王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

文字の大きさ
62 / 135

アニエス、グレン、帰還する

しおりを挟む
「ヒン!ヒン!ブルブル、ヒヒ~ン!」

ん?馬?目が覚めると目の前に馬の顔。
あれ、この子は……グレン様のお馬さん。
名前は確かコルトだっけ。
なんか、必死にグレン様に鼻先をスリスリ
している。

……黒竜に砦に送ってもらったけれど、
私また失神したのね。グレン様は片手で私を
抱き上げ、もう片方の手でお馬さんの
首辺りをポンポンと
軽く叩いている。
お馬さんは大喜びだ。

──そうか。この子もグレン様がいなく
なって心配していたんだ。
すごい喜びよう。
あ、ここ。砦の馬屋だ。
こんな所に『穴』があったんだ。

「ごめんなさい。私また気絶しましたね。
下ろして下さいグレン様」

そっと下ろされるが、腕を軽く引かれた。
グレン様の方へ引き寄せられる。
近づいて来るグレン様の顔。
え?ここでキスする?

唇が重なる。

あ、グレン様のキス。
──気持ちいい。
深い口付けに体の力が抜けそう。
ずっとこうしていたい。

「真っ赤だ。やっぱりタコになるんだな」

唇を離し、にんまり笑うグレン様。
う、やだな。物足りないと思ってしまった。
恥ずかしい。更に赤くなる。


「タコじゃないですぅ!もう!」

ポカスカグレン様の胸を叩く。
グレン様はいい笑顔。
それにしても、白い軍服がズタボロ、
血まみれ。泥だらけ。
本人は元気そうだけれど、本当にもう
体はなんともないのだろうか。
ちよっと心配。

「やっとキスできたな。黒竜の巣で、キス
したくて堪らなかった」

そう、言いながらもう一度、啄むように
口付けられた。
うん。私もしたかった。

「アニエスを補充した事だし、さてやるか」

「ああ、ねぇ。そうですね」

私は空間収納から剣を取り出す。

「お、アニエス、便利だな。俺も空間収納
の修練でもするかな。
いつでも武器を出せるのは安心だろ?」

「そうですよね。ロイシュタール様に襲われ
た時にも武器を持っていれば、もう少し
なんとかなったのに。あれから武器を
持ち歩くようにしたんです」

「あの人か。指輪が発動したんだよな?」

話しながら剣を抜くグレン様。
ヒン、ヒンとお馬さんがもっと撫でろと
鳴いている。

「本当に怖かったですよ」

私も話しながら馬屋の扉を開ける。

「いずれきっちりと仕返しをしないとな?」

斬りかかってきた敵を三人あっという間に
切り捨てる。グレン様。
私も一人蹴りをいれて吹っ飛ばし、もう一人
は斬りかかってきたので返り討ちにする。

ずいぶん敵に入り込まれているなぁ。
これは、中から手引きした奴がいるよね。
砦の中は帝国兵が入り込み、そこかしこで
戦闘になっている。

「グ、グレン様……グレン様だ。グレン様が
戻られたぞ!」

「本当だ!グレン様だ!」

敵に押され気味だった砦の兵達がグレン様に
気がつき歓声を上げ、俄に活気づく。
やっぱり総大将が帰還したのは味方の士気を
爆上がりさせるよね。

「グレン様!!無事かぁ~!!」

敵を薙ぎ倒しながらオレンジ頭の
カーマイン卿が走ってくる。
うわ、また泣いてますよ。
カバリとグレン様に抱きつく。

あ~後ろに敵がぁ。
仕方がないので私が処理する。

「阿呆!男に抱きつかれて嬉しい訳が
ないだろう!さっさと離せカーマイン!」

あ、グレン様がお怒りです。
私の足元まで凍らせるのはやめて下さい。
そして、早く自分達で戦って。
なんで私があなた達を守っているの?
忙しいんですけれど。

「グレン様!生きてる!怒鳴ってる。
怒鳴ってる。やった!怒られたぞ!やった!やった!」

カーマイン卿、怒られて喜んでますけど。
泣きながらグレン様に抱きついたままで。
やっぱり……ムフフオレンジはグレン様が
好きなのかしら。ふ~ん。……ムフフフフ。

「アニエス、寒い事を考えるな!いい加減
離れろカーマイン!」

あ、ひどい。グレン様、ムフフオレンジを
蹴り飛ばした。

「グレン!グレン!グレン!!」

カーマイン卿をやっとの事で引き剥がした
直後にプリシラ様が泣きながら走ってきて
グレン様に抱きつく。

あ~後ろに敵がぁ。
仕方がないので私が処理する。

「生きてた。生きてた。生きてたよ~!
グレン、グレン、グレン!!」

プリシラ様号泣。あ、ちょっともらい泣き。
心配してましたもんね。
あんなに顔色悪くなるまで。
握りしめた手が白くなるまで。ぐすっ。

「プリシラ、心配かけたな。……そろそろ
離れないと吐くぞ。それに後ろで旦那が
嫉妬で泣いているぞ」

あ、お館様が泣いてる。
プリシラ、やっぱりグレン様がいいのか!
とか言いながら泣いてる。
いや、それは私も困る。

もう、みんな自分で戦って。
なんで私しか戦ってないの!
お館様の周りの敵も火炎魔法で火ダルマ
にする。

「あれ?気持ち悪くない。吐き気がない。
え?どうして?あなたグレンだよね。
間違いないよね。本物だよね?
なんで抱きついても魔力酔いしないの?」

困惑するプリシラ様。

ああ~後ろに敵がぁ。
仕方がないので私が処理する。

「おそらく、死にかけたせいで魔力の質が
変わったんだろう。とりあえず離せ。な?」

プリシラ様がグレン様から渋々離れる。
その直後、ドスドスとうちの父様が
敵を薙ぎ倒し、泣きながら走って来る。

ガバリとグレン様に抱きつく父様。

ああ~後ろに敵がぁ。
仕方がないので私が処理する。

もーいい加減にして!
自分で戦ってよ!と思ったら、
私の周りの敵が一斉に燃え上がる。
あ、……ヤバい。マックス義兄様だ。

「君はまた、勝手に一人で動いたね?」

ああ、やっぱりお怒りだ。
心配かけてごめんなさい。

「ごめんなさい。マックス義兄様」

「無事ならいい。グレン様を見つけてくれ
たんだね。すごいよ、アニエス。
君が消えた時はどうしようかと思ったけど。
良かった。二人とも無事で……」

マックス義兄様に抱きしめられる。
心配かけてごめんなさい。

「マックス、アニエスから離れろ!」

あ、グレン様がお怒りだ。
やだ。嫉妬?嫉妬ですか?ちょっと嬉しい。
その後も次々グレン様に抱きつく人が続出。
もう、みんな戦闘中なのにね。
なんだかんだで、砦の中の敵はすべて討ち
とった。
もみくちゃにされるグレン様。
ちょっと面映ゆい顔。ふふ。

「グレン!やっぱり生きてたな!はは!」

アルフォンス様も砦に戻って来ていた。
満面の笑みだ。

「アルフォンス、悪いな。俺のせいで、
辺境まで来させて。
王都を離れたくなかっただろう?」

「いや、お前の無事な姿が見れたんだ。
来た甲斐があったさ」

爽やかにハグする二人。絵になる。
後ろでラケット将軍が静かに泣いている。


グレン様、みんなに慕われていますね。
──良かった。この人が失われなくて。
 みんなのところに帰って来れて。


グレン様も私も無事に砦に帰還した。






しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

カナリアというよりは鶸(ひわ)ですが? 蛇令息とカナリア(仮)令嬢

しろねこ。
恋愛
キャネリエ家にはカナリアと呼ばれる令嬢がいる。 その歌声は癒しと繁栄をもたらすと言われ、貴族だけではなく、王族や他国からの貴賓にも重宝されていた。 そんなカナリア令嬢と間違えられて(?)求婚されたフィリオーネは、全力で自分はカナリア令嬢ではないと否定する。 「カナリア令嬢は従妹のククルの事です。私は只の居候です」 両親を亡くし、キャネリエ家の離れに住んでいたフィリオーネは突然のプロポーズに戸惑った。 自分はカナリアのようにきれいに歌えないし、体も弱い引きこもり。どちらかというと鶸のような存在だ。 「間違えてなどいない。あなたこそカナリアだ」 フィリオーネに求婚しに来たのは王子の側近として名高い男性で、通称蛇令息。 蛇のようにしつこく、そして心が冷たいと噂されている彼は、フィリオーネをカナリア令嬢と呼び、執拗に口説きに来る。 自分はそんな器ではないし、見知らぬ男性の求婚に困惑するばかり。 (そもそも初めて会ったのに何故?) けれど蛇令息はフィリオーネの事を知っているようで……? ハピエン・ご都合主義・両片思いが大好きです。 お読みいただけると嬉しいです(/ω\)! カクヨムさん、小説家になろうさんでも投稿しています。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

番は君なんだと言われ王宮で溺愛されています

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私ミーシャ・ラクリマ男爵令嬢は、家の借金の為コッソリと王宮でメイドとして働いています。基本は王宮内のお掃除ですが、人手が必要な時には色々な所へ行きお手伝いします。そんな中私を番だと言う人が現れた。えっ、あなたって!? 貧乏令嬢が番と幸せになるまでのすれ違いを書いていきます。 愛の花第2弾です。前の話を読んでいなくても、単体のお話として読んで頂けます。

枯渇聖女は婚約破棄され結婚絶対無理ランキング1位の辺境伯に言い寄られる

はなまる
恋愛
 らすじ  フレイシアは10歳の頃母と一緒に魔物に遭遇。その時母はかなりの傷を負い亡くなりショックで喋れなくなtったがその時月の精霊の加護を受けて微力ながらも魔法が使えるようになった。  このニルス国では魔力を持っている人間はほとんどいなくて魔物討伐でけがを負った第二王子のジェリク殿下の怪我をほんの少し治せた事からジェリク殿下から聖女として王都に来るように誘われる。  フレイシアは戸惑いながらも淡い恋心を抱きジェリク殿下の申し出を受ける。  そして王都の聖教会で聖女として働くことになりジェリク殿下からも頼られ婚約者にもなってこの6年フレイシアはジェリク殿下の期待に応えようと必死だった。  だが、最近になってジェリクは治癒魔法が使えるカトリーナ公爵令嬢に気持ちを移してしまう。  その前からジェリク殿下の態度に不信感を抱いていたフレイシアは魔力をだんだん失くしていて、ついにジェリクから枯渇聖女と言われ婚約を破棄されおまけに群れ衣を着せられて王都から辺境に追放される事になった。  追放が決まり牢に入れられている間に月の精霊が現れフレイシアの魔力は回復し、翌日、辺境に向かう騎士3名と一緒に荷馬車に乗ってその途中で魔物に遭遇。フレイシアは想像を超える魔力を発揮する。  そんな力を持って辺境に‥    明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。少し間が開いてしまいましたがよろしくです。  まったくの空想の異世界のお話。誤字脱字などご不快な点は平にご容赦お願いします。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。他のサイトにも投稿しています。

呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです

シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。 厄災を運ぶ、不吉な黒猫─────そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。 不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。 けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で─────…… 「やっと、やっと、見つけた────……俺の、……番……ッ!!」 えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!?というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!! 「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」 「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」 王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない!となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。 ※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...