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幕間 鵺と酒呑童子
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濃い瘴気が淀む、歪んだ広間。
柱は骨のように白く、床には古い呪文が幾重にも刻まれている。
時間の概念すら曖昧なその場所で、二つの影が向かい合っていた。
「いやぁ、見ただろ?」
鵺は愉快そうに笑った。
人の形を保ちながらも、背後に揺らぐ異形の影が、その正体を隠そうともしない。
「半殺しだぜ、あのガキ」
肩をすくめ、誇らしげに続ける。
「九尾の力も借りられねぇ状態でよ。
泣きそうな顔で立ってやがった」
その向かい。
酒呑童子は、盃を傾けたまま、深く息を吐いた。
「……自慢するほどのことか?」
鵺の笑みが、わずかに歪む。
「違う」
酒呑童子の声が、ほんの少しだけ重くなる。
「あれは生き残る」
「そして、必ず戻ってくる」
鵺は一瞬だけ黙り込み、それから肩を鳴らした。
「だから面白ぇんだろ」
「弱ぇくせに、折れねぇ目をしてやがる」
「九尾‥葛葉がああいうのを育てたがる理由が分かったぜ」
酒呑童子は、天井――いや、そのさらに奥を見る。
そこには、巨大な封印の気配。
世界の底に沈められた、王の存在。
「……その“面白さ”がな」
「今は、余計だと言っている」
空気が、軋む。
酒呑童子は続けた。
「我が王の封印が、軋み始めている」
鵺の表情が、ようやく引き締まる。
「時間の問題、ってやつか」
「そうだ」
酒呑童子は静かに言った。
「王が目覚めれば、
人間も、妖怪も、区別はない」
「半端な遊びは、いずれ首を絞める」
鵺は、しばらく黙った後、にやりと笑った。
「だったら尚更だ」
「その前に――
あのガキがどこまで行くのか、見てみてぇ」
酒呑童子は、再び盃を取る。
「……好きにしろ」
「だが覚えておけ、鵺」
視線が、鋭くなる。
「王が完全に目覚めた時、
“遊び”は真っ先に踏み潰される」
鵺は笑ったまま、背を向けた。
「それでもいいさ」
「壊れるなら――
派手な方が、楽しいだろ?」
瘴気が、再び濃くなる。
封印の奥で、
何かが、確かに目を覚まそうとしていた。
瘴気の薄れた回廊。
鵺は、気だるげに歩いていた。
先ほどまでの愉快さは消え、代わりに退屈そうな顔をしている。
「……ちげぇな」
ぽつりと漏らす。
「殺しきれねぇなら、
壊し方を変えりゃいい」
立ち止まり、指先で空をなぞる。
そこに浮かぶのは――
血でも、死体でもない。
“居場所”。
「人間ってのはよ」
鵺は、鼻で笑った。
「身体より先に、
居場所を失うと折れる」
仲間。
学園。
帰る場所。
守るべき日常。
「力を与えても、
それを使う理由が消えりゃ意味がねぇ」
ふと、思い出す。
半殺しにした時の、あの目。
恐怖じゃない。
怒りでもない。
守れなかった後悔。
「……あぁ、そうだ」
鵺の口元が、歪む。
「居場所だ」
「お前が戻る場所を、
先に壊しちまえばいい」
指を鳴らす。
空間の奥で、何かが応じる気配。
「学園」
「仲間」
「信じてる大人ども」
一つずつ、言葉にしていく。
「全部、疑わせてやる」
「全部、守れなかったって
思わせてやる」
鵺は、満足そうに息を吐いた。
「強くなろうが、
正しくあろうが――」
「帰る場所が無ぇ英雄ほど、
惨めなもんはねぇからな」
瘴気が、静かに渦を巻く。
その中心で、鵺は笑った。
「さぁて……」
「次は、
お前の“世界”を壊しに行こうか」
遠く。
まだ修行を続ける玄弥は、
理由の分からない悪寒を、
ほんの一瞬だけ感じていた。
柱は骨のように白く、床には古い呪文が幾重にも刻まれている。
時間の概念すら曖昧なその場所で、二つの影が向かい合っていた。
「いやぁ、見ただろ?」
鵺は愉快そうに笑った。
人の形を保ちながらも、背後に揺らぐ異形の影が、その正体を隠そうともしない。
「半殺しだぜ、あのガキ」
肩をすくめ、誇らしげに続ける。
「九尾の力も借りられねぇ状態でよ。
泣きそうな顔で立ってやがった」
その向かい。
酒呑童子は、盃を傾けたまま、深く息を吐いた。
「……自慢するほどのことか?」
鵺の笑みが、わずかに歪む。
「違う」
酒呑童子の声が、ほんの少しだけ重くなる。
「あれは生き残る」
「そして、必ず戻ってくる」
鵺は一瞬だけ黙り込み、それから肩を鳴らした。
「だから面白ぇんだろ」
「弱ぇくせに、折れねぇ目をしてやがる」
「九尾‥葛葉がああいうのを育てたがる理由が分かったぜ」
酒呑童子は、天井――いや、そのさらに奥を見る。
そこには、巨大な封印の気配。
世界の底に沈められた、王の存在。
「……その“面白さ”がな」
「今は、余計だと言っている」
空気が、軋む。
酒呑童子は続けた。
「我が王の封印が、軋み始めている」
鵺の表情が、ようやく引き締まる。
「時間の問題、ってやつか」
「そうだ」
酒呑童子は静かに言った。
「王が目覚めれば、
人間も、妖怪も、区別はない」
「半端な遊びは、いずれ首を絞める」
鵺は、しばらく黙った後、にやりと笑った。
「だったら尚更だ」
「その前に――
あのガキがどこまで行くのか、見てみてぇ」
酒呑童子は、再び盃を取る。
「……好きにしろ」
「だが覚えておけ、鵺」
視線が、鋭くなる。
「王が完全に目覚めた時、
“遊び”は真っ先に踏み潰される」
鵺は笑ったまま、背を向けた。
「それでもいいさ」
「壊れるなら――
派手な方が、楽しいだろ?」
瘴気が、再び濃くなる。
封印の奥で、
何かが、確かに目を覚まそうとしていた。
瘴気の薄れた回廊。
鵺は、気だるげに歩いていた。
先ほどまでの愉快さは消え、代わりに退屈そうな顔をしている。
「……ちげぇな」
ぽつりと漏らす。
「殺しきれねぇなら、
壊し方を変えりゃいい」
立ち止まり、指先で空をなぞる。
そこに浮かぶのは――
血でも、死体でもない。
“居場所”。
「人間ってのはよ」
鵺は、鼻で笑った。
「身体より先に、
居場所を失うと折れる」
仲間。
学園。
帰る場所。
守るべき日常。
「力を与えても、
それを使う理由が消えりゃ意味がねぇ」
ふと、思い出す。
半殺しにした時の、あの目。
恐怖じゃない。
怒りでもない。
守れなかった後悔。
「……あぁ、そうだ」
鵺の口元が、歪む。
「居場所だ」
「お前が戻る場所を、
先に壊しちまえばいい」
指を鳴らす。
空間の奥で、何かが応じる気配。
「学園」
「仲間」
「信じてる大人ども」
一つずつ、言葉にしていく。
「全部、疑わせてやる」
「全部、守れなかったって
思わせてやる」
鵺は、満足そうに息を吐いた。
「強くなろうが、
正しくあろうが――」
「帰る場所が無ぇ英雄ほど、
惨めなもんはねぇからな」
瘴気が、静かに渦を巻く。
その中心で、鵺は笑った。
「さぁて……」
「次は、
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遠く。
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理由の分からない悪寒を、
ほんの一瞬だけ感じていた。
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