サクリファイス・オブ・ファンタズム 〜忘却の羊飼いと緋色の約束〜

たけのこ

文字の大きさ
89 / 140
第四章.救えない

エピローグ

しおりを挟む
「おいコラ! ガキ共さっさっと歩け! 追い付かれるぞ!」

「えぇー! でもジーク、僕もう疲れたよ」

 こ、コイツら……俺がせっかくあの掃き溜めみてぇなところから連れ出してやってのに……しかも周囲を機士に包囲されててまともな逃げ道残ってないんだぞ!

「教会までもうすぐだ! ……あとお兄ちゃんって呼べって言ってるだろ! 俺はもう成人してんだぞ!」

「えぇ~、ジーク僕らとあんまり身長変わんないじゃん!」

「見栄張ってもすぐにバレるよ」

 あぁん?! コイツら歳下だからって下手に出てりゃ調子に乗りやがってぇ……誰か身体を治してやったと思ってんだ? サテラから貰った薬を使ってやったの俺だぞ?! まったく、元気が出たなら良いけどよ。

「……ていうかさー、本当に帝都の中に俺らを受け入れてくれるところなんてあんのかよ」

「……良いから、黙って歩いてろ」

 まぁコイツらの不安は分からんでもない……この国に俺らの居場所はねぇし、レナリア人共はまるで俺らを羽虫かなにかのように見つけ次第、大袈裟に騒いで潰す。……いや、一人だけ例外も居たか。

「お腹空いた~」

「……しゃーねーな! ほら!」

「わーい、ありがとう! ……え、これなに?」

「なにって、ヤモリの干物だが?」

 手軽に捕まえられて、俺らみたいな学がない奴でも簡単に作れる保存食だぞ! たまに飛んでくる蝗と合わせて俺の貴重なタンパク源なんだぞ! 馬鹿にするんじゃねぇ! ……本当に滅多に見つけられないが、ヤモリはご馳走だな。

「……ジーク、お金持ってないの?」

「うるせぇ! テメェらを助けたから報酬を貰えてねぇんだよ! 文句あるなら返せ!」

 アイツら……えーと、なんだっけ? 飛翔する褐色の……ダイちゃん? だっけ? そのなんか凄いダイちゃんを崇める組織? からの仕事を放り出したからな、また暫くひもじい思いをするぜ……慣れてるけど。

「まったく贅沢な奴ら──お?」

「……お前は」

 えーと確かコイツは……そうそう、なんか飛翔するカッちゃんとダイちゃんのボス的な奴だった気がするぞ……やっべぇ、仕事を放り出したのがバレたか?

「丁度いい、そいつら寄越せ」

「あぁ? ……あぁ、そういう」

 よく見たらコイツめっちゃボロボロじゃねぇか、やっぱ逃がすなら今だっていう俺の勘は当たってたみたいだな。
 壊滅する組織だったんなら元から報酬なんて出ねぇだろうし、少し遅れてたら俺達も狩られてたかも知れねぇ。

「断る」

「……雇用主の言うことは聞くものだよ?」

 なーにが雇用主だよ、あんな掃き溜めで待機命令という名の放置プレイしやがって……めっちゃ臭かったんだぞ? それにもう契約は切れてる。

「魔法使いが価値に見合わない行動を取ると?」

「人によって何が大事かは違うだろ」

「そりゃそうだ」

 なーに当たり前の事を聞いてやがんだコイツは? 人の価値観がまったく一緒だったら苦労はしないだろうけどよ……とりあえず今さら報酬の二倍を出されたところで意見を変えるつもりはない。

「それに元々コイツらを助けるのが目的だったしな」

「へぇ……本気で?」

 ふむ……見たところ奴の『供物』はまだ残ってるみたいだな? こちらを目を細めて威圧するように睨み付けてくる野郎に向かって挑発的な笑みを浮かべて見せる。

「やり合うつもりか? その状態で? この俺と?」

「……」

 収納式の果物ナイフを取り出しながら高圧的に失笑してみせる。お前らが俺の実力を知らねぇ訳ねぇよなぁ? 俺はそこまで自分を安くしたつもりはねぇ。
 ……まぁ、配置された所から甘く見られてのは否定しない。

「……『咎人』め」

「へっ、悪いな! 恨むなら俺をチビ呼ばわりしたあの耄碌ジジイに言いな!」

 はんっ! ざまぁみろ! 成人してるってのに俺をただの子ども扱いするからだ!
 というか、それ以前にコイツ……短時間の内に結構な人数の同胞を『対価』にしやがったな? 異質な魔力が数種類体内で蠢いてやがる。

「それによぉ、それ以上取り込めば──お前を討伐することになる」

「……」

 大体七人くらいか? それ以上? ……よくもまぁそれだけ取り込んでハッキリとした自我が残ってるな? 普通呑み込まれて魔物になるが……見た目や雰囲気に似合わない我の強い魔法使いかもな。

「はぁ~、行っていいよ。……だから目の届く所に置いておきたかったんだけどねぇ~」

「お前も上手く逃げ切れると良いな」

 それと同時にこんな都市の内部で暴発しないでくれよ? 大都市なんて人の『欲望』の集合体みたいなもの……それを魔法使いが適切に対処するのではなく、狩人や機士に討伐され魔力残滓が残り続けるなんてシャレにならん。

「ほらっ! ガキ共行くぞ、サテラが待ってる」

「サテラって誰ー? ジークの彼女かー?」

「ちっげぇよ! それ本人の前で言うなよな!」

 やっべぇ、もう既に寒気が……よし! 今日はコイツらを送り届けたらそのままトンズラしよう、そうしよう。……か、稼いでくるだけから! また子ども達を助けてくるだけだから! 何もやましいことは無い!

「……俺、誰に言い訳してるんだろうな?」

「? ジーク?」

「お兄ちゃんだって言ってんだろ」

 俺は頭を振りかぶり、ガキ共の頭をクシャクシャに撫でながらサテラの待つ教会を目指し歩く。……とりあえず、上手く無賃乗車を繰り返して帝都を目指す。

▼▼▼▼▼▼▼

「報告しろ」

 そう私に命令するのは特別対魔機関バルバトス医務室室長アンジェリカ・クラウソラス大佐​──のさらに横、上座に座る恰幅の良い男性……秘密諜報機関マルファスのハワード・ルベリエ長官に向けて報告する。

「敵の拠点に突入後、直ぐにアリシア准尉とはぐれてしまいましたが即座に『鴉』の分体を忍ばせ、監視を続行……その後、彼女の左腕が『呪具』と同じ様な働きを持つことを確認しております」

 見ていて本当に驚いた……あれが検査と称した調査の時に起きた〝事故〟の原因かと、納得はしたけれど……戦闘中であった為にヴェロニカ大尉に怒られてしまったのは苦い思い出。

「ふむ……リコリス、君はどう見るかね?」

「……彼女が魔法使いでないのは確実です」

「だったら?」

 先を話せとばかりに睨まれる……このオッサン眼光が怖いのよぉ……横のアンジェリカ大佐も、直属の部下の私が虐められているっていうのに興味無さげだし、辛い。

「……彼女がボーゼス中佐に連れられてから、それらしき接触の記録はありませんでした。なので恐らく七年前の​──」

「​──旧スカーレット男爵領の魔物災害、か」

「……はい。恐らくそこで魔法使いと接触し、左腕……と、ついでに胸も与えられたのだと」

 ……まぁ、俄には信じ難いけれどね。ただ魔法使い達は『対価』さえ用意できれば、私達の真似事では到底出来ないような奇跡を起こす人種だから、完全に無いとも言い切れない。

「……ふむ、胸もかね?」

「確認はしておりませんが、胸だけ違うというのもありえないかと……」

「それもそうだな」

 恐らく左腕だけじゃなく、胸もなんらかの作用を持つ『呪具』と化している可能性が高い。……まぁ調査する術は今のところ無いのだけれど。

「確かアリシアはガナン人にも平等に接するような悪癖があるらしいな?」

「はい、そのようです」

「原因は恐らく、その左腕と胸を与えた魔法使いの影響であろうな……」

 ……まぁそうでしょね、普通は左腕と胸なんていう大事な部分をくれた人や、その同胞に対して優しくはなるわよね。

「……もし、アリシアを泳がせたとして……そんな奇跡の様な魔法を使える魔法使いを捕える事はできると思うかね?」

「…………最低でも『名持ち』でしょうし、生け捕りは難しいかと」

「……だろうな」

 まぁ、人に欠損した部位を与え、あまつさえそれを『呪具』とする……そんな魔法使いが帝国に野放しになっているのは異常事態だし、実験に利用できるから生け捕りを……と考えるのはおかしくはない。

「ま、精々が猟犬等の素材であろうな……それでも素晴らしい兵器が造れそうだ」

「……」

 そっと、自分の腰にある物に手を当てる……確かに凄い兵器は造れそうね。……どうやって仕留めるのかは知らないけれど。

「よし、お前はこれからもアリシアを監視しろ、魔法使いと思われる者と接触していれば逐一報告しろ」

「了解致しました」

「よし、行け」

「失礼します」

 ふぅ、なんとか終わった……結局アンジェリカ大佐は手元の資料に目を通すだけで一言も喋らなかったな。……むしろそれだけなのに怖かった。

「あ~、医務官とスパイの兼務か~」

 良い男すら捕まえる事のできない不器用な私では大変すぎて辛い……これは特別手当を貰わないとやってられない。

「ていうか、なんで仲間を監視しなきゃならないのよ……」

 いや、分かってる……分かってるけどね? それが必要な事らしいって……でも​──納得がいかない。

「はぁ~、まぁいいか」

 軍人は与えられた命令に従うだけだしね……モヤモヤとしたものを抱えながら、私は廊下を歩く。

▼▼▼▼▼▼▼
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!

サイコちゃん
恋愛
十二歳の少女が男を殴って犯した……その裁判が、平民用の裁判所で始まった。被告はハリオット伯爵家の女中クララ。幼い彼女は、自分がハリオット伯爵に陥れられたことを知らない。裁判は被告に証言が許されないまま進み、クララは絞首刑を言い渡される。彼女が恐怖のあまり泣き出したその時、裁判所に美しき紳士と美少年が飛び込んできた。 「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」 飛び込んできたのは、クラリッサの父であるユクル公爵と婚約者である第二王子サイラスであった。王家と公爵家を敵に回したハリオット伯爵家は、やがて破滅へ向かう―― ※作中の裁判・法律・刑罰などは、歴史を参考にした架空のもの及び完全に架空のものです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

やり直し令嬢は箱の外へ、気弱な一歩が織りなす無限の可能性~夜明けと共に動き出す時計~

悠月
ファンタジー
 これは、狭い世界に囚われ、逃げ続けていた内気な貴族令嬢が、あるきっかけで時間が巻き戻り、幼い頃へ戻った。彼女は逃げるように、過去とは異なる道を選び、また周囲に押されながら、徐々に世界が広がり、少しずつ強くなり、前を向いて歩み始める物語である。  PS:  伝統的な令嬢物語ではないと思います。重要なのは「やり直し」ではなく、「箱の外」での出来事。  主人公が死ぬ前は主に引きこもりだったため、身の回りに影響する事件以外、本の知識しかなく、何も知らなかった。それに、今回転移された異世界人のせいで、多くの人の運命が変えられてしまい、元の世界線とは大きく異なっている。  薬師、冒険者、店長、研究者、作家、文官、王宮魔術師、騎士団員、アカデミーの教師などなど、未定ではあるが、彼女には様々なことを経験させたい。 ※この作品は長編小説として構想しています。  前半では、主人公は内気で自信がなく、優柔不断な性格のため、つい言葉を口にするよりも、心の中で活発に思考を巡らせ、物事をあれこれ考えすぎてしまいます。その結果、狭い視野の中で悪い方向にばかり想像し、自分を責めてしまうことも多く、非常に扱いにくく、人から好かれ難いキャラクターだと感じられるかもしれません。  拙い文章ではございますが、彼女がどのように変わり、強くなっていくのか、その成長していく姿を詳細に描いていきたいと思っています。どうか、温かく見守っていただければ嬉しいです。 ※リアルの都合で、不定期更新になります。基本的には毎週日曜に1話更新予定。 作品の続きにご興味をお持ちいただけましたら、『お気に入り』に追加していただけると嬉しいです。 ※本作には一部残酷な描写が含まれています。また、恋愛要素は物語の後半から展開する予定です。 ※この物語の舞台となる世界や国はすべて架空のものであり、登場する団体や人物もすべてフィクションです。 ※同時掲載:小説家になろう、アルファポリス、カクヨム ※元タイトル:令嬢は幸せになりたい

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...