サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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序章.美しき想い出

7.対策会議

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急いでクレルを連れて、いつも講義をしている秘密の場所へと行く……途中に医務室へと寄って救急セットを持ち出して走る。

「着いた……!」

「はぁはぁ……」

「疲れてるところ悪いけど、誰も着いてきてないか確認して!」

「う、うん!」

 はぁ~、焦ったぁ……いざという時に頭が真っ白になっちゃうのはダメね、危うくクレルが居なくなるところだったわ……。

「……多分誰も居ないよ」

「そう、良かったわ……話をする前にまずはクレルの傷の手当をしなきゃね?」

 もう本当にディンゴの奴ったら手加減を知らないんだから! うわ、痛そう~……クレルの治療をしながらどうしてやろうかと考える。

「うっ、ち、近い……」

「……私まで意識しちゃうじゃない」

「ご、ごめん……」

 クレルのバカ……なんでただの治療で赤くなるのよ、赤くならなくちゃいけないのよ……。

「……」

「……」

 うぅ……すごく恥ずかしいわ! これは治療のためだから! 治療のために仕方なく顔を近づけているだけだから!

「お、終わったわ!」

「あ、ありがとう!」

「……」

「……」

「…………話し合いを始めるわよ」

「う、うん……」

 ち、調子が狂うわね……んんっ! 今はそれどころじゃないわ! 真面目にしっかりしないと! 狩人がこの領地に来ているんだから。

「魔女狩りが行われたから帝都から機士じゃなくて狩人が来たのはもう知ってるわよね?」

「さっき会ったね」

「そうね、でももしかしたらさらに来ているかも知れないの」

「……どういうこと?」

 本来狩人は自分が狩人だって事をバラさないし、正体を隠して行動するもの……それが堂々と一人で来るなんてありえないわ。

「だから、ボーゼス特務大尉を囮にして他に隠れて行動している狩人が最低でももう一人居るかもしれないのよ」

「それは……確実に僕が疑われるだろうね」

 目の前にわかりやすいガナン人が居るものね、まず疑うはずだわ。

「さっきはディンゴのアホのおかげでなんとか誤魔化せたけど……」

「次も上手くいくとは限らないね」

 そうなのよね……多分勢いに呑まれてボーゼス様も抜け出す許可を出しちゃっただけだろうし、多分というか絶対に疑ってかかると思う。

「それにもう一人の狩人はさっきの出来事なんて知らないだろうから、騙されてくれないと思うの」

「……ガナン人がいたら即座に魔法使いを疑うだろうしね」

 そもそも魔法を使えるのがガナン人だけだしね……。

「そもそもなぜガナン人は迫害されているの? 魔法を使えるだけで魔物を意図的に産み出す訳じゃないんでしょ?」

「それは……四千年前の大戦がまだ尾を引いているんだろうね、まだ技術革新が起きてなかった前半戦は魔法の力で僕たちガナン人は常勝無敗だったみたいだし」

 そうなの? 私が習った歴史とやっぱり違うのね……ガナン人は魔物を産み出す悪魔だからレナリア人が成敗した! みたいな感じだったけれど。

「ただ……魔法を行使し過ぎた反動で後半戦になると魔法使いの大半が魔物になったり、見た目が人間ではない異形の者と化したり……多分レナリア人には本当の悪魔に見えただろうね」

 まぁ、確かに自分たちが戦ってきた相手がいきなり魔物に変質したら恐ろしいと思うわ……。

「当時は僕たちガナン人を人類共通の敵とすることで士気の崩壊を防いだり、他の諸民族と同盟を結べた面もあるし……なによりもガナン人たちの戦力が少なくなった頃に戦争による技術革新が起きて、最終的にはレナリア人が大戦を勝ち抜いたから……」

「……ガナン人が悪でレナリア人が正義という建前の元で建国されたのね」

「そうだよ……僕たち側の歴史だけどね」

 さらには大戦の結果として魔力残滓が多くの土地を汚染し、レナリア人まで魔物に変えたことからガナン人に対する迫害が強まったと……私の領地みたいな田舎でも酷いとは思うけど、両方の歴史が混ざって伝わってるからまだマシで、帝都に近くなればなるほどガナン人憎しの傾向は強まるみたいね……。

「まぁ、なにか失策をした時に丁度いい少数民族で、歴史的にも争い下した相手に不満の矛先を逸らすのは為政者たちにとっても都合が良かったんだろうね」

「でも、それを知っているはずの狩人までなんで……」

「それは知らないけど……歴史教育がいきすぎて帝都のお偉いさんですらガナン人が魔物を産み出してるとでも思ってる人がいるんじゃない?」

 確かにその可能性も高いわね……それに魔力を取り込んで本当の意味で魔物を討伐できるのはガナン人だけみたいだし、一応魔法使いを倒して収束したというポーズが欲しいのかしら?

「でもそれじゃあ、説得や無害アピールで見逃して貰うのは無理ね……」

「……あぁ、そのつもりだったんだ?」

「当たり前じゃない、正面から抵抗したって勝てるわけないもの……」

 でもそもそも魔法使いが魔物を産み出すわけではないと知っていて狩りに来るのなら無理そうね……どうしようかしら? ボーゼス様には既にクレルの存在はバレているし……。

「ああもう! どうしたらいいのよ!」

「うーん、しばらくは魔法を使わないようにするとか?」

「……でもそれは不味いんでしょ?」

「うん、まぁ……」

 この前講義で教えてくれたじゃない、しばらく魔法を使わなかったら繊細なコントロールが出来なくなって危険だって!

「むむむ……もう一人にはバレないように隠れましょう!」

「えぇ……? 無理だよ……」

「無理かはやってみなくちゃわからないわ!」

 もうこの手しか思い付かないもの、仕方ないわ。

「とりあえずボーゼス特務大尉は三日間この屋敷で色んな人に話を聞いて回ってから、街やその周辺で調査するって言ってたから、その間にもしものための準備をするわよ!」

「……もしもって?」

 そんなの決まってるじゃない、もしもクレルが殺されそうになった時のために一時的な目くらましと逃げる準備よ!

「わかった?」

「上手くいくとは思えないけど……」

「わ・か・り・ま・し・た・か・?!」

「わ、わかったよ」

 本当かしらね? ……でもクレルが死んだら嫌だし、なんとかしなきゃいけないわ……私はお姉さんだもの…………。

「まずは玉ねぎと香辛料で爆弾を作るでしょ? それから……」

「……」

 あとは……逃げる時に油を撒いて滑らせましょうかね?

「とりあえず、対策をどんどん考えるわよ!」

「……本当に大丈夫かな?」

 クレルがなにか言っているのを無視して案を忘れないうちに書き出しておきましょう。

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