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無能と呼ばれた陰陽師見習い
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かつてこの国は、妖怪に支配されかけた。
人を喰らい、都を焼き、夜を奪ったのは、無数の怪異。
その頂点に立った存在がいた。
――妖怪の王。
人は抗えなかった。式神も術も通じない。
国は崩れ、祈りすら届かなかった。
だが、五つの陰陽師の家が立ち上がる。
炎下、水瀬、土雲、風木、そして西園寺の五家。
彼らは命を賭して王へ挑んだ。
戦いは三日三晩続いた。
山を裂き、河を枯らし、空を赤く染めた。
そして最後に王を封じたのは、西園寺家当主だった。
しかしその代償は、あまりにも重いものだった。
王の血は呪いとなり、西園寺の血筋に絡みつく。
力は枯れ、霊力は閉ざされてしまった。
そして英雄の家は、呪われた家となった。
やがて時は流れ、妖怪は姿を潜めた。
だが消えたわけではない。
人の影に潜み、静かに息をひそめている。
そして西園寺の呪いもまた、終わってはいなかった。
封じられたはずの何かが、今も血の奥で軋んでいる。
現代では、ひとりの少年の中で。
名を――西園寺玄弥という。
――
俺は、霊術学院で唯一の無能だ。
妖怪と戦う陰陽師を育てるこの場所で、俺だけが霊力を持たない。
何も感じないし、術を使っても何も起きない。
それでも退学にならない理由は一つ。
西園寺家の祖先が、かつて“妖怪の王”を封じた陰陽師だからだ。
――ただし、その力は俺には残っていない。
「次、西園寺玄弥」
教官の声が飛んだ瞬間、周りがざわつく。
笑いをこらえてるやつもいる。あからさまに視線を逸らすやつもいる。
理由は分かってる。
――どうせ何も起きないから、見るだけ時間の無駄ってことだ。
(俺だって、そう思ってる)
それでも、列から出た。
靴が地面を踏む感触だけが、やけにはっきり伝わってくる。
「課題は基礎霊術だ。自分の霊力で術を出し、あの的に当てろ」
何回聞いたんだろ、この台詞。
数えるのをやめた頃には、もう三桁いってた気がする。
深呼吸して、目を閉じる。
体の中に霊力を感じようとする。
……何もない感じない。
気配も、流れも、光も。
本来なら感じられるはずのものが、俺には一切なかった。
それでも手を前に出す。
霊札を持ち、決まった動きをなぞる。
意味がないと分かっていても、やめるわけにはいかない。
「術式、展開――」
「…………」
案の定、何も起きない。
数秒後、どこかから小さな笑い声が聞こえた。
「やっぱりな」
「今日もか」
「霊力ないのに、よく諦めないよな」
分かってる‥もう気にしない様にしていたが、
胸の奥がじわっと熱くなるのだけは、まだ消えない。
それが一番、情けなかった。
「……終了。次」
教官は俺を見もしないで、もう次の名前を呼んでいた。
訓練場では、次々と霊術が使われる。
炎が出て、水が形になり、風が刃のように走る。
――俺だけが、外から見てる。
(何年、この景色を見てきたんだろ)
西園寺玄弥。
霊力ゼロ。
陰陽師の元名門に生まれた、ただの無能。
この世界では、それだけで致命的だった。
西園寺家は代々霊力が弱い。
それでも家族には、最低限の力はある。
――俺以外は。
理由は分からない。
分かっているのは一つだけ。
俺の先祖はかつて強い妖怪を封印した陰陽師だった事だけだ。
訓練が終わり、生徒たちはそれぞれ散っていく。
誰も俺に声をかけない。
それが、いつものことだった。
「才能ないのに、よくやめないよな」
「家柄だけで残ってるんだろ」
背中に向けられる言葉を、黙って聞き流す。
怒る元気も、悲しむ余裕も、もうなかった。
⸻
昼休み。
俺が席に座ると、会話が一瞬止まり、すぐに再開される。
いないものとして扱われている。
それが一番、しっくりきた。
弁当を開く。
箸の音だけが、妙に大きく聞こえる。
「なあ、西園寺。どうやって入学したの? 推薦? それともコネ?」
悪意を隠さない笑顔。
「……普通に」
「へぇ。じゃあ奇跡待ちか」
くすくすと笑いが広がる。
言い返さない。
何を言っても、変わらないから。
⸻
放課後。
教室にはまだ数人残っていた。
その中心にいるのは、クラスのまとめ役。
成績も霊力も安定していて、教官からの評価も高い。
俺とは、正反対の存在。
「なあ、西園寺」
呼ばれて、嫌な予感がした。
「さっきの実習だけどさ。お前がいると、邪魔なんだよね」
教室が静まる。
誰も止めない。
「霊も出せないのに同じクラスとか、正直迷惑なんだよな」
笑いが起こる、でも俺は黙ったままだ。
何か言えば、もっとひどくなる。
それくらいは分かっていた。
「聞こえてない?」
次の瞬間、体が重くなる。
見えない力が肩にのしかかり、息が苦しい。
「……っ」
「これが霊力だよ。同じ陰陽師でも、差があるだろ?」
床の術が光り、足が動かなくなる。
膝が崩れそうになる。
「ぐ、やめ――」
声が出ない。
「大丈夫だって。怪我しない程度だから」
それが、一番ひどかった。
怪我させないから、これは暴力じゃない。
そういうことにしているのだ。
抵抗できない、逃げられない、助けも来ない。
「‥お前は、ここにいるべきじゃない」
さらに力が強くなり、視界がにじんだ、その時――
「悪い悪い、冗談だよ。ちょっとからかっただけ」
そう言って、彼は肩をすくめた。
俺は床に手をつき、息を整える。
指先が、少し震えていた。
――これが普通なんだ、ここでは。
霊力を持つ者が、持たない者を押さえつける。
誰も疑問に思わない。
当たり前だから。
……そう思った、その時だった。
胸の奥で、何かがかすかに軋んだ。
錯覚かもしれない。
けれど確かに、熱のようなものが一瞬だけ走った。
それは怒りでも、悔しさでもない。
もっと古く、もっと静かな――
まるで、長い眠りから目を覚ましかけた“何か”の気配だった。
胸の奥の軋みは、帰り道になっても消えなかった。
気のせいだと思おうとした。
――
気づけば俺は、学院の裏手にある森へ足を向けていた。
立ち入り禁止区域。
本来なら近づく理由なんてない。
「……何やってんだろ」
自分で自分に呆れる。
でも足は止まらなかった。
胸の奥が、ゆっくりと引っ張る。
森に入ると、空気が変わった。
冷たいわけじゃなく、ただ重い。
音が少ない。
風も、虫の声も、どこか遠い。
――ここだ。
倒木の影に、それはいた。
巨大な狐。
いや、巨大って言葉じゃ足りない。
人より大きいとかそういう次元じゃない。
金色の毛並みは血で濡れ、
九本の尾が地面に垂れている。
荒い呼吸。
それでも、ただそこにいるだけで圧がある。
黄金の瞳が、ゆっくりと俺を捉えた。
『……人間か』
声は耳じゃなく、頭の奥に響いた。
全身の毛穴が開く。
『近づけば裂く』
脅しというより、ただの事実。
喉が乾く。
でも、目は逸らさなかった。
逸らしたら、なんか終わる気がした。
「でもさ、あんた」
言ってから、やめとけばよかったと思う。
「……もう限界だろ」
森が、静まった。
九尾の瞳が細くなる。
『霊力も持たぬ身で、よくも我を見下ろす』
「見下ろしてない」
むしろ逆だ。
「ただ……そう見えるだけだ」
血、呼吸。
力を誇示しない態度。
本当に余裕があるなら、
俺なんか一瞬で消えてる。
『……奇妙な奴だ』
九尾は小さく息を吐いた。
そして、じっと俺を見る。
『それに貴様の内は空白だな』
ぐさっときた。
「知ってる」
『だが完全な空ではない』
胸の奥が、また軋む。
『これは、力が封じられているな』
「……は?」
『霊泉に枷がある。貴様は無能ではない』
頭が追いつかない‥無能じゃない?
じゃあ何だ。
『封じられているだけだ』
あまりにもあっさり言う。
俺が何年悩んだと思ってる。
「……それ、どうにかなるのか」
情けない声だった。
『我を助ければ、一時的に緩められる』
心臓が跳ねた。
「助けるって」
『仮契約だ。我の妖力を流す』
「それは大丈夫なのか‥危険は?」
『ある』
即答。
『器が耐えられねば壊れる』
嘘はなさそうだった。
断れば、今まで通り。
でも‥。
何もできないでずっと皆を見ているだけ。
胸の奥が、強く軋む。
あの訓練場で感じたやつだ。
何もないはずの場所で、確かに何かが動いた。
それが本物なら。
「……やるよ」
『即答か』
九尾が少しだけ目を細める。
『愚かだな』
「慣れてる」
それでも、止まれない。
「何もできないまま終わるのは、もう嫌なんだ」
沈黙。
やがて九尾は、静かに名を告げた。
『我は葛葉』
その瞬間、空気が震える。
『契約を結ぶ』
光が胸へ流れ込む。
「――っ!」
痛み。
内側に張り付いていた何かが、軋む。
壊れない。
でも、確実にひびが入る。
そして‥堰き止めていた何かが決壊した。
空気が、違う。
木の鼓動が分かる。
森の奥にある微かな気配が見える。
世界が、急に輪郭を持つ。
「……これが」
ずっと俺だけ持ってなかったもの。
『まだ解いたのは表層の部分だけだ』
葛葉の声が、少し近い。
『無理をすれば反動が来る』
「それでもいい」
拳を握る。掌に、確かな重み。
胸の奥で、力が脈打っている。
もう空っぽじゃない。
その瞬間。
森の奥から、別の気配が動いた気がした。
――封じられていた何かが、目を覚ます。
『……始まったか』
葛葉が、低く呟いた。
‥玄弥はまだ知らない。
この出会いが長い因縁を動かしたことを。
人を喰らい、都を焼き、夜を奪ったのは、無数の怪異。
その頂点に立った存在がいた。
――妖怪の王。
人は抗えなかった。式神も術も通じない。
国は崩れ、祈りすら届かなかった。
だが、五つの陰陽師の家が立ち上がる。
炎下、水瀬、土雲、風木、そして西園寺の五家。
彼らは命を賭して王へ挑んだ。
戦いは三日三晩続いた。
山を裂き、河を枯らし、空を赤く染めた。
そして最後に王を封じたのは、西園寺家当主だった。
しかしその代償は、あまりにも重いものだった。
王の血は呪いとなり、西園寺の血筋に絡みつく。
力は枯れ、霊力は閉ざされてしまった。
そして英雄の家は、呪われた家となった。
やがて時は流れ、妖怪は姿を潜めた。
だが消えたわけではない。
人の影に潜み、静かに息をひそめている。
そして西園寺の呪いもまた、終わってはいなかった。
封じられたはずの何かが、今も血の奥で軋んでいる。
現代では、ひとりの少年の中で。
名を――西園寺玄弥という。
――
俺は、霊術学院で唯一の無能だ。
妖怪と戦う陰陽師を育てるこの場所で、俺だけが霊力を持たない。
何も感じないし、術を使っても何も起きない。
それでも退学にならない理由は一つ。
西園寺家の祖先が、かつて“妖怪の王”を封じた陰陽師だからだ。
――ただし、その力は俺には残っていない。
「次、西園寺玄弥」
教官の声が飛んだ瞬間、周りがざわつく。
笑いをこらえてるやつもいる。あからさまに視線を逸らすやつもいる。
理由は分かってる。
――どうせ何も起きないから、見るだけ時間の無駄ってことだ。
(俺だって、そう思ってる)
それでも、列から出た。
靴が地面を踏む感触だけが、やけにはっきり伝わってくる。
「課題は基礎霊術だ。自分の霊力で術を出し、あの的に当てろ」
何回聞いたんだろ、この台詞。
数えるのをやめた頃には、もう三桁いってた気がする。
深呼吸して、目を閉じる。
体の中に霊力を感じようとする。
……何もない感じない。
気配も、流れも、光も。
本来なら感じられるはずのものが、俺には一切なかった。
それでも手を前に出す。
霊札を持ち、決まった動きをなぞる。
意味がないと分かっていても、やめるわけにはいかない。
「術式、展開――」
「…………」
案の定、何も起きない。
数秒後、どこかから小さな笑い声が聞こえた。
「やっぱりな」
「今日もか」
「霊力ないのに、よく諦めないよな」
分かってる‥もう気にしない様にしていたが、
胸の奥がじわっと熱くなるのだけは、まだ消えない。
それが一番、情けなかった。
「……終了。次」
教官は俺を見もしないで、もう次の名前を呼んでいた。
訓練場では、次々と霊術が使われる。
炎が出て、水が形になり、風が刃のように走る。
――俺だけが、外から見てる。
(何年、この景色を見てきたんだろ)
西園寺玄弥。
霊力ゼロ。
陰陽師の元名門に生まれた、ただの無能。
この世界では、それだけで致命的だった。
西園寺家は代々霊力が弱い。
それでも家族には、最低限の力はある。
――俺以外は。
理由は分からない。
分かっているのは一つだけ。
俺の先祖はかつて強い妖怪を封印した陰陽師だった事だけだ。
訓練が終わり、生徒たちはそれぞれ散っていく。
誰も俺に声をかけない。
それが、いつものことだった。
「才能ないのに、よくやめないよな」
「家柄だけで残ってるんだろ」
背中に向けられる言葉を、黙って聞き流す。
怒る元気も、悲しむ余裕も、もうなかった。
⸻
昼休み。
俺が席に座ると、会話が一瞬止まり、すぐに再開される。
いないものとして扱われている。
それが一番、しっくりきた。
弁当を開く。
箸の音だけが、妙に大きく聞こえる。
「なあ、西園寺。どうやって入学したの? 推薦? それともコネ?」
悪意を隠さない笑顔。
「……普通に」
「へぇ。じゃあ奇跡待ちか」
くすくすと笑いが広がる。
言い返さない。
何を言っても、変わらないから。
⸻
放課後。
教室にはまだ数人残っていた。
その中心にいるのは、クラスのまとめ役。
成績も霊力も安定していて、教官からの評価も高い。
俺とは、正反対の存在。
「なあ、西園寺」
呼ばれて、嫌な予感がした。
「さっきの実習だけどさ。お前がいると、邪魔なんだよね」
教室が静まる。
誰も止めない。
「霊も出せないのに同じクラスとか、正直迷惑なんだよな」
笑いが起こる、でも俺は黙ったままだ。
何か言えば、もっとひどくなる。
それくらいは分かっていた。
「聞こえてない?」
次の瞬間、体が重くなる。
見えない力が肩にのしかかり、息が苦しい。
「……っ」
「これが霊力だよ。同じ陰陽師でも、差があるだろ?」
床の術が光り、足が動かなくなる。
膝が崩れそうになる。
「ぐ、やめ――」
声が出ない。
「大丈夫だって。怪我しない程度だから」
それが、一番ひどかった。
怪我させないから、これは暴力じゃない。
そういうことにしているのだ。
抵抗できない、逃げられない、助けも来ない。
「‥お前は、ここにいるべきじゃない」
さらに力が強くなり、視界がにじんだ、その時――
「悪い悪い、冗談だよ。ちょっとからかっただけ」
そう言って、彼は肩をすくめた。
俺は床に手をつき、息を整える。
指先が、少し震えていた。
――これが普通なんだ、ここでは。
霊力を持つ者が、持たない者を押さえつける。
誰も疑問に思わない。
当たり前だから。
……そう思った、その時だった。
胸の奥で、何かがかすかに軋んだ。
錯覚かもしれない。
けれど確かに、熱のようなものが一瞬だけ走った。
それは怒りでも、悔しさでもない。
もっと古く、もっと静かな――
まるで、長い眠りから目を覚ましかけた“何か”の気配だった。
胸の奥の軋みは、帰り道になっても消えなかった。
気のせいだと思おうとした。
――
気づけば俺は、学院の裏手にある森へ足を向けていた。
立ち入り禁止区域。
本来なら近づく理由なんてない。
「……何やってんだろ」
自分で自分に呆れる。
でも足は止まらなかった。
胸の奥が、ゆっくりと引っ張る。
森に入ると、空気が変わった。
冷たいわけじゃなく、ただ重い。
音が少ない。
風も、虫の声も、どこか遠い。
――ここだ。
倒木の影に、それはいた。
巨大な狐。
いや、巨大って言葉じゃ足りない。
人より大きいとかそういう次元じゃない。
金色の毛並みは血で濡れ、
九本の尾が地面に垂れている。
荒い呼吸。
それでも、ただそこにいるだけで圧がある。
黄金の瞳が、ゆっくりと俺を捉えた。
『……人間か』
声は耳じゃなく、頭の奥に響いた。
全身の毛穴が開く。
『近づけば裂く』
脅しというより、ただの事実。
喉が乾く。
でも、目は逸らさなかった。
逸らしたら、なんか終わる気がした。
「でもさ、あんた」
言ってから、やめとけばよかったと思う。
「……もう限界だろ」
森が、静まった。
九尾の瞳が細くなる。
『霊力も持たぬ身で、よくも我を見下ろす』
「見下ろしてない」
むしろ逆だ。
「ただ……そう見えるだけだ」
血、呼吸。
力を誇示しない態度。
本当に余裕があるなら、
俺なんか一瞬で消えてる。
『……奇妙な奴だ』
九尾は小さく息を吐いた。
そして、じっと俺を見る。
『それに貴様の内は空白だな』
ぐさっときた。
「知ってる」
『だが完全な空ではない』
胸の奥が、また軋む。
『これは、力が封じられているな』
「……は?」
『霊泉に枷がある。貴様は無能ではない』
頭が追いつかない‥無能じゃない?
じゃあ何だ。
『封じられているだけだ』
あまりにもあっさり言う。
俺が何年悩んだと思ってる。
「……それ、どうにかなるのか」
情けない声だった。
『我を助ければ、一時的に緩められる』
心臓が跳ねた。
「助けるって」
『仮契約だ。我の妖力を流す』
「それは大丈夫なのか‥危険は?」
『ある』
即答。
『器が耐えられねば壊れる』
嘘はなさそうだった。
断れば、今まで通り。
でも‥。
何もできないでずっと皆を見ているだけ。
胸の奥が、強く軋む。
あの訓練場で感じたやつだ。
何もないはずの場所で、確かに何かが動いた。
それが本物なら。
「……やるよ」
『即答か』
九尾が少しだけ目を細める。
『愚かだな』
「慣れてる」
それでも、止まれない。
「何もできないまま終わるのは、もう嫌なんだ」
沈黙。
やがて九尾は、静かに名を告げた。
『我は葛葉』
その瞬間、空気が震える。
『契約を結ぶ』
光が胸へ流れ込む。
「――っ!」
痛み。
内側に張り付いていた何かが、軋む。
壊れない。
でも、確実にひびが入る。
そして‥堰き止めていた何かが決壊した。
空気が、違う。
木の鼓動が分かる。
森の奥にある微かな気配が見える。
世界が、急に輪郭を持つ。
「……これが」
ずっと俺だけ持ってなかったもの。
『まだ解いたのは表層の部分だけだ』
葛葉の声が、少し近い。
『無理をすれば反動が来る』
「それでもいい」
拳を握る。掌に、確かな重み。
胸の奥で、力が脈打っている。
もう空っぽじゃない。
その瞬間。
森の奥から、別の気配が動いた気がした。
――封じられていた何かが、目を覚ます。
『……始まったか』
葛葉が、低く呟いた。
‥玄弥はまだ知らない。
この出会いが長い因縁を動かしたことを。
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