王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

文字の大きさ
21 / 135

帝国の影

しおりを挟む
あの日、腰が抜けて歩けない私をグレン様が
抱いたまま王宮に帰ってきてから、
色々な方から生暖かい視線を感じるのは
何故でしょう?

「ア~ニエスぅ。ふふふ。今日は髪を下ろ
しましょうね。可愛いリボンがあるのよ。
サイドに編み込んで素敵にしてあげる」

アルマさんがとてもニヤついたお顔で櫛
とリボンをもってやって来る。
えっ?下ろすんですか。髪、仕事中は邪魔
な気がするのですが。

「あら、髪を下ろして隠しちゃうの?
それより虫避けにチラチラ見えるように
スカーフで部分隠しの方がよくない?」

アイリスさんがスカーフを持ってやって
来る。いやスカーフも邪魔な気がしますが。
お仕着せの制服だと浮きませんか?

「虫避けね!さすがアイリスお姉さま。
ところで黒い虫以外にいるのかしら?」

「チャコールグレーのがいるらしいわ。
お茶に誘ったらしいのよ。シフォンケーキと
チョコレートソースを餌に。
命知らずね。黒い虫に殺されたいのかしら」

「まあ、今頃川に浮いてるかも……」

「……ちょっと本当に心配になってきたわ」

「……まさかね」

「あら、それより黒い虫がオーウェンに
火炙りにされる方が先じゃない?」

姫様、だんだん服装がラフになってます。
今日は、シャツのボタンを上から三つ外し
てますけど。色っぽい!

なんかこの間、カタリナさんの立派なお胸
を見てから、やたら人様の胸元が気になり
ます。そして、とりあえず自分と比べて
へこみます。

「オーウェン様ね。……生きているといい
ですね黒い虫。こんなに虫刺されを作った
ら殺されても文句は言えないのでは?」

アルマさん。さっきから虫の話題が多い
ですね。

「そうよね」

「本当に」

ああ、ほらきた生暖かい視線×三名分。
なんか居心地悪いのでお使いに行って来ま
すね。




※※※※※※※※※




「アニエス嬢、どちらまで?」

声をかけられたので振り向くとチャコール
グレーの髪の騎士様が立っている。
うん。マクドネル卿でした。

「こんにちはマクドネル卿。お茶にはいつ
行きますか?」

シフォンケーキ早く食べに行きたいです。
チョコレートソースが楽しみです。

「ははは……ああ、あれ。店の住所と地図を
グレン様に取ら…いや、お渡ししたので……
そうですね。落ち着いたら。是非、グレン様
とデートをしてきて下さい」

「落ち着いたら?それにグレン様とですか?
あの方がシフォンケーキを食べているところ
なんて、想像がつかないのですが、私と一緒
に行ってくれますかね?」

シフォンケーキに舌鼓を打つ魔王。
うん。想像がつかない。

「大丈夫ですよ。あなたとならホイホイ、
どこへでも喜んで付いて行きますとも。
ところで、素敵なスカーフですね。見せて
頂いてもよろしいですか?」

素敵?素敵って言った?
良かった。お仕着せに合わせても変じゃない
んだ。さすがアイリスさん。趣味がいい。

「アイリスさんが選んで巻いてくれたん
です。なんか虫刺されが首の後ろにあるみた
いで……マクドネル卿?」

ああ、またきた。生暖かい視線×一名分。

「……また本人の見えづらい所にだけ付ける
とは、あの人らしいなぁ。
仲直りできたようで何よりです」

ポリポリと額を掻きながら苦笑する。
マクドネル卿も虫刺されですか?

「ところでお急ぎですか?」

「それほど急ぎの用向きではありません。
何かご用がありますか?」

「実はアイリス様に急ぎの用がありまして。
取り次いで頂きたいのです。できたら今日
中に会いたいのです。
少し事情が変わりまして、どうしても会い
たいので力を貸してもらえませんか?」

「会うかどうかはアイリスさん次第ですが
聞くだけ聞いてみますね。私かアルマさんが
同席しますがよろしいですか?」

「はい。助かります。第三騎士団でお待ち
しています。もし、無理なら連絡だけでも
下さい。今日は一日、第三に詰めてます」

「第三ですか?第二じゃなくて」

マクドネル卿は、対魔物交戦部隊である
第二騎士団の副団長様だ。市中警護の第三
騎士団に一日詰めているのは珍しいな。
なんか不穏な感じ。

それにマクドネル卿から微かに血の臭いが
する。怪我をしてる?それとも……。
何だか皮膚がチリチリする。
こんな感じがする時はロクな事がない。
嫌な予感に急いで王女宮に戻った。



「チャコールグレーの虫が私に用?」

アイリスさんが怪訝な顔になる。
マクドネル卿、
虫扱いされてますけど。
アイリスさんは姫様の側からあまり離れ
たがらないので、嫌なのだろう。

明らかに気乗りしない様子だったが
姫様に説得される形で私と第三騎士団まで
行くことになった。


第三騎士団の受付に顔を出すと、話しが
通っていたようで、直ぐに団長執務室に
通された。

「お呼びだてして申し訳ありません」

執務室にはマクドネル卿の他にも、なんか
凄い人達がいる。

まず、アーサー殿下。
あとは私の義父で前第三騎士団長のオーウ
ェン様。今の第三騎士団長で義理の兄であ
るマルク義兄様。
そして、魔術師団長のアルフォンス様。
皆様、表情が固い。

勧められるまま着席するとすぐに
アーサー殿下から話しを切り出される。

「アイリス、しばらく侯爵家に戻ってもら
えないだろうか」

「何故です?以前そのお話しはお断りしま
した。私はカルヴァンの家を継ぐ気はあり
ません。後継は親戚筋からとる事になった
はずです」

いつも涼やかで優しいアイリスさんの
ひどく刺々しい声に驚く。
思わず、アイリスさんの左手に自分の手を
重ねる。大丈夫、一緒にいるよ?

アイリスさんはハッとして私の顔を見ると
体の力を抜いた。

「私は何があっても、絶対に姫様のお側を
離れません」

アイリスさんは毅然と言い切る。

「あなたの姉へのその忠誠心は称賛に値い
しますが、今度だけは信念を曲げて欲しい。
ゴドフリーが負傷した。危篤だ。
頼むから側に……付き添ってやってくれ」

「父が負傷して危篤?まさかあの父が?」

アイリスさんは信じられない様子で微笑み
さえ浮かべている。

「また、そんな見え透いた嘘を……」


「王都の新しくできた『穴』から帝国の
兵団とワイバーンが十体。転移してきて
交戦した。敵は殲滅したが、こちらも
かなりの被害が出た」

「「えっ?!」」

私とアイリスさんの声が重なる。
今、何て言ったの?
『穴』から帝国の兵とワイバーン?

「そんな、まさか!王都に魔物の侵入など。
しかも、帝国の兵団が転移して来た?一体、
どうなっているのです」


「宣戦布告なしの開戦。侵略だ」


アーサー殿下の言葉に私達は言葉を失った。


帝国との戦争はこうして始まった。













しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi
恋愛
 若様がお戻りになる……  イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。  王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。  リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。  次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。  婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。  再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……   * 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました  そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです

私、異世界で獣人になりました!

星宮歌
恋愛
 昔から、人とは違うことを自覚していた。  人としておかしいと思えるほどの身体能力。  視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。  早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。  ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。  『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。  妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。  父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。  どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。 『動きたい、走りたい』  それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。 『外に、出たい……』  病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。  私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。 『助、けて……』  救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。 「ほぎゃあ、おぎゃあっ」  目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。 「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」  聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。  どうやら私は、異世界に転生したらしかった。 以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。 言うなれば、『新片翼シリーズ』です。 それでは、どうぞ!

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

処理中です...