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リリアン・フォン・エルステッドの、呪詛にも似た絶叫が消え去った後。
貴族議会は、まるで嵐が過ぎ去ったかのような、重苦しい静寂に包まれていた。
リリアンに加担し、わたくしどもを陥れようとした侯爵は、自らの名前が財務官の口から出た瞬間から、顔面蒼白のまま、死人のように椅子に沈み込んでいる。
だが、これで終わりではない。
アルベール様とセドリック様が暴いたのは、リリアン様という「実行犯」の罪。
しかし、その実行犯を「動かした」者たち、あるいは、「利用された」者たちの責任が、まだ残っている。
わたくしは、静かに国王陛下の横顔を見つめた。
陛下は、わたくしやセドリック様が提示した証拠の山と、リリアン様と繋がっていた侯爵のリストを、冷徹な目で見下ろしている。
その視線が、やがて、ゆっくりと持ち上げられた。
向けられた先は、国王陛下の妃であり、エドワード様の母である、王妃陛下だった。
「……王妃よ」
国王陛下の声は、低く、何の感情も含まれていなかった。
それが、かえって、この場にいる全ての貴族の背筋を凍らせた。
「は……はい、陛下」
王妃様は、先ほどまでの激しい怒りの形相は消え、自らの立場が危ういことを瞬時に察知し、か細い声で答えた。
「そなたは、リリアンという小娘の、あの稚拙な涙と嘘に踊らされた。それだけではない」
国王陛下は、言葉を区切った。
「そなたは、王妃という立場を利用し、第一王子の婚約破棄という、国家の体面に関わる問題を、感情的に追認した。……あまつさえ、その小娘に加担し、我が国に長年尽くしてきた忠臣、ヴァルガス侯爵家を、『反逆罪』というありもしない罪で、断罪しようとした」
「そ、それは……!あの女が、あまりにも王子に不敬であったから……!」
「黙れ!」
国王陛下が、初めて声を荒らげた。
「そなたの、その愚かな『嫉妬』と『見栄』が、国政をどれほど混乱させたか、理解しておるのか!王妃でありながら、他国の王女に、いとも容易く操られ!ヴァルガス家を陥れたあの侯爵の、腐敗した策略の片棒を、喜んで担ぐとは!」
王妃様は、わなわなと震え、もはや反論の言葉も出てこない。
「王妃よ。そなたには、王妃としての資格はない」
「……!」
「追って沙汰があるまで、一切の公務から退き、北の離宮にて謹慎を命ずる!王妃の座も、剥奪を検討する!」
王妃剥奪。
それは、事実上の、王妃からの追放宣告だった。
王妃様は、その場で崩れ落ちそうになるのを、侍女にかろうじて支えられながら、引きずられるように議場から退出させられた。
そして。
議場に残された、最後の「責任者」。
国王陛下の視線が、自らの息子である、エドワード様に向けられた。
エドワード様は、わたくしが応接室で拒絶したあの夜よりも、さらに憔悴し、しかし、どこか覚悟を決めたような、虚な目で、床の一点を見つめていた。
「……エドワード」
「……はい。父上」
「そなたは、この一連の騒動の、全ての発端だ」
国王陛下の声には、息子へのわずかな同情もなかった。
「そなたは、第一王子でありながら、自らの婚約者(リリアン)の本質を、何一つ見抜けていなかった。いや、その前の、長年の婚約者であったエレノア嬢の、その忠誠と努力をも、だ」
エドワード様の肩が、びくりと震えた。
「そなたは、己の『感情』を優先した。王子としての『責務』ではなく、男としての『好み』で、国の根幹を揺るがす『婚約破棄』を、公衆の面前で、最も愚かな形で実行した」
「……」
「その結果が、これだ。王妃は謹慎、忠臣は傷つき、他国の陰謀を易々と招き入れた。……そなたのような、感情に流され、物事の本質を見誤る男に、この国の未来を託すことが、できると思うか?」
それは、第一王子に対する、死刑宣告にも等しい問いだった。
エドワード様は、ゆっくりと顔を上げた。
その視線が、一瞬だけ、わたくしを捉えた。
わたくしは、その視線を、何の感情も浮かべずに、ただ、見返した。
彼は、ふっと、自嘲のような笑みを漏らすと、国王陛下に向き直り、膝をついた。
「……いいえ。父上」
彼の声は、静かだった。
「今のお言葉、全て、その通りでございます。わたくしは……わたくしは、第一王子としても、一人の男としても、あまりに愚すぎた」
彼は、わたくしが突きつけた『所有欲と後悔』という真実を、この三日間で、骨の髄まで理解したのだろう。
「わたくしは、この国で最も価値のある宝を、自らの手で捨てました。……その愚か者が、国王の座を望むなど、万死に値します」
エドワード様は、その場で、深く、深く、頭を床に擦り付けた。
「わたくしに、弁明の言葉は、何一つございません。……いかなる処分も、お受けいたします」
全てを失った男の、最後の、潔さだった。
国王陛下は、目を閉じて、長く、息を吐いた。
「……エドワード・フォン・ロートリンゲン。そなたの、王位継承権を、『無期限』で剥奪する」
議場が、息を呑む。
「そなたは、本日をもって、全ての公務を解かれ、東の辺境領にて、自らの愚かさを、生涯をかけて見つめ直すがいい。……二度と、王宮の地を、踏むことは許さぬ」
王位継承権の剥奪。
そして、事実上の、永久追放。
「……御意」
エドワード様は、立ち上がらなかった。
ただ、床に額をつけたまま、その裁定を受け入れた。
彼が兵士に連れられていく間際、彼は、もう一度だけ、わたくしを見た。
その瞳には、もはや『後悔』や『所有欲』はなかった。
ただ、全てを諦め、全てを失った人間の、『無』だけが、そこにあった。
わたくしは、彼が完全に視界から消えるまで、その姿を、冷たい瞳で、見届けた。
ざまあみろ、とも、可哀想だ、とも、思わなかった。
ただ、わたくしの『復讐』の一つが、こうして、終わった。
それだけだった。
貴族議会は、まるで嵐が過ぎ去ったかのような、重苦しい静寂に包まれていた。
リリアンに加担し、わたくしどもを陥れようとした侯爵は、自らの名前が財務官の口から出た瞬間から、顔面蒼白のまま、死人のように椅子に沈み込んでいる。
だが、これで終わりではない。
アルベール様とセドリック様が暴いたのは、リリアン様という「実行犯」の罪。
しかし、その実行犯を「動かした」者たち、あるいは、「利用された」者たちの責任が、まだ残っている。
わたくしは、静かに国王陛下の横顔を見つめた。
陛下は、わたくしやセドリック様が提示した証拠の山と、リリアン様と繋がっていた侯爵のリストを、冷徹な目で見下ろしている。
その視線が、やがて、ゆっくりと持ち上げられた。
向けられた先は、国王陛下の妃であり、エドワード様の母である、王妃陛下だった。
「……王妃よ」
国王陛下の声は、低く、何の感情も含まれていなかった。
それが、かえって、この場にいる全ての貴族の背筋を凍らせた。
「は……はい、陛下」
王妃様は、先ほどまでの激しい怒りの形相は消え、自らの立場が危ういことを瞬時に察知し、か細い声で答えた。
「そなたは、リリアンという小娘の、あの稚拙な涙と嘘に踊らされた。それだけではない」
国王陛下は、言葉を区切った。
「そなたは、王妃という立場を利用し、第一王子の婚約破棄という、国家の体面に関わる問題を、感情的に追認した。……あまつさえ、その小娘に加担し、我が国に長年尽くしてきた忠臣、ヴァルガス侯爵家を、『反逆罪』というありもしない罪で、断罪しようとした」
「そ、それは……!あの女が、あまりにも王子に不敬であったから……!」
「黙れ!」
国王陛下が、初めて声を荒らげた。
「そなたの、その愚かな『嫉妬』と『見栄』が、国政をどれほど混乱させたか、理解しておるのか!王妃でありながら、他国の王女に、いとも容易く操られ!ヴァルガス家を陥れたあの侯爵の、腐敗した策略の片棒を、喜んで担ぐとは!」
王妃様は、わなわなと震え、もはや反論の言葉も出てこない。
「王妃よ。そなたには、王妃としての資格はない」
「……!」
「追って沙汰があるまで、一切の公務から退き、北の離宮にて謹慎を命ずる!王妃の座も、剥奪を検討する!」
王妃剥奪。
それは、事実上の、王妃からの追放宣告だった。
王妃様は、その場で崩れ落ちそうになるのを、侍女にかろうじて支えられながら、引きずられるように議場から退出させられた。
そして。
議場に残された、最後の「責任者」。
国王陛下の視線が、自らの息子である、エドワード様に向けられた。
エドワード様は、わたくしが応接室で拒絶したあの夜よりも、さらに憔悴し、しかし、どこか覚悟を決めたような、虚な目で、床の一点を見つめていた。
「……エドワード」
「……はい。父上」
「そなたは、この一連の騒動の、全ての発端だ」
国王陛下の声には、息子へのわずかな同情もなかった。
「そなたは、第一王子でありながら、自らの婚約者(リリアン)の本質を、何一つ見抜けていなかった。いや、その前の、長年の婚約者であったエレノア嬢の、その忠誠と努力をも、だ」
エドワード様の肩が、びくりと震えた。
「そなたは、己の『感情』を優先した。王子としての『責務』ではなく、男としての『好み』で、国の根幹を揺るがす『婚約破棄』を、公衆の面前で、最も愚かな形で実行した」
「……」
「その結果が、これだ。王妃は謹慎、忠臣は傷つき、他国の陰謀を易々と招き入れた。……そなたのような、感情に流され、物事の本質を見誤る男に、この国の未来を託すことが、できると思うか?」
それは、第一王子に対する、死刑宣告にも等しい問いだった。
エドワード様は、ゆっくりと顔を上げた。
その視線が、一瞬だけ、わたくしを捉えた。
わたくしは、その視線を、何の感情も浮かべずに、ただ、見返した。
彼は、ふっと、自嘲のような笑みを漏らすと、国王陛下に向き直り、膝をついた。
「……いいえ。父上」
彼の声は、静かだった。
「今のお言葉、全て、その通りでございます。わたくしは……わたくしは、第一王子としても、一人の男としても、あまりに愚すぎた」
彼は、わたくしが突きつけた『所有欲と後悔』という真実を、この三日間で、骨の髄まで理解したのだろう。
「わたくしは、この国で最も価値のある宝を、自らの手で捨てました。……その愚か者が、国王の座を望むなど、万死に値します」
エドワード様は、その場で、深く、深く、頭を床に擦り付けた。
「わたくしに、弁明の言葉は、何一つございません。……いかなる処分も、お受けいたします」
全てを失った男の、最後の、潔さだった。
国王陛下は、目を閉じて、長く、息を吐いた。
「……エドワード・フォン・ロートリンゲン。そなたの、王位継承権を、『無期限』で剥奪する」
議場が、息を呑む。
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王位継承権の剥奪。
そして、事実上の、永久追放。
「……御意」
エドワード様は、立ち上がらなかった。
ただ、床に額をつけたまま、その裁定を受け入れた。
彼が兵士に連れられていく間際、彼は、もう一度だけ、わたくしを見た。
その瞳には、もはや『後悔』や『所有欲』はなかった。
ただ、全てを諦め、全てを失った人間の、『無』だけが、そこにあった。
わたくしは、彼が完全に視界から消えるまで、その姿を、冷たい瞳で、見届けた。
ざまあみろ、とも、可哀想だ、とも、思わなかった。
ただ、わたくしの『復讐』の一つが、こうして、終わった。
それだけだった。
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