セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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68話 冬の初めの学園祭 その9

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「あっ、すいません、で、その、ユーリ先生とゾーイさんはここで何をやっているんですか?」

フィロメナが恐らく二人を視界に入れた瞬間に湧いて出ていた疑問を口にした、レネイも不思議そうに壺と皿を見つめている、その他にもユーリとゾーイの目の前には何やら綺麗な布に包まれたけったいな品物が置かれていた、何に使う物やらまるで想像すら出来ない、

「ん?あー、出展?」

「聞き返さないで下さいよ、フィロメナさんが聞いてるんですから」

「あら、サビナさんはもうフィロメナさんのお仲間なの?寂しいわー、ねー」

「そうですねー、寂しいですー」

ユーリがふざけてゾーイもニヤリと乗っかった、

「おいっ」

サビナが思わず野太い大声を出してしまう、ユーリとゾーイはさらにふざけてキャーと黄色い叫び声を上げ、同室の男達の視線が一斉に教室の端に集まった、

「もう、で、なんなんです?」

仲が良いなーとフィロメナは微笑みつつ促した、大人のおふざけに付き合っていると取り留めが無くなってしまう、

「そうね、どうしようかな・・・」

ユーリが一転真面目な視線でフィロメナとレネイを見つめた、何事かと二人はそれを正面で受け止める、

「あら、二人ともそこそこね、カトカやサビナ程ではないけど、もしかして結構使える?」

「何をですか?」

キョトンと二人は同時に首を傾げた、

「魔法よ、どっかで勉強した?」

「あー・・・はい、えっとですね、師匠・・・というか、先輩というか、姉ですね、もう一緒に暮らしてはいないんですけど、似たような境遇の姉に教わってました」

「そうですね、はい」

二人はそういう事かと安堵する、しかし、よく考えてみればユーリはどうやら魔力のあるなしを一睨みで見抜いた事になる、やはり大したものなのだなと二人はやっとユーリが魔法学園の講師である事を再認識した、

「そっか、それは良かったわね、魔力があっても使い方をしらないとね、変に変な事になると危ないからねー」

「姉にもそう言われました、ですがあれですよ、生徒さん達みたいに本格的にはやってないです」

「確かに、精々ほら、焚き付けの時とか、氷を作ったりとか、手が足りない時ですね」

「それで充分でしょ、便利に使えるものは便利に使うべきよ、ある程度使いこなさないとね、知らないで真似したら火事になるって事よくあるしね」

「ですね、それは良く聞きます」

「まったくです」

ウンウンと五人は深刻な顔で頷いた、魔法を原因とした火事は田舎でも都会でも出火原因の一つに上げられている、特に知らず知らずのうちに魔力を身に付けた子供が大人の真似をして火事を起こす事があり、モニケンダムでは時折注意喚起がされる程であった、

「じゃ、どうしようかな、やってみる?」

ユーリは壺よりも皿の方が分かりやすいわよねと手元の皿を二人の前に滑らせた、

「あら、綺麗な文様ですね」

「ホントだー、他のも・・・何ですかこれ?」

「何ですかって言われても困るけどね、魔法陣って呼んでいるわね」

「魔法陣・・・」

「へー・・・」

二人はシゲシゲと皿を覗き込む、複雑な模様が青いのか緑なのかどう表現するべきか悩んでしまう色味のか細い線で描かれている、学園の生徒であれば魔法陣だなと一目で理解出来る特徴的な模様なのであるが、本格的に学んだ事の無い二人にとっては初めて目にするものであり、魔法陣そのものもここ数年で王国内に広まった比較的に新しい技術であり、知らないのも無理からぬことであった、

「でね、どうしようかな・・・」

とユーリは室内を見渡した、これを使えば確実に目立つ、もう絶対に、容赦なく見物客に囲まれること確実であった、

「そうですね・・・まだ、早いかなと思いますけど・・・」

ゾーイもどうしたものかなと首を傾げた、

「そうでしょうけど・・・そっか、例のあれをやってしまえばそれほどって言ってましたよね」

「そう思うんだけどね、どうしようかな、止めとくか・・・」

ユーリは不安そうに皿を見つめた、この教室内にある展示物も中々に見応えのある品々で、ユーリとしてはそちらこそゆっくり見物するべきものだと考えており、さらに別室では他の魔法関連の出し物も行われている、派手さにはかけるが堅実な研究ばかりで、しかし、手元にある壺と皿を基点とした光柱と比べればその利便性にしろ見た目にしろ比べるべくも無いと思われる、

「急に何ですか?」

フィロメナが不安そうに顔を上げた、さっきまで妙におちゃらけていた三人が何とも深刻な顔である、

「あー・・・まぁ、ほら、フィロメナさんもレネイさんも寮には出入りするだろうからね、ここで見せてもいいんだけど・・・そっか、じゃ、私の研究室で見せるか」

「それが良さそうですね」

ユーリの解決策にゾーイも同意のようである、

「だわね、じゃ、二人とも、場所を変えましょう、大丈夫よ取って食ったりはしないから」

ユーリはサッと腰を上げ、皿と用途不明の布の塊を手にする、

「えっ、あっ、はい」

フィロメナトとレネイは誘われるままに腰を上げた、

「ん、じゃ、私は戻りますね、どうします、他の娘さん達には待って貰います?」

「あっ、それもありましたね」

「どこにいるの?」

「下着の所です」

「じゃ、通り道ね」

「それもそうですね、じゃあ、一旦戻りますか」

「そうね、ゾーイさん申し訳ないけど店番宜しくー」

「はい、売れるのを期待して下さーい」

「はいはい」

ゾーイはニコヤカに四人を見送るが、フィロメナとレネイはエッ売り物だったのとテーブルを確認する、しかし値札のような物は無い、どうやらまたふざけているのだなとすぐに理解した、どうにも気の置けない者どうしの会話は緩急が激しい、まぁ、姉妹間での会話でもよくある事で、二人は特に気にすることは無くユーリに従う事にした。



ゾーイがさてと、と出してきた椅子を片付け、再び自席を温める、ユーリのホルダー研究所の出展はハッキリ言って手抜きであった、他の研究所と異なり掲示物を大々的に貼り付ける事も無く、テーブルを置き申し訳程度に壺と皿を並べている、その中でも昨晩タロウが作って見せた鉄の架台に手拭いを巻きつけたものはユーリが持って行ってしまい、いよいよ何を目的としているのか不明な展示となってしまった、

「楽は楽でいいんだけどなー」

ゾーイは真剣な瞳で展示物を睨む中年男性達を眺めた、それの相手をしているエーリクや、各学科の講師達は忙しそうで、時折上がる笑い声は実に楽しそうである、どうやら学園祭とやらは成功のようだなーとゾーイは感じた、まだ初日の半分も終わっていないが、廊下を歩く見物客は引きも切らず、当初懸念されていた午前中は閑散としたものになるであろうとの憶測は見事に裏切られた形となる、よく見れば見物客に紛れて学生達も行き交っており、どうやら学生達もそれなりに楽しむ事にしたようであった、ユーリから聞いたところによるとやはり学生達の間でも学園祭に対する温度差は大きく、熱心な者もいれば興味が無いとしてまるで関与しない者もいるらしい、そういうもんだよねとゾーイはのほほんと聞いていた、若者は気分屋で周囲に流されるか逆を行くかの極端な二択を選択するもので、さらにお気楽な学生となればそういうものであるとも思う、

「あっ、お疲れ様でーす」

ゾーイがボーッと物思いに耽っていると、ジャネットとルルがヒョイと顔を出した、二人は綿飴を手にしており、どうやらこの祭りをしっかりと満喫している様子で、

「あら、お疲れ様、どうしたの?」

「見物でーす、折角のお祭りですからねー、私達も楽しまないとー」

「ですよー」

二人は嬉しそうに笑顔となる、

「それはいいけど、屋台は?」

「アニタとパウラと交代しました、うちの屋台は人数いるんで楽ですねー」

「あー、そういう事か」

「そういう事です、で、どうです?」

「何が?」

「お客さん」

「見てのとおりよ、暇してるー」

「そうみたいですね、いいんですか?」

「そう言われてもね、ほら、これは目立つからね、人が集まり過ぎても困るから、適当に・・・適当に・・・やってるの」

「結局そうなったんです?」

「そうなったのですよ」

ゾーイは苦笑いを浮かべた、この出展に関してはギリギリまで学園長とも熟考を繰り返していた、ユーリの研究はその内容から秘匿した方が良いものが多く、とても祭りだからといって大っぴらに出来る内容ではない、無色の魔法石や赤色の魔法石、転送陣や、魔法陣の活用、さらには大気から魔力を抽出する研究ときて、光柱までもがそれに加わっている、そのどれもが世間を騒がせるには充分な内容で、クロノスからも程々にしておけと忠告される始末であった、しかし、学園祭の首謀者の一人であるユーリが何も展示しないでは治まりが悪い、特にユーリは講師職を解かれている為他の講師からはその理由はどうあれ研究に集中しているものと思われており、自分は大上段に置いて管理する等と言おうものなら比較的に仲の良い講師達からも非難されそうで、とどのつまり、この出展は参加している体をつくろう為の化けの皮であったりする、大人の世界と言えば聞こえは良く、実際には学園内のさらに小さな講師陣の間の心情的で政治的な問題の為で、それはそれでめんどくさいものなのであった、

「あっ、じゃ、あれだ、蒸しパンとかプリンとか届けさせましょうか?」

「そんな、悪いわよ」

「大丈夫ですよー、知らない仲じゃないんだし」

「ん-・・・ここで食べるなら向こうに行きたいかな?」

「それもそうですか・・・」

「そうよ、だって、お客さんに申し訳ないような気もするしね、ここから甘い香りが漂ったら・・・いよいよ何してるんだかって注目されちゃいそうだし」

「そうですねー」

ルルは確かにと綿飴を口に運ぶ、テーブルの向こう側での飲食は目につくであろうがこちら側の飲食には何の問題も無い、事実綿飴は評判のようで廊下を歩く子供達の手には必ず大なり小なりのそれが見受けられ、大人達も時折美味しそうに口に運んでいた、どうやらこの祭りでも六花商会は大繁盛らしい、大したもんだとゾーイは思う、

「あっ、さっきミナちゃん来てましたけど、こっちには来てません?」

「えっ、ミナちゃん?来てないわよ」

「そっかー、どこだろ?」

「何かあった?」

「いや、特にないんですけどね、ソフィアさんも来てたんで、農学の方の野菜?一緒に見たいなーって」

「野菜?」

「はい、ソフィアさんがいいわねーって言ってたから、少しはお手伝いしないとかなーって」

「あら、殊勝ね」

「えへへ、それほどでもー」

「確かにね、それほどでもないわねー」

「ぶー、ゾーイさん酷ーい」

「はいはい」

三人が適当な軽口で盛り上がっていると、ユーリが戻って来て、さらにフィロメナとレネイも戻って来た、ゾーイはまだなにかあるのかなと腰を上げると、

「すいません、ゾーイさん、いいえ、ゾーイ先生」

フィロメナが猛然とゾーイに詰め寄り、

「はっ・・・はい?」

ゾーイが事態を把握する間もなく、

「是非、御教授下さい、私でもレネイでも必ずお役に立ちます」

「はっ?」

何のことやらとゾーイは首を傾げる、

「あー、これのこと、ゾーイさんよろしくね」

ユーリがニコリと手にした皿をテーブルに置いた、

「あっ、えっ、何言ったんですか?」

「何って・・・ほら、これを作ったのはゾーイでー、私はお手伝いしただけ?で、こっちのこれはタロウの発案でー、他には何言ったかな?」

「作るのは難しくないと」

レネイも真剣な瞳をゾーイに向けている、

「そうねー、器用であれば何とかなるとは言ったかな・・・」

「ちょ・・・所長、いいんですか?」

「だって・・・ねぇ、大事な協力者よ」

「はい、大事な協力者です」

「そうです、とっても大事です」

「・・・えっ・・・それ自分で言います?」

「言います、で、ゾーイさんは大事な先生です」

「そうです」

「まっ、そういう訳だから、宜しく」

「ちょっと、待って下さいよ」

キャーキャー騒ぎ始めた四人に再び男性達の視線が集まる、しっかり蚊帳の外となったジャネットとルルは、

「ルルっち、よく見ておこう、ユーリ先生はやっぱり悪い奴だ」

「詳しくは分かりませんがそのようですね」

二人はゾーイもいよいよ大変だなと同情しつつ綿飴を貪るのであった。
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