何もかも全て諦めてしまったラスボス予定の悪役令息は、死に場所を探していた傭兵に居場所を与えてしまった件について

桜塚あお華

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第27話※

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 クリスの手がハイデンの腰紐を外す音が、ひどく大きく聞こえてしまった。冷たい空気が太腿を撫でてくる感覚に、彼の身体がぴくりと震える。

「やっぱ……やっぱり、ちょっと待っ――」

 言いかけた瞬間、クリスの顔面が目の前にあって、そのまま唇が落ちる。
 深く、塞ぐように、逃げ場を奪うようにしながら舌が絡めとってくる。

「んっ……!」

 熱い――クリスの舌も、呼吸も、肌も、全部が熱い。
 その間に、彼の指がぬるりと入り込んでくる。
 冷たい何かを塗り広げながら、躊躇なく、けれど丁寧にハイデンの内側を探っていく。

「くっ、あ……っ、そんな……とこ、いきなり……!」
「力抜け……後々痛くなるぞ?」
「い、言われなくても……うっ、ぁ……!」

 ぐ、と奥をなぞられた瞬間、体が跳ねた。
 そこに触れられたことなんてないはずなのに身体が勝手に反応してしまう。

「うん、ここだな……呪詛が、奥に固まってる」
「う、そだ……っ、なに、その、わかんない理屈で……!」

 言葉とは裏腹に、ハイデンの足が震えて開いていく。その変化に気づいたのか、クリスは小さく笑った。

「いい子だ……ハイデンには悪いが強引にいくから、我慢してろよ」
「え、ご、ごうい……や、やっぱ無理!無理だってば!!お、おま――」

 抗議の声は、すぐに、喉の奥で詰まった。
 押し広げられ、そこにクリスの熱が押し当てられる。硬く、熱く、ずっしりとしたそれが、少しずつ確実に、内側へと侵入してきた。

「――っっあ、く……ぁ、あっ、あ……!!」
「……頑張れ、もうちょっとで、全部入る」

 腰を支えながら、クリスが囁く。
 声は低く、呼吸は乱れていて、それだけで熱が上がる。

「くっ……お前、顔、赤い……っ、あつ……!」
「……黙ってろ。こっちだって必死なんだ」

 奥まで押し込まれた瞬間、ハイデンの視界が白くなる。
 中を押し広げられ、呪詛とはまた違う熱が身体の芯に火を灯しているのがわかる。
 今まで感じた事のない【存在】に支配されそうになっているハイデンはどうしたらいいのかわからなくなっていった。

「う、そ……っ、こんなの、で……あっ、あ……!」
「もう、抜かない……俺が、全部、お前の中から呪詛を引きずり出す」
「っ……あ、クリス、待って……そんな、動かしたら……!」
「……我慢しろ……今、お前の身体の奥にいるのは、俺だ」

 ゆっくりと、でも確実に――クリスの腰が動き始める。
 ハイデンの中でクリスの熱が深くまで入り込むたび、彼の体はまるで呪詛に抗うように痙攣し反応を返した。

 強引に押し入ってくるのに、手はちゃんと支えてくれて。
 無理やりのようでいて、ちゃんと痛みを逃すようにキスをくれる。
 そんなクリスの優しさと荒々しさがハイデンの奥をかき乱していく。

「っ……く、ぅ……あ、っ……!お前……ずっと、動いて」
「我慢しろって言っただろう……お前の中、奥まで熱くて、……すごく、気持ちいい」
「そんなこと言うなっ、バカ……っ」

 下腹に感じる熱が、じわじわと広がっており、初めての快感に、ハイデンは混乱していた。
 気持ちよさと恥ずかしさ、痛みと喜び。全てがないまぜになって、涙が滲む。
 そんな彼の頬を、クリスがそっと指先で拭う。

「痛いか?」
「……そ、そういう時、だけ、優しくするな……っ」

 その一言が胸に刺さる。
 なのに、身体はもう、彼を拒めなくなっていた。

「……っ、あ……ん、そこ……!や、め、っ……そこ、っ、ダメ……!」
「――ここが、呪詛の核だな」

 クリスが、狙いを定めたようにそこを突く。
 ぬるり、と奥を抉るように揺さぶられた瞬間、ハイデンの背中が跳ねた。

「あっ……や、ぁあ、あっ……!!」
「耐えろ、ハイデン……今、取り出すから……!」

 荒い息遣いとともに、クリスの腰が深く突き上げる。
 膝の内側を押し広げられ、何度も同じ場所を貫かれるたびに、ハイデンの視界は霞み、感覚が白く弾けそうになる。
 苦しいはずなのに、なぜか涙が溢れて止まらなかった。

「なんで……なんで、こんな……っ、優しく、するんだよ……!」
「お前が……死にそうな顔してたからだよ」

 強く、吐き捨てるような声で、クリスが言う。

「俺は、お前がどんな顔してもいいって思ってた。腹がたっていても、泣いても、笑っても……生きてるなら、それでいいって思ってたんだよ!」
「っ、クリス……」

 繋がったまま、抱きしめられる。
 胸に押し当てられた鼓動が、こんなにも激しくて、熱くて。その熱が自分の奥に届いていることを、ハイデンは確かに感じていた。

「もう……お前が、消えるのなんて、絶対に嫌だ」

 クリスの声が震える。
 そして、深く突き立てられた瞬間――

「ああっ……!」

 ハイデンの奥の奥に、熱が満ちた。身体の深くに隠れていた呪詛がまるで引きずり出されるように、何かが弾け飛ぶ感覚とともに、すうっと消えていく。
 視界が白く染まり、全身がしびれるような快感とともに、ハイデンは絶頂に達し――呪詛は、完全に、消えた。

   ▼ ▼ ▼

 古いベッドに、まだ二人は横たわっていた。
 肌と肌の間に、薄い布一枚だけであり、互いの体温はまだはっきりと感じられる。
 どちらも、言葉を発しない。
 夜が深くなるほど、静けさだけが濃くなっていく。

 まるで先ほどの行為が嘘だったかのように、ハイデンはぼんやりと天井を見上げていた。
 体の奥に張りついていた呪詛は、もうない。代わりに、胸の真ん中にぽっかりと何かが残されている感覚。

「……気持ち悪くなってないか」

 ぽつりと、隣から聞こえた声。
 クリスの声は、少し掠れていた。

「……大丈夫だ……多分」

 答えながら、ハイデンはその横顔をそっと見た。
 目を閉じている――けれど、眉間には深い皺。いつもの勝気な顔とは違って苦しそうだった。
 沈黙が、また戻ってくる。
 ふと、クリスが何かを思い出したかのように、ハイデンに声をかける。
 
「……お前が、呪詛に触れた時……お前が、あの女にやられた時……俺は何も考えられなくなった」

 ぽつ、ぽつとこぼされる声は、まるで独り言のようだった。

「こんな事で死ぬようなやつじゃないって……頭じゃわかってたのに、胸の中ぐちゃぐちゃだった。ああ、もうダメだって……ハイデンが目の前で死ぬって思ってしまった」

 ハイデンは、ただ黙って聞いていた。

「怖かったんだ……俺の手が届かないところに、お前が行くのが」

 クリスが、ベッドの天井を見上げたまま拳をきつく握った。
 その手が、微かに震えている。

「……呪詛がどうとか、儀式がどうとか、そんなの正直どうでもよかった……とにかく、お前に触ってなきゃ、壊れそうだったんだよ、俺の方が」
「クリス……」
「多分、お前が死んだら、周りの人間殺してた」
「……死ななくてよかった」

 きっと、大惨事になっていたに違いないと思ったハイデンは青ざめた顔をしながら呟いた。
 するとクリスは、突然ハイデンの手を握ってくる。

「……なあ、ハイデン」
「……うん」
「このまま何も言わなくてもいいから……今夜だけは、お前を離したくない」

 その声は、やけに低くて、脆かい。まるでガラス細工のように。
 普段の彼からは想像もつかないほど、甘えているような声だった。
 ハイデンは、小さく息を吐いて、クリスの胸に額を預けた。
 腕がまわされる。強く、でもどこか不安げに、しがみつくように抱きしめられる。
 言葉にできない想いが、二人の間に、静かに降り積もっていく。

 それはまるで――呪いの残滓が消えた後に残された、クリスの重い感情だったのかもしれない。
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