愛想笑いの吸血鬼

いち

文字の大きさ
7 / 17

ポワソン (4/4)

しおりを挟む
 ……

 キッチンからさほど離れていない部屋に、大きなテーブルが置かれた大部屋があった。

 そこはリビングらしき場所で、フューネが運んでいるトレイには、焼いたパンと野菜スープ、サラダ、ラズベリーのデザートが乗っている。

 それに見とれるレブのお腹がまた鳴って、彼は顔を赤くした。

「はっ、またごめんなさい!」
「ふふ。ワインを持ってきましょう。先に腰かけて、召し上がっててください」

 木のダイニングテーブルにトレイを置き、フューネは闇の中へ行ってしまう。レブは先に椅子に座ると目の前に置かれた食事をじっと観察した。

 リビングも寝室同様、いくつかのロウソク台とフューネが暖炉をつけてくれたため明るい。

 揺れる火に照らされているスープは、レブの瞳にキラキラ光って映った。

「食べ物って、綺麗な色……」

 ぼーっと見とれている間に、フューネが戻ってきて、二つのグラスをテーブルに置くと持ってきたワインを注ぐ。

「さあ、冷めないうちにどうぞ」
「……いただきます!」

 待っていたレブを察してフューネが首を傾ける。レブは片手にパン、片手にスプーンを握り交互に口に運んでいった。

「ワインもどうぞ。お水もありますからね」
「ありがとう……!」

 レブの隣に腰かけたフューネは、片方のグラスをレブのトレイに寄せ、もう一つに口をつけた。

 それを見たレブが一旦手を止める。

「フューネはお酒は飲むんですね?」
「飲めないわけじゃないですね。味はしませんが気は紛れるので口に入れるようにしてます」
「そっか」

 レブを見ながらグラスを傾けるフューネの唇は、ワインに濡れて怪しく光っている。

「ああ、レブはお酒大丈夫でしたか? とりあえず注いでしまいましたが」
「えっと、実は初めて飲む……パンもあったかいスープも、久しぶりだし」
「血が薄いわけですねぇ」

 フューネはワイングラスを暖炉の火にかざし、ふうと息を吐く。

「血の味に影響するので、これからはしっかり食べましょうね」
「だけど、毎回こんなにいいものを食べるのは慣れてなくて」
「そのうち慣れますよ。餌の食事を作るのは私の仕事です」

 レブは、はっと顔を横に向けて眉間にシワを寄せた。

「そうだ。フューネにとって俺は餌なんですよね……」
「ですよ」

 少し間をおいて、パンをちいさくかじりながらレブは続ける。

「……ここには、俺が来る前にどのくらいの人が来たんですか?」

 無表情のままフューネはワインを一口飲むと椅子にもたれ掛かった。

「どれくらいでしょうね。逃げ出す人が多くて数えていないです」
「こんな森の奥で逃げる人居るんだ」
「森をぬける知識があるのか……あっ、ロンドに逃がされたこともありますよ」

 フューネはだらりとくつろいで窓の外に視線を移した。

「──レブも、嫌なら逃げて構わないですから」

「え?」

 フューネの寂しそうな声を聞いたレブは首を傾げる。

「どうして?」

 そんな言葉を呟いたレブを、フューネはクスクス笑った。

「私は嫌がる人間から無理やり血を吸いたくないんです」

「……優しいんですね」

 フューネはくつろいだまま、静かに燃える暖炉の火を眺めている。

 レブはその横で黙々と食べた。



 ……

 テーブルがロウソクに照らされ、広いリビングに浮かび上がっている。
 レブは食事をデザートまで完食して、フューネに勧められるまま二杯目のワインを飲んでいた。

「うー、なんか美味しく感じてきたかも」
「よかったです」

 ニコニコ顔のフューネが咳払いをして、徐々にレブの方に椅子を寄せる。

「さて、もう一度私もいいですかね?」
「……ん」

 酔って赤くなったレブの頬に長い指がつんと触れる。

「……」
「……レブ? 大丈夫ですか?」

 ぼーっとするレブはしばらく動かなかったが、やがて自ら唇をフューネに近づけた。

「俺だって、やれます……」
「レブ??」

 レブは眉間にシワを寄せながらフューネを見つめる。

 身じろぎするレブの奥でロウソクの炎が揺れた。

 握っていたワイングラスをフューネに奪われ、椅子に座っていた身体を軽々と持ち上げられると、レブはテーブルのふちに座る形になった。

「ん、もう。こんなのが良いの?」
「ふふ。私にとって御馳走です」

 ……

 やがて、ふにゃりと脱力したレブが倒れかかるのを、急いでフューネが立ち上がって受け止めた。

「一緒に休みましょう」

 そのまま放心したレブをフューネはぎゅっと抱きしめた。

 リビングにある格子状の窓ガラスの奥、輝く月が二人をぼんやりと照らしている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。 モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。 このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。 「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」 恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。 甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。 全8話。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです ※Rシーンを追加した加筆修正版をムーンライトノベルズに掲載しています。

妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます

こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。

【完結】獣王の番

なの
BL
獣王国の若き王ライオネルは、和平の証として差し出されたΩの少年ユリアンを「番など認めぬ」と冷酷に拒絶する。 虐げられながらも、ユリアンは決してその誇りを失わなかった。 しかし暴走する獣の血を鎮められるのは、そのユリアンただ一人――。 やがて明かされる予言、「真の獣王は唯一の番と結ばれるとき、国を救う」 拒絶から始まった二人の関係は、やがて国を救う愛へと変わっていく。 冷徹な獣王と運命のΩの、拒絶から始まる、運命の溺愛ファンタジー!

愛しい番に愛されたいオメガなボクの奮闘記

天田れおぽん
BL
 ボク、アイリス・ロックハートは愛しい番であるオズワルドと出会った。  だけどオズワルドには初恋の人がいる。  でもボクは負けない。  ボクは愛しいオズワルドの唯一になるため、番のオメガであることに甘えることなく頑張るんだっ! ※「可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない」のオズワルド君の番の物語です。 ※他サイトでも連載中

処理中です...