サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

文字の大きさ
8 / 140
序章.美しき想い出

6.狩人 ボーゼス・マクフォドルその2

しおりを挟む
「次だ、被害者たちはどんな時間帯にどんな場所で被害に遭った?」

 地下牢から出て開口一番にボーゼス様はさらに詳しく状況説明を求めてきますね、やはり仕事に真面目な……真面目すぎる方のようです。

「……最初は深夜の路地裏や橋の下など暗い場所で起きていました」

「……最初は?」

「それが、最近では深夜というのに変わりはありませんが大通りなどでも被害が出始めて……」

 そうなのよね、最近では犯行が大胆になってきているのよね……けれど不可解なのは首を浅く切られただけとか、腹部や足を刺されただけとか、今までと比べて被害の程度が低い気もするのよね……。

「……あぁ、おそらく『共感』したのだろう」

「……共感、とは?」

「魔物の『願望』や『目的』という強い思念の伴った魔力に一般人が当てられて、同じような行動に出てしまう……いわば模倣犯のようなものだな」

 共感……例えばある魔物が『肉が食べたい』という『願望』によって産まれ、長いこと同じ場所に留まると、その魔物から発せられた魔力に乗った魔物の根源とも言うべき思念に当てられて、周囲の人間が『人肉だろうが構わず肉を食べ始める』ということらしい……。

「『共感者』が出たということは……産まれてから大分時間が経っているな」

「……それだと、やはり不味いのですか?」

「あぁ、人の欲望や願望に際限などないからな……一時満たされれば加速度的に次も次も、さらにより多くと被害が増えるぞ」

 ……まさか、さらに被害が増えるだなんて……それどころかその共感者たちも魔物予備軍として殺されてしまうのかしら?

「……アリシア嬢、安心しなさい。共感しただけでは魔物予備軍とは言えない」

「っ! ……そう、ですか」

 どうやらこちらの表情から考えていることが読まれてしまったようですね、気を付けないとクレルの事もバレてしまうわ。

「……ただ、このまま放っておくと処分しなければならなくなるのも確かだ」

「っ?! ……で、では」

「安心しなさい、そうならないために私が派遣されて来た」

「……はい」

 そうなのね、共感者たちも今はまだ平気なだけでいずれは……時間が経ちすぎれば魔物予備軍として扱われるのね。

「では早速──あれはなんだ?」

「? どれですかな?」

 どうしたのかしら? ボーゼス様が急に立ち止まり、指を指した先には──

「あぁ?! あなたまたクレルを殴ってるわね?!」

「げっ、やっべ!」

「げっ、やっべ! じゃないわよ!」

 ま~たディンゴがクレルを殴って虐めていたわ! もう! クレルも少しは反撃すればいいのに!

「大丈夫? クレル……」

「ぼ、僕は大丈夫だよ……それよりもお客様が来てたんじゃ?」

「あっ!」

 ま、不味いわ……どうやってクレルを隠し通すか考えていたのに、うっかり飛び出してきてしまったわ……どうしよう……。

「アリシア嬢、そちらは? 見たところガナン人のようですね」

「あ、これは……その……」

 どうしよう……頭が真っ白になっちゃってなにも言い訳が思いつかない。

「……ボーゼス様、こちらの少年がなにか? ガナン人というのがなにか関係が?」

「……田舎では貴族であろうとろくに教育を受けていられないと見える。……先ほど地下牢で話したように、魔法使いは全てガナン人だ……ガナン人しか魔法を行使できない」

「つまりこいつが……」

「ち、違うわ! 彼は魔法使いではないの!」

「……アリシア?」

 早くなにか言い訳を、彼を助ける言い訳を考えないと……なにか……なにかないの……? お父様とボーゼス様の私に向ける視線が段々と険しくなって来て、恐怖で震えてしまう。

「……アリシア、狩人が来たのなら仕方ないよ、君の立場まで悪くなってしまうよ」

「クレルは黙ってて!」

 庇わなくていいと伝えてくるクレルに小声で怒鳴る。……そんな、クレルを見捨てるなんてできるわけないわ! どうにかして彼が魔法使いでないと──

「──おい、クレル! なにかは知らないけどお前が魔法使いな訳ねぇだろ!! 魔法が使えるんなら今ここで飛んでみろよ!」

「ディンゴ……?」

 何を言っているの? 今はそんな時ではないし、ここで彼に魔法を使わせようとするなんて……いや、まさか?

「そんな、空なんて飛べるわけないだろ?」

「なんだと? お前旦那様やお客様に嘘ついたのか! こうしてやる!」

「痛い! 痛いよ! どうしていつも同じところばかり殴るのさ!」

 これ、は……止めるべきなのかしら?

「ふん! 俺に殴られた痣すら治せないのに魔法使いを自称するからだ! いいか? この辺にしといてやるが二度と嘘つくんじゃないぞ! わかったな?!」

 そう言ってディンゴは物凄い勢いで逃げていく……見ればお父様とボーゼス様も呆気にとられているわね?

「……って、あの子またクレルのこと殴って! 大丈夫? すいません、お父様、ボーゼス様、途中で抜けることをお許しください」

「あ、あぁ……私は構わないが」

「あのディンゴとやらには私からお仕置きしておこう、アリシアはその子を医務室に連れて行ってあげなさい」

「ありがとう存じます、では……クレル行くわよ」

「う、うん……?」

 クレルは未だに状況について行けてないけど、大丈夫。なんとかお父様とボーゼス様を誤魔化す事ができたわ、癪だけれどこの時ばかりはディンゴに感謝しなくちゃいけないわね?

「……クレル、これから少し話せる?」

「……別にいいけど?」

「そう、ならよかったわ」

 とりあえず、話をする前にクレルを治療しなくちゃいけないわね……。

▼▼▼▼▼▼▼
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...