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グランパス辺境伯夫婦
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「これから婦人議会は大きく変わるわ。これまでのような日々が送れるなんて思わないことね!」
久しぶりに会った妹ロッティはフンと鼻を鳴らし、そう言って去っていった。
急に実家に現れて支援しろと迫った非常識な女を友人に嫁がせたことを、心底後悔した。
大体そんな事を言える立場か? 派手な男遊びばかりして、嫁ぎ先に処女でないことがバレないために詐欺のようなことをしたくせに。
妻であるペチュニアは深い溜め息を漏らし、最後の紅茶を飲みほした。
「息災なようでなによりね」
「『災』でしかないがな」
ロッティは兄の俺から見ても美しい女だ。
その美貌は幼少期から目立っており、その上愛嬌があった。
不仲な両親も彼女が生まれてからは笑顔が増え家族の関係も穏やかなものになった。
しかし彼女の魅力が世間の知るところとなると、自分が他人から好かれることに気づいたロッティはそれをふんだんに使うようになった。
ことにそれを異性に対して惜しみなく発揮した。
男の望む言葉と態度で擦り寄って、篭絡していった。
そうしていくうちに彼女は相手のいる男性を選ぶことを好むようになった。「○○よりも君はこれだけ素晴らしい」と、自分よりも下の人間がいる事、そしてそんな人間よりも自分が選ばれている優越感に浸るようになった。まるで麻薬に依存するように。
俺は顎をしゃくりながら思案する。
「しかしおかしなことを言い出したな。婦人議会にいつ興味を持ったんだ、アイツ」
「殿方と遊ぶ方が好きですものね」
「ああ。問題はあったが嫁ぎ先と子供は産んで妻としての義務は果たしたから、これからは自由にやるものだと思っていたが」
先述した通り、妹は同性を見下している。
そんなアイツが婦人議会に興味を持つどころか、あまつさえそこに支援をしろとここにきて頼むとは思わなかった。
「今の婦人議会は変わりつつあるもの。新しく人気を集めていらっしゃる方がいますので」
「……ああ。スリ夫人か」
コロンバイン・スリ夫人。
波乱万丈な半生の後、男爵家の使用人となり公子の婚約者の母親という地位を得た女性。
こう言った言い方をすると悪いが、彼女らはお涙ちょうだいの悲劇のヒロインのような過去を持っている。
コロンバイン夫人は子爵家の生まれであったが、そこの家が没落していた。
横暴な婚約者に孕まされるも認知してもらえず、平民として母娘共に着の身着のまま投げ出された。
職を転々とした後、新興貴族のモール男爵家に使用人として住み込みで働くことになる。
そこでは前時代の奴隷当然の扱いを受け、男爵家の娘は特にコロンバイン夫人の娘であるチェルシー嬢を虐げた。同年代ということで自分の側にいる彼女に酷い行いをしたという。
男爵令嬢の補助として王立の学園に入学した際にもその苛めは続いており、面倒な勉強や掃除活動は全て彼女に代行させた。
そんな時に、チェルシー嬢はギルバート公子と出会った。
チェルシー嬢の不幸な身の上を知ったギルバート公子は彼の出来る限りの支援を彼女に行った。卒業をすればそれなりに地位のある仕事につかせ、モール男爵家から救い出そうとした。
だが男爵令嬢はそれを快く思わなかった。
彼女はギルバート公子の婚約者であるブリジット・ジブリール公爵令嬢に告げ口にした。
……ここから先は憶測や噂が多く信憑性も薄いが、男爵令嬢はブリジット嬢と共にチェルシー嬢に手酷い嫌がらせをしたそうだ。
その事実に気づいたギルバート公子がブリジット嬢を婚約破棄、モール男爵家を罰して現在にいたっている。
「一度爵位を捨てたとはいえ、彼女は子爵家の令嬢です。それに加えて没落と不幸な妊娠、そして雇われ先で娘共々虐げられて来た。こんな過去を聞けば、味方をしたくなるのが誰でも味方をしたくなるでしょう」
「そうだな」
「不幸、というのは強さでもあるのです。男性から見た女性の臀部や胸部、整った顔のように、人を惹きつけるのです。あまりに露骨だと嫌われるのも同じですわよね」
して、とペチュニアは続ける。
「コロンバイン夫人はこれをよくご存じでいらっしゃる。伊達に波乱万丈な人生を歩んでいらっしゃらないわ。『どん底を味わい、それでも希望を捨てずに立ち上がった母親』という心象を皆に与えました。発言もハキハキとしていらっしゃいますので、その堂々たる姿に惹きつけられる人間は多くいます。サーペン夫人もそれに惹かれたのでしょうね」
「だが……まだ信じられんよ。男にしか興味のないアイツが女の下につくなど……相手のいる男に色目を使い、『味見』をしては同性を嘲笑っていた性悪だぞ」
「そうすることでしか誇りを持てなかったのではないのですか?『男』という財産を他の女から奪うことでしか、彼女は自分を満たせなかったのでしょう。そういった虚無な人間は、声の大きな人間に惹かれるものです。翅が燃えようとも灯りに飛び掛かる蛾のように」
流石ペチュニアはよく人間を見ている。俺が惹かれた通りの女だ。
ならば俺らに出来る事は、その火の粉を避けることだ。
久しぶりに会った妹ロッティはフンと鼻を鳴らし、そう言って去っていった。
急に実家に現れて支援しろと迫った非常識な女を友人に嫁がせたことを、心底後悔した。
大体そんな事を言える立場か? 派手な男遊びばかりして、嫁ぎ先に処女でないことがバレないために詐欺のようなことをしたくせに。
妻であるペチュニアは深い溜め息を漏らし、最後の紅茶を飲みほした。
「息災なようでなによりね」
「『災』でしかないがな」
ロッティは兄の俺から見ても美しい女だ。
その美貌は幼少期から目立っており、その上愛嬌があった。
不仲な両親も彼女が生まれてからは笑顔が増え家族の関係も穏やかなものになった。
しかし彼女の魅力が世間の知るところとなると、自分が他人から好かれることに気づいたロッティはそれをふんだんに使うようになった。
ことにそれを異性に対して惜しみなく発揮した。
男の望む言葉と態度で擦り寄って、篭絡していった。
そうしていくうちに彼女は相手のいる男性を選ぶことを好むようになった。「○○よりも君はこれだけ素晴らしい」と、自分よりも下の人間がいる事、そしてそんな人間よりも自分が選ばれている優越感に浸るようになった。まるで麻薬に依存するように。
俺は顎をしゃくりながら思案する。
「しかしおかしなことを言い出したな。婦人議会にいつ興味を持ったんだ、アイツ」
「殿方と遊ぶ方が好きですものね」
「ああ。問題はあったが嫁ぎ先と子供は産んで妻としての義務は果たしたから、これからは自由にやるものだと思っていたが」
先述した通り、妹は同性を見下している。
そんなアイツが婦人議会に興味を持つどころか、あまつさえそこに支援をしろとここにきて頼むとは思わなかった。
「今の婦人議会は変わりつつあるもの。新しく人気を集めていらっしゃる方がいますので」
「……ああ。スリ夫人か」
コロンバイン・スリ夫人。
波乱万丈な半生の後、男爵家の使用人となり公子の婚約者の母親という地位を得た女性。
こう言った言い方をすると悪いが、彼女らはお涙ちょうだいの悲劇のヒロインのような過去を持っている。
コロンバイン夫人は子爵家の生まれであったが、そこの家が没落していた。
横暴な婚約者に孕まされるも認知してもらえず、平民として母娘共に着の身着のまま投げ出された。
職を転々とした後、新興貴族のモール男爵家に使用人として住み込みで働くことになる。
そこでは前時代の奴隷当然の扱いを受け、男爵家の娘は特にコロンバイン夫人の娘であるチェルシー嬢を虐げた。同年代ということで自分の側にいる彼女に酷い行いをしたという。
男爵令嬢の補助として王立の学園に入学した際にもその苛めは続いており、面倒な勉強や掃除活動は全て彼女に代行させた。
そんな時に、チェルシー嬢はギルバート公子と出会った。
チェルシー嬢の不幸な身の上を知ったギルバート公子は彼の出来る限りの支援を彼女に行った。卒業をすればそれなりに地位のある仕事につかせ、モール男爵家から救い出そうとした。
だが男爵令嬢はそれを快く思わなかった。
彼女はギルバート公子の婚約者であるブリジット・ジブリール公爵令嬢に告げ口にした。
……ここから先は憶測や噂が多く信憑性も薄いが、男爵令嬢はブリジット嬢と共にチェルシー嬢に手酷い嫌がらせをしたそうだ。
その事実に気づいたギルバート公子がブリジット嬢を婚約破棄、モール男爵家を罰して現在にいたっている。
「一度爵位を捨てたとはいえ、彼女は子爵家の令嬢です。それに加えて没落と不幸な妊娠、そして雇われ先で娘共々虐げられて来た。こんな過去を聞けば、味方をしたくなるのが誰でも味方をしたくなるでしょう」
「そうだな」
「不幸、というのは強さでもあるのです。男性から見た女性の臀部や胸部、整った顔のように、人を惹きつけるのです。あまりに露骨だと嫌われるのも同じですわよね」
して、とペチュニアは続ける。
「コロンバイン夫人はこれをよくご存じでいらっしゃる。伊達に波乱万丈な人生を歩んでいらっしゃらないわ。『どん底を味わい、それでも希望を捨てずに立ち上がった母親』という心象を皆に与えました。発言もハキハキとしていらっしゃいますので、その堂々たる姿に惹きつけられる人間は多くいます。サーペン夫人もそれに惹かれたのでしょうね」
「だが……まだ信じられんよ。男にしか興味のないアイツが女の下につくなど……相手のいる男に色目を使い、『味見』をしては同性を嘲笑っていた性悪だぞ」
「そうすることでしか誇りを持てなかったのではないのですか?『男』という財産を他の女から奪うことでしか、彼女は自分を満たせなかったのでしょう。そういった虚無な人間は、声の大きな人間に惹かれるものです。翅が燃えようとも灯りに飛び掛かる蛾のように」
流石ペチュニアはよく人間を見ている。俺が惹かれた通りの女だ。
ならば俺らに出来る事は、その火の粉を避けることだ。
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