんから」
商人は「こいつ!」と歯をむき出して今にも怒鳴りだしそうだ。それでもレブはフューネの顔をじっと見た。
「レブ、良い名前ですね。本当に、来ますか?」
「旦那?!」
「っ、はい!」
一番驚いていたのはレブだが、瞳いっぱいに彼を映して返事をした。真剣な表情で沈黙していると、商人はフューネに聞き返す。
「行きましょう」
「いえ、この人にします」
「本気でこいつにするんですか?」
「何かの縁かと」
「……そうですかい」
はあと息を吐く商人は若干のあきらめからか無表示になっていた。それから腰にぶら下がった鍵束をはずし、一本の鍵を掴むとレブの首輪にさす。
「ほらよ。この旦那がお前の新しい家族だ」
音を立てあっけなく外れた首輪の跡をレブは指で確かめる。商人に動くようにうながされ、恐る恐るもフューネに近づいた。
「さあ、行きましょう。下に馬車を用意してます」
「ええっと……」
フューネが差し出した手をレブは迷いながら、そっと触れた。彼の青白い肌はひやりと冷たく、しっとりしている。
「まいどあり」
やる気のない商人の声がして、レブはフューネとそのまま手を繋いだ。案内されながら二人は階段を下って、玄関へ移動していく。
手を引かれながら、レブは建物の内部を見渡した。久しぶりに見る屋敷の中はそんなに広くはないが、内装は煌びやかで金の装飾が至る所にみえる。
「手続きをお願いします」
「……へい」
商人が居なくなり、一階奥のテーブルから顔を覗かせた受付らしい人物が睨んできた。目が合ったレブは小さく身体を縮めてフューネの影に隠れる。
「レブ、どうしました? ただの受付ですよ」
「い、威圧感が……」
「彼もαですからね。大丈夫、早く済ませます」
肩を撫でられたレブは少し落ち着いたのか、一度頷くとじっとしていた。その間に受付の人物がテーブルに用紙を持ってきて、フューネが手際よくサインしていく。
「さあ、終わりましたよ。あの馬車へ」
「う、うん……!!」
横に立っていたレブが入口を向くと、玄関の外はまだ雨が降っていた。灰色の雲に覆われた空の下で、一つ真っ黒な車体の馬車がとまっているのが見える。
「っ、凄い! 雨が降ってる!!」
「ふふ、そんなに上を見てたら濡れてしまいますよ」
「なんだか全部が光ってるみたい……あ、行かないとですね」
そうして手をつないだ二人は、ザアザア降りの道を速足で進んで黒い馬車へ乗り込んでいった。
2
あなたにおすすめの小説
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!
木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。
この話は小説家になろうにも投稿しています。
虐げられた令息の第二の人生はスローライフ
りまり
BL
僕の生まれたこの世界は魔法があり魔物が出没する。
僕は由緒正しい公爵家に生まれながらも魔法の才能はなく剣術も全くダメで頭も下から数えたほうがいい方だと思う。
だから僕は家族にも公爵家の使用人にも馬鹿にされ食事もまともにもらえない。
救いだったのは僕を不憫に思った王妃様が僕を殿下の従者に指名してくれたことで、少しはまともな食事ができるようになった事だ。
お家に帰る事なくお城にいていいと言うので僕は頑張ってみたいです。
娼館で死んだΩですが、竜帝の溺愛皇妃やってます
めがねあざらし
BL
死に場所は、薄暗い娼館の片隅だった。奪われ、弄ばれ、捨てられた運命の果て。けれど目覚めたのは、まだ“すべてが起きる前”の過去だった。
王国の檻に囚われながらも、静かに抗い続けた日々。その中で出会った“彼”が、冷え切った運命に、初めて温もりを灯す。
運命を塗り替えるために歩み始めた、険しくも孤独な道の先。そこで待っていたのは、金の瞳を持つ竜帝——
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
溺愛、独占、そしてトラヴィスの宮廷に渦巻く陰謀と政敵たち。死に戻ったΩは、今度こそ自分自身を救うため、皇妃として“未来”を手繰り寄せる。
愛され、試され、それでも生き抜くために——第二章、ここに開幕。
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない
子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」
家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。
無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。
しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。
5年後、雪の夜。彼と再会する。
「もう離さない」
再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。
彼は温かい手のひらを持つ人だった。
身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる