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休会となっていた貴族議会は、三日後、国王陛下の御臨席のもと、異例の厳戒態勢で再開された。
王妃陛下とリリアン王女は、この三日間で巻き返しを図ろうと、王妃派の貴族たちに圧力をかけ、議会の空気を再びヴァルガス家弾劾へと引き戻そうと画策していた。
リリアン様は、前回とは打って変わり、再び「被害者」の仮面を被り、王妃様の隣で儚げに俯いている。
「……では、議会を再開する」
国王陛下の重い声が、水を打ったような静けさの議場に響いた。
「ヴァルガス侯爵家より提出された帳簿、契約書、および商人両名の証言は、精査の結果、一点の曇りもなきことを確認した」
その言葉に、王妃様が「しかし!」と声を張り上げた。
「陛下!帳簿など、いくらでも偽造できましょう!問題は、彼らが我が国とエルステッド反乱分子を繋ごうとした、その『意志』にございます!」
「その証拠が、あの『密約書』だというわけか。王妃よ」
国王陛下は、冷ややかに王妃様を見据えた。
その時、わたくしの隣に控えていたセドリック・デュ・ランティエが、初めて一歩前に出た。
彼がこの場にいることに、多くの貴族が訝しんでいたが、彼はヴァルガス家の「顧問」という名目で、わたくしの父の隣に座っていた。
「恐れながら、陛下」
セドリック様の、感情のない、しかし恐ろしく響く声が、議場を支配した。
「その『密約書』なるものが、いかに稚拙な捏造であるか。わたくしどもが、この三日間で集めた『真実』を、ご報告申し上げる許可をいただきたく存じます」
「……何者だ、貴様は」
王妃様が、セドリック様を睨みつける。
「ヴァルガス家の使用人ごときが、この場で発言するなど!」
「わたくしは、エレノア・ヴァルガス嬢の『共犯者』にございます」
セドリック様は、臆することなく言い放ち、国王陛下に向き直った。
「陛下。まず、証人をお呼びしております」
扉が開かれ、兵士に連れられて入ってきたのは、顔面蒼白になった、元侍女のカレンだった。
「カレン……!」
リリアン様が、思わず叫び、カレンを睨みつけた。
カレンは、その視線に怯え、震え上がったが、セドリック様が用意したわたくしの護衛に守られるように、証言台に立った。
「か、カレンと申します……」
「カレン。恐れることはない。真実を申せ」
国王陛下に促され、カレンは、わたくしたちが用意した証拠……彼女がリリアン様に買収された日付の入った『質屋の売買記録』と、『脅迫状』を突きつけられ、全てを自白した。
「リ、リリアン王女様に、命じられました……!エレノア様が、王子妃の座を窮屈だと愚痴をこぼしていると、エドワード様に嘘の報告をするように、と……!」
「……!」
議場の片隅で、その全てを聞いていたエドワード様が、顔を歪め、拳を握りしめるのが見えた。
「そして、今回の『密約書』も……!リリアン様が、『これでお前も共犯だ』と、王女様の私物の羊皮紙に、偽の署名をするよう、わたくしに……!家族を人質に、脅されて……!」
「……黙りなさい!!この、裏切り者!!」
リリアン様が、ついに仮面をかなぐり捨て、金切り声を上げた。
「お前のような下賤な侍女の戯言など、誰が信じるものですか!」
「……では、リリアン王女」
セドリック様が、冷たく彼女の言葉を遮った。
「その『下賤な戯言』を裏付ける、物的証拠はいかがいたしましょうか」
セドリック様が合図をすると、今度は王宮の財務官が入室してきた。
「陛下。ヴァルガス家の調査の過程で、奇妙な金の流れが判明いたしました」
財務官が、震える手で報告書を読み上げる。
「リリアン王女が、王家から与えられた交際費の一部……それも莫大な額が、ここ数ヶ月、エルステッド本国ではなく、この国の『ある侯爵家』に、秘密裏に流れておりました」
「……!」
議場にいた、一人の侯爵の顔が、一瞬にして凍りついた。
わたくしは、その顔を知っていた。
アルベール様のお父様を、この国で陥れた、あの『有力な侯爵家』の当主だ。
「その侯爵家は、リリアン王女の父君、エルステッド王と、長年にわたり、非公式な『同盟』関係にあった模様。……今回の『反逆罪』の捏造も、その侯爵家が、王妃様に取り入り、リリアン王女に知恵をつけたものと、推察されます」
全てが、繋がった。
リリアン様個人の暴走ではなかった。
わたくしを陥れることは、エルステッド王家と、この国の腐敗した貴族が、結託して仕組んだ、巨大な陰謀の一部だったのだ。
わたくしを排除し、リリアン様を王子妃として送り込むことで、この国を内側から操ろうとした。
「……そ、そんな……。わたくしは、知らない……!わたくしは、ただ、エドワード様を……!」
リリアン様は、もはや誰の目にも明らかな嘘を、涙ながらに繰り返す。
だが、もう、彼女の涙に同情する者は、誰もいなかった。
エドワード様は、リリアン様を、心の底から軽蔑しきった目で、静かに見つめている。
国王陛下が、ゆっくりと立ち上がった。
その顔は、怒りを通り越し、深い悲しみと、王としての冷徹な決断に満ちていた。
「……リリアン・フォン・エルステッド王女」
「ひっ……!や、やめて……!わたくしは、悪くない!」
「貴殿の行いは、単なる婚約者間の嫉妬などという、生易しいものではない。我が国の王家を欺き、忠実なる臣下を陥れ、あまつさえ、他国と通じて内政をかき乱そうとした。……『国家に対する重大な裏切り』である」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
「もはや、貴殿を、我が国の王子の婚約者として、王宮に置いておくことは、断じて許されぬ!」
国王陛下が、高らかに宣言した。
「リリアン・フォン・エルステッドを、即刻捕縛!その身柄を、エルステッド本国へ、厳重なる抗議と共に、送還せよ!!」
「い……いやあああああ!!エドワード様!助けて!わたくしは、貴方様のために!!」
リリアン様は、兵士たちに両腕を掴まれ、最後の望みをかけてエドワード様に叫んだ。
だが、エドワード様は、彼女から目を逸らし、ただ一言、冷たく言い放った。
「……二度と、俺の名を呼ぶな。……裏切り者が」
その言葉が、リリアン様の全てを、打ち砕いた。
彼女は、わたくしを、そしてアルベール様とセドリック様を、この世の終わりかのような憎悪の籠もった目で睨みつけながら、議場から引きずられていった。
あの可憐な仮面の下に隠されていた、リリアン・フォン・エルステッドの、真の姿。
その破滅の叫びだけが、議場に、いつまでも虚しく響いていた。
王妃陛下とリリアン王女は、この三日間で巻き返しを図ろうと、王妃派の貴族たちに圧力をかけ、議会の空気を再びヴァルガス家弾劾へと引き戻そうと画策していた。
リリアン様は、前回とは打って変わり、再び「被害者」の仮面を被り、王妃様の隣で儚げに俯いている。
「……では、議会を再開する」
国王陛下の重い声が、水を打ったような静けさの議場に響いた。
「ヴァルガス侯爵家より提出された帳簿、契約書、および商人両名の証言は、精査の結果、一点の曇りもなきことを確認した」
その言葉に、王妃様が「しかし!」と声を張り上げた。
「陛下!帳簿など、いくらでも偽造できましょう!問題は、彼らが我が国とエルステッド反乱分子を繋ごうとした、その『意志』にございます!」
「その証拠が、あの『密約書』だというわけか。王妃よ」
国王陛下は、冷ややかに王妃様を見据えた。
その時、わたくしの隣に控えていたセドリック・デュ・ランティエが、初めて一歩前に出た。
彼がこの場にいることに、多くの貴族が訝しんでいたが、彼はヴァルガス家の「顧問」という名目で、わたくしの父の隣に座っていた。
「恐れながら、陛下」
セドリック様の、感情のない、しかし恐ろしく響く声が、議場を支配した。
「その『密約書』なるものが、いかに稚拙な捏造であるか。わたくしどもが、この三日間で集めた『真実』を、ご報告申し上げる許可をいただきたく存じます」
「……何者だ、貴様は」
王妃様が、セドリック様を睨みつける。
「ヴァルガス家の使用人ごときが、この場で発言するなど!」
「わたくしは、エレノア・ヴァルガス嬢の『共犯者』にございます」
セドリック様は、臆することなく言い放ち、国王陛下に向き直った。
「陛下。まず、証人をお呼びしております」
扉が開かれ、兵士に連れられて入ってきたのは、顔面蒼白になった、元侍女のカレンだった。
「カレン……!」
リリアン様が、思わず叫び、カレンを睨みつけた。
カレンは、その視線に怯え、震え上がったが、セドリック様が用意したわたくしの護衛に守られるように、証言台に立った。
「か、カレンと申します……」
「カレン。恐れることはない。真実を申せ」
国王陛下に促され、カレンは、わたくしたちが用意した証拠……彼女がリリアン様に買収された日付の入った『質屋の売買記録』と、『脅迫状』を突きつけられ、全てを自白した。
「リ、リリアン王女様に、命じられました……!エレノア様が、王子妃の座を窮屈だと愚痴をこぼしていると、エドワード様に嘘の報告をするように、と……!」
「……!」
議場の片隅で、その全てを聞いていたエドワード様が、顔を歪め、拳を握りしめるのが見えた。
「そして、今回の『密約書』も……!リリアン様が、『これでお前も共犯だ』と、王女様の私物の羊皮紙に、偽の署名をするよう、わたくしに……!家族を人質に、脅されて……!」
「……黙りなさい!!この、裏切り者!!」
リリアン様が、ついに仮面をかなぐり捨て、金切り声を上げた。
「お前のような下賤な侍女の戯言など、誰が信じるものですか!」
「……では、リリアン王女」
セドリック様が、冷たく彼女の言葉を遮った。
「その『下賤な戯言』を裏付ける、物的証拠はいかがいたしましょうか」
セドリック様が合図をすると、今度は王宮の財務官が入室してきた。
「陛下。ヴァルガス家の調査の過程で、奇妙な金の流れが判明いたしました」
財務官が、震える手で報告書を読み上げる。
「リリアン王女が、王家から与えられた交際費の一部……それも莫大な額が、ここ数ヶ月、エルステッド本国ではなく、この国の『ある侯爵家』に、秘密裏に流れておりました」
「……!」
議場にいた、一人の侯爵の顔が、一瞬にして凍りついた。
わたくしは、その顔を知っていた。
アルベール様のお父様を、この国で陥れた、あの『有力な侯爵家』の当主だ。
「その侯爵家は、リリアン王女の父君、エルステッド王と、長年にわたり、非公式な『同盟』関係にあった模様。……今回の『反逆罪』の捏造も、その侯爵家が、王妃様に取り入り、リリアン王女に知恵をつけたものと、推察されます」
全てが、繋がった。
リリアン様個人の暴走ではなかった。
わたくしを陥れることは、エルステッド王家と、この国の腐敗した貴族が、結託して仕組んだ、巨大な陰謀の一部だったのだ。
わたくしを排除し、リリアン様を王子妃として送り込むことで、この国を内側から操ろうとした。
「……そ、そんな……。わたくしは、知らない……!わたくしは、ただ、エドワード様を……!」
リリアン様は、もはや誰の目にも明らかな嘘を、涙ながらに繰り返す。
だが、もう、彼女の涙に同情する者は、誰もいなかった。
エドワード様は、リリアン様を、心の底から軽蔑しきった目で、静かに見つめている。
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その顔は、怒りを通り越し、深い悲しみと、王としての冷徹な決断に満ちていた。
「……リリアン・フォン・エルステッド王女」
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「いやぁぁぁぁぁ!!」
「もはや、貴殿を、我が国の王子の婚約者として、王宮に置いておくことは、断じて許されぬ!」
国王陛下が、高らかに宣言した。
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リリアン様は、兵士たちに両腕を掴まれ、最後の望みをかけてエドワード様に叫んだ。
だが、エドワード様は、彼女から目を逸らし、ただ一言、冷たく言い放った。
「……二度と、俺の名を呼ぶな。……裏切り者が」
その言葉が、リリアン様の全てを、打ち砕いた。
彼女は、わたくしを、そしてアルベール様とセドリック様を、この世の終わりかのような憎悪の籠もった目で睨みつけながら、議場から引きずられていった。
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※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。