6 / 25
ミラン子爵夫人
次期公子妃の為の妃教育。
相手は変われど、私のすることは変わらない。
今日はマナーの勉強であるが、彼女は全てをこなしていっている。
時折躓いてはいたが、素質と聞き分けがよいお陰で妃教育は順調に進んでいた。
「……まだ緊張されているようですが、上々です。明日も励んでいきましょう」
「ありがとうございました。先生。よろしくお願い致します」
チェルシー様はそう言ってカーテシーを披露する。
その仕草については、指摘をするまでもなく完璧な礼だ。
彼女と別れた私は次の授業のカリキュラムを考えていた。
マナーを応用するために、パーティーでの立ち振る舞いを教えた方がいいかもしれない。
勉学や美術などの知識面に関しては不安はない。
なので彼女が苦手とする社交についての教育が相応しいだろう。
「はあ……」
チェルシー様は優秀な生徒だ。
しかしそれ故に私の胸の内は複雑だった。
いっそ全てにおいて不得手で、できないできないと駄々をこねる我儘な娘であったらどれほどいいか……などと思ってしまう自分が恥ずかしい。
ブリジット・ジブリール公爵令嬢。
彼女は全てにおいて完璧だった。
容姿だけではない。立ち振る舞いも、知性も、相手を慮れる慈悲深さも。
この方が妃となられたのであれば、この公国の平和は間違いないだろうと思えた。
しかし今はどうだ。
今まさに、公国派は――
「ご機嫌よう、ミラン夫人」
そんな事を思いながら回廊と歩いていると、侍女長が声を掛ける。
彼女は侍女長のフリーゲ夫人だ。
大公陛下と同じく王国への嫌悪を隠そうともせず、王国からいらしたローズマリー正妃のみならず、ブリジット嬢に対してもいい感情をむけていなかった。
流石に表立ってそれを口にすることはなかったが、フリーゲ夫人の高揚した上機嫌な様子から彼女が婚約破棄を喜んでいることは手に取るようにわかる。
「フリーゲ夫人……ご機嫌よう」
「これからお帰りになられるの? もしお時間が合ったら、少し休憩しませんこと? 私もちょうど今からブランチでして」
ただの食事ではないことはわかっていた。
私もただで時間をくれてやるつもりはない。こちらも彼女の腹を探ることにしよう。
「ええ、お誘いいただきありがとうございます。いただきますわ」
ブランチの内容は、思った以上に私の思い通りの内容だった。
彼女曰く、婦人議会に興味はないかといった。
女性の社会進出については我が国も取り組んでいた議題である。それに大公陛下としては王国に先んじたい気持ちもあったのだろう。
議会に所属していない私は知らなかったが、現在その中で頭角を現しているのはチェルシー様のお母上であるコロンバイン夫人である。フリーゲ夫人はその彼女の熱心な信奉者であるようで、目を輝かせて彼女の力になるように訴えていた。
私は話を保留し、その場を後にした。
「……彼女に限って、ないとは思うけど」
公子妃になった娘を使って権力を得ようだなんて、そんなはずないわよね? ただ、タイミングが良すぎただけよね?
相手は変われど、私のすることは変わらない。
今日はマナーの勉強であるが、彼女は全てをこなしていっている。
時折躓いてはいたが、素質と聞き分けがよいお陰で妃教育は順調に進んでいた。
「……まだ緊張されているようですが、上々です。明日も励んでいきましょう」
「ありがとうございました。先生。よろしくお願い致します」
チェルシー様はそう言ってカーテシーを披露する。
その仕草については、指摘をするまでもなく完璧な礼だ。
彼女と別れた私は次の授業のカリキュラムを考えていた。
マナーを応用するために、パーティーでの立ち振る舞いを教えた方がいいかもしれない。
勉学や美術などの知識面に関しては不安はない。
なので彼女が苦手とする社交についての教育が相応しいだろう。
「はあ……」
チェルシー様は優秀な生徒だ。
しかしそれ故に私の胸の内は複雑だった。
いっそ全てにおいて不得手で、できないできないと駄々をこねる我儘な娘であったらどれほどいいか……などと思ってしまう自分が恥ずかしい。
ブリジット・ジブリール公爵令嬢。
彼女は全てにおいて完璧だった。
容姿だけではない。立ち振る舞いも、知性も、相手を慮れる慈悲深さも。
この方が妃となられたのであれば、この公国の平和は間違いないだろうと思えた。
しかし今はどうだ。
今まさに、公国派は――
「ご機嫌よう、ミラン夫人」
そんな事を思いながら回廊と歩いていると、侍女長が声を掛ける。
彼女は侍女長のフリーゲ夫人だ。
大公陛下と同じく王国への嫌悪を隠そうともせず、王国からいらしたローズマリー正妃のみならず、ブリジット嬢に対してもいい感情をむけていなかった。
流石に表立ってそれを口にすることはなかったが、フリーゲ夫人の高揚した上機嫌な様子から彼女が婚約破棄を喜んでいることは手に取るようにわかる。
「フリーゲ夫人……ご機嫌よう」
「これからお帰りになられるの? もしお時間が合ったら、少し休憩しませんこと? 私もちょうど今からブランチでして」
ただの食事ではないことはわかっていた。
私もただで時間をくれてやるつもりはない。こちらも彼女の腹を探ることにしよう。
「ええ、お誘いいただきありがとうございます。いただきますわ」
ブランチの内容は、思った以上に私の思い通りの内容だった。
彼女曰く、婦人議会に興味はないかといった。
女性の社会進出については我が国も取り組んでいた議題である。それに大公陛下としては王国に先んじたい気持ちもあったのだろう。
議会に所属していない私は知らなかったが、現在その中で頭角を現しているのはチェルシー様のお母上であるコロンバイン夫人である。フリーゲ夫人はその彼女の熱心な信奉者であるようで、目を輝かせて彼女の力になるように訴えていた。
私は話を保留し、その場を後にした。
「……彼女に限って、ないとは思うけど」
公子妃になった娘を使って権力を得ようだなんて、そんなはずないわよね? ただ、タイミングが良すぎただけよね?
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
婚約破棄された傷心令嬢です。
あんど もあ
ファンタジー
王立学園に在学するコレットは、友人のマデリーヌが退学になった事を知る。マデリーヌは、コレットと親しくしつつコレットの婚約者のフランツを狙っていたのだが……。そして今、フランツの横にはカタリナが。
したたかでたくましいコレットの話。
透明な貴方
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。
私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。
ククルス公爵家の一人娘。
父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。
複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。
(カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)
嘘はあなたから教わりました
菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。
真実の愛を証明せよ
柊
ファンタジー
サンティア王国第一王女アウレリアは、公爵令息レオナールとの十年に及ぶ婚約を解消し、伯爵家の令息エルヴィンとの「真実の愛」を貫くと宣言する。茶会でそう告げられたレオナールは、二人の言葉を信じる代わりに、その愛を『目に見える形で証明してほしい』と求める。
彼が差し出したのは……。
※他サイトにも投稿しています。
甘そうな話は甘くない
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」
言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。
「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」
「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」
先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。
彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。
だけど顔は普通。
10人に1人くらいは見かける顔である。
そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。
前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。
そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。
「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」
彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。
(漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう)
この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。
カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。