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第六章.醜い■■の■
13.醜い魔物の子その2
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「『──火を』」
復活しかけの魔人の周囲を囲むように走りながら詠唱破棄で炎弾を作り出す……魔人の周囲のチューリップを吹き飛ばしながら着実と火の手が拡がって行く。……雀の涙程度の効果しかないけれど、海とチューリップ畑で構成された『領域』を私の火で侵食していく事でこの場の位階を下げる。
『アリシアよ……いくら私が揺り戻しを引き受けているとは言え、詠唱破棄を濫用するのは気を付けよ』
「善処、するわ!」
蝸牛の言う通りではあるのだけれど、正直に言って手一杯なのよ……今も絶えず私を狙って巨大なチューリップの波が迫ってくる。それらを焼き斬り、飛来する球根を炎弾で迎撃する。
……私は捕捉されないように常に移動し続けないといけないっていうのに、当の魔人はといえば最初の位置から一歩も動いていない。
「『──咲く』」
「『──火を』」
魔人から赤黒い線が走る……そこを起点として次々とチューリップの花が咲き誇り、辺りに毒となる香りを撒き散らしながら背を伸ばして私を絞め殺さんと迫る。
正面から猟犬を突き込んで花弁を散らし、うねる茎に刃を立てて流し逸らしていく……足下から咲こうとする芽に刃を突き立て、そのままそれを支えに跳躍……逆さまになった視界の中で先ほどまで自身が居た場所から巨大な口が開き、勢い良く閉じたのを確認して冷や汗が流れ落ちる。……もはや花っていうか、クリーチャーね。
「『──喰らう』」
「『──加速』」
花弁にズラリと鋭い犬歯を並べた巨大なチューリップの花々に頬を引き攣らせる……自身の知覚と速力を引き上げる事で歩幅の差を無理やり埋めて回避する。
花弁を開いて迫る花が迫る前に駆け抜けて後ろに置き去りにし、前の花がコチラに振り向く前に胴体に飛び乗ってそのまま駆け上がって行き──首を切り落とす。
「『大地が見つめる夜明け空 褐色の幼子に血を捧ぐ 伸ばす伸ばす 火の手を延ばす 気怠げな彼女を見つめて求める 高みの貴女を目指して その想いを薪と焚べる』」
追加の『対価』を支払う……猟犬を持つ腕に紅い亀裂が入って変色していく……自分の目の周囲に『ビギビキ』と音を立てて筋が立つ……静かに流れ出る鼻血を荒く拭い去り、猟犬に纏わせた業火を一つの大きな剣と見立て振り払う。
私に殺到していた周囲のチューリップや球根を諸共に斬り捨て、切断面から激しく炎上して朽ちていくそれらを一瞥してから魔人へと駆ける。
『短時間の内に対価を支払い過ぎだ、私の処理が追い付かない……ただでさえ貴様はガナン人の血を引いてはおらんのだ、大地に対する〝騙り〟が露見すれば不味い事になる』
「分かってるけど、多少の無理はしないと近づく事すら出来ないじゃない!」
蝸牛の苦言には同意するけれど、そんな悠長な事は言ってられない……ただでさえ一定の距離から相手に近付けないんだから、ここは多少の無理はしないとコチラがすり潰されてしまう。
こっちはもう『覚醒』状態で、常にフルスロットルなのに相手は涼しい顔でこっちを見向きもしない。
「本当にあれで弱ってるんでしょうね?!」
『そうだ、奴の自我は目覚めたばかりで器を掌握できておらん……そうだな、具体的に言うなら奴は全力を出して二割程度の出力しかない』
「……泣きそう」
……いや、泣いてる場合じゃないわね! 今はまだ二割程度しか全力を出せないのなら、相手がドンドン力を取り戻していく前に仕留めるしかない! ……それに、早く倒せればそれだけお婆ちゃんが助かる可能性も上がるかも知れない。
なら怯えてクヨクヨしてる暇なんてない……奴を倒してお婆ちゃんを助ける! 思いを新たに殺到する周囲の花々を焼き払う。
「『──縛る』」
「なっ?!」
──蒸気を放つ程に高温の鎖によって後ろ手に縛られる。
「『──会いたい』」
「ぐっ……!!」
──私の意に反して魔人の方へと知覚すら出来ない速さで引き寄せられる。
「『──我が欲に果てはなく 確かな理性を以て大地に希う』」
『不味い! アリシアよ、早く体勢を立て直すのだ!』
「わ、わかって──ぐぅ!」
目の前に魔人が居る……空中に鎖で吊り下げられた状態で無防備な姿を晒してしまっている……悠々と詠唱を始める奴から逃れるべく身を捩るけれど、高温の鎖が皮膚を、その下の肉まで焼いていく音と痛みに涙が零れる。
「『──兄の帰りを待つ 訪れた満月の日を数えて海を見る』」
「くっ、この……!!」
私を縛る鎖が首を、腕を、胸を、身体を、脚を……締め付け焼いていく。まるで火を扱う私に対する当て付けの様に、その鎖は炎では融けない……何度も自分の身体ごと焼き切ろうとしても蛇の舌出しの様な音と共に勢いをまして締まりがキツくなる。
「ガァッ……?!」
「『──あと何度 月が満ちれば あと何度 私の生命が欠ければ』」
熱せられた鉄の鎖が激しく身体の上を走る感覚に意識が飛びそうになる……鉄の摩擦が皮膚を超えて肉を裂き、噴き出す血を蒸発させながら傷口を癒着させ、また鉄の摩擦が身体を裂いて焼く。……あまりの激痛に顔中から汁を垂れ流す事さえ気にならない。
「『──少女の寂寥は怒りに 感謝は嫉妬へ 喜びは恨みに 可憐な笑顔は醜悪な泣き顔に』」
『アリシア早くしろ!! 死にたいのか?!』
「ふぅぅうんん?!」
下唇を噛み締め下腹部に力を込める、けど上手くいかない……猟犬と上手く『対話』できない、魔力を練れない。……皮膚を走る鉄の感触も、噴き出す血を養分として私の身体に咲き誇るチューリップも、身を焦がす熱も、その全てが私を蝕む。
「『──私から兄を奪う海が 兄を海へと駆り立てる仲間が 兄を送り出す義姉が 世界の全てが憎い 全てが私の〝想い〟を育む養分となる──』」
『アリシア早くしろぉ!! アリシアァァァァア!!!!』
「『──故に死ね その心臓が兄への贈り物である』」
「かっ、げぼぉ……! ……『だい、ちをふみ──」
痛い、熱い、怖い、痛い、痺れる、痛い、苦しい、震える、寒い、寒くない、熱い、痛い、怖い、嫌だ…………死にたくない──
「『──お前の心臓は何色のチューリップが咲く』」
──胸から広がる衝撃と共に海へと吹き飛ばされる。
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復活しかけの魔人の周囲を囲むように走りながら詠唱破棄で炎弾を作り出す……魔人の周囲のチューリップを吹き飛ばしながら着実と火の手が拡がって行く。……雀の涙程度の効果しかないけれど、海とチューリップ畑で構成された『領域』を私の火で侵食していく事でこの場の位階を下げる。
『アリシアよ……いくら私が揺り戻しを引き受けているとは言え、詠唱破棄を濫用するのは気を付けよ』
「善処、するわ!」
蝸牛の言う通りではあるのだけれど、正直に言って手一杯なのよ……今も絶えず私を狙って巨大なチューリップの波が迫ってくる。それらを焼き斬り、飛来する球根を炎弾で迎撃する。
……私は捕捉されないように常に移動し続けないといけないっていうのに、当の魔人はといえば最初の位置から一歩も動いていない。
「『──咲く』」
「『──火を』」
魔人から赤黒い線が走る……そこを起点として次々とチューリップの花が咲き誇り、辺りに毒となる香りを撒き散らしながら背を伸ばして私を絞め殺さんと迫る。
正面から猟犬を突き込んで花弁を散らし、うねる茎に刃を立てて流し逸らしていく……足下から咲こうとする芽に刃を突き立て、そのままそれを支えに跳躍……逆さまになった視界の中で先ほどまで自身が居た場所から巨大な口が開き、勢い良く閉じたのを確認して冷や汗が流れ落ちる。……もはや花っていうか、クリーチャーね。
「『──喰らう』」
「『──加速』」
花弁にズラリと鋭い犬歯を並べた巨大なチューリップの花々に頬を引き攣らせる……自身の知覚と速力を引き上げる事で歩幅の差を無理やり埋めて回避する。
花弁を開いて迫る花が迫る前に駆け抜けて後ろに置き去りにし、前の花がコチラに振り向く前に胴体に飛び乗ってそのまま駆け上がって行き──首を切り落とす。
「『大地が見つめる夜明け空 褐色の幼子に血を捧ぐ 伸ばす伸ばす 火の手を延ばす 気怠げな彼女を見つめて求める 高みの貴女を目指して その想いを薪と焚べる』」
追加の『対価』を支払う……猟犬を持つ腕に紅い亀裂が入って変色していく……自分の目の周囲に『ビギビキ』と音を立てて筋が立つ……静かに流れ出る鼻血を荒く拭い去り、猟犬に纏わせた業火を一つの大きな剣と見立て振り払う。
私に殺到していた周囲のチューリップや球根を諸共に斬り捨て、切断面から激しく炎上して朽ちていくそれらを一瞥してから魔人へと駆ける。
『短時間の内に対価を支払い過ぎだ、私の処理が追い付かない……ただでさえ貴様はガナン人の血を引いてはおらんのだ、大地に対する〝騙り〟が露見すれば不味い事になる』
「分かってるけど、多少の無理はしないと近づく事すら出来ないじゃない!」
蝸牛の苦言には同意するけれど、そんな悠長な事は言ってられない……ただでさえ一定の距離から相手に近付けないんだから、ここは多少の無理はしないとコチラがすり潰されてしまう。
こっちはもう『覚醒』状態で、常にフルスロットルなのに相手は涼しい顔でこっちを見向きもしない。
「本当にあれで弱ってるんでしょうね?!」
『そうだ、奴の自我は目覚めたばかりで器を掌握できておらん……そうだな、具体的に言うなら奴は全力を出して二割程度の出力しかない』
「……泣きそう」
……いや、泣いてる場合じゃないわね! 今はまだ二割程度しか全力を出せないのなら、相手がドンドン力を取り戻していく前に仕留めるしかない! ……それに、早く倒せればそれだけお婆ちゃんが助かる可能性も上がるかも知れない。
なら怯えてクヨクヨしてる暇なんてない……奴を倒してお婆ちゃんを助ける! 思いを新たに殺到する周囲の花々を焼き払う。
「『──縛る』」
「なっ?!」
──蒸気を放つ程に高温の鎖によって後ろ手に縛られる。
「『──会いたい』」
「ぐっ……!!」
──私の意に反して魔人の方へと知覚すら出来ない速さで引き寄せられる。
「『──我が欲に果てはなく 確かな理性を以て大地に希う』」
『不味い! アリシアよ、早く体勢を立て直すのだ!』
「わ、わかって──ぐぅ!」
目の前に魔人が居る……空中に鎖で吊り下げられた状態で無防備な姿を晒してしまっている……悠々と詠唱を始める奴から逃れるべく身を捩るけれど、高温の鎖が皮膚を、その下の肉まで焼いていく音と痛みに涙が零れる。
「『──兄の帰りを待つ 訪れた満月の日を数えて海を見る』」
「くっ、この……!!」
私を縛る鎖が首を、腕を、胸を、身体を、脚を……締め付け焼いていく。まるで火を扱う私に対する当て付けの様に、その鎖は炎では融けない……何度も自分の身体ごと焼き切ろうとしても蛇の舌出しの様な音と共に勢いをまして締まりがキツくなる。
「ガァッ……?!」
「『──あと何度 月が満ちれば あと何度 私の生命が欠ければ』」
熱せられた鉄の鎖が激しく身体の上を走る感覚に意識が飛びそうになる……鉄の摩擦が皮膚を超えて肉を裂き、噴き出す血を蒸発させながら傷口を癒着させ、また鉄の摩擦が身体を裂いて焼く。……あまりの激痛に顔中から汁を垂れ流す事さえ気にならない。
「『──少女の寂寥は怒りに 感謝は嫉妬へ 喜びは恨みに 可憐な笑顔は醜悪な泣き顔に』」
『アリシア早くしろ!! 死にたいのか?!』
「ふぅぅうんん?!」
下唇を噛み締め下腹部に力を込める、けど上手くいかない……猟犬と上手く『対話』できない、魔力を練れない。……皮膚を走る鉄の感触も、噴き出す血を養分として私の身体に咲き誇るチューリップも、身を焦がす熱も、その全てが私を蝕む。
「『──私から兄を奪う海が 兄を海へと駆り立てる仲間が 兄を送り出す義姉が 世界の全てが憎い 全てが私の〝想い〟を育む養分となる──』」
『アリシア早くしろぉ!! アリシアァァァァア!!!!』
「『──故に死ね その心臓が兄への贈り物である』」
「かっ、げぼぉ……! ……『だい、ちをふみ──」
痛い、熱い、怖い、痛い、痺れる、痛い、苦しい、震える、寒い、寒くない、熱い、痛い、怖い、嫌だ…………死にたくない──
「『──お前の心臓は何色のチューリップが咲く』」
──胸から広がる衝撃と共に海へと吹き飛ばされる。
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