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アルマ
夜会
しおりを挟む王子の婚約発表は滞りなく終わったが、他国出身で綺麗なヴィーはやはり目立っているようだった。今日は正装だから余計に綺麗な顔が際立つ。髪も前髪を真上に立ち上げるスタイルではなく、きっちりとオイルで撫で付けているから男前度が更に上がっている。
俺の嫁だから誰もちょっかいをかけてくることはないだろうと思ったが、そもそも俺が結婚していることを知っている者がどれほどいるのかが分からない。
大々的に婚約発表をしたわけでも、結婚式を盛大に行ったわけでもない。
ヴィーは俺が連れてきた縁戚の者と思われている可能性もある。
隣にいる俺にも分かるほど色欲の目を向けられているヴィーは、今朝までの穏やかな表情を失い、凍るように冷たい目をしていた。
きっと心を閉ざしたんだろうな。可哀想に……
「ヴィー、大丈夫か?」
「……はい。大丈夫です」
「夜会では俺から離れるなよ。俺にはそうそう誰も近づいてこないから」
「はい」
夜会の会場に入ると、やはりヴィーは注目されているようだった。
近づこうとする者にはヴィー自身が凍るような冷たい目で睨み、俺もヴィーに近づこうとする者には容赦無く殺気を飛ばした。
そして、知り合いにはヴィーは俺の嫁だと紹介して回った。
今まで話したこともない、名前も分からないような者も俺に話しかけてきた。
「メテオリーテ辺境伯殿、お久しぶりでございますな」
「えぇ。そうですね」
「そちらの方は見かけない方ですが辺境伯殿の縁戚の方であれば、我が娘と一曲踊って下さらないか?」
「ヴィー、どうする? 令嬢と踊るか?」
「私はアルマ様としか踊りません」
「そうか。分かった。そういうことだ。申し訳ないが彼は俺以外とは踊らない。諦めてくれ」
「そ、そうですか……分かりました。」
そんなことが何度もあった。
踊っていれば誰からも声をかけられないのでは? と思った俺はヴィーにダンスを申し込み、2人で3曲ほど踊ったが、ずっと踊り続けるのも大変だったので、壁際まで下がって飲み物を取りに行った。
すぐに戻ったのだが、ヴィーは俺が離れるとすぐに囲まれてしまっていた。
1人で置いておくべきではなかったな。
ヴィーの氷の睨み程度では怯まない者が多かったようで、左右から腕を絡められて、前後も塞がれ、誰がヴィーと踊るかで揉めて騒いでいた。
「俺の嫁に何か用か? 人の嫁に勝手に触れないでもらえるか?」
俺が軽く殺気を放ちながら近付いていくと、一斉に皆がヴィーから離れた。
「メテオリーテ辺境伯様……嫁?」
「そうだ。彼は俺の嫁だ」
そう皆に告げると、ヴィーは一瞬だけ優しい目になってから俺の側に来た。
「1人にしてすまない」
「アルマ様が助けにきてくれると分かっていたので大丈夫です」
「そうか」
「はい」
「これを飲んだら帰るか」
「はい」
俺たちはグラスに入ったワインを飲むと、手を繋いで会場を後にした。
さすがに手を繋いでいると誰もヴィーに触れようとしたり、近付いて来たりはしなかった。
初めからこうしていればよかったのか。
「疲れたか?」
「大丈夫です」
帰りの馬車の中は、また会話という会話は無かったが、ずっと手を繋いでいた。
俺が離したくなかったというのもあるが、ヴィーが俺の手をギュッと握っていたから、振り解いてまで離すことはないと思った。
本当は大勢に囲まれたのが怖かったんだろうか?
きっと綺麗な彼は自国でも同じような目に遭っていたんだろうな。
全く相手にされないのも寂しいものだが、大勢に囲まれるのもそれはそれで大変なことだと思った。
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