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聞こえてしまった言葉
しおりを挟む偶然の出会い
ある日の夕暮れ、アルトゥールは執務室での仕事を終え、庭園を歩いていた。普段であればそのまま自室へ戻るのが常だったが、この日はなぜか庭の空気を吸いたくなった。
「少し疲れているのかもしれないな……」
そう呟きながら彼は石畳の小道を進む。花々が咲き誇る庭園は、手入れが行き届いており、四季折々の美しさを見せていた。だがアルトゥールの目にはそれがただの背景にしか映っていなかった。
その時、彼はかすかな声を耳にした。庭園の奥、誰もいないはずの場所から聞こえるその声は、どこか聞き覚えのあるものだった。
「セシリア……?」
婚約者の本音
アルトゥールが近づくと、そこにはセシリアが立っていた。彼女は誰かと話しているようだったが、相手の姿は見当たらない。
「まさか独り言か?」
彼は物陰に隠れ、耳を傾けた。セシリアは静かに、だがどこか悲しげに話していた。
「アルトゥール様は、私のことをどう思っているのかしら……。いいえ、それを聞く勇気なんて、もうないのよね。」
その言葉に、アルトゥールの胸がざわつく。彼女の声は震えており、笑顔の裏に隠されていた苦悩が露わになっていた。
「きっと、アルトゥール様にとって私はただの形式的な存在。未来に彼が傍にいることなんて、想像できないわ……。」
その言葉を聞いた瞬間、アルトゥールの胸に鋭い痛みが走った。
「彼女が私を信じていない……?」
だがそれ以上に、自分が彼女にとって「未来にいない存在」とみなされていることに、強い違和感を覚えた。
アルトゥールの動揺
その夜、アルトゥールは自室で一人考え込んでいた。普段であれば、彼は必要以上に感情に左右されることはなかった。だが、この日のセシリアの言葉は彼の心に深く刻み込まれていた。
「彼女は私を見限ったというのか……?」
彼は思い出す。セシリアがいつも自分に微笑みかけ、愛を伝えてくれる姿を。それが単なる義務感から来るものではなく、真心からの行動であることを彼は薄々感じていた。
「なぜ彼女はそう思うのだろうか……。いや、そもそも、私が彼女に対して何もしていないからか。」
アルトゥールはふと、今までの自分の態度を振り返る。セシリアの愛情に対して、彼は何かを返したことがあっただろうか?彼女が自分をどれだけ思っているかに気づいていながら、その思いを受け入れることを拒んでいたのではないか。
自分の感情を探る
アルトゥールは胸の中に湧き上がる感情の正体を探ろうとした。
「彼女を失う……?」
その未来を思い描いた瞬間、彼の中に込み上げてきたのは不安と焦燥感だった。
「私はなぜ、これほど動揺しているのだ……?」
彼女が自分を愛していることは知っている。そして、それが自分にとって当たり前のものだと思っていた。だが、彼女がその愛情を引き下げる未来があると考えたとき、彼の心は乱れていた。
彼女との距離
翌日、アルトゥールはセシリアに声をかけることを決意した。だが、彼女の前に立つと、何を言うべきか分からなくなってしまった。
「アルトゥール様、どうかなさいましたか?」
彼女が微笑みながら問いかける。その笑顔の裏に隠された不安を知ったアルトゥールは、つい目を逸らしてしまう。
「いや、何でもない。ただ、お前の……体調が気になっただけだ。」
「まあ、ありがとうございます。私は元気ですわ。」
彼女の穏やかな声に、アルトゥールは言葉を詰まらせた。それ以上話を続けることができず、その場を立ち去るしかなかった。
彼女への興味
それからというもの、アルトゥールは無意識のうちにセシリアを目で追うようになった。彼女が友人たちと楽しそうに話している姿や、使用人たちに優しく声をかけている様子。
「彼女は、なぜあんなにも多くの者に愛されるのだ……?」
彼は考える。自分には持ち得ないもの――人を惹きつける温かさ。それが彼女の本質であり、自分が彼女を惹きつけられる理由でもあったのではないか、と。
結論の出ない夜
アルトゥールは、セシリアの言葉の意味を改めて考え直していた。「未来にあなたがいない」という言葉。その裏に込められた悲しみや諦めに気づいた彼は、彼女のために何かを変えなければならないと感じていた。
だが、それをどう実現すればいいのか分からなかった。
「私は、彼女を必要としているのか?」
彼の胸中で初めて生まれた問い。それが何を意味するのかは、この時点ではまだ答えが出せなかった。
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