王宮侍女は穴に落ちる

斑猫

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アニエスまたまた穴に落ちる

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アルトリアを出発して五日、旅は順調。
また島が近づいて来た。
でもまだ日は高い。もう少し進むのだろう
と思っていたら黒竜が声をかけて来る。

「お~い。今日はあの島に泊まるぞ~」
   
「あれ~?早くない?」

「この先は次の島までかなり距離がある。
無理をしないで早めに休もう」


今までよりも大きな島だけれど
やはり人は住んでいないらしい。
──無人島。

それなりに広い砂浜。後ろには森。
アルトリアよりもかなり暖かい季候の島。
生い茂る木々は馴染みのないものが多い。
北に向かっているのに何でこの島は
暖かいのだろう?

黒竜に聞いたらこの辺りに流れる海流の
せいらしい。
暖かい海流がこの島を取り囲んでいる
らしく他の島より温暖な季候みたい。

まあ、寒いよりいいよね。
私は北辺境生まれのくせに寒いの
嫌いなんだもん。

いつもは夕刻に島に降り立つのですぐに
野営の支度をするが今日はまだ時間がある。
よし!無人島探検をしよう。ふふふ。


黒竜は砂浜に寝そべっている。
またか黒竜、砂だらけになるよ。
とりあえず敷物を出してローテーブルと
大きめのクッションを何個か置く。
薬草茶とお茶請けの焼き菓子を出すと
黒竜が嬉しそうにやって来た。

本当に焼き菓子が好きだよね。
グレン様には紅茶を出す。
グレン様はまた首をコキコキ動かして
凝りを解している。

なんか竜化すると首や肩が凝るらしい。
何でだろう?
あとでマッサージしてあげますね。

青竜は初日の夜に空間収納し
次の日に引っ張り出したら、
竜殺しの剣が消えるまで入っていたいと
言い出したので収納したままだ。

赤竜の時は一週間ほどで剣が消えたので
あと二、三日したら出してみようと思う。
黒竜は旅先案内人なので出たり入ったりだ。
黒竜は空間収納されなくてもいいのに……。

『馬に蹴られて死にたくない』と夜になると
空間収納に入りたがる。

お陰で夜はグレン様と二人きりだ。
うん。それはちょっとうれしい……。

さて、散歩と言う名の探検に出かけよう。

「私、ちょっと散歩に行って来ますね」

お茶を飲むグレン様と黒竜に声をかける。

「散歩?この島、特に変わった所なんか
ないぞぉ。一日、竜の背に揺られたら
疲れそうなもんだけれど、わざわざ散歩か。
お前、本当に元気な奴だよな」

黒竜が呆れたように言う。
確かに疲れるけれど、じっとしているから
体が固まっちゃう。
少し体を動かしたいの。

「アニエス、俺も行く」

グレン様がお茶を飲み干すと立ち上がる。

「え?グレン様、お疲れでしょう。
私一人でも大丈夫ですよ。その辺を歩いて
来るだけですから」

「いや、目の届く所にアニエスがいないと
俺が落ち着かない。北大陸にも近くなって
きた事だし単独行動は駄目だ」

もう、グレン様ったら過保護。
私一人でも平気なのに。

「はいはい二人仲良く散歩でも何でも行っ
てらっしゃい。俺は一人寂しくお茶してる」

ひらひらと手を振る黒竜に見送られ
グレン様と散歩に出かける。

「お疲れのところすみません」

「いやいい。それでどこに行きたいんだ?」

「あっちの岩場、登れそうなので登って
みようかと」

海岸を行った先に小高い丘が見える。
その下に緩やかな岩場があり、上の丘と
繋がっているように見える。
上に登ったら景色が良さそう。

二人でぷらぷら砂浜を歩く。
この砂浜を歩く感触、慣れないなぁ。
下を向いて歩いていると
貝殻が結構落ちている。可愛い形や
きれいな色の貝殻もあって楽しい。

のんびり岩場まで歩いて丘を目指して
上に登る。思った通り丘の上は景色がいい。

「あれ?滝ですかね」

丘を登った反対側、森の少し先に大きな
滝が見える。

「あそこまで行ってみるか?」

「行きたいです」

ふふふ。探検らしくなってきた。
丘を降り森に入る。
あれ?獣道?森には人が通れそうな
道があった。ここ無人島だよね?
う~ん海賊がいたりして。


「獣道じゃないな……人がいるかもしれん」

「あ、やっぱりそう思います?」

少し警戒しながら滝を目指して歩く。
滝の音が近くなってきた。
そのまま音の方へ歩いて行くと
滝壺の側に出た。大きな滝を見上げる。

「うわぁ。立派な滝ですね。きれい」

水飛沫に陽の光が反射して
虹がかかっている。
しばらく呆けたように滝を眺めていたが
ふと目線を上から下に下ろすと足元の
岩に血痕がついている。

グレン様と顔を見合わせる。

グレン様が剣を抜く。
血は岩や石に転々とついていた。
私達は血痕をたどる。

「きゃああ~!」

女性の悲鳴が聞こえた。
声がした方へ走り出す。

人相の悪い水夫が五人、若い女性をとり
囲んでいた。え?本当に海賊が出た?
女性は肩口を手で押さえている。
かなりの出血だ。
こいつらに斬られたのだろう。

人相の悪い男達は突然現れたグレン様と
私に驚いたようだが、そのうちの一人が
すぐにグレン様に斬りかかる。
あ~馬鹿だなぁ。

一瞬で返り討ち。真っ二つに斬られる男。
ほら死んだ。
他の四人は仲間の死に様を見て早々に
逃げ出す。すると地面から蔦蔓が生えて
きて男達に絡み付き拘束する。

やっぱりグレン様の蔦蔓は便利だな。
いいなぁ。私もあれが欲しい。
でも、私が蔦蔓を出そうとすると
ピイちゃんになってしまう。
いや、ピイちゃんはちゃんと役に立つから
いいんだけれど……。

グレン様が人相の悪い男達を拘束している
間に私は斬られた女性の方へ駆け寄る。

黒いウェーブのかかった長い髪。褐色の肌。
琥珀色の瞳。赤いワンピース。
なんかエキゾチックな美人さん。
私が近寄ると怯えたように走り出す。

「あ、待って!怪我の手当てをしないと!」

声をかけるがよほど怖かったのか
どんどん逃げる。
出血の量を考えると早く止血だけでも
しないと危険だ。
ああ~困った。お願い逃げないで。

「待って!私は敵じゃないわ」

走って追いかける。
よし。追い付いた。
女性の腕を掴むときゃあと悲鳴を上げ
られる。

とにかく止血しなきゃ。
私は慌てながらも治癒魔法をかける。
あ、なんとか血は止まったみたい。

女性はよく分からない言葉で何かを
叫んでいる。
言葉が通じないのね。
怖がらせちゃったわ。

女性の腕をつかんでいた手を離す。
肩の傷を指差し包帯を巻くジェスチャーを
してみる。
女性が首を傾げる。
手当てをしたいと通じたかな?

あ、駄目だ。また走り出したゃった。
私の止血は完全じゃないから動いちゃ駄目
なのに。傷口が開いちゃう!

仕方がない。
少し強引に動きを封じよう。
走って追いかけるとすぐに追い付く。
腰に手を回し抱き寄せようとした所で

お馴染みの感覚がする。

足元を見ると『穴』がある。
何でこんな所にあるの~~!!
女性の腰に手を回したまま落ちる。

暗転する。私の意識はそこで途絶えた。


















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