愛想笑いの吸血鬼

いち

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ヴィアンド (2/5)

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 ……

「えーっと、ホースはここか。前に聞いといてよかった」

 屋敷の裏手にやって来たレブは道具小屋からホースを手に取る。

 広がる畑の植物はどれもまだ背が小さいが、ベリーやジャガイモなどが栽培されていた。

 朝日を浴びて背伸びしたレブは、見つけた水道にホースを繋げて水やりを始める。

「夜にフューネが管理してくれているけど、たまにはね」

 キラキラ光を反射する水しぶきを見ながら、自然と口元を緩ませるレブは畑を周っていった。


「なんか、ゆっくりしてていいな~」

 支柱に巻き付いたミニトマトの所まで来た時、突然向こう側から声がする。

「今日は畑仕事か?」
「わっ?!」
「ちょっ」

 レブの持っていたホースが揺れ、水が跳ねる。

 それを軽く避けて向こうから身体を出したのはロンドだった。彼はトランクケースを抱え、レブに一礼した。

「よお」
「びっくりした。急に声かけないでくださいよ」
「すまん。丁度この周辺に来てたんでな」
「はあ……? フューネは寝てますからね」

 レブは屋敷に向けて呟いた。

「問題ない。君に会いに来たんだ」
「え?」

 ロンドはミニトマトの脇を通ってレブの横までやって来る。

「そんな怪しむような顔するな。君も大変だと思ってな」

 はは、と笑うロンドの顔を、レブは口をつぐんだままうかがう。

「ほら、前に助けてって言ってたろ?」
「……聞こえてたんですね」
「まあな」
「でも、もういいんです。ご飯美味しいし、俺はここで暮らしたいって思ってるんで」

 そう言って水やりを続けるレブの横で、ロンドは真剣な眼差しを見せた。そしてトランクケースから一本のワインを取り出して小さく囁く。

「まあ聞いてくれ。これに銀が混ぜられてある」

 驚いたレブがロンドの持っているワインに視線を移す。

 ワインはコルクが刺さった新品で、ボトルに詰められた赤黒い液体がレブの顔を反射している。

「……っ、それが何ですか」
「この品は誰かに頼まれた訳じゃない」
「……?」

 ロンドが続けて話す。

「君も知ってるな? 吸血鬼は銀に弱い。まあ、奴にとっちゃ飲んだ後数時間、動けなくなるだけだが」

「……フューネはあなたがここに来た人を逃がしたって」

「満月の夜が奴の吸血日ってのは前から知ってる。吸血される前にこれを飲ませれば、君も襲われずに済むってわけだ」

「だけど、別にそれだけだし。そもそも飲まないですよそんなの」
「いや、奴は君が注げば飲むと思う。変に優しいからな」
「なっ……」
「このまま化け物と一緒に暮らすってのか?」

 話していたレブはホースを握りしめた。

「フューネは化け物じゃないです!」
「落ち着け、また夜にここで待ってるから」
「……」

 駆けだしたレブは水道の蛇口を締める。その背中にロンドが声をかけた。

「一緒に街へ出よう」
「……」
「君の言う通り、何人か逃がしてんだ。ちゃんとあてもある。Ωだって構いやしない」

 レブはそのまま立ち止まっている。

「奴は、何も事件を起こさねぇんで野放しのままだ。恐らくこれからも。わざわざ金で餌を買いやがってさ」

「……」

「しかし、いつ気が変わるか分からん。俺は仮にもハンターだ。君が自由に生きていける世界まで連れてってやるさ」

 ロンドはレブに近づくと、家族を案じるような温かい顔をした。

「選ぶことはできるから」

 レブの頭を軽く撫でた後、肩をぽんぽんと軽く触る。

 そしてもう片方の手でレブの胸にワインボトルを渡した。

「だから持っていてくれ」

 レブの手にワインを握らせ、ロンドは森の中へ消えていく。同時に吹いた風が森を抜け、ざわざわと揺れた。

 両手でボトルを抱えたレブの額には、日差しが強いわけでもないのに汗が落ちていった。

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