王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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アニエス、ピンクとの遭遇

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「それでモニカ・グラガンには逃げられた訳
だな。父親は獄中で不審死か。キナ臭いな」

湯浴みして新しい軍服に着替えたグレン様。
お館様からの報告を受ける。

砦に敵が侵入したのはモニカの仕業だった。
砦の門番がモニカの信奉者で帝国兵を
王都からの極秘の増援部隊と言われ、
信じて通したらしい。お馬鹿さん!

……ああ、大丈夫なの砦の守り。
でもモニカは変に押しの強い子だからなぁ。
自分の都合の良い方向に話しを持っていく
のが上手い。
あの子から嫌われている私は結構、ひどい
目に遇わされたっけ。

「砦の混乱に乗じて逃げたようです。あれは
転移魔法も使えますから……。
申し訳ありません。私の元婚約者が、間諜。
しかも、帝国と休戦したとの偽情報もあれ
が流したものでした。
領民の命を危険に晒すなどお詫びのしよう
がありません。
如何様な処分もお受けします」

頭を下げるお館様。
モニカとは幼い頃からの婚約者。
仲睦まじいと思っていたけれど、違った。
王命で婚約解消になったのが、
きっかけかと思ったら、かなり前から
こちらの情報を流していたみたい。
父親が間諜だったからかな。
でも、その父親も死んだし、彼女は何
を考えて行動しているのだろう。

「モニカ・グラガンに関してはこちらも
帝国の間諜と知っていて泳がせていた。
お前だけの責ではない。
それより砦の中に易々と敵を引き入れた
事の方が問題だろう。
簡単に騙され過ぎだ。
マックス、悪いが面倒をみてやってくれ」

「……また、ですか。もう辺境人の教育は
熊、三匹だけで懲り懲りなんですけどね」

「ま、そう言うな。マリオン、マークにも
手伝わせろ。プリシラも頼む」

「そうねぇ。どこまで意識が向上するかは
分からないけれど努力はするわ」

「さて、残るは……アルフォンス。あれは
どうすればいい?」

グレン様は窓の外に視線を移す。
窓の外の景色一面、ピンク色。
うねうね、にょろにょろ。
ピイちゃん達の群れだ。

今回の攻撃で沢山の魔物を食べた
ピイちゃん達。大増殖しました。
もう、この数は収納できません。
今回も魔物相手に大活躍しました。
火炙りの刑は可哀想。
最初の子達も焼かないで生かしてあげれば
良かった。

この子達は魔物は襲うけれど人は襲わない。
魔物が去った今はただピイ、ピイうるさい
だけの花の群れだ。


「実はすごい存在だと思うけど。何匹か
研究のために貰うよ。
魔物だけに反応し、自己増殖する。
改良によっては防衛結界の代わりにも
なり得ると思う。
今は番犬代わりにとりあえずこのまま放置
でいいよ。害はない。むしろ砦や、国軍の
陣営の護りにもなるだろう。
鳴き声の騒音に関しては俺が防音結界を
張るよ。アニエス、後で俺と引っ込め方を
練習しよう。
本当に君は面白いなぁ」

ピイちゃん達の首の皮が繋がりました。
てっきり焼却処分になるかと思いました。
良かった。
うーん。なんで出したのに引っ込められ
ないんだろう。
まあ、まだ練習もしていないから
今後に期待しよう。

私がグレン様の失踪現場に行くために
父様やラケット将軍、アルフォンス様、
小規模とはいえ、軍勢を組織して黒い森の
手前まで派兵した。
その隙を狙い砦に奇襲をかけられた。

私が『穴』に飛び込み消えた後、伝令鳥で
砦への奇襲攻撃を知り、急ぎ戻ったとの事。
大事に至らなくて本当に良かった。
ただ砦の兵にかなりの負傷者が出た。
治癒魔法が使える者が総動員され治療に
あたる。

砦の広場に負傷者が集められている。
私は治癒魔法が、得意ではないけれど
止血ぐらいはできるので、助手代わりに
アルフォンス様と治療にあたった。


「……アルフォンス様。なんか怪しい人が
いますけど、あれなんでしょうね?」

負傷者を治療する治癒魔法士の中に
スカーフで頬被りした怪しい動きをする
若い女性がいる。
いや、治療は真面目にしているけれど
アルフォンス様や私の前に来ると挙動不審。
なんだろうあれ?

「あれな?なんだろうな。怪しいにもほどが
あるよな。どうしようか」

やっぱり、アルフォンス様も不審に思って
いました。怪しいもんね。

……もしや、モニカの変装?
あの子も治癒魔法ができたはず。
──怪しい。確かめてみよう。

私はそっと、頬被りの女性の後に立ち、
無言でパッと彼女の被っていたスカーフを
剥がした。悲鳴が上がる。

「や~!何するのよぉ!!」

金髪に赤茶の瞳。嘘でしょう?
両手で今さら顔を隠す彼女。
もう遅い。
もう顔を見ちゃった。
彼女から剥がしたスカーフを握りしめ
呆然とする私。
あ、アルフォンス様も呆然としている。
なんで辺境に彼女がいるの。

「………なんでこんな所にいるのです?
マルクス伯爵令嬢。またアルフォンス様の
追っかけですか?命懸けですね」

残念ピンクことマルクス伯爵令嬢。
ピンクをこよなく愛するアルフォンス様の
追っかけ令嬢。
私はこの人に絡まれて過去二回、『穴』に
落ちている。
大変、縁起の悪いお嬢様だ。
最近姿を見ないのでお嫁にでも行ったかと
思えば、こんな所で遭遇する。

……第二騎士団の制服を来ている。
つまり、今は私と同じ服装。なんか嫌。
でも髪留めがピンクだわ。主張してるなぁ。


「……王太子様に、今は陛下だけれど。
あんたの『穴』落ちの責任をとらされ
たのよ。二度目だから見逃せないって!
私、治癒魔法が使えるから、辺境での
懲罰労働よ。
もう笑いたければ、笑いなさいよ!」

「え?あの後からずっと辺境で労働ですか?
それは罪が重過ぎませんか?
一度目はともかく、二度目は確かに絡まれ
ましたけど別に突き飛ばされた訳でもなく
私が勝手に『穴』に落ちたのに」

そう、バルコニーに大きな『穴』があって
落ちて白竜の所に飛ばされた。
でも、あれのお陰で白竜と話せたし、
グレン様が生贄にならずに済んだ。
まあ、私は死にかけたけれど。

辺境での懲罰労働。
王都の伯爵令嬢が……なんか気の毒。
しかも今の辺境は戦場だ。
お嬢様には辛かろう。

「戦時中だから今すぐには難しいかも知れ
ませんが、私から王都に戻れるように頼ん
でみましょうか?」

すぐに食い付いて来ると思ったけれど
彼女は首を横に振る。

「こんな負傷者が沢山出る状況で王都に
なんて帰れないわよ。
それに私、家を勘当されたから。
もう、平民。もう、辺境で骨を埋めるわ!」

「え?勘当!なんでまた」

「王太子様に直接処罰されたのよ。家の恥。
そりゃ勘当されるわよ。
もう、二度とアルフォンス様にお目にかかれ
ないと諦めていたけれど……。
神様ありがとうございます。また、会えた」

涙ぐむ残念ピンク。
この人本当にアルフォンス様が好きなんだ。
う~ん。頭は残念だけれど。
実はいい子?
でも、報われない恋だなぁ。
アルフォンス様にはアイリスさんがいる。

「あの……実はアルフォンス様には……」

う、言い出し難い。

「他に好きな人がいるんでしょ。知ってる。
アイリス様よね。仕方がないわ。
でも好きなの。遠くで見つめるだけでいい。
少しでも、お話しできたら幸せなの。
アイリス様は王女宮からあまり出て来ない。
アルフォンス様が可哀想。
第二王女様がアイリス様を手放さないのが
悪いのよ!許せない」

あ~。前に姫様の悪口を言ったのは、
そういう理由かぁ。
なんだ。実はいい子だわ。
不器用だなぁ。
うるさく付きまとうからアルフォンス様から
避けられていたものね。
なんか、不憫だ。

「姫様もアルフォンス様とアイリスさんの
ことは気にかけてます。
自分のせいだと気にしてますよ」

「……呪い早く解ければいいのに。解ければ
アルフォンス様が幸せになれるのに……」

──本当にそう。
あれ?バルコニーの『穴』は白竜の所に
繋がっているのかな?
それともやっぱりあの王都郊外の森の木?
青竜はあそこで何をしていたのだろう。
青い魔法陣……ロイシュタール様の目的は
なんだろう?

「案山子!ちょっと大丈夫?あんた顔色悪い
わよ。少し休んだら?」

……案山子ね?どうせ田舎者ですよ。
ふふ。もう、あだ名で定着してるんだなぁ。
案山子ね。ふふふ。
──休めって?確かに疲れたな。
なんか可笑しい。残念ピンクに労られる日が
くるなんて。ふふふ。

「マルクス伯爵令嬢、私の名前はアニエス
です。案山子ではありませんよ」

「はい、はいアニエス様。私はもう伯爵令嬢
じゃございません。ただのドーラよ」

「様はいりません。ではドーラ、私は疲れた
ので休ませてもらいますね。
私の代わりにアルフォンス様の助手を
お願いできますか?」

「え!?嘘でしょう!え?アルフォンス様と
一緒に働けるの?一生の記念にする!
ありがとう!案山子、じゃなくてアニエス」

笑顔の残念ピンクじゃなくて、ドーラは
ものすごく可愛いかった。
ごめんなさい。アイリスさん。

叶わない恋にほんの少しだけ、思い出を
下さい。

アルフォンス様にドーラを引き会わせる。
困惑顔のアルフォンス様。
でも、私より優秀な助手ですよ。
ほら、作業効率がさっきより上がった。


私は広場から少し離れた場所で、
一生懸命働くドーラを微笑ましく見ていた。
……疲れた。壁に寄りかかっていたが辛い。
ここ数日、寝てなかったから眠い。
その場に座り込む。
ああ、駄目。こんな所で寝たら駄目。
──でも、眠い。

私は、うとうとと眠りに落ちていった。














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