6 / 31
6
しおりを挟む
「他の男の影作戦」の決行日。フィオナとシルヴァンは、学園内でも特に人目につきやすい、大階段の前で待ち合わせをしていた。
作戦内容は至ってシンプル。アレクシス殿下が通りかかる時間を見計らい、二人が仲睦まじく談笑している様子を見せつけるのだ。
「フィオナ、本当にいいのか?こんなことして」
どこか落ち着かない様子のシルヴァンが、そわそわと尋ねる。彼の頬は、心なしか赤い。
「ええ。もう後には引けませんわ。殿下は確か、次の授業でこの階段を使われるはず……」
フィオナがそう言った、まさにその時だった。階段の上から、噂の王太子殿下が、数人の側近を連れて降りてくるところだった。
「シルヴァン、今ですわ!」
フィオナの合図で、シルヴァンは意を決したように一歩前に出た。
「ははは、フィオナは本当に面白いことを言うな!」
シルヴァンは、わざとらしいほど大きな声で笑い、親しげにフィオナの肩に手を置いた。フィオナも、練習通りに可憐な笑顔を浮かべて、シルヴァンを見上げる。
「シルヴァンこそ、いつもわたくしを笑わせてくださるではありませんか」
「そうか?なら、今度の日曜日、街に新しくできたカフェに行かないか?そこのケーキが絶品なんだ。」
「まあ、嬉しい!ぜひ、ご一緒させてくださいまし」
きゃっきゃ、うふふ。傍から見れば、それはもう仲の良い恋人同士にしか見えないだろう。
フィオナはちらりと視線を送り、アレクシス殿下が自分たちに気づいたことを確認した。殿下は、一瞬足を止め、じっとこちらを見つめている。
(よし、かかった……!)
フィオナは心の中でガッツポーズをした。完璧な婚約者が、自分の目の前で他の男と楽しげに週末の約束をしているのだ。プライドの高い殿下のこと、きっと不快に思ったに違いない。
これで、殿下の方から何らかのアクションがあるはずだ。そう確信したフィオナだったが、殿下の次の行動は、またしても彼女の予想を大きく裏切るものだった。
アレクシス殿下は、フィオナたちの前までやってくると、ふわりと、聖母のような笑みを浮かべたのだ。
「フィオナ。マーシャル騎士と仲が良いのだな」
「で、殿下……!?」
まさか直接話しかけられるとは思わず、フィオナは動揺する。隣のシルヴァンも、カチカチに固まっていた。
「マーシャル騎士は、騎士科の中でも特に優秀だと聞いている。君の側に、そのような信頼できる友人がいてくれて、私も安心した」
「……へ?」
安心?今、この方はなんとおっしゃった?
フィオナが呆然としていると、アレクシス殿下はシルヴァンの方に向き直った。
「マーシャル騎士。私の大切なフィオナを、これからも友人として支えてやってくれ」
「は、はいっ!も、もちろんであります、殿下!」
王太子の威圧感に、シルヴァンは完全に騎士モードに戻り、直立不動で敬礼している。
アレクシス殿下は、そんな二人に満足そうに頷くと、「では、私はこれで」と優雅に微笑み、颯爽と去っていった。
後に残されたのは、ぽかんとした顔のフィオナと、魂が抜けたようになったシルヴァンだけ。
「……どういう、ことですの……?」
嫉妬も、不快感も、そこには一切なかった。あったのは、婚約者の「友人関係」を心から喜ぶ、慈愛に満ちた眼差しだけ。
(この作戦も、失敗……!?)
しかも、殿下公認の「友人」というお墨付きまで貰ってしまった。これでは、もうシルヴァンとの親密さをアピールしても、何の効果もないだろう。
フィオナは、もはや笑うしかなかった。乾いた笑いが、大階段に虚しく響き渡った。
作戦内容は至ってシンプル。アレクシス殿下が通りかかる時間を見計らい、二人が仲睦まじく談笑している様子を見せつけるのだ。
「フィオナ、本当にいいのか?こんなことして」
どこか落ち着かない様子のシルヴァンが、そわそわと尋ねる。彼の頬は、心なしか赤い。
「ええ。もう後には引けませんわ。殿下は確か、次の授業でこの階段を使われるはず……」
フィオナがそう言った、まさにその時だった。階段の上から、噂の王太子殿下が、数人の側近を連れて降りてくるところだった。
「シルヴァン、今ですわ!」
フィオナの合図で、シルヴァンは意を決したように一歩前に出た。
「ははは、フィオナは本当に面白いことを言うな!」
シルヴァンは、わざとらしいほど大きな声で笑い、親しげにフィオナの肩に手を置いた。フィオナも、練習通りに可憐な笑顔を浮かべて、シルヴァンを見上げる。
「シルヴァンこそ、いつもわたくしを笑わせてくださるではありませんか」
「そうか?なら、今度の日曜日、街に新しくできたカフェに行かないか?そこのケーキが絶品なんだ。」
「まあ、嬉しい!ぜひ、ご一緒させてくださいまし」
きゃっきゃ、うふふ。傍から見れば、それはもう仲の良い恋人同士にしか見えないだろう。
フィオナはちらりと視線を送り、アレクシス殿下が自分たちに気づいたことを確認した。殿下は、一瞬足を止め、じっとこちらを見つめている。
(よし、かかった……!)
フィオナは心の中でガッツポーズをした。完璧な婚約者が、自分の目の前で他の男と楽しげに週末の約束をしているのだ。プライドの高い殿下のこと、きっと不快に思ったに違いない。
これで、殿下の方から何らかのアクションがあるはずだ。そう確信したフィオナだったが、殿下の次の行動は、またしても彼女の予想を大きく裏切るものだった。
アレクシス殿下は、フィオナたちの前までやってくると、ふわりと、聖母のような笑みを浮かべたのだ。
「フィオナ。マーシャル騎士と仲が良いのだな」
「で、殿下……!?」
まさか直接話しかけられるとは思わず、フィオナは動揺する。隣のシルヴァンも、カチカチに固まっていた。
「マーシャル騎士は、騎士科の中でも特に優秀だと聞いている。君の側に、そのような信頼できる友人がいてくれて、私も安心した」
「……へ?」
安心?今、この方はなんとおっしゃった?
フィオナが呆然としていると、アレクシス殿下はシルヴァンの方に向き直った。
「マーシャル騎士。私の大切なフィオナを、これからも友人として支えてやってくれ」
「は、はいっ!も、もちろんであります、殿下!」
王太子の威圧感に、シルヴァンは完全に騎士モードに戻り、直立不動で敬礼している。
アレクシス殿下は、そんな二人に満足そうに頷くと、「では、私はこれで」と優雅に微笑み、颯爽と去っていった。
後に残されたのは、ぽかんとした顔のフィオナと、魂が抜けたようになったシルヴァンだけ。
「……どういう、ことですの……?」
嫉妬も、不快感も、そこには一切なかった。あったのは、婚約者の「友人関係」を心から喜ぶ、慈愛に満ちた眼差しだけ。
(この作戦も、失敗……!?)
しかも、殿下公認の「友人」というお墨付きまで貰ってしまった。これでは、もうシルヴァンとの親密さをアピールしても、何の効果もないだろう。
フィオナは、もはや笑うしかなかった。乾いた笑いが、大階段に虚しく響き渡った。
370
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
婚約破棄された令嬢は、誰にも選ばれずに選び続ける
ふわふわ
恋愛
名門伯爵家の令嬢ヴァレリア・ノルディスは、
婚約者エドガー・バルディンから一方的に婚約を破棄される。
理由は曖昧。
責任は語られず、決断も示されないまま――
彼女は「不要な存在」として切り捨てられた。
だが、ヴァレリアは嘆かない。
復讐もしない。
弁解すら、しなかった。
彼女が選んだのは、沈黙と距離。
そして、自分で決める場所だった。
辺境公爵クラウス・アイゼンベルクのもとで、
ヴァレリアは判断し、責任を引き受け、
一つずつ結果を積み上げていく。
噂は流れ、王都は揺さぶりをかけ、
かつて彼女を切り捨てた元婚約者は転落していく――
だが、それらはすべて副次的な出来事にすぎない。
これは、
誰かに選ばれる物語ではない。
誰かを見返すための物語でもない。
選び続けることで、自分の立つ場所を取り戻した令嬢の物語。
静かで、冷静で、揺るがない。
沈黙こそが最強のざまぁとなる、
大人のための婚約破棄ラブストーリー。
愛を騙るな
篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」
「………」
「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」
王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。
「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」
「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」
「い、いや、それはできぬ」
「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」
「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」
途端、王妃の嘲る笑い声が響く。
「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」
《本編完結》あの人を綺麗さっぱり忘れる方法
本見りん
恋愛
メラニー アイスナー子爵令嬢はある日婚約者ディートマーから『婚約破棄』を言い渡される。
ショックで落ち込み、彼と婚約者として過ごした日々を思い出して涙していた───が。
……あれ? 私ってずっと虐げられてない? 彼からはずっと嫌な目にあった思い出しかないんだけど!?
やっと自分が虐げられていたと気付き目が覚めたメラニー。
しかも両親も昔からディートマーに騙されている為、両親の説得から始めなければならない。
そしてこの王国ではかつて王子がやらかした『婚約破棄騒動』の為に、世間では『婚約破棄、ダメ、絶対』な風潮がある。
自分の思うようにする為に手段を選ばないだろう元婚約者ディートマーから、メラニーは無事自由を勝ち取る事が出来るのだろうか……。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
【完結済】婚約破棄から始まる物語~真実の愛と言う茶番で、私の至福のティータイムを邪魔しないでくださいな
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
恋愛
約束の時間に遅れ、さらには腕に女性を貼り付けて登場したアレックス殿下。
彼は悪びれることすらなく、ドヤ顔でこう仰いました。
「レティシア。君との婚約は破棄させてもらう」
婚約者の義務としての定例のお茶会。まずは遅れたことに謝罪するのが筋なのでは?
1時間も待たせたあげく、開口一番それですか? しかも腕に他の女を張り付けて?
うーん……おバカさんなのかしら?
婚約破棄の正当な理由はあるのですか?
1話完結です。
定番の婚約破棄から始まるザマァを書いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる