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青い魔法陣の男
しおりを挟むひんやりして気持ちいい。
額に冷たい手の平の感触。
うっすら目を開ける。
心配そうなマックス義兄様と目が合う。
「まだ寝てな。熱があるよ。
魔力枯渇一歩手前だ。話せるかい?
一体何があった?アニエス」
あれ?馬車の中?
小刻みに揺れがくる。
マックス義兄様に膝枕されて私は寝ている。
魔法で頭を冷やしてくれている。
なんだろう?ものすごくホッとする。
あれ?私、どうしたんだっけ。
熱がある?魔力枯渇一歩手前?あ、あ、
……………あ、あいつら!!
かばっと起き上がり眩暈を起こす。
ふらつく体をマックス義兄様が支えて
くれる。
「こら、急に起きたら駄目だろ」
「マックス義兄様、あいつらは?」
「ロイシュタール様か?悠然と去ったよ。
『我々はここにはいない。君達は何も見て
いない。だからなんの問題もない』だと!
何であんな所で君を殺そうとしていたんだ。
相変わらず何をするかわからない人だよ。
本当に……あの人が君に剣を振り下ろすの
を見た時は心臓が止まるかと思ったよ。
防御魔法の魔道具がなきゃ死んでいた。
グレン様に感謝だな」
あ、指輪。左手を見る。
グレン様がくれたお守り。
今は石が割れて……あ、石がない。
割れていたから落ちて失くなったみたい。
今は金の細い指輪だけ。
指輪にそっと口付ける。
グレン様のお守り。
本当に私を守ってくれたんだ。
離れてからの方が思いが募る。
会いたい。
──会いたいよ。グレン様。
この金の指輪。グレン様が舞踏会の夜、
女神像の庭で私の指にそっと嵌めてくれた。
発動しなければそれでいいと言っていた。
ごめんなさい。発動しちゃいました。
グレン様がくれたお守りは私を守って
くれたけれど、
私がグレン様に渡したお守りは……
ただの手巾で本当にただのお守り。
刺繍したのはブレスを吐く竜。
どうかどんな災いも、粉々にして!
そんな思いを込めたのだけれど。
再び、刺繍の竜達に念を送る。
どうか、グレン様を守って。
お願い。
「アニエス、ロイシュタール様が追いかけ
回してごめんって、謝っていたけれど。
一体どうしてこんな事になったんだい?」
マックス義兄様に『穴』に落ちた後の
出来事を全て話す。
「……ロイシュタール様に命を狙われてよく
郊外の森から中央門まで逃げ延びてきたね。
すごいよアニエス」
「魔力枯渇する限界まで必死に逃げたのに
あっさり捕まりましたよ。
何ですか、あいつら!転移魔法を簡単に
使ってました。私だって上手く跳べないで
苦労しているのに……一体何あれ!」
「以前は、使えていなかったと……思う。
でも、あの人は謎が多いからな。
帝国と開戦したうえ、キルバンにまで
おかしな動きがあるなんて……頭が痛い。
友好国でアーサー様の避難先でもあるのに」
「アーサー様はキルバンに?」
「ああ、王族の全滅を避けるための
保険だね。キルバンが怪しいなら不味いな。
でも、エリザベート様似のアーサー様は
ロイシュタール様のお気に入りなはずだ」
「……とりあえず戻って姫様に報告します。
私では、ロイシュタール様の目的も
人となりも分かりませんからね」
「……そうだね。僕も陛下に報告しないと。
とにかく君が無事で良かった。
君が『穴』に落ちた時はどうしようかと
思ったよ。
なんで君は『穴』に落ちるんだろうね?」
なんでと言われましても、ね?
今回のは不可抗力です。
まさか一歩踏み出した先に『穴』が出来て
それに落ちるなんて予測できませんから。
転移した先にあいつらがいた。
しかも怪しい青い魔法陣を展開していた。
ロイシュタール様は『穴』に関係がある?
でも、友好国の王で姫様の婚約者。
市中の『穴』からは帝国兵、ワイバーン、
ゴブリンに火焔熊が転移してきた。
キルバンは帝国と手を結んでいる?
もしそうなら、最悪だ。
──姫様が傷つく結果にならなければ
よいのだけれど……。
「そういえばマックス義兄様はどうして
私の居場所が分かったんですか?」
うん。ものすごく助かったけど、なんで
分かったのだろう。
「ああ、これのお陰だよ」
マックス義兄様が鎖を通してぶら下げた
金の指輪を見せてくれる。
あれ?私の指輪に似てる。
「グレン様の指輪だよ。アニエスの指輪と
対になっていて、追跡魔法で君の居場所を
特定できる。
君が『穴』でどこに飛ばされても助けら
れるように作られたんだ。
出征に際しグレン様が僕に預けていかれた。
何かあった時に僕がすぐに君を見つけら
れるように。ふふ、愛されてるねぇ君」
ああ、そんな物があったのか。
だから、前に白竜にポイ捨てされた時も
すぐに見つけてくれたんだ。
それをマックス義兄様に預けていった。
あ、また涙が。
「……もう少し眠りな。熱が上がってきて
いる。側にいるから」
マックス義兄様は私の頭を撫でると私を
横にする。また膝枕だ。
外套をかけ直してくれる。
ガタガタと馬車の揺れ、疲れた体。
マックス義兄様の体温に安心し、
私はそのまま眠りに落ちた。
……嫌な気配がして目が覚めた。
明かりを絞った照明。薄暗い部屋。
あれ?この天井はザルツコードのお屋敷の
私の部屋だ。なんでここに寝てるの私。
馬車でマックス義兄様と王都に戻ってきた
はずなのに。
夜着に着替えさせられている。
体が猛烈にだるい。
熱が上がっているんだ。
到着したのに私が具合が悪くて王宮に
行けなかったのかな。
だから家に戻ってきたのか。納得。
ホッと息を吐く。
再び眠りにつこうと目を閉じた瞬間。
いきなり口を誰かに手で塞がれる。
驚いて目を開け、振り払おうと両方腕に
力を込めて突っ張る。でも、力が入らない。
あ、魔力枯渇だ。
金色の瞳と目が合う。
青い長い髪、あ、青い魔法陣の男だ。
なんでここにいるの?
じたばたするけれど完全に押さえ込まれて
身動きできない。
男は私に乗り上げ口元に笑みを浮かべる。
「ずいぶん美味しそうに育ったね。すごい
甘い匂いだよ。金のおチビちゃん」
おチビちゃん?育った?
私の事を知っている口振り。
やっぱり知り合い……なの?
「ふふ、ちょっと味見させて」
言うなり男は私に口付けた。
入り込んでくる舌。私の舌に絡み付く。
口腔を犯される。流し込まれる男の
唾液と魔力。
懐かしい……え?
何が懐かしいの!いやだ気持ち悪い!
いやだ!!
グレン様以外の人とキス。
やだ、やだ、やだ!
抵抗するけれどびくともしない。
体をまさぐられる。
やだやめて!なにするの、やだ!!
グレン様、グレン様、助けて!
いやだ!
長く深い口付け。ようやく口が離された。
息を吸い込み。
悲鳴をあげようとするが恐怖で声がでない。
ぼろぼろと涙だけが流れる。
首筋、胸元と男は口付け舐めまわす。
どうして、こんな事になっているの?
怖いよ。
怖い。
夜着を何かで切り裂かれる。
痛い。
夜着と一緒に胸元を大きく切られた。
ガタガタと震えながら男を見上げる。
男の爪が鋭く長い刃物のようになっている。
……爪で切り裂かれた?
金色の瞳が私を見下ろす。
うっとりとした表情で微笑む。
ぞくぞくする。
コイツ人じゃない。魔物?
胸を揉みながら
ピチャ、ピチャと胸元の傷から流れる
私の血を舐める男……ふと、動きが止まる。
「覚醒しないな?死にかけても、
犯られかけてもだめか……。
前は確かに目覚めたのにな。
それにどうして、もう他の雄の物なんだ?
婚姻済み。しかも相手はクロじゃない。
どこの雄だ。
こんな事ならクロに遠慮しなきゃよかった」
は?……クロ?……婚姻済み?
他の雄って何?覚醒って何?
大体、コイツなんなの?
震えながら必死で考える。
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コイツは長い青い髪に金の瞳。
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あ、思い出した。
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アオとアカ。
「せ、青竜?」
「ふふ、正解だよ。おチビちゃん。
嫁に出来なくても喰らうのはありか?
お前、物凄く美味しい。さて……」
私の上で首を傾け艶然と微笑む青竜。
私はただ震えながら
見上げるしかなかった。
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