断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの

文字の大きさ
15 / 40

15話

しおりを挟む
「あなたたち、ちょっといいかしら」

昼休みの中庭。マリアが声をかけたのは、ティアラの取り巻きのうちでも特に調子が良く、噂話に熱心だった令嬢二人だった。
彼女たちは驚いた顔で振り向き、そして気まずそうに目をそらす。

「マリアさん……何の用かしら」

マリアは優しい顔つきをしながらも、言葉には揺るぎない意志が宿っている。

「もうご存じでしょう? ティアラ様が学園からいなくなった原因は、あなたたちが流した噂にもある。私自身、ティアラ様から何かされた覚えはないのに、どうしてこんな騒ぎになってしまったのか」

問い詰められた令嬢のひとりが、ばつの悪そうに口を開く。

「それは……私たちはただ、周りで言われていることを少し広めていただけで……」

マリアはその言葉を最後まで聞かず、首を横に振る。

「少しじゃないわ。あなたたちが“ティアラ様が悪事を働いている”と断定的に言い触らしていたのを知っています。私、聞いたもの」

もう一人の令嬢が焦ったように口を挟んだ。

「わ、私たちだけじゃないのよ。みんなが噂していたわ。平民出身のマリアさんを陥れようとしているって。それに、ティアラ様ならやりかねない、なんて」

「それはただの推測でしょう。自分の妄想をさも事実のように語って、人を傷つける。そんなの、絶対に許されない」

マリアの声は震えていた。
普段は穏やかな彼女だが、今回ばかりは感情を抑えきれない。

「ティアラ様が戻ってきても、彼女をどう弁明させればいいの? あなたたちは責任を取るつもりがあるの?」

令嬢たちは言葉に詰まる。
ようやく一人が、弱々しく答えた。

「……ごめんなさい。私たちも少し、いや、かなり浮かれていたの。ティアラ様を悪者にすれば、自分たちが脚光を浴びるんじゃないかって」

マリアは苦い表情で頷く。

「それがあなたたちの本音なのね。分かったわ。じゃあ今からでも遅くない。王子殿下や学園長に、噂が嘘だったときちんと話してちょうだい」

二人は戸惑うように目を合わせ、黙り込む。
だが、マリアのまなざしは厳しく、同時に哀しみに満ちていた。

「私も、あなたたちが嫌いなわけじゃない。でも、嘘をついたままでは何も解決しない。ティアラ様が傷ついたままじゃ、学園全体が後味の悪い状態のままだわ」

そう言われて、令嬢たちは肩を落とした。

「……そうね。私たちだって、こんな空気の中で過ごすのはしんどい。分かったわ。殿下に謝罪して、事実を話す勇気を出す」

もう一人も、苦渋の表情で頷いた。

「本当は怖いけど、噂を流した責任を取らないと。私たちもいつまでも逃げるわけにはいかない」

マリアは深く息をつき、うなずく。

「ありがとう。私も協力するわ。ティアラ様が無事に戻ってきたとき、一番傷つくのは彼女自身なんだから」

そうしてマリアは二人と別れ、中庭を後にした。
心の奥にはまだ重苦しい痛みがあるが、一歩前進した手応えもある。
周囲がやっと、自分たちのやってきたことの重大さに気づき始めたのだ。

「ティアラ様、どうか無事でいてください。私も勇気を出すから、あなたも戻ってきてくれますよね」

空に向かって小さく呟き、マリアは決意を新たに教室へと戻っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

【完結】「めでたし めでたし」から始まる物語

つくも茄子
恋愛
身分違の恋に落ちた王子様は「真実の愛」を貫き幸せになりました。 物語では「幸せになりました」と終わりましたが、現実はそうはいかないもの。果たして王子様と本当に幸せだったのでしょうか? 王子様には婚約者の公爵令嬢がいました。彼女は本当に王子様の恋を応援したのでしょうか? これは、めでたしめでたしのその後のお話です。 番外編がスタートしました。 意外な人物が出てきます!

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

処理中です...