サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

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第四章.救えない

17.任務終了

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「はぁはぁ……『我が願いの対価は同胞の血肉 望むは命綱 崩落する母屋 嘆く君を連れて 僕は落ち延びる』」

 あのじゃじゃ馬娘が……いったい何者だ? 生きてる人間、それも同胞の生命を『対価』として行使する魔法で倒し切れない? それどころか追い詰められてすらいる……任務の失敗に拠点の放棄、叱責は免れないだろうが、ここは撤退するしかないな。

「……逃げるでありますか、クソ猿」

「ゲホッ……言ってろ、じゃじゃ馬ゴリラ」

 なんであれだけの大魔法を放ったというのに奴は無傷でピンピンしてるのさ……本当にレナリア人? 魔力で強化したガナン人でもここまで頑丈な奴はそう居ないよ? ……せめて『緋色』を攫っておきたかったが……じゃじゃ馬娘が居る以上は無理だね。

「……ねぇ」

「……ん? なんだい? 『緋色』ちゃん」

「貴方達は何が目的なの……」

 うっわ~、なんだか『緋色』ちゃんってば凄い哀愁を漂わせてるね? 何かあった──あぁ、子ども達の事かな?
 ……なんでレナリア人の君が、ガナン人を助けられなくて落ち込んでるのさ。意味が分からない。

「……から聞いてない?」

「っ! ……なに、も……聞いて……ない、わ……」

 ふーん? 彼は今何処に居るのか聞いてたぐらいだし、やはり聞かされていないのか……とは言っても俺だって細かい所、最終的に何を目指してるのかは知らない。
 魔法使いにとって生きづらいこの時代で良い思いが出来るから所属してるだけだしね。

「さぁ? 国家転覆じゃない?」

「……私があなた達を救いたいって言ったら……どうする?」

 …………はぁ? 救う? ……レナリア人が? ガナン人を? ……冗談キツイなぁ? 甘い考えとかではなく、本気で言ってるのなら頭をお得意の文明の力で見てもらった方が良いんじゃないかな? まぁ結局は──

「──それを支配者層のレナリア人が言うなよ」

「っ! ……そう、ね」

 最後の同胞を『対価』として発動した魔法によりこの場から離脱する。
 最後まであのじゃじゃ馬娘は俺を睨み付けていたが……時間切れだ、とりあえず後はさらにこの地方都市から脱出するだけだ。

▼▼▼▼▼▼▼

「クソッ!」

 あのじゃじゃ馬娘め……最後の最後にぶっ放しやがって……クソが、狙撃された肩が痛てぇ。俺は『生命』の魔法で干渉するのは苦手なんだよ……後でジジイに治して貰うか?

「Hello~?」

「っ?!」

 ……今日は本当にツイてないな。
 あれは……軍馬か、ということは……なるほど? 最初から逃がさないために機士が包囲していたのか。ふざけた表情をしているが……階級章は大尉、しかも……。

「​……特務大尉かよ」

「YES! I am the most handsome man!!」

 どうする? こんな大物相手にどうやって逃げ切る? 『供物』は……まだあるな。
 だがこれらだけで奴を倒す、もしくは振り切れるとは思えないが……やるしかない。幸いにもまだ同胞を『対価』にした事による魔力超過は残っている。

「『我が願いの対価は繋ぐ鉄寸 望むは天を支える柱』!」

「Why?!」

 自分の足下から魔法で造り出した混凝土の柱を伸ばし、そのままそれに乗って奴から遠ざかる……目立ってしょうがないが今はこの都市から出るのが先決だ。それでも無理なようなら​──

「『​​​──諸共進め​ 貴様は駿馬 風を背後に ディシウス!』」

「ガハッ?!」

 野郎ォ……俺の造り出した柱を足場に人を轢きやがってぇ! 本当にあのじゃじゃ馬娘といい躊躇がねぇな?! とりあえず早く体勢を立てなお​──

「​──How are you?」

「ガァッ?!」

 前輪で腹から押し潰すようにして混凝土の柱ごと叩き落とされる……そのまま地面に激突する前に落下地点に先回りした奴が腕に纏わせた軍馬の一部で俺の腹を貫く……やべぇ、魔力を上手く練れねぇ。

「ふむ……『馬上槍』も使えますな」

「ガハッゴホッ……てんめぇ……」

 普通に喋れんのかよとか、どうでも良い事が頭を過ぎるが……それどころじゃない。現実逃避している場合ではない。
 いくら対魔物のスペシャリストと言っても、魔法使いを相手にできない訳じゃない……そして機士なら、もう既に周囲の仲間に情報を共有しているだろう。……時間がない

「ややっ! 私とした事が!」

「……?」

「機士であるにも関わらず、名乗りを上げる事を忘れるとは……失礼をお許しくださいMr.」

 ……舐めてんのか? なんだコイツは? 敵の前で余裕綽々だな……それとも俺如きは敵じゃないとでも言いたいのか?

「我こそはフライターク・ベンゲン! 栄えある帝国軍『特別災害対策局フルカス』に於いて、特務大尉と機士の位を戴く者なり! 貴殿はさぞ名のある魔法使いとお見受けするが、如何に?」

「……」

 なるほど、コイツは馬鹿正直者という訳か……じゃじゃ馬娘といい、コイツといい……レナリア人に普通の奴は居ないのか。

「……俺の名はグリシャ・カーペンター」

「ほう……であるならば、貴殿があの『名工』のグリシャですか……満身創痍であるにも関わらず、私の攻撃を受けて生きて居られるのも納得です」

「……ふん」

 何が『名工』だ……いくら名持ちとして警戒されていようと、あのじゃじゃ馬娘にまったく手も足も出なかったのには変わらない。
 ……だが、それで必要以上に警戒してくれるなら利用するまで。

「そうだ、俺が『名工』だ……なら分かるだろう? 俺の魔法は本来​──街中で真価を発揮するのだと」

「oh……」

 地下だったからあのじゃじゃ馬娘に負けたと言い訳するつもりはない……コイツに言ったって仕方ないからな。……でも事実であり、脅しの材料となる。

「それに俺は先ほど同胞を『対価』に魔法を発動したばっかりだ」

「Huh?」

「アンタら機士も、こんな街中では本来の力は出せねぇだろ?」

 本来ならば機士は街の外で、大人数で魔物を袋叩きにするのが得意な奴らだ……こんな街中で一人の魔法使いを相手にするのは不得手なはず。
 ましてや俺の得意フィールド、相性が悪過ぎるのは奴も分かっているはず。

「なぁ、なんなら俺は一般人を巻き添えにしても良いんだぜ?」

「……」

「……そう睨むなよ、俺の部下は好きにして良いから逃がせって言ってんだよ」

 ……ダメか? 部下の何人かを捕まえれば俺一人を逃がした所でお咎めは無いはずだ。ましてや俺は名持ちらしいからな。
 だが、逃がすつもりが無いと言うのであれば……有言実行するとしよう。

「……いいでしょう、行きなさい」

「悪ぃな」

 魔力を練る俺を見て本気だと察したのだろう、渋々といった様子で道を空ける奴の横を素通りして港を目指す。……そこに、俺たちの潜水艦が待機しているばすだ。

▼▼▼▼▼▼▼

「おかえり諸君!」

 そう満面の笑みで私たちを出迎えるのは特別対魔機関バルバトス司令部のスズハラ大佐だ……今回の任務は結果だけを見れば大勝利と言っても過言ではないから、でしょうね。

「いやー、最高だよ! 敵の拠点は制圧できたし、何を企んでのかは知らないけれど、奴らの『素材』として扱われていた子ども達もシーラ特務少尉とアリシア准尉のお陰で処分できた!」

「……」

 ……何か、非人道的な実験に使われるよりかは、バルバトスで管理され人として生活できなくなるよりかは……あの場で死んだ方が良かったのかも知れない……そんな風に救えなかった自分を正当化してみる。

「そういえばアリシア准尉から報告のあった路地裏から行ける扉だけど……無くなっていたね。多くの子ども達の足跡があったから、そこから何人か逃げたっぽいね」

 そう……他にも居たのはビックリだけれど、彼らだけでも生きていられているのなら、少しは救われる……それが私なのが自分でも許せないけれど。
 ……でも、多くの子ども達が居て、私の時と同じならまともに動けそうも無いのにどうやって……逃がした人が居たのかしら? 機士に包囲されている中を?

「? かなりの人数でありますか?」

「うん、そうみたいだね」

「そうですか……それは残念であります……」

 シーラ少尉はいつも通りに戻ったみたいだけど、相変わらず魔法使いに対して辛辣なのは変わらない。
 グリシャという敵の幹部を逃がした事が尾を引いているのか、スズハラ大佐の肯定に露骨にガッカリとした様子を見せる。

「ガイウス特務中尉とヴェロニカ特務大尉は協力して副支部長を捕らえたみたいだし、シーラ特務少尉が相手を逃したのは別に問題ないよ」

「ぐぬぬ、超絶天才シーラは次は負けないのであります!」

「うんうん、その調子その調子」

 次、か……私には救いたい相手を救う地位も力も無いというのがハッキリと理解できた。
 また同じことが起きた時になにができるのか……考えてみましょう。

「それとアリシア准尉には正式に『緋色』と名乗って貰う事になる」

「私が……ですか?」

「うん、まぁ敵からそう呼ばれたし丁度いいや! って僕が決めた。『半覚醒』になると髪も『緋色』なるし、丁度良いよね!」

「……」

 えっ、そんな……割と適当な理由でコードネームって決められてしまうの?
 ガイウス中尉には目を逸らされてしまうし、ヴェロニカ大尉は悲痛な表情で首を振るだけ……シーラ少尉に至っては『おー、おめでとうございます!』とか純粋に祝ってくれる。……えぇ? これで決定なの?

「それとあんまり人員割けなくてごめんね~? まったく同じ時期に『奈落の底アバドン』の魔法使いが四人も貴族邸に忍び込んだみたいでさ~」

「……それは本当ですか?」

「ガイウス君が信じられないのも分かるけど本当だよ~、ビックリだよね? 帝都の、それも貴族の屋敷に忍び込むなんてさ」

 まさか皇帝のお膝元である帝都で魔法使い達が活動していたなんて……帝国政府が高を括って油断していたのもあるのでしょうけど、ここ最近になって急激に魔法使い達の動きが活発化している気がする。

「しかもそっちに派遣した狩人は全滅したから、君達も気を付けて」

「『了解』」

「以上だね、細かい事や特別手当については後で書類と一緒に渡すから」

 スズハラ大佐のその言葉を合図に一礼してから司令室を出ていく。
 とりあえずこれからどうするか、私に足りないものが地位と力なんて漠然とし過ぎていて、どこから手を付けて良いのか分からない。

「……アリシア、この後どうする?」

「ガイウス中尉……そう、ですね……友人と会ってから師匠の所へ行こうと思います」

「そうか……」

 しばらく休暇を与えられるみたいだし、リーゼリットと出かけて気持ちを切り替えた後で師匠に相談してみましょう。うん、それが良いと思うわ。

「……無理はするなよ?」

「は、い…………あり、がとう……ございます……」

 何故か、理由は分からないけれど涙が流れる……やっぱり出来るだけあの子達を救いたかった。
 彼らが死んでいく度にそれがクレルだったんじゃないかと思えて……私の中のクレルはいつまでも子どもで、それが彼らに重なって……多分そういうことだと思う。

「……見なかった事にする」

「すいません、失礼します」

 こちらに背を向けるガイウス中尉に対して頭を下げて挨拶をしてから足早に帰宅する……今は誰かに優しい言葉を掛けられるのは耐えられないし、許せない。

「……難儀な奴め」

▼▼▼▼▼▼▼
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