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第35話 リリア視点
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――こんなはずじゃなかった。
木製の椅子に浅く腰掛け、リリアは身じろぎもせずに窓の外を見つめていた。
王都の夜明け前――蒼さを残した空に、一筋の風が通り過ぎる。けれどその風に触れても、彼女の胸のうちの濁りは晴れなかった。
あの日、あの屋敷での出来事。
呪詛をかけ、計画通りに【ハイデン】を動かすつもりだった――彼をラスボスに据え物語を進めるはずだった。
けれど、目の前で崩れ落ちたのは【ラスボス】などではなく、ただの一人の人間だった。
そしてその傍らには、彼を抱きしめながら命懸けで守る【隠しキャラである男】がいた。
どうしてその男がハイデンの傍にいるのか、わからない。その姿を見て、そしてその存在にリリアの世界はあっさりと打ち砕かれた。
(……なんで。どうして、こんなことに)
世界が、確かにズレ始めている――彼女は選択肢通りに動いた。笑顔も、台詞も、全て【正解】を選んできたはずだった。
それなのに、カミルは追ってこなかった。振り返らずに屋敷から駆け出したのリリスの背を呼び止める声はなかった。
気づけば彼は、街へと戻っていた。
それ以降、彼の姿を目にしても、彼はこちらを見なかった。まるで最初から何もなかったかのように――彼の世界からリリアの存在だけが切り離されたようだった。
他の攻略者の二人も同じだった。
以前のように話しかけてくることもなくなり、教室や廊下ですれ違っても、どこか遠巻きな目で見るだけ。
軽く会釈をしても、彼らの視線はすぐに逸れる。
まるで、腫れ物でも見るように、彼女に触れてはいけないというルールでもできたかのように。
それは、じわじわと心を蝕む無音の拒絶だった。
あんなに努力して築いてきた好感度も、笑顔も、選択肢も――何の意味もなかったかのように、彼らはリリアを避けていた。
そしてハイデンは――彼女の舞台に、乗ってはくれなかった。彼こそが、この物語を動かす鍵だったはずなのに。
彼をラスボスに据える事で、リリアはヒロインとして完成するはずだったのに。その全てが彼の【拒絶】と共に崩れ落ちた。
「……ヒロインは……私なのに……」
吐息のような声が漏れる。
誰かに抗議するようでいて、しかしそれは誰にも届かない言葉。
部屋には誰もいない。カミルの姿も、彼女の名を呼んでくれる声もどこにもなかった。
まるで、一人になってしまったかのように。
【正解】ばかりを選び続けたその果てに、リリアは誰の心にも残っていなかった。
彼女の物語だけが、役割を果たせぬまま、取り残された感じになったかのように。
(どうして……私だけが、間違ってるみたいになるの……)
震える指先が、窓の縁をぎゅっと掴む。涙が出てきても彼女は拭おうとしなかった。
泣いてしまえば、本当に【舞台】から落ちてしまうような気がして。
それでもまだ、彼女は自分が【主人公】だと信じたかった。
「……私がいなきゃ、この物語は終わらないのに」
その呟きも、やはり誰にも届かない。
返事も、答えもない世界の中で、ただ朝が静かに近づいていく。
遠くに街が目覚め始める音が、微かに響いていた。
窓の向こう、遥かな森が見えている。まさかその奥にハイデンが眠りについているだなんて、リリアは知らない。
そもそもハイデンが眠りについてしまったと言うのは、ゲームのシナリオにはないのだから。
世界が、歪んでいる。
「どうして……私だけ、幸せになれないの?」
リリアは静かに呟きながら、窓の外を眺める。そしてその声は、風に溶けるように消えていく。
選択肢も、笑顔も、努力も――すべて正解だったはずなのに。それなのに、彼らは誰も彼女を見てくれなかった。
――世界はまっすぐに、歪んでいった。
木製の椅子に浅く腰掛け、リリアは身じろぎもせずに窓の外を見つめていた。
王都の夜明け前――蒼さを残した空に、一筋の風が通り過ぎる。けれどその風に触れても、彼女の胸のうちの濁りは晴れなかった。
あの日、あの屋敷での出来事。
呪詛をかけ、計画通りに【ハイデン】を動かすつもりだった――彼をラスボスに据え物語を進めるはずだった。
けれど、目の前で崩れ落ちたのは【ラスボス】などではなく、ただの一人の人間だった。
そしてその傍らには、彼を抱きしめながら命懸けで守る【隠しキャラである男】がいた。
どうしてその男がハイデンの傍にいるのか、わからない。その姿を見て、そしてその存在にリリアの世界はあっさりと打ち砕かれた。
(……なんで。どうして、こんなことに)
世界が、確かにズレ始めている――彼女は選択肢通りに動いた。笑顔も、台詞も、全て【正解】を選んできたはずだった。
それなのに、カミルは追ってこなかった。振り返らずに屋敷から駆け出したのリリスの背を呼び止める声はなかった。
気づけば彼は、街へと戻っていた。
それ以降、彼の姿を目にしても、彼はこちらを見なかった。まるで最初から何もなかったかのように――彼の世界からリリアの存在だけが切り離されたようだった。
他の攻略者の二人も同じだった。
以前のように話しかけてくることもなくなり、教室や廊下ですれ違っても、どこか遠巻きな目で見るだけ。
軽く会釈をしても、彼らの視線はすぐに逸れる。
まるで、腫れ物でも見るように、彼女に触れてはいけないというルールでもできたかのように。
それは、じわじわと心を蝕む無音の拒絶だった。
あんなに努力して築いてきた好感度も、笑顔も、選択肢も――何の意味もなかったかのように、彼らはリリアを避けていた。
そしてハイデンは――彼女の舞台に、乗ってはくれなかった。彼こそが、この物語を動かす鍵だったはずなのに。
彼をラスボスに据える事で、リリアはヒロインとして完成するはずだったのに。その全てが彼の【拒絶】と共に崩れ落ちた。
「……ヒロインは……私なのに……」
吐息のような声が漏れる。
誰かに抗議するようでいて、しかしそれは誰にも届かない言葉。
部屋には誰もいない。カミルの姿も、彼女の名を呼んでくれる声もどこにもなかった。
まるで、一人になってしまったかのように。
【正解】ばかりを選び続けたその果てに、リリアは誰の心にも残っていなかった。
彼女の物語だけが、役割を果たせぬまま、取り残された感じになったかのように。
(どうして……私だけが、間違ってるみたいになるの……)
震える指先が、窓の縁をぎゅっと掴む。涙が出てきても彼女は拭おうとしなかった。
泣いてしまえば、本当に【舞台】から落ちてしまうような気がして。
それでもまだ、彼女は自分が【主人公】だと信じたかった。
「……私がいなきゃ、この物語は終わらないのに」
その呟きも、やはり誰にも届かない。
返事も、答えもない世界の中で、ただ朝が静かに近づいていく。
遠くに街が目覚め始める音が、微かに響いていた。
窓の向こう、遥かな森が見えている。まさかその奥にハイデンが眠りについているだなんて、リリアは知らない。
そもそもハイデンが眠りについてしまったと言うのは、ゲームのシナリオにはないのだから。
世界が、歪んでいる。
「どうして……私だけ、幸せになれないの?」
リリアは静かに呟きながら、窓の外を眺める。そしてその声は、風に溶けるように消えていく。
選択肢も、笑顔も、努力も――すべて正解だったはずなのに。それなのに、彼らは誰も彼女を見てくれなかった。
――世界はまっすぐに、歪んでいった。
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