セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

68話 冬の初めの学園祭 その10

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それから正午を回った頃合いでユーリとゾーイはサビナと出展の番を代わり、学園の正門近く、学園生の屋台が連なる裏に広がる内庭へと向かった、フィロメナ達は他の出展物を見物にいったようで、ユーリとゾーイはフィロメナ達から解放されてはいるが、ゾーイとしてはまた仕事が増えたと頭の痛い状況である事には違いなく、ユーリとしてはまた別の思惑も浮かんでいたりするがそれを口にする事は無かった、そして、

「あー、ユーリだー」

二人が壁の掲示物に集中している見物客を縫う様に歩いていると、背後から聞き慣れた叫び声が響き、二人が足を止めた瞬間に、

「何やってるのー」

ミナがドスンとユーリの足に抱きついた、

「うぉぅ」

ユーリは奇妙な叫び声を上げてしまい、ゾーイはワッと身を仰け反らせる、

「えへへー、どうしたの?どうしたのー」

普段以上の輝くような笑顔でユーリを見上げるミナである、ユーリはまったくと微笑みつつ、

「どうしたのもなにもないでしょ、私は先生だからここにいるのよ」

ユーリがミナの頭に手を置いて優しく撫で回した、

「そうなの?知らなかったー」

「おいおい、それは駄目だろ」

「ダメー?」

「まぁいいけどさ、ソフィアは?」

「あっちー、タロウもいるよー、あと、お嬢様とお姉様ー」

「あー、皆で来るっていってたねー」

「そうなのよー」

「何か見た?」

ゾーイがニコヤカに問いかける、

「何か?」

「そうよ、面白いもの何かあった?」

「あったー、えっとね、えっとね、ウシさんとブタさんとー、あと、タロウがバンバンってえっと、なんだっけ、えっと、あっ、あれだ、寄ってらっしゃい見てらっしゃいってー」

「何それ?」

「なんとかなんとかー」

「はっ?」

「だからー」

とミナが身振り手振りで説明しはじめた所に他の面々も追い付いたようで、

「お疲れさまー」

ソフィアが三人に声をかけ、ユーリとゾーイはやっと振り向き、レアンとレイナウトの姿を認め、静かに頭を垂れる二人である、

「ユーリさんも忙しそうじゃのう」

レイナウトはにこやかに微笑む、どうやら満喫しているらしい、弛緩した柔らかい笑みを浮かべている、

「そうですね、これも仕事です」

ユーリはニコリと返した、恐らく番頭さん扱いしてもかまわないであろうが、諸々の事情を知るユーリとしては難しい所であった、タロウやソフィアであれば大した立場でも無い為昔の関係を引きずる事に何の遠慮も無いであろうが、ユーリとしては学園長やクロノスとの関係も明らかで、さらに先の二人のように傍若無人とさえ言える性格では無い、故にある程度の敬意を保たなければならないと考える、

「そうだな、しかし、実に面白いな、これほど有意義な祭りは初めてかもしれん」

「お褒めに預かり光栄です、私どもとしましてもなにぶん初めての事でして、至らない点もあるやもしれませんが」

「いや、そこも含めてじゃ、生徒達の慣れていない感じもな、うん、新鮮でよい」

「そうですね、何と言うか洗練されていない感じが良いですね、生徒さん達は一生懸命で、先生達は真剣ですよね、そこがまた微笑ましいです」

マルヘリートも笑顔を見せた、それは褒めている事は褒めているが、至らない点を長所と言い換えているに過ぎない、無論社会人経験の無い生徒達が中心である為あまり厳しく見られても困る事は困るのであるが、

「ありがとうございます」

ユーリは取り合えず会釈で受け取る事とした、好意的である事は確かで、楽しんでいる事もその雰囲気から察する事ができた、

「そう言えば、ユーリ先生の出し物もあるのであろう?」

レアンが不思議そうにユーリを見上げた、プリンと蒸しパンで一休みを終え、何か他にもあるのかとダラダラと歩いていた所である、ユーリの顔を見ればユーリの出展物もあるであろうと連想するのは当然であった、

「はい、ある事はありますが・・・」

ユーリはどうしたものかと苦笑いを浮かべる、正直な所あの出展物を大衆の面前に晒したいとは思っていない、なら出さなければいいのであるが、そうもいかなかったのがまた大人のめんどくさい事情というものである、

「ほう、どのような物かな?」

レイナウトが興味津々といった顔となる、マルヘリートも同様であった、

「えっと・・・そうですね、取り合えず、この先で最も重要な仕事があります、それが終わりましたら、是非」

ユーリはニコリと誤魔化し笑いを浮かべる、

「この先?」

「外か?」

「はい、あっ、折角ですから立ち会われますか?」

「?内容にもよると思うが」

「確かに、ですが、レアンお嬢様は一度体験していらっしゃいますから・・・そっか、レアン様、突然ですがお願いできます?」

「何をだ?」

ユーリはこれは丁度良かったとニヤーと厭らしい笑みを浮かべた。



それから二人はレイナウト一行を加えてぞろぞろと目的地へ向かった、その一角には何やら大袈裟な舞台が組まれており、ご丁寧に荒縄まで引かれている、ここから侵入禁止であるとの意思表示であろう、既に学園長と数名の事務員が到着しており、さらに事務長は街の衛兵数人と打合せ中であった、その衛兵の姿だけでも妙に仰々しく見える、

「むっ・・・もしかして・・・」

レアンが舞台を見つめて瞬時に感づき、

「あー、あれー」

ミナでさえも気付いた様子で、

「そうよー、あれー」

ユーリがニヤリと振り返った、

「あー・・・そりゃ欲しくなるわよね・・・」

ソフィアも呆れたように舞台を見上げた、しかし、レイナウトとマルヘリート、タロウは今一つピンときていないらしい、同時になんじゃこりゃと首を傾げている、

「前回のような凝った仕掛けは無いですけどね、これはこれでやはり必要であろうと思いまして」

ユーリが説明しながら荒縄を持ち上げ、一行は招かれるままに荒縄を潜った、

「確かにな、学園と言えばこれであろうからな」

レアンがニヤリと自慢げに微笑む、前回の祭りでもレアンは関係者ではある、花を添えたと表現すれば聞こえは良いし、実際に評判は上々であった、レアンの大任も含めての評判である、

「あれー、あれやるのー?ブワーって、クルクルーって」

ミナがウキウキと舞台に駆け寄った、

「あっ、こら」

ソフィアが慌てて止めようとするが、その前に学園長が気付いたようで、よう来たよう来たとまるで孫娘に対するようにミナを出迎えた、

「なに?これ?」

タロウが素直にユーリに問いかける、

「あら?あんたでも分らない?」

「うん、盆踊りでもやるのか?」

「何それ?ボンオドリ?」

「あー・・・なんだ、みんなで踊るの?輪になって」

「なによそれ」

「違うならいいけどさ」

「違うわね」

「そっか」

「では何をするんだ?」

レイナウトとマルヘリートも舞台を見上げたまま不思議そうな顔のままであった、舞台は見上げる程に高く、一見する限り三段編成となっているらしい、当然だが最下段が広く上に行くほど狭くなっている、最上段は人が乗れる広さはあると思うが、それはよした方が良いだろうなと感じる程度の広さのようであった、

「ふふん、お二人に是非お見せしたかったのですよ」

レアンがユーリ顔負けの意地悪そうな顔となった、どうやらこの二人は底意地の悪さでは似た者同士なのかもしれない、

「まぁ・・・これは見物するものなの?」

「そうですね、素晴らしいですよ」

「ふむ・・・あっ・・・」

とレイナウトが何やら思い出したらしい、

「むっ、気付かれましたかな?」

「おう、そうか、報告にあったな、しかし、あれか・・・いや、そうか、これは楽しみじゃ」

レイナウトもやっと理解したようで、こうなるとタロウとマルヘリートはいよいよ何なのかと顔を顰める始末であった、

「まぁ良い、素直に見物しよう、これは見ものじゃな」

「そうなのです、見ものなのです」

レアンとレイナウトがほくそ笑む、ユーリとゾーイは舞台に近寄って学園長と打合せを始め、そこに事務長も合流した、街の衛兵は荒縄の周囲にその持ち場を定め警戒体制をとっている、見物客達はその舞台よりも衛兵の姿を目にして何事か始まると察したらしい、徐々に集まりだしていた、さらにそこへ商工ギルド長のヘルベンが数名の部下と共に合流し、学園長達と何やら笑い声を交えて打合せを始める、どうやらこの催事は役所とギルドを巻き込んだ大掛かりなものらしかった、

「では、レアン様、マルヘリート様、それとミナ、こっちで準備しましょう」

ユーリが打合せの輪から離れて三人を呼びつけた、レアンとミナは素直に応じるがマルヘリートは懐疑的で数歩遅れてしまう、それも致し方ない事であろう、レアンが率先して動いており、ライニールも特に止める様子が無い為、危険は無い事は分かるが、何をさせられるのかがまるで分らない、腰が引けるのも当然である、

「えっと・・・ミナでいいの?」

タロウが一応とソフィアに確認する、

「いいんじゃないの?ユーリがやってるんだからそれなりに準備してるでしょう」

「そっか・・・しかし、またけったいな虚空結界だな・・・これでは眩しいだけで意味がないだろう・・・」

タロウは左目を閉じて舞台を見上げたまま眉間に皺を寄せている、タロウが見る限り舞台には三か所程度を中心にして結界が張られているが全て異なる形でさらにそのそれぞれが二重三重に似たような結界が重ねられていた、本来の結界の目的からは大きく外れた運用で、何を防護する為なのか、何を目的としているのかも理解が及ばない、

「そう?あんたもあれね、勘が鈍ったんじゃない?」

「勘?」

「そうよ、昔のあんたならこの程度なら見ただけで何やってるか見抜いたはずよ」

ソフィアも舞台を見上げて厭らしく微笑む、

「昔って・・・大した昔でもないだろう」

「そうだけどね、ほら、イース様の件話したでしょ」

「イース・・・あぁ、殿下か・・・あっ・・・えっ、お前、これがそうなのか?」

タロウは思わずソフィアを見下ろした、

「そうよー、どう、大したもんでしょ」

「いや・・・そう言われれば確かに大したもんだが・・・えっ、これ、お前とユーリで作ったのか?」

「これはユーリよ、ゾーイさんも手伝ったんじゃない?私は聞いてないわねー」

「そっか・・・いや・・・たまげたな、話しで聞く限りはもう少しこう・・・」

「何よ」

「スマートというか、洗練されているものだと思ったが・・・無駄が・・・いや、それは指摘しない方がいいか・・・いや、これでいいのか・・・な?」

「スマート?」

「あぁ、その、なんだ、もっと簡単な感じなのかなってさ、こんなにゴテゴテと手間がかかっているとは思わなかったんだよ」

「そう?ほら、お祭り用だからね、明るくするだけなら単純なもんだし、ゾーイさんのあれもあるけど、多分あれよ、すんごい派手よ」

「派手・・・いいのかそれ?」

「いいんじゃない、お祭りなのよ、派手にパーッと煌びやかに?」

「そうかもだが・・・なるほど、それでこんなに警戒しているのか・・・」

タロウはやっと衛兵までが導入されたこの状況を理解した、自分とは異なり、街の住人であればこの出し物には慣れている筈である、聞く限り二度は目にする機会があったであろう、しかし、確かにこの出し物はある程度の人払いは必要なのであろう、仕組みを知りたいと覗き込む者や触れたいと手を伸ばす子供もいる筈で、そういった点も既に考慮されている辺り、学園側も慣れたものなのであろうか、大したものだと感嘆せざるを得ない、

「そうみたいねー、まぁ、お手並み拝見といきましょうか」

ソフィアはニヤリと余裕の笑みを湛える、その視線の先ではユーリとゾーイがミナ達に舞台を示しながら説明している様子で、学園長とダナ達がその様子を微笑ましく見守っている、先程のユーリの様子を見る限りミナ達は飛び入りでの参加なのであろうが、それを快く受け入れる辺り学園側も弁えている様子で、まるでそう仕向けられていたような感すらあった、

「まったく、一々大層な事だな・・・」

レインがタロウの足元で鼻息を荒くし、

「だなー・・・でもまぁ、平和だねー」

タロウは呆れたように薄く微笑む、

「なんじゃ、そのヘイワとは?」

「ん?まぁ、なんだ・・・うん、平和だよ、この街は、眩しいくらいにさ、嬉しい事だよ」

「だからどういう意味じゃ?」

レインがムッとタロウを睨みあげるがタロウはそーだねーと適当に誤魔化すのであった。
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