王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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駆け落ち 1

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ピチョン。
頬に水滴が落ちる。
冷たい。目を開けると薄暗い洞窟。
あれ?私は……あ、『穴』に落ちたんだ。
何で無人島に『穴』があるの。
あの女性はどうしたろう。

ゆっくり起き上がる。
あちこち痛い。膝だの肘だの色々擦りむいて
血が出ていた。

「動くな!」

威圧的な男の声。
ゆっくりと顔を上げると私を睨みつける
金の瞳と視線が合う。
怪我をした女性の肩を抱いてこちらを
険しい顔で警戒する若い男。

長い金の巻き髪。
何だか金竜に似ている。

「お前は誰だ!何で俺達の巣に勝手に
上がり込んでいるんだ!カリナの怪我も
お前がやったのか?」

え~と。怪我をした女性はカリナさんと言う
らしい。で、俺達の巣という事はこの金髪の
男はどうやら竜らしい。
カリナさんは……人だよね?

私は竜と人の番のお宅にお邪魔してしまった
ようだ。金髪の竜が怒っている。
でも不可抗力ですから。

「え~と。カリナさん?の怪我が心配で
追いかけて来たのですが『穴』に落ちて
しまって……勝手にお邪魔してしまい
申し訳ありません」

「『穴』に落ちる?」

「あ、『道』でしたっけ?カリナさんと
一緒に落ちてここまで来てしまいました」

「何で通行権を与えていないお前が俺の道を
通れるんだ。何なんだお前一体何者なんだ」

ん~なんだと言われても。なんなんだろう。
私は人のつもりだけれど、ほぼ竜らしいし。
竜を相手に自己紹介を悩んでいると
突然金髪の男がカリナさんを抱き上げて
後ろに下がる。

するとすぐに私の目の前に人が降ってきた。
キラキラと金色の魔力を纏ったグレン様。
追いかけて来てくれた。

「無事かアニエス」

「無事です」

「まったくこんな無人島でも『穴』に落ちる
なんて……さすがアニエスだな」

「それ褒めてないですよね?」

「当たり前だ」

不機嫌そうなグレン様。
すみません。心配かけましたね?

「それでこいつらは?」

「さあ?お互い自己紹介がまだです」

視線をグレン様から二人に移す。
金髪の男は怯えた顔でカリナさんを
抱いたままガタガタと震えている。
魔王様、初対面の人をビビらせてますよ?

「その魔力……まさか金竜なのか?」

金髪の男が驚く。
まさに信じられないといった風情だ。

「そういうお前も金竜の気配がするな?」

グレン様、やめて。
魔力だだ漏れで威圧するの。
可哀想だから。
真っ青な顔の金髪の男。
震える男に抱き上げられているカリナさん
の顔色も悪い。

「グレン様、とりあえずカリナさんの
怪我を治しません?私じゃ止血までしか
できなくて。グレン様のへっぽこ治癒魔法
の出番ですよ」

「へっぽこ言うな」

「いつもご自分で言っているくせに」

「アニエスに言われるのはなんかムカつく」

ふふ。拗ねているグレン様も可愛くて素敵。

「カリナさんの怪我を先に治しましょう?
話はそれからです。結構出血しましたから
治療は早い方がいいですよ?」

私が声をかけると金髪の男は戸惑った顔に
なるが、カリナさんの怪我に目をやると
覚悟を決めたように頷いた。

グレン様が二人に近付きカリナさんの肩に
手をかざす。三十分ほどで治した。
十分すごいと思うけれど、グレン様の
治癒魔法の自己評価は低い。
まあ、アルフォンス様やロイシュタール様
みたいな規格外の治癒魔法を見慣れている
から仕方がないのかも。

私はグレン様が治癒魔法をかけている間に
空間収納からテーブルと椅子を取り出し
お茶の支度をする。
竜相手に話を聞くなら、ちゃんとした竜が
いた方がいいよね?私もグレン様もあまり
竜としての知識がない。

テーブルを出すついでに青竜を引っ張り
出した。

「ああ?なんだここ?」

いきなり引っ張り出された青竜が
戸惑っている。あれ?首から肩にかけて
あった黒い刺青がきれいに消えている。
竜殺しの剣の支配が消えたんだ。

「ごめんね青竜。何だか変な事に
なっちゃって。同席してもらえると助かる
のだけれど」

「変な事って……あれ?金竜……もどき?」

金髪の男を見て首をひねる青竜。
あれ?知り合いではない?
金髪の男も青竜を見て驚いている。

「な、何なんだ今度は青竜?!どこから
現れたんだ?しかも誰だよお前!」

金髪の男がもはや泣きそうになっている。
悪気はないんだけれど……
安全なはずの巣穴にぞろぞろとごめんね。

「……お前ひょっとしたらコハクの子か?」

考えこんでいた青竜がパッと明るい顔に
なり金髪の男に問いかける。

「な、なぜ母上の名を知っている」

「あ~やっぱりそうか。父親はコガネだろ?
俺達、友達だったんだ。あの時の子か……。
無事に生まれて大きくなったなぁ」

感慨深そうに青竜が頷く。
へえ~青竜のお友達のお子さんなんだ。

「ここはお前の巣穴か?何でアニエス達が
上がり込んでいるんだよ」

「知るか!こいつら勝手に入って来たんだ。
カリナは怪我をしているし何が何だか……」

金髪の男の言葉に青竜が私の方を見る。

「無人島探検をしていたらカリナさんが
人相の悪い水夫達に襲われていて、助けに
入ったのだけれど怪我をしたカリナさんが
怯えて逃げ出して……怪我が心配で追いかけ
たら『穴』に落ちちゃって。
グレン様は私を追いかけて来てくれただけ。
ごめんなさい。悪気はないの……。
カリナさんの治療も終わったし、少し
お話ししたら帰るから、とりあえず
お茶を飲みません?」

「無人島?ここは北大陸じゃないのか?
コハクとコガネの子でそれだけ金色が
濃いなら族長か次期様じゃないのか?
何で無人島なんかにいるんだよ」

おや?何だか不穏な様子。
この金髪の男はそんな偉い人なんだ。
母親の友人と聞いて少し警戒が緩んだのか
青竜との会話が続く。

「……逃げて来たんだ」

「何から?」

「俺にはカリナがいるのに無理矢理婚姻させ
られるんだ。父上や母上も行方不明だし。
もう逃げるしかなかった」

「無理矢理婚姻って?」

「南大陸から金竜の女を迎えるって……。
金竜のくせに竜化できない出来損ない
らしい。まるで人だと長老達が蔑んでいた。
俺が種をつけて完璧な金竜を産ますと
言われたけれど無理だ!何で俺がそんな女
を抱かなきゃならないんだ」

金髪の男の言葉に途方に暮れたように
青竜がちらりと私の方を見る。
そんな女って……もしかして私の事?

グレン様の方を見ると……きゃあ!まずい!
魔王様がお怒りだ。
暖かい洞窟が一瞬で凍りつく。

「グ、グレン様!どうどう!落ち着いて?」

「……誰が誰を抱くだと?」

目がいっちゃってます。
怖いよ魔王様。
必死で宥める私。

「いや、ほらほら彼も嫌がっているじゃ
ないですか。彼が悪い訳じゃないですよ!
それが嫌で彼女と駆け落ちしたみたいだし」

「……駆け落ち?」

「そう!ね?あなたカリナさんと駆け落ち
してきたんでしょ?一族の命令に背いて
逃げた。最悪の事態を回避するためにね?」

私はグレン様に抱きついて宥めながら
金髪の男に話を振る。

「あ、ああ。そうだけど……彼は何で
こんなに怒っているんだ?」

ぶるぶる震えながら私に尋ねる男。
仕方がないから自己紹介をする。

「あ~どうも。私がその出来損ないの
金竜の女、アニエス・ザルツコードです!」

「アニエスの番、金竜のグレン・リード・
エルドバルドだ」

グレン様の自己紹介を聞いた金髪の男が
カリナさんを抱いたまま膝から崩れ落ちる。

「き、金竜同士の番?!」

ああ~腰が抜けてる。
とうとう泣いちゃった。
グレン様……脅かし過ぎです。

「さあ、話を聞こうか?」

魔王モード全開のグレン様に途方に暮れる。
ちょっと無人島探検したかっただけなのに。
なんでこんな事になったのだろう。
自分の『穴』落ち体質が憎い。
私はやれやれと首を振った。



















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