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王太子アルバート回想
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二年ほど前、前第三騎士団長オーウェンが
町で一人の令嬢を拾ってきた。
その彼女には帝国の隷属の腕輪を嵌められ
ていると信じがたい情報があがってきた。
しかも、エリザベートの宮に入れる存在だと
判明する。
反対する父王を説得し、侍女として王宮に
囲うことにした。
オーウェンから彼女が裏表のない性格だと
聞いてはいたが、腕輪がどう作用するか分か
らない。アルフォンスに彼女の監視と
もしもの時の処分を命じた。
ところがエリザベートやアイリス、アルマ
だけでなく監視を命じたアルフォンスまでが
子リスちゃんといって可愛いがり始めた。
どうしたものかと思っていた矢先。
アニエスが『穴』に落ちて王都郊外に
転移する事件が起きる。
そして、グレンがアニエスに一目惚れした。
あのグレンがだ。
強力な魔力を持つ男は魔力を持つ貴族女性
から敬遠される。
側に寄ったり体に触れたりすれば気を失う程
の嫌悪感が走るのだそうだ。
魔力が強い男の子供は女性の魔力が同じ
ぐらい高いか余程の相性の良さがなければ
育たない。
女性側の本能が忌避させるのだろう。
そのため魔力の高い男は公の場では魔力
封じの腕輪をしている。
今の王家は幸い他の国の王族から魔力の
高い女性を娶り子を成していたが、
グレンの父である王兄は魔力の相性が
良かったのか国内の伯爵家の令嬢と
恋に落ちて結婚した。
それが不幸の始まりだった。
グレンを授かったものの胎内の我が子の
魔力に怯えたグレンの母は錯乱した。
何とか出産したものの生まれたグレンに
怯え、化け物扱いした。
父親も愛する妻の余りの怯えように
グレンを遠ざけた。
グレンは王家に引き取られ俺たちと一緒
に育てられた。俺にとっては従兄弟であり
友でもあるがどちらかと言えば弟だ。
何としても幸せになって欲しい。
そのグレンはアニエスと出会ってから
すぐに好きな女ができたからと
婚約を解消したいと言い出した。
そう、グレンには公爵家の令嬢プリシラと
いう婚約者がいた。
「えっ!やっと婚約解消してくれるの?」
プリシラは大喜びした。
前々から解消して欲しいと訴えていたのだ。
決してグレンと仲が悪い訳ではない。
幼い頃からの婚約でむしろ仲が良かった。
だから、グレンも解消に消極的だったのだ。
だが、プリシラは魔力の相性的に自分では
グレンの相手は無理だと言っていた。
「それで相手はどこの、生贄…いえ、
えーと。どこのご令嬢なのかしら?」
コイツ今、生贄って言ったな。
プリシラはこういう奴だ。
「名はアニエス。伯爵家の養家に縁を
切られて今は平民。
元は北の辺境の子爵家令嬢だ」
「子爵家で今は平民。ということは、
余り魔力がないのね。そう、グレンは子供
を持たない選択をしたのね」
プリシラはそう言うと辛そうな顔をした。
魔力を持たない女なら、男の魔力を怖がら
ないで受け入れる場合が多いからだ。
だが、子供は授からないことがほとんどだ。
「いや、それがそうではないらしい。
彼女には帝国の隷属の腕輪がつけられて
いる。魔力封じと意志を封じるものだ。
かなり強力なものでアルフォンスでも
外すのに手こずっている。
なのに彼女は魔力こそ封じられているが
意思にはまったく障りがない。
高い魔力を持っている可能性が高い」
「帝国!隷属の腕輪ってそれ大丈夫なの?」
「それに関してプリシラに頼みがある。
グレンと婚約解消後、申し訳ないが
北の辺境伯に嫁いで欲しい」
「政略結婚ね。どういった事情なの?」
事情を聞かれ。思わず言葉に詰まる。
余りに馬鹿らしい理由だからだ。
だか、実に切実な問題だった。
「北の辺境の男どもが馬鹿だからだ」
「はい?もう一度言ってみてくれる?」
聞き返したくなる気持ちは良く分かる。
実は今回の問題は北の辺境の男達……。
代替わりしたばかりの辺境伯とアニエスの
父親、兄達、いや地域ぐるみで馬鹿だった
から引き起こされた問題だ。
代替わりする前の辺境伯も馬鹿だった
可能性もあるな。ことはアニエスが生まれ
たばかりの頃に遡る。
このことを告発してきたのはアニエスの
元の婚約者だったドルツ侯爵家嫡男である
ロベルトだった。
「彼女は僕が触れていい女性では
ありません。彼女は黒竜の血の契約者です。
父は帝国と繋がっています。アニエスを
帝国に売るつもりです」
── 血の契約者。猛毒のドラゴンの
生き血を飲んで生き残った者。
高い魔力を持ちドラゴンを従える者。
ロベルトはいきなり伝説のようなことを
言い出した。
確かに古い記録にある。
かつてこの国に狂王あり。
王はその血を求めて白竜を捕らえて閉じ込めた
そしてその血を大勢の民に飲ませて死なせた。
怒った民は王を捕らえて八つ裂きにした。
そんな記載があるにはあるが。
余りに古い記録ゆえにただの伝説だと
思っていた。
北に人を遣って調べさせた。
元々は帝国でドラゴン狩りが行われ、
手負いの黒竜が北の辺境の森に逃げ込んだ
事から始まる。
アニエスの父親の友である騎士が
黒竜を捕らえようと言い出した。
手負いの竜なら簡単だと皆の制止を振り
切り仲間を募り黒竜を襲った。
だが、手負いの竜は強く皆殺しにされた。
ただ一人を除いて。
黒竜の血を浴びたアニエスの父親の友。
猛毒の黒竜の血を浴び、口や傷口から入った
毒に悶え苦しみながらも男は、すぐに死なな
かった。
男はアニエスの父親が加勢しなかったから
こんな事になったと逆恨みした。
そして、復讐のために友が目の中に入れて
も痛くないほど、可愛いがっていた
生まれたばかりのアニエスに……
黒竜の血で穢れた自分の血を飲ませた。
そしてそのまま死んだ。
男の血で薄まったのが、幸いしたのか
アニエスは三月程苦しみ抜いたが
一命をとりとめた。
高い魔力を持った彼女は無事にすくすく
と成長した。
アニエスの家族、北の辺境の騎士達は
そんな不幸にあったアニエスをとても
可愛いがった。
本来なら黒竜の事、アニエスの血の契約。
彼女の魔力の高さ。
全て国に報告すべきものを彼女可愛いさに
隠蔽した。それも地域ぐるみで。
魔力の高い女性は貴重だ。
国で召し上げる。
十二の歳に全ての子供は魔力測定と属性
を調べる。アニエスはそれを受けていない。
それが帝国の付け入る隙を与えた。
ドルツ侯爵が視察と称して北にいたのは
帝国の手の者と接触するためだ。
北には帝国の間諜が随分入り込んでいた。
侯爵とロベルトが魔物の氾濫に巻き込まれたのは偶然だ。
助けに入ったアニエスにロベルトが一目惚れ
したのも偶然。
だが、侯爵は息子の初恋を利用した。
婚約に持ち込み、アニエスの叔母をそその
かして薬を盛って隷属の腕輪を嵌めた。
アニエスの家族も辺境の騎士達もそれに
気付かずアニエスの恋を応援。
泣く泣くだが、彼女の幸せを祈って王都に
送り出した。
代替わりした若い辺境伯はさすがにそれは
不味いと一度王都にアニエスの様子を
見に来ている。
だが、侯爵家でロベルトと仲睦まじく過ごす
アニエスを見て彼女が幸せならと
何も言わずに辺境へ帰った。
とんだお人好しだ。
「馬鹿なの?北の辺境は黒い森を挟んで
帝国に接しているのに。大丈夫なのそれ」
プリシラは小鼻を広げて怒る。
年頃の娘がその顔はやめろ。
「大丈夫ではないな。ロベルトの機転で
アニエスを保護できたが帝国が
どう彼女を使うつもりだったのかも
分からない。戦力としても大きいし王族の
子も産める胎だ。世嗣ぎを産ませるつもり
だったのかも」
「ちょっと待ってよ。王族の子が産める
ってそれ、魔力検査を受けていれば
国に召し上げられていたわよね。王族の
婚約者で子供を産めないのは、グレン相手
の私だけなんだから、その時に分かって
いればグレンの相手は
彼女になっていたんじゃない?」
「そう、なるね」
「何それ!許せない。私達、無駄に苦しま
なくても済んだのに。グレンはそれが分か
って彼女に恋したの?」
「……いや、木にぶら下がっていた彼女の
足が綺麗で一目惚れしたらしい」
「は?足……いやだ。何か生々しいわね。
幼馴染みの変な性癖を知っちゃった感じ」
「性癖言うなよ。何にしてもグレンの恋だ」
「そ、そうよね。私、応援するわ。
それで私はそのお馬鹿さん達の面倒を
見るわけね。
国境の重要地、防衛の要がそれじゃ
不味いもの。でも、私だけじゃ荷が重いわ」
「オーウェンの次男、三男をつけるよ」
「王家の影ね。いいわ。私が北を立て直す」
プリシラは
鼻息荒く北の辺境へ嫁いで行った。
町で一人の令嬢を拾ってきた。
その彼女には帝国の隷属の腕輪を嵌められ
ていると信じがたい情報があがってきた。
しかも、エリザベートの宮に入れる存在だと
判明する。
反対する父王を説得し、侍女として王宮に
囲うことにした。
オーウェンから彼女が裏表のない性格だと
聞いてはいたが、腕輪がどう作用するか分か
らない。アルフォンスに彼女の監視と
もしもの時の処分を命じた。
ところがエリザベートやアイリス、アルマ
だけでなく監視を命じたアルフォンスまでが
子リスちゃんといって可愛いがり始めた。
どうしたものかと思っていた矢先。
アニエスが『穴』に落ちて王都郊外に
転移する事件が起きる。
そして、グレンがアニエスに一目惚れした。
あのグレンがだ。
強力な魔力を持つ男は魔力を持つ貴族女性
から敬遠される。
側に寄ったり体に触れたりすれば気を失う程
の嫌悪感が走るのだそうだ。
魔力が強い男の子供は女性の魔力が同じ
ぐらい高いか余程の相性の良さがなければ
育たない。
女性側の本能が忌避させるのだろう。
そのため魔力の高い男は公の場では魔力
封じの腕輪をしている。
今の王家は幸い他の国の王族から魔力の
高い女性を娶り子を成していたが、
グレンの父である王兄は魔力の相性が
良かったのか国内の伯爵家の令嬢と
恋に落ちて結婚した。
それが不幸の始まりだった。
グレンを授かったものの胎内の我が子の
魔力に怯えたグレンの母は錯乱した。
何とか出産したものの生まれたグレンに
怯え、化け物扱いした。
父親も愛する妻の余りの怯えように
グレンを遠ざけた。
グレンは王家に引き取られ俺たちと一緒
に育てられた。俺にとっては従兄弟であり
友でもあるがどちらかと言えば弟だ。
何としても幸せになって欲しい。
そのグレンはアニエスと出会ってから
すぐに好きな女ができたからと
婚約を解消したいと言い出した。
そう、グレンには公爵家の令嬢プリシラと
いう婚約者がいた。
「えっ!やっと婚約解消してくれるの?」
プリシラは大喜びした。
前々から解消して欲しいと訴えていたのだ。
決してグレンと仲が悪い訳ではない。
幼い頃からの婚約でむしろ仲が良かった。
だから、グレンも解消に消極的だったのだ。
だが、プリシラは魔力の相性的に自分では
グレンの相手は無理だと言っていた。
「それで相手はどこの、生贄…いえ、
えーと。どこのご令嬢なのかしら?」
コイツ今、生贄って言ったな。
プリシラはこういう奴だ。
「名はアニエス。伯爵家の養家に縁を
切られて今は平民。
元は北の辺境の子爵家令嬢だ」
「子爵家で今は平民。ということは、
余り魔力がないのね。そう、グレンは子供
を持たない選択をしたのね」
プリシラはそう言うと辛そうな顔をした。
魔力を持たない女なら、男の魔力を怖がら
ないで受け入れる場合が多いからだ。
だが、子供は授からないことがほとんどだ。
「いや、それがそうではないらしい。
彼女には帝国の隷属の腕輪がつけられて
いる。魔力封じと意志を封じるものだ。
かなり強力なものでアルフォンスでも
外すのに手こずっている。
なのに彼女は魔力こそ封じられているが
意思にはまったく障りがない。
高い魔力を持っている可能性が高い」
「帝国!隷属の腕輪ってそれ大丈夫なの?」
「それに関してプリシラに頼みがある。
グレンと婚約解消後、申し訳ないが
北の辺境伯に嫁いで欲しい」
「政略結婚ね。どういった事情なの?」
事情を聞かれ。思わず言葉に詰まる。
余りに馬鹿らしい理由だからだ。
だか、実に切実な問題だった。
「北の辺境の男どもが馬鹿だからだ」
「はい?もう一度言ってみてくれる?」
聞き返したくなる気持ちは良く分かる。
実は今回の問題は北の辺境の男達……。
代替わりしたばかりの辺境伯とアニエスの
父親、兄達、いや地域ぐるみで馬鹿だった
から引き起こされた問題だ。
代替わりする前の辺境伯も馬鹿だった
可能性もあるな。ことはアニエスが生まれ
たばかりの頃に遡る。
このことを告発してきたのはアニエスの
元の婚約者だったドルツ侯爵家嫡男である
ロベルトだった。
「彼女は僕が触れていい女性では
ありません。彼女は黒竜の血の契約者です。
父は帝国と繋がっています。アニエスを
帝国に売るつもりです」
── 血の契約者。猛毒のドラゴンの
生き血を飲んで生き残った者。
高い魔力を持ちドラゴンを従える者。
ロベルトはいきなり伝説のようなことを
言い出した。
確かに古い記録にある。
かつてこの国に狂王あり。
王はその血を求めて白竜を捕らえて閉じ込めた
そしてその血を大勢の民に飲ませて死なせた。
怒った民は王を捕らえて八つ裂きにした。
そんな記載があるにはあるが。
余りに古い記録ゆえにただの伝説だと
思っていた。
北に人を遣って調べさせた。
元々は帝国でドラゴン狩りが行われ、
手負いの黒竜が北の辺境の森に逃げ込んだ
事から始まる。
アニエスの父親の友である騎士が
黒竜を捕らえようと言い出した。
手負いの竜なら簡単だと皆の制止を振り
切り仲間を募り黒竜を襲った。
だが、手負いの竜は強く皆殺しにされた。
ただ一人を除いて。
黒竜の血を浴びたアニエスの父親の友。
猛毒の黒竜の血を浴び、口や傷口から入った
毒に悶え苦しみながらも男は、すぐに死なな
かった。
男はアニエスの父親が加勢しなかったから
こんな事になったと逆恨みした。
そして、復讐のために友が目の中に入れて
も痛くないほど、可愛いがっていた
生まれたばかりのアニエスに……
黒竜の血で穢れた自分の血を飲ませた。
そしてそのまま死んだ。
男の血で薄まったのが、幸いしたのか
アニエスは三月程苦しみ抜いたが
一命をとりとめた。
高い魔力を持った彼女は無事にすくすく
と成長した。
アニエスの家族、北の辺境の騎士達は
そんな不幸にあったアニエスをとても
可愛いがった。
本来なら黒竜の事、アニエスの血の契約。
彼女の魔力の高さ。
全て国に報告すべきものを彼女可愛いさに
隠蔽した。それも地域ぐるみで。
魔力の高い女性は貴重だ。
国で召し上げる。
十二の歳に全ての子供は魔力測定と属性
を調べる。アニエスはそれを受けていない。
それが帝国の付け入る隙を与えた。
ドルツ侯爵が視察と称して北にいたのは
帝国の手の者と接触するためだ。
北には帝国の間諜が随分入り込んでいた。
侯爵とロベルトが魔物の氾濫に巻き込まれたのは偶然だ。
助けに入ったアニエスにロベルトが一目惚れ
したのも偶然。
だが、侯爵は息子の初恋を利用した。
婚約に持ち込み、アニエスの叔母をそその
かして薬を盛って隷属の腕輪を嵌めた。
アニエスの家族も辺境の騎士達もそれに
気付かずアニエスの恋を応援。
泣く泣くだが、彼女の幸せを祈って王都に
送り出した。
代替わりした若い辺境伯はさすがにそれは
不味いと一度王都にアニエスの様子を
見に来ている。
だが、侯爵家でロベルトと仲睦まじく過ごす
アニエスを見て彼女が幸せならと
何も言わずに辺境へ帰った。
とんだお人好しだ。
「馬鹿なの?北の辺境は黒い森を挟んで
帝国に接しているのに。大丈夫なのそれ」
プリシラは小鼻を広げて怒る。
年頃の娘がその顔はやめろ。
「大丈夫ではないな。ロベルトの機転で
アニエスを保護できたが帝国が
どう彼女を使うつもりだったのかも
分からない。戦力としても大きいし王族の
子も産める胎だ。世嗣ぎを産ませるつもり
だったのかも」
「ちょっと待ってよ。王族の子が産める
ってそれ、魔力検査を受けていれば
国に召し上げられていたわよね。王族の
婚約者で子供を産めないのは、グレン相手
の私だけなんだから、その時に分かって
いればグレンの相手は
彼女になっていたんじゃない?」
「そう、なるね」
「何それ!許せない。私達、無駄に苦しま
なくても済んだのに。グレンはそれが分か
って彼女に恋したの?」
「……いや、木にぶら下がっていた彼女の
足が綺麗で一目惚れしたらしい」
「は?足……いやだ。何か生々しいわね。
幼馴染みの変な性癖を知っちゃった感じ」
「性癖言うなよ。何にしてもグレンの恋だ」
「そ、そうよね。私、応援するわ。
それで私はそのお馬鹿さん達の面倒を
見るわけね。
国境の重要地、防衛の要がそれじゃ
不味いもの。でも、私だけじゃ荷が重いわ」
「オーウェンの次男、三男をつけるよ」
「王家の影ね。いいわ。私が北を立て直す」
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