サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

文字の大きさ
10 / 140
序章.美しき想い出

8.襲撃

しおりを挟む
「この前はアリシアが酷かったな……」

 思わず脱力してしまう対策会議から数日が経過し、ボーゼス特務大尉が領主の屋敷から調査に出て二日が過ぎた夕方頃。

「じゃーん、これなんでしょう!」

 脱力する対策会議の事を思い出しながらいつもの場所へと辿り着くと、アリシアが変な物を見せてくるために、微妙な表情をしてしまう。

「……なにこれ」

「なにこれとは失礼ね! 作ったのよ!」

 どうやら作ってしまったらしい。その形状はなんとも言えないぐちゃぐちゃな曲線を描いた……ボール? 楕円形? と疑問符がつく、とにかく変な物で……お世辞にもとても喜ぶほど凄いものには思えず、一目で遠慮したい物だった。

「この前言ってたじゃない」

「なにを?」

「対策として爆弾作るって!」

「……え? いや、まさか本当に?」

 嘘でしょ……本当に作っちゃったの? えぇ……本当に効くかもわからないのに? あの『玉ねぎ香辛料爆弾(byアリシア命名)』……まさか先日に話した突拍子もない物を、実際に作るのとは思わなかったから……さすがに困惑を隠せない。

「作ったのよ!」

「作っちゃったかぁ~」

 そっかぁ~、本当に作っちゃったんだねぇ……いや、僕のために彼女が何かをしてくれるのは嬉しいけどね……。

「そうなのよ! この頭頂部についたボタンを押すと爆発して、目が染みる煙がぶわっーって出るの!」

「頭頂部……」

 え、それは頭なの? もしかして胴体があったりするの? ちょっとアリシアのセンスがわからない……。

「他にも……ほら、これ!」

「……これは?」

「滑るンデス君二号!」

「二号……」

 あぁ、一号君が居たんだね……もうツッコむのはなしにしよう。

「これはね、従来の一号君と違って、滑らせるだけじゃなくて細かい破片もばら撒くから、相手に痛手を与えることも出来るのよ!」

「あぁ、居なくなったわけじゃないんだね……」

「? なにが?」

「いや、なんでもないよ」

 まぁ、彼女の努力の方向性はよくわからないけれど、僕のために色々と作ってくれるのはすごく嬉しく思うし……頑張らなきゃ! ってなるから構わないか。

「これで無傷とはいかないまでも時間稼ぎできるし、魔法も使えば逃げる事ができるかも知れないわ!」

「そ、そう上手くいくかな?」

 日課の魔法の練習は欠かした事はないけれど、僕はまだ魔力を取り込んで、自身を強化した事はない……そんな経験も浅ければ低出力ですらある魔法で、なにができるだろう。

「上手くいかせるのよ! 私がなぜあなたに声を掛けたか覚えてる?」

「えっと、魔法を使いたかったから?」

 いきなりなんだろう? 確か……魔法で空を飛びたいとか言ってた気が……いや、これは冗談だったっけ?

「じゃなくて、魔法を使いたかったのは事実だけど、それは領民を……色んな人を救いたかったからよ!」

「あぁ……無謀だって止めたね」

 まさかただの一般人である彼女が魔物と戦おうとするんだもん……驚くよ。

「まぁ、確かに今はそうかなと思ってるけど……じゃなくて! 色んな人を救いたいのに、友達も助けられないんじゃダメでしょ?!」

「う、うん!」

 話を脱線させるなとばかりに睨み付けられるのでとにかく首を縦に振る。

「だから……絶対に見捨てないわ」

「アリシア……」

 気持ちは嬉しい……でもアリシアはレナリア人で、それも弱小で下級といっても領地持ちの貴族だ……魔法使いなんて庇ったら彼女の立場が危ういだろう、もしもの時は僕が───────

「───────魔法使いを発見、これより『狩り』を行う」

「え──がっ?!」

 知らない男性の声が聞こえたと思った時には横腹に強い衝撃を感じながら吹き飛ぶ。……あまりの痛みに意識が飛びそうになる……な、なにが起きたの? ここはどこ?

「げほっ、ごほっ!」

 ……どうやら庭の端から屋敷まで飛ばされたらしい? 壁をぶち抜いて中に転がり込んでいる。うぅっ……すごく痛いけど、逃げなきゃ!

「意外と頑丈だな……?」

 速い! もう追い付いて来た?!

「ぼ、僕はガナン人だけど魔法使いじゃない!」

「知らんな、申請されていないガナン人は魔法使いと同じ扱いだ」

 やっぱり説得は無理そうだね、そもそもボーゼスが見逃してくれたのが奇跡だったんだ。

「ぐっ……『我が願いの対価は石一つ』」

「……子どもか、一々詠唱を唱えなければ魔法も発動できんとは」

 クソっ! 集中しろ! いつもと違って難しいけど、今は魔法の力が必要だ。

「『望むは敵撃つ礫、転がり回る捨て身の一撃 その身を犠牲にする献身を!!』」

 壁をぶち破った時にできたコンクリートの破片を浮かし、回転させ、相手に飛ばす!

「ふん!」

 しかしながら僕の攻撃は彼の手に持っていた機械のような剣で簡単に払われ、牽制にすらならない。

「ぐっ!」

 こんな時に石の記憶なんて要らないんだよ! あぁ……クソっ! よくメイドさんに拭かれるんだね?! 噂話もいいんだよ!!

「……たかがその程度の魔法行使で引っ張られているのか? ……ボーゼス特務大尉殿はなぜコイツを放っておいている?」

 やっぱり魔力をろくに取り込んで強化されていない僕じゃ、まだ巧く魔法を使えない……こんなんじゃより対魔法使いに特化した狩人から逃げられるわけない。

「こっちよ!」

「……お嬢様? 魔法使いを庇われるのは重罪──ぐっ?!」

「アリシア?!」

「早く逃げるわよ!」

 そのままアリシアは僕の手を取って逃げる……あれだ、玉ねぎ香辛料爆弾だ……本当に効くんだ、凄い……ていうか、それよりも!

「アリシア! わかってると思うけど魔法使いを庇うのは重罪だ! 君の立場が危うい!」

「そんなことわかってるわよ! いいから早く逃げるわよ!」

 ダメだよ、アリシアまで殺されてしまうなんてそんな……なんで僕にそこまで?

「ダメだよアリシア、君まで──」

「──私が庇ってるのは悪い魔法使いじゃなくて大事な友達よ! いい?! 私はできるだけ多くの人を救いたいの! 身近な友達くらい助けられなくて、そんなことできるわけないじゃない! あなたは黙ってお姉ちゃんである私を頼りなさい!」

 ──そうか、君はそこまで……なら僕も覚悟を決めよう! 女の子にここまで言わせて引っ張られてるだけじゃお母さんに怒られちゃうよ。

「『我が願いの対価は華一輪、望むは癒し』」

 まずは殴られ壁に激突した際にできた傷を癒す。

「『我が願いの対価は石五つ、望むは敵撃つ礫、転がり回る捨て身の一撃 その身を犠牲にする献身を!!』」

「えいっ!」

 アリシアが投げた玉ねぎ香辛料爆弾と一緒に石礫の雨を降らせる、対価とした壁が虫食いのように穴あきになるけど……アリシアなら許してくれる……よね?

「……舐めた真似をしてくれますね?」

 涙を流しなら顔を歪め、こちらを追ってくる。

「お嬢様、子どもの遊びにしてはおイタが過ぎますよ? 二回目です、ソレをこちらに引渡しなさい」

 やっぱり僕とアリシアじゃ扱いが全然違うようだね、向こうから呼びかけているくらいだ……逆に言えばまだ相手は本気になってすらいない今が最後のチャンスだろう。

「油……文字通りの児戯ですな」

 彼の持っている機械のような剣かすら怪しいものから『プシュー』という空気の抜ける音と共に蒸気が溢れ、一気に油ごと周囲を凍らせる。

「ねぇ……アリシア、あれなに? 蒸気ではないよね?」

「私も狩人や機士が扱う特殊な兵装ってことくらいしか知らないわ!」

 走りながら会話を交わし、その合間に準備を終わらせたものから魔法で石礫を飛ばし、床の木材を槍衾にするが……全く通じてないし、相手の追跡速度が微塵も鈍らない。このままだとアリシアまで裁かれるのは時間の問題……どうすればいいのかわからない、なにか他に手は?!

▼▼▼▼▼▼▼
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!

サイコちゃん
恋愛
十二歳の少女が男を殴って犯した……その裁判が、平民用の裁判所で始まった。被告はハリオット伯爵家の女中クララ。幼い彼女は、自分がハリオット伯爵に陥れられたことを知らない。裁判は被告に証言が許されないまま進み、クララは絞首刑を言い渡される。彼女が恐怖のあまり泣き出したその時、裁判所に美しき紳士と美少年が飛び込んできた。 「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」 飛び込んできたのは、クラリッサの父であるユクル公爵と婚約者である第二王子サイラスであった。王家と公爵家を敵に回したハリオット伯爵家は、やがて破滅へ向かう―― ※作中の裁判・法律・刑罰などは、歴史を参考にした架空のもの及び完全に架空のものです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

やり直し令嬢は箱の外へ、気弱な一歩が織りなす無限の可能性~夜明けと共に動き出す時計~

悠月
ファンタジー
 これは、狭い世界に囚われ、逃げ続けていた内気な貴族令嬢が、あるきっかけで時間が巻き戻り、幼い頃へ戻った。彼女は逃げるように、過去とは異なる道を選び、また周囲に押されながら、徐々に世界が広がり、少しずつ強くなり、前を向いて歩み始める物語である。  PS:  伝統的な令嬢物語ではないと思います。重要なのは「やり直し」ではなく、「箱の外」での出来事。  主人公が死ぬ前は主に引きこもりだったため、身の回りに影響する事件以外、本の知識しかなく、何も知らなかった。それに、今回転移された異世界人のせいで、多くの人の運命が変えられてしまい、元の世界線とは大きく異なっている。  薬師、冒険者、店長、研究者、作家、文官、王宮魔術師、騎士団員、アカデミーの教師などなど、未定ではあるが、彼女には様々なことを経験させたい。 ※この作品は長編小説として構想しています。  前半では、主人公は内気で自信がなく、優柔不断な性格のため、つい言葉を口にするよりも、心の中で活発に思考を巡らせ、物事をあれこれ考えすぎてしまいます。その結果、狭い視野の中で悪い方向にばかり想像し、自分を責めてしまうことも多く、非常に扱いにくく、人から好かれ難いキャラクターだと感じられるかもしれません。  拙い文章ではございますが、彼女がどのように変わり、強くなっていくのか、その成長していく姿を詳細に描いていきたいと思っています。どうか、温かく見守っていただければ嬉しいです。 ※リアルの都合で、不定期更新になります。基本的には毎週日曜に1話更新予定。 作品の続きにご興味をお持ちいただけましたら、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです。 ※本作には一部残酷な描写が含まれています。また、恋愛要素は物語の後半から展開する予定です。 ※この物語の舞台となる世界や国はすべて架空のものであり、登場する団体や人物もすべてフィクションです。 ※同時掲載:小説家になろう、アルファポリス、カクヨム ※元タイトル:令嬢は幸せになりたい

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...